新しい身体が予想外
目が覚めると、俺は木に寄りかかりながら座っていた。
自分の手を見ると、色は黒いが思ったより大きくない。
足もそれほど長くない。
自分の身体じゃない事を実感させられる。
そして周りを見渡すと、背の高い木が沢山生い茂っている。
俺達の住んでいた街とは全然違うと、ハッキリ分かった。
森の中だろうか?
色々と自分の身体や周囲を見たが、それより俺の身体の中には弟が居るんだよな?
全然分からないんだけど、どういう事だろう?
(うおっ!なんだこれ!!)
おぅ!
頭の中で声が聞こえる!
気持ち悪いな!
(気持ち悪いとか言うなよ!こっちなんか身体が勝手に動いてて、もっと気持ち悪かったんだから)
なるほど。
意識を失ってたから分からなかったのか。
(ところでこの身体、僕も動かせるの?)
分からん。
何かやってみて。
右手が勝手に上がりだす。
左手の掌が閉じたり開いたりしている。
うん!気持ち悪いな!
(でしょ!?こっちからするとアミューズメントパークのアトラクション状態だよ。VRゴーグルをして、勝手に身体が動いてる感じ)
頭の中で会話をしてみると、左の方から水が流れる音がするのに気付いた。
近くに川でもあるのだろうか。
それと右の方からは甘い果実のような匂いもする。
果物が熟れているのかもしれない。
俺は喉が渇いたわけではないが、なんとなく川があるであろう方に向かおうとした。
(オワッ!)
いってぇ!
なんと左半身は川の方へ向かおうとし、右半身は果物があるかもしれない右方向に行こうとしたのだ。
お前が動いたんだよな?
(兄さんこそ川の方に動いたんだよね?)
これはもしかして、意思の疎通が出来てないと、歩くことすらままならないのでは・・・。
一人で二人三脚とかやる羽目のなるのか?
(試しに二人三脚で歩いてみる?)
いっちに、いっちに、いっちに。
全然進まない・・・。
こんな事してたら一時間で一キロも歩けないだろう。
(なんか精神的に疲れたわ。休憩したい)
そんな言葉が聞こえたと思ったら、急に身体が軽くなった。
おい!普通に歩けるぞ!
(え?任せると一人で動けるの?)
どうやらそうらしい。試しに俺が休むから、そっちで出来るかやってみてくれ。
(分かった!)
俺は力を抜いて休むような気持ちになると、身体というか視点も変わった。
言った通りだった。
(なるほどね。どちらかに身体の主導権を任せればいいんだ。今は僕が立ち上がって見えてるよ)
そうか。こうすればさっきみたいな二人三脚も必要無くなるな。
(なんか操縦を変わったみたいな感じだね)
魔王ロボか。
ロケットパンチは出せないぞ。
(しばらくは交代しながら、この身体に慣れよう)
じゃあしばらくは一時間交代でやってみるか。とりあえず川の方に行ってみないか?
(そうだね。二人三脚で少し喉が渇いた気もするし。そっちに向かおう)
五十mメートルほど向かってみたが、特に川も見つからず。
水の流れる音は近づいていたのでもう少し歩いてみると、更に五十メートル近く進んでようやく小さな川に出た。
百メートル先の水の流れる音に反応出来るとか、魔王の五感恐るべしだな。
パッと見だけど水は澄んでるし、飲めそうだ。
【じゃあ飲みに行こうぜ】
川沿いに近付くと、二人して同じ事に気付いた。
なんじゃこりゃ!!
水を飲もうと覗き込んだ顔は、やはり自分たちの顔ではなく魔王の顔だ。
しかしさっき見た魔王と明らかに違っていた。
小さいのである。
人間の年齢にしたら十歳前後といったところか。
【そういえばさっき手と足を見た時、何か違和感あるなと思ったら、小さかった事だ!】
自分の身体じゃないって分かってるから、視線とかも気にしてなかったよ。
【でも何故小さくなったんだ?さっき見た筋肉マッチョな肉体は何処へ・・・?】
・・・魂が欠けているから?
それとも器に対して魂が少ないとか?
考えられる理由は沢山あるけど、教えてくれる人も居ないし分からないね。
【神様呼んで聞いてみる?】
そんな簡単に答えてくれるのかな?
「神様~!」
声幼いな・・・。
ホント小学生並だ。
『ハイ!呼びましたか?』
答えてくれるのかよ!!
「なんか魔王の身体が縮んでるんですけど、何でですか?」
『え?縮んでます?あっ!ホントだ!何故でしょうねぇ』
駄目だ。
何故とか言ってる時点で分かってない・・・。
『ちょっと理由は分からないですけど、おそらく魂の欠片を全て集めれば、元の姿には戻ると思いますよ?』
疑問形なんだ・・・。
『あれ?魔王の目がヘテロクロミアになってる。何故だろう?』
ヘテロクロミア?
ちょっと水辺で確認しよう。
僕は小走りに川へ向かった。
ホントだ!
左右で目の色が違う!
【金銀とかラノベで見るけど、俺等は赤青なんだな。どっち担当とかあるのかな?】
まあどちらにしろ変わり種な事に変わりはないな。
神様も変わってる事については分かってないし、これはこれでカッコいいから良しとしよう。
『あと、ポケットの中にある紙は確認しましたか?』
紙?兄さんさっき確認した?
【いや、してないな】
ポケットに小さな手を突っ込み、中を探る。
右のポケットから折りたたまれた紙が見つかった。
「紙ありました。これ、さっき言ってた魔王についての紙ですか?」
『ありましたか。丁度良いので、これについても説明しましょう』
僕は紙の一番上にある文字を読んだ。
「創造魔法?」