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さらばケルメン

 なかなか面倒な相手だなぁ。

 官兵衛に銃を向けた事で、僕達とボブハガー一行の関係は悪化した。

 多分、拳銃を向けた事で僕達が承諾すると思ったんだろう。

 あの余裕の態度がムカつく。

 だから僕は、兄に本気でやって良いと伝えた。


 なのに予想外でした。

 本気の兄と渡り合えるヒト族が、居ると思わなかった。

 召喚者なら分かるよ。

 でもボブハガーは、この世界の人だ。

 権六はその強さの秘密を知っていたみたいだけど、だったら先に言ってほしかったな。

 本気のボブハガーと、五分ではなく優勢ではあった。

 ただし、それはタイマンの時に限ってだ。

 やはり厄介なのは、兄もショックを受けていたオケツの存在。

 ネタキャラかと思いきや、めちゃくちゃ速かった。


 そんな二人を相手に、兄は苦戦していた。

 この膠着状態をどうにかしたい。

 そう思ったのは、こちらだけではなかったらしい。

 オケツがトドメを刺せと言っているのを聞いた兄は、それを逆手に取る作戦を思いついたらしい。

 ただね、僕の人形を使うのよ。

 兄はオケツの剣なんか、大したことないって言ってたけどさ。

 でも結果がこれですよ。

 僕の人形、どうしてくれるんだ!






 オケツめえぇぇ!!

 普段はあんな微妙な男なのに、こんな強さを隠し持っていたとは。

 油断させるには、まず味方からってか?



「オイ」


 あ・・・。

 振り向いたら駄目だ。



「オイって言ってるだろ。聞こえないフリしてんじゃないよ」


 フゥ。

 後頭部を殴られるくらいの覚悟はしておこう。

 ただし、その場合は身体強化をしてから、痛あぁぁ!!



「何がオケツの刀くらい大丈夫だ!おもいきり腹割られてるじゃないか」


「何か言ってから殴れよ!」


「そんな事したら、どうせ身体強化でズルしようとするでしょうが」


 ギクッ!

 何故分かった。

 どうしてバレているんだ。



「まあやられたものは仕方ない。僕もオケツの実力を見誤ってたしね。後で直すから、今は二人に集中しよう」


「許してくれるのか?流石はマイブラザー!分かった。俺がボブハガー見るから、お前はオケツを見ていてくれ」


「分かった」







「お館様。あの人形、動いてますけど」


「まさかゴーレムの類だったとはな。造りは粗いが、動きはスムーズだ。何をしてくるか分からん。油断するなよ」


「御意!」



 やはりオケツは俺を狙ってこない。

 代わりに人形ならと、ボブハガーも考えたみたいだけど、中身は弟なんだよね。

 むしろさっきまで話していた方が、オケツの相手。


 というかボブハガーもさ、オケツにそうやって気を遣えるなら、俺達にもそういう態度を示せよ。

 そうすりゃあ簡単に、断るなんて言わなかったのに。



「小僧、人形などで防げると思うなよ。死ねぃ!」


「お前がな」


 向かってくるボブハガーの太刀を、俺は余裕を持って避ける事に専念している。

 人形と目が合っているからか、オケツは迂闊には飛び込んでこなかった。



「やるよ!」


 弟の声が耳元に聞こえ、俺は咄嗟に目を閉じた。



「フラアァァッシュ!!」


 背中から眩いくらいの光が、部屋全体を照らしている。

 オケツは完全に目をやられたようだ。

 肝心のボブハガーは?



「クッ!ゴーレムが魔法を使うとは」


「効いてる!?兄さん!」


「うおりゃあぁ!」


 俺の正拳突きが、ボブハガーの腹へと入った。

 服の中に何かを仕込んでいたみたいだが、関係無いね。

 身体強化した身体なら、それくらいはブチ抜ける。

 ボブハガーは片膝をついて、腹を押さえている。


 手応えアリ!

 肋骨は完璧に折れたな。



「オケツも!」


「分かってる」


「ウッ!」


 振り向いた先に居たオケツを見ると、奴も目を瞑って刀をブンブンと振っていた。

 隙を見て鳩尾を蹴り上げると、彼はその場で蹲った。



「俺達の勝ちだな」







 俺は二人の刀を取り上げて、縄で縛った。

 オケツは鳩尾を蹴られて、呼吸が出来ないくらいだろう。

 しかしボブハガーとジヴァは、二人とも骨は折れている。

 ここは恩を売る意味も込めて、回復するべきだと思うんだけど。



(そうだね。命を取らないどころか、助けるんだ。如何に自己中だとしても、そこまでやればお礼くらいは言ってくるでしょう)


 だよな?

 じゃあ後は頼んだ。





「一応、回復魔法だけは使ってあげよう。僕達は傭兵であって、鬼畜じゃないからね。それこそ話を断られたくらいで、拳銃を向けるようなトンデモ野郎でもないし」


「馬鹿にしおって」


 回復魔法を掛けてもらってるのに、嫌そうな顔をしている。

 プププ、恩に着たまえ。



「回復してあげるんだから、暴れないでほしいね。わざわざ頭領自ら、回復してあげるんだから」


「恩着せがましい小僧よな。誰も頼んでおらんのに」


「骨が折れといて、よく言うよ」



 これだけの口が叩けるんだ。

 ボブハガーの傷は、そこまでじゃないだろう。

 問題はジヴァである。


 この男、手加減を知らないんかな?

 権六に締め上げられたジヴァの身体は、様々な箇所が折れていた。

 相撲で鯖折りが禁止になった理由が、よく分かる。

 内臓に骨が刺さらなかったので、彼は痛みに悶えているだけだが。

 運が良い?

 権六を相手にした時点で、運が悪いとも思えるし。



「ジヴァも死なないと思う。完全には治ってないけど、今は命に別状は無いから」


「そうか。感謝する」


「・・・え?」


 空耳か?

 感謝という言葉が聞こえたんだが。



「ボブハガー殿から感謝されていますよ」


「気のせいじゃなかった!」


「ワシだって家臣を助けてもらえば、お礼の一つくらいは言うわ!」


 なんだよ。

 最初からそういう態度なら、僕達だってもう少し優しく出来たのに。

 部下からの信頼はあるのかもしれないけど、逆に敵も作りやすい奴だなぁ。



「頭領、そろそろオイラ達も城を出ましょう」


「僕達も?もしかして他の皆は出てる?」


「ツムジ殿に頼んでありますから。この部屋から異変を感じたら、皆に連絡してくれとね」


 僕達が暴れていれば、何かしらぶっ壊れるもんな。

 兄の鉄球も外へ突き抜けていったし、異変なんかすぐに分かる。

 皆は脱出済みって事は、手助けは期待出来ない。

 官兵衛も居るなら、さっさと脱出するのが吉かな。



「僕等、そろそろ行くから。オケツ、悪いね。もらった前金だと、ここまでが限界。アンタの上司から嫌われたみたいだし、離れるには丁度良いタイミングでしょ」


「ま、待って下さい!」


「まだ何かある?」


「皆さんのおかげでハッシマー軍にやられず、拙者はお館様と再会する事が出来ました。本当にありがとうございました!」


「お、おう」


 縄で縛りあげた相手に、お礼を言われるとは。

 物凄い罪悪感があるなぁ。



「待て!ワシからも聞きたい事がある。お前達は一体何者だ?」


「だから、傭兵集団雑賀衆だって言ったじゃないの」


「嘘だな。ワシに勝てる傭兵だと?そんな者は傭兵ではなく、この国で武将として名を馳せておるわ」


「だって僕、この国の人間じゃないし。魔法使ってるの見たでしょ?」


「それよ。お前の正体を知りたい」


 知りたいって言われても、明かす理由も無いし。

 ん?

 もうこの国からおさらばするから、別にはバレても関係無いかな?



「官兵衛」


「良いんじゃないでしょうか」


「だってさ。許可も出たし、顔くらいは見せてあげる」







 僕は権六にもらった顔パックを外した。

 うーん、お肌スベスベ。

 しっとりとした保湿成分が・・・。

 って、んなわけあるか!



「ダークエルフ?」


「孫市さん、ダークエルフだったんですね」


「孫市という名前も、本当か怪しいがな」


「顔を隠してたなら、そうかもしれない。お館様の言う通りですね」


「本当の名は、何と申す?」


 おっと、久しぶりにこういうタイミングで名前を聞かれたぞ。

 もう会うかも分からない連中だ。

 名乗っておいても問題無いだろう。



「フッフッフ。よくぞ見破った。ある時は雑賀衆の頭領、雑賀孫市。またある時はキャプテンを名乗り、ある時は怪盗にもなる」


「キャプテン?怪盗?」


「僕の本当の名は阿久野。阿久野マオ。真の王と書いて、マオだ」


 ババッ!

 シュバババ!

 ビシィ!

 決まったな。



「その自己紹介に合わせた無駄な動きには、意味があるんですか?」


「む、無駄って言われた・・・」


 オケツのクセに生意気な!

 と思ったら、ボブハガーの様子が変だぞ。

 含み笑いをしている?



「お館様?」


「ククク、ハーハッハッハ!」


「ど、どした?負けて気が狂ったか?」


「いや、もう良い。正体が知れただけで十分だ。負けた理由も分かったし、納得も出来る」


 一通り大笑いし終えると、彼は観念したかのように清々しい表情で、僕達を見ている。



「もう良いよね?行くから」


「待ってくれ。最後に聞きたい」


 まだあるのかよ。

 もう良いだろ。



「本当に最後だぞ」


「魔族はこの国を滅ぼしに来たのか?」


「ハァ?意味が分からん」


「魔王が直々に来たのだ。そう思うのが普通であろう」


「魔王!?孫市さん、違った。阿久野さんは魔王なんですか!?」


 オケツは魔王の名を知らないらしい。

 ボブハガーの家臣である、オケツですら知らない。

 やはりこの国は、いろんな意味で封鎖的なのかもしれない。


 官兵衛を見ると、少し頷いたので真実を語る事にした。



「滅ぼす云々の前に、攻めてきたのはそっちだよ。ケルメンの連中が、越前国に手を出してきたんだ。だからそれが誰なのかを、調べに来ただけ」


「なるほど。では、我々とは敵対するつもりは無いと?」


「お前、よくその口で言えるなぁ。拳銃を向けてきたのはそっちだろ?とは言うものの、越前に攻撃してきたのがハッシマー軍かそれに与する軍だと分かった。お前が手を出して来なければ、今のところは見逃しても良いかな?良いみたい」


 権六に視線を向けながら言うと、彼は頷いたので敵対はしないという事になった。

 ボブハガーはそれに気付き、権六へと頭を下げた。



「すまんな、柴田殿。ワシのクソ猿のせいで、こんな面倒を掛けてしまって」


 あらら?

 権六の正体もバレてしまった。

 まさか僕のせい?

 権六も微妙な表情をしつつ、顔パックを取り始めた。



「バレていましたか」


「うちの此奴を力で負かせるのは、この国ではほとんど居ない。しかし魔族ならばと考えれば、必然と出てくるものよ。もう暴れはしない。縄を解いてくれんか?」


「良いですよ」


 官兵衛がそう言うので、権六はボブハガーとオケツの縄を解いた。

 ジヴァはまだ気を失っているので、寝起き早々に暴れないようにそのままである。



「魔王の寛大な措置に感謝する」


「うん?急に態度が変わると気持ち悪いな」


「そう言うな。しかしこれで、本当に貴殿等を雇うわけにはいかなくなった。ワシはクソ猿に対抗する戦力を集める。この際、密入国には目を瞑ろう」


「すみませんね。勝手に入っちゃって。でも市から、攻撃してきた連中を見つけるまで、帰ってくるなって言われちゃったので」


「フフ、ならば仕方ないよの」


 お市の名前を出したら、何故か許された。

 ボブハガーもお市には甘いらしい。



「また天下統一したら、柴田殿と一献傾けたい。その時はこちらから伺おう」


「お待ちしております」


「それじゃ、僕達はケルメンから出るわ。ボブハガー、アンタは今度こそ天下統一しなよ」


「今度こそ?意味は分からぬが、生意気言うわ。絶対に成し遂げてやる。貴様も帝国に負けるでないぞ」


「知ってたの!?」


「ワシは外国の情勢にも、目を向けている。国王が代替わりして、不穏な動きが目立つからな」


 僕達以外にも警戒されてるのかよ。

 帝国、周りから浮いてるんじゃない?

 このままなら、包囲網も作れたりして。



「魔王様、そろそろ行きましょう。周りが騒がしいです」


「暴れちゃったからね」


「気を付けて帰れよ。いつかお前が大人になった時、ワシと酒を酌み交わそう。その時までに、国をまとめておるのでな」


「ありがとうね。アンタの事、少しだけ見直したかも。さて、行くとするよ」


 部屋の外から、人が集まっている音が聞こえる。



「手を出さないようにしますから。安心して下さい。またいつか、お会い出来たら嬉しいです」






「そうだな。ボブハガーが国をまとめたら、遊びに来るよ。さらばだ明智くん。また会おう」

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