合コン?
コバの奴、こんな所で変な欲を出すなよ?
百目鬼と一緒にクリスタルの見分け方を研究するみたいだが、自分の興味のある方向に持っていきかねない。
そのせいで帰るのが遅くなったり、お市から目を付けられるような事だけは避けたいんだけど。
アイツの場合、欲に忠実だからなぁ。
下手したらお市の反感を買うかもという考えが、頭の片隅にでもあれば良いんだけど。
お市からは通常のクリスタルを含めて、何とか販売して貰えることになった。
そうなると僕達は、コバ待ちという事になってしまう。
長い航海に加えて、見知らぬ土地での生活。
流石に安土が恋しくなってきたのだが、何故か話は恋愛へ。
結婚適齢期?
イッシーと佐藤さんは、妖怪でも良いから相手が欲しいらしい。
そんな事言ったら、僕達なんか魔王だぞ!
魔王なのに相手が居ないって、どういう事だよ!
キミ等より、まずは僕達のお相手を探してもらいたいんだけど。
なんて考えをしていたが、どうやらかなり本気らしいね。
佐藤さんなんか、妖怪をスマホで調べてほしいと、本気で頭を下げてきたくらいだった。
ここまでされたら、調べなくもないんだけど。
ただ、妖怪の名前や存在を調べたところで、越前国に居るかと聞かれたら分からない。
その事を踏まえて、二人は言っているのだろうか?
「あのさ、僕の意見なんだけど良い?スマホで調べるより、権六に直接聞いた方が良くない?」
「えぇ・・・。だって、恥ずかしいし・・・」
「アホか!佐藤さんもイッシーさんも、本気で相手を探してるなら、そういうの捨てないと駄目っすよ!」
おぉ!
長谷部の奴、良い事を言う。
そして僕達も、今の言葉は胸が痛かった。
別に恥ずかしいとか無いんだよ?
結婚相手にどうかと、紹介もされたしね。
ただね、紹介されたのが幼女だったりして、流石に無理だわぁと思ったりしただけ。
もっとナイスバデーなボインボインとか、清楚キャラで売ってるけど、実は脱いだら凄いんですみたいな女の人が良いなぁみたいな。
【このムッツリが・・・】
ムッツリではない!
公言している!
「でも、それで俺達に紹介出来る人は居ないなんて言われたら、ショックで立ち直れないぞ」
「それに、柴田殿の美的感覚が俺達と違ったら・・・」
「それは無いでしょ。だって柴田殿の奥方は、あのお市殿ですよ。あの人も面食いですって」
イッシーと佐藤さんの言葉に、蘭丸は反論する。
しかもかなり辛口だ。
「そうだよな。俺達と近い感覚だよな」
「それにあの人なら、俺達の相談を親身になってくれそうな気もしてきた」
「よーし!明日、早速相談に行くぞ!」
二人のテンションは最高潮になっていた。
「はぁ・・・」
全く興味が無さげな権六。
二人はアテが外れて、この後の言葉に困っていた。
「なんというか、そういう人が居たら良いなぁなんて。なあ?」
「そ、そうなんです!俺達、妖怪の方々に詳しくないですし。今後の事を考えると、仲良くしていて損は無いと思うんですよね」
「それなら女性に限らなくても、よろしいのでは?」
「それはそうなんですけどね」
「でも、俺達も男なんで・・・」
必死に取り繕う二人に、権六は頭を悩ませた。
居ないわけではない。
しかし、彼等が本当に仲良く出来るのか?
そっちが心配だった。
「それでは、魔王様の連れのヒト族と話したいと希望する者を、明日連れてきます」
「や、やった!」
「お願いします!」
権六は溜め息を吐きながら去っていく。
しかし二人は、ハイタッチをして歓喜に震えた。
「言ってみるもんだな!」
「後で長谷部に礼を言っておこう。本当に言って良かった」
佐藤とイッシーは長谷部にお礼を言うと、翌日の為に準備を始めた。
服装を気にして、髪を整える。
特にイッシーは、とても髪型に気を使った。
そして翌日。
権六の指定した店に行くと、二人の女性が座っていた。
「お、おい!居るじゃんか!」
「二人も来てくれましたよ!俺、マジで嬉しい・・・」
感動に打ち震える佐藤。
二人はお互いに身なりを確認して、女性の座っているテーブルへと向かった。
「こ、こんにちは。はじめまして」
「座ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
後ろから声を掛ける二人に対して、女性達は座るように促した。
意を決して座る二人。
そして、彼女達の顔を見た。
左の女性は長い髪に片目が隠れていて、少し怖い印象があった。
そして右の女性は、ショートヘアで緊張をしているのか、少し表情が固い。
しかし長い髪の女性にニコッと笑われて、彼等も釣られて笑った。
普通に可愛い。
普通に綺麗。
二人の感想はこうだった。
「やった!俺達にも春が!」
「待て!まだだ。まだ油断しては駄目だ」
アイコンタクトで話す二人。
まずは自己紹介だと、佐藤は言った。
「佐藤です。まだ二十代です。そこそこ強い方だと思ってます」
「さ、斎・・・イッシーです。仮面を着けてるけど、特に傷や何かがあるわけじゃありません。ある程度色々こなせます。器用貧乏です」
「イッシーさん!それ、自分で言う事じゃないですよ」
「あ・・・」
「器用なんですか?羨ましいですね」
イッシーは固まった。
長い髪の女性に器用貧乏という微妙な能力を、笑顔で羨ましいと言われたのだ。
自分でも予想外に、テンションが上がっている事に気が付いた。
「イッシーさ〜ん。羨ましいですね〜」
「そそそそんな事言うなや!佐藤だって、めちゃくちゃ速いじゃないか」
「フットワークが軽くて、ハンドスピードがあるだけですよ」
もう一人の女性をチラッと見る佐藤。
視線に気付いたのか、彼女は慌てながら視線を逸らした。
「駄目でしょ。失礼じゃないの」
「良いんです!俺が見過ぎだったんですよ」
「ほら、アンタも笑いなさい」
長い髪の女性に言われ、ぎこちない笑顔を浮かべると、佐藤とイッシーの表情は固まった。
「え?」
「歯が黒い・・・」
「あぁ、彼女はお歯黒なんですよ」
「えっ!?」
佐藤は自分が思わず、大きな声を出した事に気付いていない。
イッシーは仮面越しだった事もあり、平静を装っている。
「へ、へぇ。それじゃ貴女は?」
「私はろくろ首です。ほら、首が飛ぶんですよ」
「オッホッホゥ!コイツは驚きだ!」
イッシーも変な言葉を口にしている。
二人は相手が妖怪だと改めて認識すると、少し微妙な気持ちになってきていた。
四人の間に流れる空気が重い。
誰も口を開かないそのテーブルに、後ろのテーブルから声が飛んだ。
「なんだなんだ。男なら女性を引っ張るくらいの気概は無いのか?」
「じ、爺さん!」
「水嶋さん、どうしてここに?」
「権六殿から、ここの甘味がオススメだと言われたから、魔王と官兵衛殿と長谷部で来たんだが?」
「な、なにいぃぃ!?」
ヘタレだな。
二人ともそれくらいでビビるなんて。
と思ったけど、実際に首が飛んだ瞬間。
僕は膝をテーブルの天板にぶつけた。
かなり痛い。
「何だよ、兄さん方。もっと漢を見せてくれよ」
「バッカ!おま、お前なぁ」
二人の狼狽える姿を見た長谷部は、溜め息を吐いてガッカリしている。
戦っている時とは大違いで、少し幻滅したのだ。
「皆さん、お知り合いなんですか?」
「僕、阿久野。魔王してます」
「俺、長谷部」
「水嶋だ」
官兵衛は食べる事に夢中で、話に加わらない。
「魔王様ですか!これはこれは。遠い所から遥々、ようこそおいで下さいました」
「いえ。こちらこそうちのヘタレーズが、何も喋らなくてすいません」
「ヘタレーズって!」
「二人とも緊張してるんですよ」
「あぁ、そうだったんですか」
僕のフォローのおかげで、お歯黒とろくろ首の機嫌は少し元に戻った。
やはり喋らない二人に、あまり良い印象は無さそうな気がする。
「僕、ちょっとトイレ行ってくる」
「じゃあ俺も」
「俺も!」
何故付いてくる・・・。
合コンのノリなのか?
そういうのやめてほしいんですけど。
「阿久野くん!」
「魔王だろ!俺達はどうすれば良い?」
「知るか!」
アドバイスしたくても、こっちもそんな経験ほとんど無いわ!
童貞ナメんなよ!
「男が三人揃って情けない」
「水嶋さん」
僕の横で用を足す水嶋爺さん。
背筋も伸びてるし、とても老人には見えない。
「どうしてお歯黒とろくろ首だと駄目なんだ?」
「駄目ってわけじゃないけど・・・。怖くない?」
「何処が?そもそもお前達は、お歯黒を勘違いしていないか?口臭予防や、歯並びの悪さを隠す用途もあるんだぞ?」
マジか!
水嶋爺さん、詳しいな。
って、時代的に知っていてもおかしくないのかな?
「でも、ろくろ首は頭が飛んでますけど」
「馬鹿だなぁ。よく見てみろ。頭は残っていたぞ。飛んでいるのは幽体?半透明な存在だっただろうに」
「えっ!?」
「気付いた?」
「全く気付かなかった」
驚く僕だったが、二人も気付かなかったらしい。
というか、目の前に座ってるんだから、気付きなさいよ。
「んー、そうするとどうなんだ?」
「お歯黒って、歯ブラシや歯磨き粉を渡して、更に歯並びの矯正もしてあげれば、普通の女性っぽくなるのかも?」
「ろくろ首も驚いたけど、実際は幽体離脱出来る人って事か?」
二人は水嶋爺さんに言われた事を理解して、そう結論付けた。
「そ、そう考えたら急に怖くなくなった!」
「行ける!俺達にも彼女が、いや!嫁さんが出来るかもしれない!」
トイレから飛び出した二人は、急ぎテーブルに戻っていった。
「結婚して下さい!」
「してつかぁさい!」
右手を勢いよく差し出す二人。
意味が分からない彼女達は、呆然としている。
「あの、どういう意味でしょう?」
「そのままの意味です」
結婚という言葉に、戸惑うお歯黒とろくろ首。
しかし二人の目は真剣だった。
彼女達もそれに気付き、姿勢を正して返答した。
「ごめんなさい」
「だ、駄目ですかぁ?」
お歯黒の言葉に、佐藤は声が裏返りながらも理由を聞いた。
そして、予想外の言葉を聞く事になる。
「私、結婚してるんですよね。流石に重婚は出来ません」
「なっ!?」
「わ、私もちょっと・・・」
ろくろ首からも拒否され、イッシーも項垂れている。
二人とも玉砕した。
「それじゃあ、何故ここに来たんですか?」
「え?領主様からは、ヒト族の方とお話ししたい者は居るかと聞かれたので」
「私も同じです」
「まんまじゃねーか!」
彼女達は、純粋に話がしたかっただけらしい。
妖怪しか居ない越前国において、魔族よりも珍しいヒト族。
ただ興味があっただけだった。
「チクショオォォォ!!」
「俺達の純粋な気持ちを返せぇぇぇ!!」
走って店を出ていく二人。
彼女達に頭を下げて、僕達も店を出ようとしたその時。
彼女達は言った。
「お会計しないで行ってしまったので、どなたか立て替えてもらえますか?」
官兵衛の分も含めると、かなりの金額になっていた。
流石に逃げた失礼な二人が居る手前、僕は彼女達の分も支払う事になったのだ。
「絶対に後で割増請求してやる!」
「そこは優しく接してあげないんですか?」
「良いんすよ。あの二人、完全にダサ坊だったし、迷惑掛けたんだから。ちょっとくらいは罰を受けるべきっす」
「ハァ、そういうものなんですかね」
甘味を大量に食べた官兵衛は、満足していて二人に興味が無いようだ。
聞いておいて、結構適当な返事をして終わった。
「あ、二人発見」
長谷部が逃げ出した二人を見つけた。
空き地に並べられた木材の上に座る二人。
どうやら相当凹んでいるみたいだ。
ここは僕達が、元気付けてやるかな。
「プロポーズまでしてフラれてるんだ。仕方ないよね」
「元気出して下さいよぉ!元に戻っただけでしょ?」
「元に戻ったって言うな!お前、プロポーズなんか人生で何回もする事じゃないんだぞ」
逆ギレしてくる二人に、長谷部はキレた。
「あ?初対面の人にほとんど喋らずいきなりプロポーズって、意味が分からないんだけど。しかもフラれて金も払わずに店を出るとか。おっさん等、俺より常識無いんじゃないっすか?俺にキレる前に、金払ってくれた魔王様にお礼言うのが先でしょうが!」