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和解

 ボブハガー、ガチギレでした。

 何をしに訪ねてきたのかと思ったが、まさかの復讐だったとは。

 てっきり保護を求めてやって来たと思ったのに、むしろ自らの手で始末しに来るとはね。

 しかもボロボロの姿を見る限り、誰にも頼らずにここまで来たのだろう。

 門番に襲い掛かり、迎え入れようと顔を出したオケツにいきなり死ねと叫びながら斬りかかる。

 状況把握もへったくれも無いな。


 甘々なオケツでも、今の雑賀衆を名乗る僕等の雇い主だ。

 ここで助けなくては、逆に僕等の立場も危うくなってしまう。

 慶次はボブハガーとの対峙を頼んだが、予想以上に手練れらしい。

 ヒト族の身で慶次と普通にやり合えるのは、アデルモ以来の強者だ。


 蘭丸もボロボロな身なりなのに、それを感じさせない美人さんと戦っていた。

 むしろ女性の身でありながら蘭丸に力勝ちする姿は、凛々しいという言葉が似合う。

 槍では勝てないと判断した蘭丸は弓矢も駆使して、どうにか勝利していた。

 そして慶次はというと、油断をしてくれたおかげで僕にまで危険が!

 しかしそれはイッシーの機転で未遂に終わり、ボブハガーは水嶋爺さんに腕を撃ち抜かれたのだった。







 ヤバメ、間違えた。

 ヤバイ。

 不覚にもイッシーのセリフが、カッコ良いと思ってしまった。

 でもね、撃ったのアンタじゃないから。

 爺さんだから。

 カッコつけているけど、他人の手柄で威張ってるようなもんだからね。



「お館様!」


「アンタは動くなよ」


「嫌です」


「あっ!」


 腕を押さえるボブハガーを見た女は、彼に駆け寄ろうとした。

 そこを蘭丸が弓を構えて牽制していたが、彼女はお構いなしに駆け寄っていく。

 蘭丸はそれを見て、弓を下ろした。



「俺達の勝ちだな」


「くっ!殺せ!」


 あの名言、くっころをボブハガーから聞く事になるとは。

 せめて隣の美人さんから聞きたかった・・・。

 そしてくっころを言ったボブハガーの前には、蘭丸に負けたあの女が立ちはだかっていた。



「おニャン、どけ!」


「嫌です!お館様を見捨てる事など、出来ませぬ!」


「おニャン?」


 皆が二人のやり取りを見ている中、一人だけ疾風怒濤の勢いで突撃していく男が居た。



「ぬおぉやがだざま゛あぁぁぁ!!」


 その必死な顔から、ありとあらゆる液体を出しながら走っていくオケツ。

 オケツは頭からボブハガーへと飛び込んでいった。

 あまりの形相に驚いたボブハガーは、痛めていない左腕でカウンターパンチを決めた。



「お゛やがださま゛、無事で・・・良か・・・った・・・」


 そのまま気絶するオケツ。

 しかし殴った本人は、彼の言動を理解していない。



「すまぬが、ワシに説明をしてもらえぬか?」







 ようやく冷静になったボブハガー。

 佐藤さんや長谷部、水嶋爺さん達もある程度手を抜いていてくれたようだ。

 怪我人は多数出てしまったが、死に直結するような大怪我を負った者は居なかった。



「童、お主がこの集団の頭領だと言ったな?お前に問う。お前達は敵か?」


「違いますよ」


「ふむ。理解した」


 彼はそう言うと、前に立ちはだかる女に声を掛けてから、倒れているオケツに近付いた。



「キチミテ、キチミテ!起きろキチミテ!」


「はうあ!」


 酷い。

 ボブハガーはオケツを起こす為、最初は軽く頬を叩いていたのに。

 しかし起きない事が分かると、拳を握りその頬に一撃かましていた。

 これは流石に、僕達もドン引きである。



「起きたか」


「お館様、ご無事で何よりです!」


「うむ。ワシの勘違いだったようだ。許せ」


 謝罪の言葉は、勘違いで殺されそうになった門番達に掛けてやれよ。

 なんて思ったけど、またキレそうだから僕は言わなかった。

 だけど、長谷部は言った。



「オイ、おっさん。アンタのせいで、この人達が死にそうになったんだぞ。謝るなら先にこの人達だろうが」


「貴様!無礼だぞ!」


「あぁん?俺は真っ当な事を言ったつもりだけどな!」


「無礼者めが!」


 ボブハガー配下の兵達が、長谷部へ掴みかかった。

 しかし長谷部は、木刀で全員をぶっ叩くと、再び彼等に言った。



「無礼なのはテメー等じゃねーか!俺等が手を抜いてなかったら、テメー等全員死んでるんだぞ。それを分かった上で文句言ってこいよ。ちゃんとトドメは刺してやる」


「この変な頭野郎!」


「リーゼントを馬鹿にしやがったな!ぶっ殺してやる!」


 一触即発の両者の間に、ボブハガーが割って入る。



「良い!このヘンテコ頭の言う通りだ。お前達、すまなかったな」


「い、いえいえ!大殿様に謝られるなんて、とんでもない!生きてますから。生きてるので問題無いです」


 生きてるのは僕のおかげなんだけど。

 どうして僕にお礼を言う前に、死んでないから問題無いとか言うかな。

 それ、ちょっと凹むよ。



「ヘンテコ・・・」


 あ、もっと凹んでる人が居た。

 斬られた人達に謝った手前、文句を言いづらいんだろう。

 やり場の無い気持ちが彼の周りに渦巻いている。



「お館様。まずは身体を清められては?皆さんもどうぞ」


「そうだな。風呂を出たら、全てを聞かせてもらいたい。おニャン。お前も案内してもらえ」


「はい」


 彼女は一人別の方向へ向かい、ボブハガーを先頭に他の男性達は、オケツの案内で風呂へ向かっていった。



「孫市殿!某、お館様の背中を流してきますので、少々お待ちを」


「え!?一緒に風呂入るの?」


「ハイ!」


 元気良く返事してるけど、本人はあまり気乗りしてないみたいだけど。

 ボブハガー達は兜を外すと、そのまま中へ入っていった。

 そして僕達は、衝撃的なモノを見る事になる。



「ぜ、全員、髪が無い!」







 そういえば昔聞いたような。

 髪が薄ければ薄いほど、強者の証だという国があると。

 それはケルメンの事だったんだな。



「なあ、ちょっと確認して良いか?」


 部屋で待たされている僕達だったが、イッシーが急に話し掛けてきた。

 やはり彼等の頭の事だろう。



「あのおニャンって子なんだけど」


「頭じゃないのかよ!」


「え?あぁ、それは俺も知ってるから。うちの隊の連中から、聞いてたから、特に驚きは無かった」


 知ってたのかよ。

 流石はイッシー隊だ。

 そういう話には敏感らしい。

 おっと、話が逸れた。



「あの美人さんの事?うん、まあ・・・言いたい事は分かるよ」


「やっぱり気付いてたか」


「蘭丸って事でしょ?」



 彼女の正体。

 それは僕達の仲間にも居るが、蘭丸こと森成利の事だろう。

 お蘭ではなく、おニャン。

 名前はニャンマルかなぁ?



「俺がどうかしたか?」


「ううん。何でもないよ」


 名前が聞こえた蘭丸は、こっちに何の用かと聞いてきた。

 イッシーはその振り返った蘭丸を、ジーッと見つめている。

 多分、彼女と見比べているのだろう。



「蘭丸の方が美人になりそうだな」


「おっさん、あんまり本人の前で言うなよ。変態扱いされるぞ」


「分かってるよ。ただ、彼女もそれなりに強かったみたいだぞ?」


「見てたから知ってる。薙刀を使ってたけど、蘭丸が押されてたからね」


 相手は女性なのに、力負けした蘭丸。

 僕はその件を突っ込みはしなかったが、本人は相当気にしているっぽい。

 誰にも見られていないのを確認してから、腕に力を入れている。

 それを自分で見て、首を傾げていた。



「身体の方は、そこまで大きく感じなかったけど。蘭丸だって、非力ってわけじゃないのに。凄い女だな」


「確かにね。何か秘密があるのかもしれない」



 そんな話をしていると、ホクホク顔のオケツが部屋の扉をガッと勢いよく開けてきた。



「お待たせしました!さあ皆さん、これから語り合いましょう!」


 クルクルと回りながら入ってくるオケツ。

 なんだろう。

 このノリ、とても腹が立つのだが。



「童よ。もう既に夜も遅いが、眠くないのか?」


「言われてみればもう遅いね。明日にしますか?」


「そうだな。ワシ等も周囲を警戒せずに寝るのは、久々だ。別にお主等が逃げるとも思えんし、ジューベーもこの調子だ」


「ジューベー?」


「あ、私でーす!お館様からはジューベーって呼ばれてます。テヘペロッ。痛い!何故?」


 駄目だった。

 このノリが頭に来て、彼にパンチをしてしまった。

 兄と違って力が無い僕は、そこまで痛くないと思うのだが。

 それでもかなり痛がっている。

 コイツ、さては相当弱いな?



「オホンッ!明日の朝、再び会おう。ジューベー、案内せよ」


「お任せを!孫市殿達の寝室は、爺に用意させてますから」


 オケツはそう言い残して、僕達の前から去った。

 一応先に来てた客は、僕達だったんだけど。

 彼の中では、とにかくボブハガーが優先なんだろう。

 それにボブハガーが生きてた事で、彼の潔白も証明されたようなものだし。



「僕達も寝よう」







 朝になった。

 やっぱりケルメンなら、和風の料理が出るんだろう。

 しゃけ定食みたいな物を期待していたら、まさかのパンにスープ。

 美味かったけど、ちょっと凹んだ。



「権六、取引してたのはボブハガーだろ?正体を明かすか?」


「今はまだ、様子を見ましょう。官兵衛殿はどう思われるか?」


「オイラも同意見です。オイラ達が着けているような物を使った、偽者の可能性もあります。まだその時ではないです」


 可能性は低いと言いながらも、偽者かもと言う官兵衛。

 確かにここで正体を明かすと、僕達は不法入国者となってしまう。

 傭兵集団として雇われているだけなら良いが、不法入国者なら歓迎ムードが一転。

 下手したら、犯罪者として扱われかねない。



「待たせたな」


 中へ入ってきたのは、オケツを先頭にボブハガーとおニャン。

 対してこちらは、僕と官兵衛と権六、護衛の長谷部の四人だ。



 今朝は食事中の話し合いの結果、代表者のみで面会する事になっていた。

 てっきり座敷で膝を合わせて話し合うのかと思ったが、ここは洋風らしい。

 二つのテーブルが用意されて、僕達とボブハガー達で分かれていた。

 意味が分からないのが、何故かオケツが向こう側に座っている事だ。



「ジューベー、お前は向こうだろう?」


「え?」


 オケツの本気の驚きに、ボブハガーは頭を抱えている。

 困った部下を持った時は、この番号にお電話を。

 って、この世界に電話無かったわ。



「アンタは僕達の雇い主でしょうが。さっさとこっちに来る」


「あぁん!お館様!」


 権六に引きずられて、こちら側のテーブルに座るオケツ。

 ボブハガーの咳払いで、ようやく会談がスタートした。



「まずは先に言っておこう。雑賀衆と言ったか?お主等のおかげで、貴重な忠臣を失わずに済んだ事を感謝する」


「勘違いでいきなり斬りかかるのは、やめた方が良いですよ」


「ワハハ!疑わしきは抜刀。これ、戦国の慣わしなり」


 怖っ。

 怪しかったら斬られるって、どういう国だよ。



「さて、ジューベーよ。お前が知っている事を、話してもらおう」


「御意」


 彼は自分が、ボブハガーの呼び出しでボンノウジへ向かった事。

 ボンノウジ付近で煙が見えた事。

 到着すると、ボンノウジが炎上していた事。

 そしてそれを唖然として見ていると、直後にハッシマー軍が現れた事を伝えた。



「というわけでございます」


「フム。理解した。まず一つ、お前に伝えておく事がある。ワシはお前を呼んでいない」


 ですよね。

 冷静に言うボブハガーだが、その目は既に怒りに燃えている。



「ちょっと聞きたいんだけど。アドさんはボンノウジから、オケツ軍が来たのは気付いたの?」


「オケツ軍、ではない偽のオケツ軍が来たのは気付いた。オケツの家紋が入った旗印が、ボンノウジ内から確認出来たからな」


「という事は、その偽オケツ軍と戦っていたんでしょ?どうやって逃げ出せたの?」






「突然、攻撃が止むどころか偽オケツ軍が消えたのだ。自害する直前の出来事だ。あの時に敵が退却していなければ、ワシ等は全員死んでおった。今にして思えば、ジューベーがやって来たから隠れたのだろう。あのクソ猿め!絶対に許さんぞ!」

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