同盟とクリスタル
何だろうこの感じ。
プレゼンに似てる?
ケルメンでの出来事を、お市に報告する為に越前国に戻った僕達。
彼女の発する寒さも相まって、かなり緊張してしまった。
だってこの報告で失敗したら、僕達がわざわざ海を渡ってまで来た意味が無いんだもの。
緊張するなっていう方が、酷だと思うよ。
しかも官兵衛の一言を聞くと、また違った緊張感が走った。
官兵衛が権六とお市に伝えたのは、クリスタルについてだ。
僕達にとってクリスタルは、魔法を封じて誰でも使えるようにする物という認識がある。
お市に言わせると、魔法ではなく妖力を使った妖術らしいが、それでも可能らしい。
そして官兵衛が言うには、ケルメンの騎士達が使っていた闘気法も封じられるんじゃないかという案だった。
ケルメンには、加工されたクリスタルが売っていた。
おそらくはそのクリスタルで、闘気法を封じられるか試したんじゃないかな?
そんな官兵衛の予想も含めて、お市は満足してくれたようだ。
おかげさまで、無事にクリスタルを購入する権利を得た僕達だったが、やはりここは専門家に買うクリスタルを任せるべきだろう。
船に戻ったコバを早々に呼び戻す為、八咫烏であるコルニクスを呼び出したのだが、ベソかいてるじゃないか!
ツムジに泣かされた彼だったが、用件が僕の頼み事だと知ると、凄い切り替えの早さを見せてくれるのだった。
「とにかく、城まで来てもらっていいかな?」
『モチのロンですよ〜!今すぐ行きます』
僕はまず、直接説明する事にした。
仕事内容を伝えて、拒否されない為だ。
あんなに喜んでいるのに、仕事がコバを乗せてくる事となると、嫌がられるかもしれない。
罪悪感が無いわけでもないが、これも立派な仕事。
悪いが退路は断たせてもらう。
早いな。
すぐにやって来た。
やはり召喚契約を結ぶと、僕達が何処に居るのか分かるらしい。
確かに分からないと、何処に現れるのか不安になるもんね。
「お待たせしてないですよね?超飛ばして来たんですよ〜」
「早かったよ。さて、お願いしたい事だけど。海岸に停泊している船まで行って、コバを乗せてきてほしい。しかも超飛ばして」
「・・・コバ?男ですか?女ですか?」
「男だよ。おっさん」
「おっさん・・・。クアァァ!!おっさん乗せるのかー!しかし初めての魔王様の仕事がー。カー、クアァァ、クルルル」
やはりコバを乗せるのは、とても嫌っぽい。
しかし僕からの初めてのお願いなので、それを聞きたいという気持ちもあるみたいだ。
何を言っているのか分からないけど、廊下を転がりながら悶えている。
「うるさいぞ!アホ烏!焼き鳥にしてやろうか!?」
「クァ!?お市様、サーセン!」
「魔王の願いだろうが!はよ行け!」
「ハイっす!海岸目指して飛ぶっす!」
廊下に顔を出したお市の檄で、コルニクスは立ち上がった。
姿勢を正して返事をすると、窓からすぐに飛び立っていく。
しかも本当に凄い速さで飛んでいき、既に影も見えなくなってしまった。
「場所、教えてないんだけどなぁ・・・」
「問題無い。奴は魔王を導くモノ。魔王と関係している人物は、気配で分かるようになっておる」
お市がそう説明してくれると、彼女は少し物思いに耽るような顔をしていた。
「父親の話ですか?」
「・・・そうじゃな。父と契約していた八咫烏は、妾をすぐに見つけてくれた。勿論、グリフォンの方も同じだがな」
「それ、ツムジの親の話ですよね?ツムジの親は、信長と契約していたって聞いたし」
「そうなのか?妾は彼等に感謝しておるよ。父が亡くなり、契約も破棄して良いはずだった。なのに、妾達と共に居てくれたからな」
そういえば、そうだった。
信長は天下統一を果たした後、数年で亡くなったんだったっけ。
信長と契約したグリフォンや八咫烏は、死んだらその後は自由になるんだろう。
それなのにお市が小さい頃は、一緒に居たんだな。
「コルニクスは、信長の頃の八咫烏の子なんですか?」
「違うと思う。妾が世話になった八咫烏は、他に導く者を見つけて、旅立っていったからな。性格からして全く違うし、別の八咫烏であろう」
お市に言われて、確かにそんな気がしてきた。
信長がもしコルニクスみたいな八咫烏と会っていたら、契約の前に無礼者とか言われて、斬られて焼き鳥になってた気がする。
そういえば、今この廊下には僕とお市の二人しか居ない。
今なら本音トークしてくれるかも。
「ちょっと良いですか?」
僕は彼女の顔色を伺うように、声を掛けた。
横からマジマジと顔を見ると、やっぱり綺麗な人だ。
白い着物がとても艶かしいけど、そっちに目が行くとすぐにバレる気がしたので、すぐに視線を顔へ固定した。
「何じゃ?」
「僕達に協力してもらえませんか?」
「それは、魔王としての願いか?それとも個人としての願いか?」
魔王として、阿久野として。
どっちかという答え方で変わるんだよね?
公な話を持ち出せば、魔王としてという答えが正しいと思う。
でも今は二人だし、個人というのが正解なのか?
【難しいなぁ。俺は個人的にもお願いしたいかなと思うけど】
理由は?
【単純に、茶々を楽しませてやるのもアリかなって思ってるし。なんつーか、親戚のおじさんみたいな考え?】
あー、分からんでもない。
確かに茶々に、この雪国以外の世界を見せてやりたい気もする。
でもこの考え、魔王としては間違ってるよなぁ。
「どうした?答えられんのか?」
「いや、あの・・・」
「ハッキリ言わんか!」
「ハイ!個人的な意見です。協力関係を結べば、他の魔族とも交流が生まれるし。茶々も外の世界が見れるかなぁって、考えちゃったんですけど。そりゃ、クリスタルっていう下心が無いとも言い切れないけど、それだけじゃないっていうか。あー!まあ、そんな感じです」
思い切って、心の中で考えていた事を全てぶちまけた。
下心があるとまでは言うつもりは無かったのに、考えがまとまらなくて、全部言ってしまった。
これは怒られると思い、頭でも叩かれるのを覚悟していた。
しかし何もされないので、恐る恐る彼女の顔を見てみると、彼女は笑いを堪えているではないか!
「馬鹿じゃな。そこまで言わなくても良いだろうに。しかし、本心という意味ではよく分かった」
「ど、どうですか?」
「そうじゃな。もう雪解けの季節なのかもしれんのう。魔王の提案、飲んでも良いぞ」
「ホントですか!?」
「こんな所で嘘を言ってどうする。それに茶々の事を考えてくれていたのは、親として嬉しかった。感謝する」
お市が頭を下げてきて、僕は固まってしまった。
少しの間を開けてから、慌てて頭を上げるように促す。
「とは言ってもな、越前国は妾の物ではない。旦那から言質を取るが良いぞ?」
「えーと、それはハイ。大丈夫だと思います」
だって振り返ると、官兵衛と権六が部屋から覗いてるんだもの。
多分お市か僕の大きな声が、部屋の中まで聞こえたんだろう。
権六は指で、丸印を作っている。
「クリスタルの件、しっかりと吟味せよ」
「ハイ!」
本当に早い。
コルニクスが、たったの四日で帰ってきたのだ。
乗っているのはダルマかな?
何重にも厚着をして、ゴーグルを装着した男が座っていた。
「わ、吾輩、二度と八咫烏には乗らないのである」
「助かったよ」
寒過ぎて声が震えている。
しかも厚着をし過ぎて、自分で動けないらしい。
権六に八咫烏から、コバを下ろしてもらった。
「風呂に入ってきて下さい。温まりますよ」
「すまぬ。本当に助かるのである」
そのまま権六に、風呂場まで運ばれていくコバ。
その後コルニクスが、こちらを見てドヤ顔をしてくる。
「どうっすか?俺、めっちゃ早くないっすか?」
「早かったよ。早かったけど、乗ってる人の体調は考慮してあげようね?」
「ウエェ!ダメなんすか?俺、めっちゃ頑張ったのに。マジっすかぁ・・・」
凹んでいるコルニクスに、ツムジが追い打ちを掛ける。
「馬鹿ね。魔王様の仲間には、ヒト族も居るのよ。それに貧弱な者も居るんだから、何も考えずに飛んでたら駄目なのよ」
ツムジは官兵衛の方を見て答えた。
参ったなという表情で頭を掻く官兵衛。
ただ僕は言いたい。
お前、僕以外乗せて飛ぶ気無いじゃん。
「そっか。次からは気を付けまっす!」
「お、おう」
次からは。
これはコルニクスが、僕以外の者も乗せるという事だろう。
それを聞いていたツムジは、後ろを向いた。
僕が覗き込むと、ツムジは悪い顔をしていた。
「魔王様!レディーに声も掛けずに覗くなんて、失礼よ!」
「すまんすまん。でも、随分と悪い顔してたなぁ。まんまと引っ掛かったみたいな?」
「駄目!あの馬鹿に聞こえちゃうでしょ」
「次からはお前にも頼るからな」
「分かったわよ!でも、おっさんは嫌。乗せるならハクトか蘭丸ね。官兵衛も許してあげる」
イッシーや水嶋爺さんは分かる。
太田は体格的に無理だろう。
問題は他の連中だ。
又左と慶次、佐藤さんはおっさんの部類に入るらしい。
佐藤さんが聞いたら、叫びそうだな。
アラサーはオヤジじゃないと。
「又左とか慶次は駄目なの?」
「うーん、何かむさ苦しいのよね。乗せてるだけで体温が上がりそうでイヤ」
「ブッ!むさ苦しい・・・」
思わず吹いてしまった。
ツムジの言っている事は、分からんでもない。
上半身裸で戦ったりする又左。
強い人を見つけると、うるさい慶次。
じゃあ、年齢を気にしているあの人は?
「佐藤さんと長谷部は?」
「佐藤は、何というか最近臭い。長谷部は頭がパンだからイヤ」
「臭い・・・。頭がパンって・・・。駄目だ!アッハッハッハ!」
「何よ。聞かれたから答えただけなのに」
要は加齢臭がするという事だろう。
長谷部に至っては、髪型から否定されている。
今どきの女の子が気にしている点と、ホントそっくりな答えだ。
「じゃあ、佐藤さんは臭くなければ問題無い?」
「うーん、まあギリギリ許せなくもないわ」
今度、体臭の話をそれとなくしておこう。
イッシーに相談しそうだな。
香水とか消臭に関して、若狭国から何か取り寄せそう。
「復活したのである。早速だが、柴田殿にクリスタルまで案内してもらう事になった。吾輩はここで失礼する」
「え!僕もクリスタル見たい!」
「じゃあアタシも」
「じゃあ俺も見ようかな」
「バ烏は来なくて良いわよ。飛ばしてきたんだから、休んでなさい」
「何で!俺も行く!」
酷いような優しいような。
微妙な加減の言葉だが、コルニクスには伝わらない。
というか、コイツはクリスタルなんか珍しくもないんじゃないの?
「だったらコルニクスは、官兵衛乗せてやりなよ。ゆっくり飛ぶ方法を、彼から学びなさい」
「了解っす!」
「あ、あまり身体は強くないので、お手柔らかに」
「官兵衛さん困らせたら、羽毟るぞ」
適当に思いついた事を言っただけだが、これは良い考えだと思う。
ゆっくり飛べるようになれば、長可さんとかも急用の際に乗せられるしね。
「では向かいましょう。とても寒い場所に行くので、覚悟しておいて下さい」
「寒い場所?近いの?」
「保管場所は城の地下です」
地下室か。
だったら寒いのは分かる。
そのまま城の中へ入り、厳重な警備を潜り抜けていくと、そこはあった。
「ここです」
「ここって、氷の壁じゃないか!こんなのどうやって入るのさ?というか、クリスタルか氷か分からないんだけど。どうしてこんな所に保管してるの?」