作戦名、桶狭間の戦い
僕の人形、無事なんだろうか。
ブサイクと言って、酷い扱いをされていないだろうか。
【別にいいだろ、人形なんて】
なんて事言うのさ!
頑張って作ったからか、愛着があるんだよ。
僕の分身と言っても過言ではない。
【それは過言じゃない?壊れてたらどうするんだ?】
絶対に殺す。
許さん!
【結局、目的は変わらないという事ね。それで今回は、1人で真正面から行くわけだが。何か案とかあるのか?】
ラコ姉ちゃんを使っても良いんだけど、多分そんなの関係無く殺しに来ると思うんだよね。
だから、普通に暴れるだけかな。
ちなみに今回は、こういう物も作る。
【お前、それ使うのか!?】
別にこの世界で所持していようが犯罪じゃないからね。
ネットのアンダーグラウンドな方に行けば、作り方も上がってるから。
撃つのは僕でも良いけど、兄さんが暴れるんだよ?
【え?俺がやるの?】
魔法で一網打尽にしちゃうと、恐怖に駆られて逃亡を始める者も出ると思うんだよね。
だったら最初は魔法を使わずに、身体強化で多数を相手にした方が良い。
1人を大勢で囲んでいるという優越感に浸らせて、勘違いを起こさせた方が逃げる事は少ないはずだから。
【そういう考えがあるなら、俺も異論は無い】
それに多分だけど、奴等の事だからダークエルフの子供1人なんて見つけたら、大勢で寄って集って殺しに来るよ。
そういう連中だからね。
【なんか、随分と連中の事を理解している感じがするだけど】
アレはね、人間の欲望をそのまま出しているような連中だよ。
日本人というか、僕等でも持ち合わせている欲望を、包み隠さずに出しているといった感じかな。
この世界ってさ、法律とか日本と違うじゃない?
魔族だって、基本的に弱肉強食を主にしているし。
【そうだな。魔物にやられるのは仕方ないって言ってるくらいだからな。日本でそんな野生動物居たら、大騒ぎになってるし】
日本とは違う倫理観で成り立った世界に、僕等の考えが正しいとは言えないのかもしれない。
でも、弱肉強食っていうのは、強い者が生きる為に弱い者を食べるっていう事はでしょ。
連中がやっているのは、ただの快楽だ。
自分達が魔族より上だという満足感を得る為に、弱い者を殺してるんだよ。
日本でも似たようにイジメがあるけど、アレは精神的に苦痛を与える方が大きい気がするんだよね。
精神的に追い込んで、相手の優位に立つってやり方かな。
ま、どっちもクソなのは変わりない。
奴等がクソなら、僕も同じ事をやる。
目には目を、歯には歯を。
「殺しには殺しで返す」
【・・・】
何か言いたげだね。
言いたい事があるなら言って?
【いや、なんかお前が遠くに行っちゃいそうな気がして。簡単に殺すとか、言わなかったよなって】
この世界に来て、僕も変わったのかな。
そういう所に違和感が無くなってるのかもしれない。
こんな考えを持ったまま、日本には戻れないな。
苦笑いはするものの、言われるまで気付かなかった。
自分の中の変化に、改めて怖いと思ってきた。
【お?雨が降ってきたな。もうすぐ夜も明けるし、夜襲の備えを解いて油断した頃じゃないか?】
わざと話を逸らしてくれたのか、その気持ちに少しだけ暖かい気持ちになった。
そこまで深くは考えていないだろうけど。
「よし、僕達は僕達のやるべき事をやろう!」
雨の勢いが強くなってきた。
運が向いてきたという事なのか?
「作戦を確認する。僕が村の正面から注意を引き付ける。今回は魔法を極力使用せず、わざと劣勢に思わせるようにする」
「劣勢というのは、どのような事を?」
「対多数で、囲まれないように逃げ回るくらいかな。一網打尽も簡単だが、それだと逃亡を謀る輩が出る可能性がある。殲滅を目的としている以上、僕がそれを許さない」
「対多数って、怪我するんじゃねーぞ」
ぶっきらぼうな言い方だけど、怪我程度で済むと思われてるって事かな。
普通なら大勢に囲まれるなら、死ぬなとかもっと違う事言われると思うんだけど。
信用されてるのかな?
「大丈夫だよ。ま、余裕があればラコ姉ちゃん、助けて〜!とでも言っておくわ」
その声に笑いが起きる。
皆も緊張してると思う。
10人に満たない数で、500人に挑むんだからね。
ちょっとでも緊張を解いてあげたい。
「それとツムジ、村の様子は確認出来た?」
「バッチリだよ!入口や四方に見張りは居るんだけど、入口の反対側は壁で覆われてるから、見張りも少なかった。それと村の中央辺りにある建物が本陣みたいだったわ」
「それだけ分かれば十分だよ。ありがとう」
頭を撫でるとちょっと気持ち良さそうだ。
羽も濡れているけど、空は飛べるのかな?
「でもこれだけ雨が強いと、視界は悪いんじゃないか?空からでも確認出来る?」
「飛ぶ事に問題は無いけど、確かに視界は悪いかな。あまり高くは飛べないね。それとアタシのブレスだと、まだ弱いから威力も大きく落ちちゃうかも・・・」
下手に大丈夫って虚勢張られるより、ちゃんと言ってくれた方が助かる。
戦力としては考えない方が良さそうかな。
「それじゃ、僕等と皆の連絡係を頼みたい。空から両方を見守って、連絡を取り合ってくれ」
「では私達は、ツムジ殿の合図で突入を開始します」
「そうだね。正面に人が集中して本陣が手薄になったら、ツムジが連絡してくれ」
「分かったわ」
「本陣に皆が着いたら、今度は僕に連絡を。それを機に攻勢に転じるから。いつまでも逃げてると、本陣の異変に気付かれる恐れもあるからね。それにずっと逃げてると思われるのも尺だし」
それに奴等の嗜虐的な顔を、一瞬にして変えるのも面白そうだからね。
これは皆には言わないけど。
「それと王国の本陣に居る大将さんは、極力殺さないように」
「それは捕らえろという事でしょうか?」
「出来れば幹部連中もだ。生かして捕らえて、小人族の前に突き出したい」
その言葉にズンタッタ達は難しい顔をする。
人数で劣っている上に殺すなとか、無茶言うなとでも思っているのだろう。
安心してください。
作ってますよ。
「これを持っていくといい」
「これは?」
小さな3個の鉄の球に鎖が付いている。
ボーラと呼ばれる武器だ。
足を狙えば捕らえる事にも使え、先の鉄球に当たればダメージも与えられる。
頭とかに当たれば、致命傷にもなるだろう。
「これ、微塵?」
微塵?
なんだそりゃ?
ボーラじゃないの?
「微塵って何?」
「知ってて作ったんじゃないの?これ、猫田さんが持ってた物に似てるけど。マオくん、凄いね」
「あぁ、あの乱波の人か。確かに持っていそうだな」
ハクトと蘭丸は、微塵を知っているらしい。
ボーラの日本版かな?
まあ、どっちでもいいや。
「2人とも使い方は分かる?」
「大体はな。俺達は使えるけど、ズンタッタ殿達は?」
「いや、初めて見たので使い方はちょっと」
ハクトと蘭丸が他の5人に教えている。
太田は試しに勝手に投げていたけど。
捕らえる為に渡したはずなのに、全然違う武器になっていた。
「魔王様、この武器凄いですね。岩が粉砕出来ました」
粉砕しちゃ駄目でしょうが。
お前は捕らえるという言葉を聞いていなかったのかね。
「お前は没収!他の皆の使い方でも見てなさい」
えっ!?みたいな顔してるけど、何故その顔が出来るのか分からない。
皆の使い方を見て、勉強しなさい。
「なるほど。捕らえる為に使うのですか」
最初に言いましたよね?
このバカチンが!
早速と言わんばかりに、また投げていたが。
「魔王様、やっぱり砕けます。どうしましょう?」
どうしましょうって言われても・・・。
砕くなとしか言えないよ。
「やっぱり没収・・・じゃなくて、作り直そう」
バルディッシュの柄に、鎖と分銅を取り付ける。
鎖の長さも5メートル近くまで伸ばして、ボーラとは違う使い方をするのは明確だ。
接近戦では邪魔になるかもしれないから、ワンタッチで鎖を外せるようにしてみよう。
「これで試してくれ。お前はもう、捕らえる事を考えなくていい」
バルディッシュを振り回し、その先端の分銅が凄い音を立てている。
分銅が岩に直撃した。
さっきより威力が大きい。
これは、致命傷じゃなくてほぼ死ぬレベルだな。
「ま、まあ予想通りと言っておこう。これで本陣の雑魚共を粉砕しろ」
「ワタクシにも新たな力を授けていただき、誠にありがとうございます。粉骨砕身、務めさせていただきます」
新たな力というか、思いつきなんだけど。
それに太田の馬鹿力じゃないと上手く振り回せないから、実質は欠陥品だと思う。
そろそろ皆もボーラに慣れてきたみたいだ。
雨の強さも増している。
このタイミングしかないだろう。
「ボーラには慣れたな?鎖部分はミスリル製だから、奴等の武器ではそう簡単に切断は出来ないだろう。それを使って縛り上げろ!」
オォ!という掛け声に、小人族がビクッとした。
ちょっと申し訳ないと思ったけど、これもキミ達の村を取り戻す為だから、我慢してほしい。
「行くぞ!作戦名、桶狭間の戦いだ!」
俺は入口近くの木の陰で、ツムジの合図を待っていた。
皆が裏手に回るまでは、隠れて待機している。
正面入口で逃げ回りながら暴れる為、ちょっとした鉄の棒しか持っていない。
下手に強そうな武器を持っていると、怪しまれるからだ。
「魔王様、裏手の準備出来たよ」
「今から暴れる。ツムジは皆を、敵と遭遇しないように導いてくれ」
「了解であります!」
さてと、俺もそろそろ行こう。
「ん?入口の近くに誰か居ないか?」
「こんな豪雨の中、誰も小人族の村に来ねーよ。いや、居るな。小さいのが何か見える」
そんな事を言っていたみたいだが、雨の音がうるさくて俺でも聞こえなかった。
無造作に入口に近付いていき、敵の見張りに気付いたような素振りを見せた。
勿論、わざとだ。
「あ、あれれ〜?おかしいな〜?こ、こびとぞくのむらなのに、ヒトぞくがいるぞ〜?」
(兄さん!棒読み過ぎる!それは流石に怪しいぞ!)
え?そう?
俺としては上手く言えたつもりなんだけど。
(逆に怪しまれて、近付いてこないかもしれないじゃないか)
でも、あの様子なら分かってないだろ。
「ヘッヘッヘ。馬鹿なダークエルフのガキが迷い込んだか?」
「良い声で泣くといいなぁ。そう簡単には殺さねえから、安心しろよ」
ほらな?
気付いてないだろ?
(馬鹿で助かった・・・。じゃあ作戦通り、時間稼ぎと陽動で、どんどん人呼んじゃっていいから)
おうよ!
ラコ姉ちゃんはどうする?
(ラコ姉ちゃんは森の中に居る事にしよう。背が高くて巨乳にしとこうか。馬鹿が森の中に探索に行くはずだから、ソイツ等は一人一人始末していく方向で)
「う、うわあ!こわいよぉ。森の中に居るラコ姉ちゃん、たすけてぇ」
(物凄い大根役者だな。酷いにも程がある)
うるさいな。
あんなに上手く言えるお前がおかしいんだよ。
(恥ずかしさを捨てるのがコツだよ?あとは相手がアホだと思う事が重要)
そうなのか?
やってみよう。
「姉ちゃんだと!?お前、ダークエルフの姉ちゃんが近くに居るのか?答えろ!」
「う、うん。居るよぉ。ラコ姉ちゃんは背が大きくて胸も大きくて、声も大きいよ」
(何で声も大きくした?)
奴等の好みっぽいかなと。
いじめる時に相手の泣き声が大きいと、喜びそうじゃない?
(なるほど。良い判断だ)
「オイ、チビ!お前の姉ちゃんの所まで案内しろ!」
「待て!俺が行くから、お前等は待っていろよ」
しばらく言い合いが始まり、その騒ぎに中から他の兵もやってきた。
「だったらさ、皆で行けばいいじゃない。俺、じゃなくて僕は此処で待ってるから」
「ほぅ。じゃあ後から来た連中は、代わりの見張りにしておこう。俺達だけで楽しもうとしようじゃないか」
嫌な顔だな。
人の事を痛めつけるのに、こんな下卑た笑顔になるとか。
気持ち悪い。
(だから言ったじゃないか。コイツ等に生きている価値なんか無いって)
でももう少し、集まってほしいな。
何か良いアイディアない?
(森の中に入って行ったら、僕等は逆に村の中に入っちゃおう。村の入口付近で、鬼ごっこの開始かな。あまり村の奥に行くと、作戦に支障を来すかもしれないから、あくまでも入口の近くだけね)
分かった。
そうしよう。
「俺達は森の中の探索に行ってくる。お前等、代わりの見張りを頼む」
「じゃ、俺等はこのガキと鬼ごっこでもしようかね。捕まったら最後の鬼ごっこだが」
ニヤァと嫌な顔をして言ってくる。
でも鬼ごっことか向こうから言ってくれるのは、好都合だな。
この国の連中、本当にアホで助かるな。
(だから信長に見捨てられたんでしょ。有能なら他の国でも取り立てられてるよ)
それもそうだな。
アホだけど、俺等にとっては今は有能な馬鹿という事で。
「わぁい!鬼ごっこ〜。じゃあぼくはこっちに行こっと」
身体強化して、一瞬で村の中に入る。
振り返って、馬鹿共を煽る事もしないとね。
「あれれ〜?おかしいな〜?鬼ごっこなのに、誰も付いてこないぞ〜?・・・お前等、雑魚過ぎじゃね?」
入口の兵に向かって尻を叩く。
顔を真っ赤にした王国兵の1人が叫んだ。
「このクソガキが!お前等、もっと呼んだこい!このガキに大人の怖さを思い知らせてやる」
「すごぉい!子供1人を捕まえるのに、もっと呼んでこいだって。大人なのにカッコ悪いね。バイバ〜イ」
(今の煽りはなかなか良いよ。イライラさせるのが上手くなってきたね〜)
そうですか?
お褒めに預かり、ありがとうございます。
そろそろアイツ等も村の中に入ったかな?
「は、話が違うんだけど!」