クリスタルの使い方
クソー。
やっぱり腹にパックリ刀傷があるからか、前のめりに動こうとすると割れそうで怖いな。
その場合、上半身だけで動くようになるのか。
ホラー映画みたいに、這いずる姿を想像してしまった。
なんとかボブハガーとオケツの二人を倒した僕達は、気を失っているジヴァ共々縄で縛り付ける事にした。
僕は恩を着せようと、普通にボブハガー達を回復した。
すると、ジヴァを助けたらお礼を言うじゃないか!
何だろうなぁ。
身内に優しく他人に厳しい?
これが少しでも僕達に向いていたなら、こんな対立する事も無かったと思うんだけど。
そんなボブハガーは、やはり僕達の事を疑っているようだ。
国のトップであるボブハガーより強い奴が傭兵だと言われても、本人は納得出来ないよね。
官兵衛に確認した後、僕達は自分達の素顔を晒すと、やっぱりバレたわ。
魔王だと分かった彼は、何故か態度が軟化。
こんな態度だったら、もっと上手くやれたと思うけど。
それに信長が生き残って、その後の国がどうなるのかというのは気になる点でもある。
お互いに健闘を祈り、僕達はケルメンから脱出する事にした。
部屋を出ていくと、そこには鎧を着た男達が何人も構えていた。
「手は出すな!客人のお帰りだ」
「大お館様!」
「手を出せば、死ぬのはお前達だ。それにワシとしても、今此奴等に勝てる気はせぬ」
それを聞いた男達は、どよめきながらも道を開けていく。
「元気でね」
「やられた場所以外は、元々元気だわ」
「それだけ嫌味が言えたら、もう元気だよ。じゃあね」
城から出ると、下では佐藤さんや蘭丸達が戦っていた。
ボブハガーに認められたのを知らないから、仕方ないのかもしれない。
怪我をさせないように戦っているからか、一向にオケツ兵が減る様子は無い。
「阿久野くん!?」
「やめろ!もう話はついたから。僕達は帰るので、手出しは無用だよ」
「嘘を言え!」
「だったら攻撃しても良いけど、ボブハガーに殺されるのはキミだからね」
僕が上を指さすと、ボブハガーは鉄砲を構えていた。
空砲だと思うが、銃声が鳴り響くと、彼等は一斉に上を向いた。
「そのまま帰すのだ!」
「ほらね」
ボブハガーの大声を聞いた彼等は、道を開けていく。
「敵になったわけじゃないから。皆も手は出さないでね」
トライクの駐車している場所まで行くと、やはりそこにも兵が配備されていた。
しかし城前で戦っていた兵の一人が同行して、ボブハガーの命令を伝えると、何もせずに戻っていった。
「権六。これでお市の方も許してくれるよね?」
「おそらくは」
おそらくという言葉がちょっと怖いけど、彼女が知りたい情報は得たし。
犯人はハッシマー。
ボブハガーへ下剋上を叩きつけて、この国は今後内乱へと突入する。
「よーし!越前国へ戻りましょう」
やっぱり近い。
トライクでゆっくり帰ってきたけど、二日も掛からなかった。
どうしてゆっくりなのか?
それは、早過ぎるとお市に怪しまれるからだ。
そんな簡単に、情報が得られるわけないだろ!
デマを掴まされたに決まってる!
なんて言われたら、元も子もないので。
権六が言うには、僕の言う事なら信用してくれるみたいだけどね。
「早速ですけど、市に説明しに行きましょう」
「早いなぁ。まだ昼だけど、明日にしない?」
「どうして帰ってきて、すぐに報告せんのじゃ!妾をナメてるのか!?と言われたら、私は擁護出来ませんよ」
「さあ皆!城へレッツゴー!」
さ、寒い。
何でか知らないけど、外より部屋の中の方が寒い。
いや、この人が寒くしてるのは分かってるんだけど。
知らないフリをしておかないと、後が怖いんです。
「それで?」
「え?」
「ケルメンはどうだったのかと、聞いておるのだ」
「いきなり本題ですか。まあ良いや。まず最初に、ハッシマーというケルメンを治めるアド・ボブハガーの家臣が、下剋上を起こしました。そして彼が越前国を襲った犯人です」
正確には、ハッシマーの息が掛かった者達だけど。
もしかしたら、ハッシマーに唆されたボブハガーの家臣かもしれない。
それともオケツが言ってたけど、普通に協力している家臣もありえなくはない。
どちらにしろそこまでは突き止めてないし、お市に報告するならハッシマーが首謀者というだけで問題無いだろう。
「アンタ、その話は本当かい?」
「魔王様の言う通りだよ」
「そうか。ボブハガーは死んだのか?」
「生きてます。僕達が助けた家臣のオケツに、保護されてます。オケツ領であるハンバの国から、やり返すんじゃないですかね?」
「フフ、それでこそボブハガーじゃ」
少しお市の機嫌が良くなったぞ。
お市はボブハガーと面識があるのかな?
兄みたいな存在、いや従兄弟くらいに考えてるのかも。
「この内乱次第で、越前国は危険に晒されるでしょう。ボブハガーが勝てば、今まで通りに仲良く付き合えると思います。でもハッシマーが勝てば、この前のように侵攻してくるかもしれないです」
「フム、報告ご苦労」
「オイラからも良いですか?」
「何じゃ?」
報告が終わったから、この寒い部屋から出ようかと思ったのに。
官兵衛はまだ話があるらしい。
「おそらくですが、越前国は度々襲われると思いますよ」
「ほう?興味深い話だの。理由は?」
お市の鋭い視線が、官兵衛へ突き刺さる。
僕ならビクッとしそうだけど、官兵衛は微動だにしなかった。
戦闘力は無いけど、こういう胆力は官兵衛って凄いなと思う。
「目的はクリスタルです。ボブハガー殿が生きている事が、今後広がるでしょう。そして彼の家臣は集まり、中には同盟を組む人も現れる」
「ハッシマーは孤立無援になると?」
「いえ、反ボブハガー派をまとめるとは思います。ただし、それだけでは戦力としては不足している」
「その戦力不足を、クリスタルで補うと?」
「流石はお市様。話が早い」
頭の回転が早いお市は、官兵衛の言葉から先に答えを導き出していた。
隣に座る権六は、なるほど!そうだったのか!と頻りに感心しているだけなのに。
それでもうるさいと怒られないのは、やはり夫婦だからなのかな。
「しかし問題がある。ケルメンには魔族が居るのか?」
「そうだよ!僕もそれが気になった」
「居るかもしれないし、居ないかもしれない」
どっちだよ!
曖昧な言葉を言うと、お市にキレられるぞ。
ほら、また少し寒くなってきたし。
「妾を馬鹿にしておるのか?」
「いえ、全く。ここから先はオイラの勘ですので、そのつもりでお聞き下さい」
「勘?官兵衛がそこまで自信が無いなんて、珍しいね」
「オイラも一度しか見てないので。出来るのかは不明なんです」
一度?
僕達、何を見たんだっけ。
「コバ殿が居れば多少は分かると思いますが。お市様、クリスタルには魔法しか封じられないのでしょうか?」
「魔法しか?」
「うむ。妾の妖力は入るぞ。魔法だけではないだろう」
「ではオイラ達が見た、ケルメンの騎士の力も入るかもしれません」
「あっ!」
「闘気法ですか!?」
権六の言葉に頷く官兵衛。
まさかの盲点に、僕と権六は驚いて大きな声を出してしまった。
怒られるかと思ったのだが、彼女にとっても驚愕だったみたいだ。
言葉を失っているだけで、彼女も同様に驚いている。
「あくまでも予測です。しかしあの人外の力ならば、可能性はあると思います」
「ちょっと待って!僕は知らないんだけど、闘気法って騎士なら大半が使えるんじゃないの?」
自分で口に出した後に気付いた。
誰も闘気法を使えないのに、分かるわけがないと。
しかしお市と権六は、そうではないと答えた。
彼女達はケルメンと付き合いがあるからか、多少は情報を持っているらしい。
「闘気法というのは、騎士が長年修行して会得出来る気功法と聞いています。その年月には個人差がありますが、平均して十年と聞いております」
「そんなに!?」
「十年などすぐであろう。あぁ、ヒト族は短命であったな」
そりゃ貴女は長生きしてるけど、僕等にとっても長く感じるよ。
しかし十年か。
オケツって、何年で使えるようになったんだろう?
見た目は若かったけど、中身はアラサーなのかなぁ。
いや、あの感じは若僧だと思う。
「もし闘気法がクリスタルの中に封じられるなら、ハッシマーは逆転の鍵としてクリスタルを狙うでしょう。そして未修得の騎士達に分け与え、アド軍への対抗策として使うのではないでしょうか?」
「勘という割には説得力がある。市よ」
「うむ。壁が破られるとは思わぬが、気を付けておこう。大義であった!」
お市の言葉に、頭を下げる官兵衛。
あの様子だと、満足したと思う。
よし!
これなら僕達の希望も通ると思う。
ここは機嫌が良さげな間に、勢いで畳み掛ける!
僕は揉み手で、彼女へと話し掛けた。
「えへへ。うちの官兵衛の話に納得してもらえたようで、良かったです」
「何じゃ、気持ち悪い」
ぐはっ!
せっかく下手に出ているのに、気持ち悪いって・・・。
ここで挫けたら駄目だ。
「そんな事言われたら、傷つきますよ。それでですね、当初のお願いを覚えてますでしょうか?」
「・・・クリスタルの件か?」
うぅ、寒さと彼女のプレッシャーが増した気がする。
でも、負けられん!
「そうです!僕達はもう負けられない!仲間や街の皆を守る為にも、クリスタルを下さい!」
「許す。希望する大きさと数を教えるが良い」
「はい!そんな都合良く行くとは思ってません!だからちょっとだけでも・・・ん?今、何て言いました?」
「許すと言った。二度も言わせるな。この間抜けが」
「あ、ありがとござまーす!」
思わず声がうわずってしまった。
でも、やっと目的であるクリスタルの確保に成功したのだ。
「官兵衛!」
「コバ殿に連絡を。急ぎ、来ていただきましょう」
「ツムジに連絡して、乗せてきてもらうか?」
あ、駄目だな。
僕達以外に乗せたがらないんだった。
コルニクスの方は、どうだろう?
「コルニクスは何処に居る?」
「さあ?知らないですね」
「コルニクス?八咫烏に名前を付けたのか?」
お市は興味があるようで、僕に尋ねてきた。
勝手に名前を付けたのが、駄目だったのかな。
でも怒ってる感じじゃない。
「駄目でしたか?」
「いや、むしろ早く引き取ってくれると助かる」
「え?」
喧しいという事らしい。
しかも三羽になると三倍うるさいので、何度凍らせようか迷ったくらいだという。
「奴ならどうせ、城の上に居るだろう」
「どうして分かるんですか?」
「越前国が見渡せるからじゃ」
僕だと遠くて見えない。
官兵衛も目を細めているが、分からない様子だった。
仕方ないので、コルニクスに呼び掛ける事にしたのだが、ツムジのようには上手くいかない。
「すいませんが、ちょっと外に出てきます」
部屋を出た僕は、ツムジに連絡を取った。
「あのさ、何故かコルニクスと連絡が取れないんだけど。何処に居るか分かる?探してほしいんだけど」
『知らないわよ。どうしてバ烏なんかの為に、アタシが動かないといけないの』
「だったらお前がコバを乗せて、ここに戻るか?」
『それはもっと嫌かも。あのおじさん、アタシを見る視線が怖いのよね』
ツムジの事を、研究対象として見てるのかもしれない。
コバにあまり強くは言えないけど、ちょっと距離は置いた方が良さそうだな。
やっぱりコルニクスに頼む方が、正解だろう。
「だったら探してきてよ。こっちは急ぎなんだ」
『探すというか、勝手に来たわ』
「ちょっと僕が呼んでるって言ってみて」
『このバ烏!魔王様の呼び掛けに応じなさいよ!』
キツイなぁ・・・。
ツムジとコルニクスは、どうにも馬が合わないようだ。
しばらく言い合いをしているのだろう。
電話越しに喧嘩しているかのように、ツムジの罵詈雑言だけが聞こえる。
しばらくすると、ようやくコルニクスと連絡が取れるようになった。
『グスッ!魔王様、何ですか?俺、何かしたんですか?どうして俺、あんなにボロクソ言われたんでしょう?』
え・・・。
泣いてるんだけど。
確かにあの罵詈雑言は酷かったけど、泣くとは思わなかった。
「あーいや、お前に仕事を頼みたかったんだけど。今すぐに向かえないなら、ツムジに頼むよ?」
「何ですと!?シャキーン!俺、復活!行きますよ〜。行っちゃいますよ〜。マジで任せて下さい。最短最速で向かいますから。ちょーマジで頼れるところ、見せちゃいますよ」




