美人の妖怪?
欠陥どころか掘り出し物。
コバが見つけたクリスタルは、どうやらかなりの希少価値が出てきそうな代物だった。
官兵衛の案では、僕なら二系統の魔法を使えるという話なのだが。
兄に頼って、本当に使えるのだろうか?
兄が魔法をほとんど使えない理由さえ分かれば、何とかなると思うんだけど。
クリスタルを使わずに、二つの魔法を使用する。
そんな事が出来たら、僕は無敵になれるかもしれない。
そしてこのクリスタルを見つけたコバだが、この野郎にはちょっとお仕置きが必要なようだ。
まさかの能力覚醒。
佐藤さんやイッシーなら、スピードや器用さがそれに当たる。
しかしコバは、戦闘をしていないのに覚醒したらしい。
どういう理由があるのか分からないが、これはかなり大きな出来事だと思う。
だって、戦った事の無い召喚者である、チカが覚醒する可能性だってあるわけだ。
微妙な立ち位置である、ロックの存在もある。
アイツには、自分自身を研究してもらいたいものだね。
そしてコバの能力である、視覚強化。
様々な物が分析されて見えるみたいなのだが、どうやら同じような能力を持つ妖怪が居るらしい。
むしろ向こうの方が、スペックは上っぽい。
コバよりカッコ良いしね。
お市の頼みは、そんな彼を貸し出して、コバに見分け方を教えてほしいという話だった。
百目鬼は頷くと、コバに教えを請うた。
前もって話は聞いていたようで、百目鬼はやる気があるようだ。
「コバ殿、よろしくお願いします」
「うむ。話は長くなる。別室にて、どのような視覚があるのかを教わりたい」
「かしこまりました」
お市に許可をもらった二人は、件のクリスタルを持って出ていった。
しかしコバは、お市から見えない所で悪い顔をしているようにも見えた。
僕の勘だが、百目鬼の能力を研究して、自分の能力に取り込もうという腹積もりなのだろう。
「でも良いのかな?」
「何がじゃ?」
「百目鬼さんは、越前国一の商人なんでしょ?クリスタルの研究の為とはいえ、何日も仕事を離れるなんて。よく許してもらえたね」
会社の社長を、何日も借り受けるようなものだ。
普通なら決して許される話じゃない。
「私もそう思っていたんですけどね」
「奴には代償も支払う予定なのでな。それを伝えたら、二つ返事で承諾しおったわ」
代償?
権六はやはり自分の領地で、大店の店主と揉め事を起こしたくなかったらしく、断られたら諦めようと考えていたという。
しかしお市は違った。
「何を支払うんですか?」
「支払うというよりも、発見したクリスタルの販売権を委ねただけよ」
え・・・。
それって独占販売じゃん。
周りから苦情来ないのかな。
それに色々手を出してると言っても、クリスタルに関しては権六。
というよりは、お市が決定権を持ってるはずなのに。
「どうして百目鬼さんに任せたんですか?」
「簡単な事。妾達では見分けはつかん。だったら分かる奴に引き取らせて、妾が許可した者に奴が売った方が早いであろう」
なるほど。
理屈は分かる。
元々欠陥品で、残しておいた物なのだ。
それを百目鬼へと販売してから、百目鬼がお市の許可した人達に売れば良い。
でも、それって懸念があるんだけど。
「もし、百目鬼が裏取引とかを始めたら?」
「簡単な事よ。奴は越前国から消えるだけ。ただそれだけじゃ」
「越前国というより、この世からなんですけどね。アハハ・・・」
権六の付け加えが、生々しくて怖い。
しかも本当にその通りになりそうなので、彼も分かっているでしょ。
権六は苦笑いで話していたが、百目鬼からしたら笑い事じゃないんだろうなぁ。
「話は元に戻りますが、オイラ達はあのコバ殿が見つけたクリスタルを頂けるのですか?」
そういえばそうだった。
権六はそれを話に戻ったのに、気付いたら百目鬼を連れてきて、話が有耶無耶になっていたんだった。
「魔王様、やはり全てというわけにはいきません。なので、コバ殿が選別したいくつかをお譲りします」
流石に全部は無理か。
権六達も使い道を研究したいだろうし、当然の答えだよね。
それでもタダでもらえるんだから、文句なんか無い。
「ちなみに百目鬼殿から購入するのは、問題ありませんか?」
「それは・・・」
まだ取り決めてなかったんだろう。
権六は振り返り、お市の顔色を伺った。
お市は扇子を、開いたり畳んだりしている。
答えが無い辺り、考えているようだ。
しばらくすると考えがまとまったのか、扇子を畳んだ時に聞こえるパチンという音が止まった。
「駄目じゃな」
「駄目!?どうしてっすか!」
「この力、かなり強大じゃ。一つの場所に固めるのは、危険過ぎる」
「盗難の心配?僕達なら、盗まれないように出来ると思うけど」
「違う。危険だと言っておる」
「魔王様。ここは引きましょう」
官兵衛は何かを察したらしい。
僕や長谷部は、お市へこれ以上問い掛けるのを止められた。
「普通のクリスタルも頂けるのですか?」
「なかなか強欲じゃな」
「タダでとは言いません」
「良い。元々の適正価格で売ってやる」
「ありがとうございます。それではオイラ達は、一度クリスタルの購入について、検討したいと思います」
官兵衛はそう言うと立ち上がり、部屋を出て話し合おうと言ってきた。
「どうせ百目鬼への指導が終わらん限り、帰すつもりも無い。ゆっくりと話し合うが良い」
部屋に戻った僕達は、蘭丸達へと説明を始めた。
「新しいクリスタルねぇ」
「凄かったっすよ!あんなの食らったら、骨も残らないと思ったくらいだし」
「そんな凄いのでござるか?そんな代物、拙者達に扱えるのでござろうか」
見ていない連中からすると、半信半疑みたいだ。
疑う者に畏怖する者。
長谷部の凄いという感想だけでは、やはり反応は微妙だった。
「使えるかは分からない。クリスタルを扱っている権六やお市ですら知らなかったんだ。未知数としか言いようがないんだよね」
「だからこそ持ち帰り、コバ殿と真田殿に研究していただきたいのですが」
「コバ、捕まっちゃったからなぁ。いつ帰れるか分からなくなっちゃった」
「もらったら帰るんじゃなかったのか?」
「希少なクリスタルの見分け方を伝授してからでないと、解放してもらえないようです」
皆はその言葉に、落胆を隠さなかった。
慶次は船に残る又左が気になっているようだが、他の連中はマチマチだ。
寒いから帰りたいという者や、単純に城の部屋生活に飽きた者。
既に長い旅になっている事から、僕もちょっとノスタルジックになっている。
気付くと、安土が恋しいと感じるようになっていた。
「お前等だって早く帰りたいだろ?」
「え?俺?」
「蘭丸は可愛い嫁さんが、待ってるからなぁ」
イッシーから、僻みとも思えるちょっかいを受けた蘭丸。
だが小学生のように、そんなんじゃないとか言い返さない辺りが軽くムカつく。
結局は、セリカは良い女だと認めてるという事だ。
イッシーもそれが分かったらしく、何も言わなくなった。
余談だが、ロゼとの関係を追及されたくなかったんだろう。
官兵衛は、そそくさと誰にも見つからない部屋の隅に移動している。
僕は見逃さなかったけどね!
「イッシーは仮面外して、婚活でもしたら?」
「仮面でも良い女性を探す」
「仮面にこだわりでもあるの?」
「今更外すのも、どうかなぁって感じに思えてきて・・・」
気付いたら仮面生活に慣れてしまったどころか、逆にしていないと不安になるようになったらしい。
何度か外して行動してもらったが、それがキッカケで仮面の重要性に気付いたとの事。
「馬鹿っすか?」
「馬鹿ってなんだ!」
「仮面でも良いって女の人。それって長く付き合いがある人以外は、駄目じゃないっすか」
「何故?」
「だって、顔も見えない性格も知らない。それなのにイッシーさんが良いって言う人、信用出来るんすか?」
「あ・・・」
長谷部にしては鋭い指摘だ。
僕もあんまり気にしてなかったけど、その条件で良いって言う女性は、金目当てにしか思えない。
最悪、結婚詐欺師だな。
「いや!魔族なら居るかもしれないじゃない?だってほら、魔族とか価値観違ったりするでしょ?」
「それはオーガとか特定の種族だけだと思うけど」
「イッシーさん、それだとムキムキマッチョにならないとモテないっすよ?」
いかん。
仮面から下の身体がムキムキだと想像したら、気持ち悪くて笑えてきた。
「というより、魔族ナメんなって話だろ。エルフだって美醜の感覚は、ヒト族とそう変わらないぞ」
「マジか!うーん、尚更仮面を取りづらくなったな・・・」
イッシーの顔、そこまでイケメンというわけじゃないからなぁ。
自信が持てないのは分からんでもない。
「妖怪ならどうなんだろ?」
「え?」
「だってお市さん、めっちゃ美人ですよ」
「雪女だからな。俺の時代から雪女は、美人だと決まってる」
佐藤さんが妖怪ならと、話に乗ってきた。
あわよくば、自分もという考えなのだろう。
だって、下心ありそうな顔をしているし。
珍しく話に乗ってきた水嶋爺さんも、お市が美人だという事は認めているようだ。
妖怪か。
僕もそこは盲点だった。
僕や兄がモテる時が、来てしまったのかもしれない。
「でも、妖怪に美人なんか居るのか?」
「俺達、魔族だけど妖怪には詳しくないですね。官兵衛なら詳しいんじゃないかな?」
「ハイ?コホン。オイラもこちらの方々は、詳しくは存じませんよ」
急に蘭丸から話を振られたからか、声が裏返った官兵衛。
でも官兵衛も、妖怪達とは接点が無かったからか、ほとんど知らないという。
「美人の妖怪か。美人で有名なのは、玉藻前だろうな」
「爺さん、詳しいな!その玉藻前ってのは誰だ?」
「分かりやすく言えば、九尾の狐だ。日本に来る前は、中国や他国に居たとかっていう伝説もあるらしい」
「水嶋さん、本当に詳しいね。僕でもゲームでしか知らないからな」
予想外の人物から話が上がったけど、九尾の狐って言ったらゲームなら強キャラ。
雪女であるお市と同格かそれ以上だろうな。
そんな人物が越前国に居たら、まず有名なはず。
名前を聞かない辺り、ここには居ないんだろう。
「他は?」
「そうだな。女郎蜘蛛はどうだ?本当の姿は蜘蛛だが、人の姿だととても美人だぞ」
「それ、最後は食われるんじゃなかったっけ?」
「惚れられてるなら、食われないだろ」
「・・・」
流石に今の答えには、イッシーも佐藤さんも無言になった。
それって今は良くても、愛想を尽かされたら食われるじゃん。
怖過ぎて無理。
「爺さん、他は居ないのか?」
「俺もそこまで詳しくないぞ。そうだな、清姫辺りなら話も知っているが・・・」
「姫!?良いじゃな〜い!仮面をした男も好きになってくれるかな?どんな人?」
「好きな男に一途な女だ。しかし、騙されたと気付いてから大蛇に化けた。最後は男を焼き殺したな」
「駄目じゃん!死ぬじゃん!」
「騙さなければ大丈夫だろ」
「・・・嘘付いたら焼かれるのか。無理!」
なんという怖い話だ。
ストーカーの原点じゃないの?
二人ともストーカーはお断りという事だろう。
しかし、妖怪でも美人って居るもんだなぁ。
「あ!俺気付いたっすよ。人魚は?」
「人魚!確かに美人のイメージだ。長谷部、ナイスだぞ!」
話は悲恋の印象だけど、確かに美人のイメージかも。
海じゃないと居ないから、この世界には存在しない気もするけど。
しかし、それよりも微妙な答えが返ってきた。
「何言ってんだ。人魚は化け物だろ。人の頭を持つ魚で、女だなんて聞いた事無いぞ。あんなのにちょっかい出したら、呪いとか祟りで死んじまうぞ?」
「どういう事?」
「僕に聞かれても・・・」
「俺達も人魚ってのは知らないな」
水嶋爺さんが、呪いやら祟りやらと、よく分からない事を言い始めた。
蘭丸達も知らない人魚。
魔族でも妖怪でも存在しないのかな?
「ちょっと。どういう事か調べてよ」
「ハァ!?」
イッシーはスマホで、人魚の話がどういう意味なのか調べてほしいと言ってきた。
確かに、僕達が知っている人魚と、水嶋爺さんの人魚はかけ離れている。
それでもスマホを使うほどでは・・・。
「阿久野くん!俺とイッシーさんの将来が、掛かってるんだよ!キミに慈悲の心は無いのかい?ここは一つ、俺達の未来の為に。ちなみにここで恩を売っておくと、俺とイッシーさんはキミの為に動きますよ」