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門前ボブハガー

 ケルメンの人の名前、変な名前が多いんだけど。

 アドはまだ良いよ。

 ハッシマーも許せる。

 オケツって何よ。

 ヤバメって何がヤバいの?

 繋げて読んだら、オケツヤバメ。

 お腹が痛いのかな?

 それとも痔?

 この調子だと、他の武将も似たり寄ったりだろうなぁ。


 そんなオケツとイッシーは、水と油みたいな関係のようだ。

 イッシーはサラリーマン時代、上司や部下からも馬鹿にされていたという辛い過去がある。

 おそらくはそんな部下とオケツが、ダブって見えるんだろうね。

 ただし、僕としてはイッシーの意見も分かる。

 人の好き嫌いはやっぱりあると思う。

 でもそれを顔に出してたら、人付き合いなんか出来ないよ。

 そういう努力を怠っているオケツは、僕もちょっと賛同しかねるなぁ。


 そんな夜間にどうやらお客が来たらしい。

 オケツは夜に訪ねてくる非常識な人間を追い返せと言ったが、爺やさんはそれは無理だと言った。

 訪ねてきたのは、自称アド・ボブハガーだったからだ。







 えーと、これはどういう事だろう?

 歴史が変わった?



 僕達が知っている本能寺の変は、信長が死んだとされている。

 死体は見つかってないので、少し怪しいけど。

 しかしこの国の信長ことボブハガーは、生きて自分の足でオケツ氏の領地であるハンバまでやって来ている。

 奇襲に遭ったのに、怪我とかしてないのか?



「おおおお館様だと!?今逢いに行きます!」


 彼は部屋を飛び出し、すぐに門へと向かっていった。

 どういうわけか知りたいのもあるが、やはりオケツはアホな子なのだろう。

 偽者という考えを持っていない。

 ハッシマーの策略による、刺客の可能性だってあるというのに。

 雇い主が殺されたら困る。

 僕達も渋々向かう事にした。



「死ねえぇぇ!!」


「お館様ぁぁぁ!?」


 僕達が門に到着すると、そこでは今にも太刀が振り下ろされる直前だった。



「マズイ!」


「強者でござるか!?」


 慶次がすぐさま反応し、槍を伸ばしてボブハガーへと突いた。

 すぐに気付いたボブハガーはそれを弾くと、僕達へと視線をズラす。



「お前達がワシを狙った刺客かぁ!」


「ボンノウジの事?」


「それを知っているという事は、貴様等だなぁ!?お前等全員、皆殺しにしてやるぅぅ!!」


 血走った目でこちらへと向かってくるボブハガー。

 その後ろには、これまたボロボロの姿をした女性や数人の男性達が付き添っている。



「慶次、ボブハガーの相手を。佐藤さん達は後ろの人達を頼む」


「オイオイ。俺は女の人は殴れないぞ。蘭丸、頼んだ!」


「お、俺!?俺もキツイんだけどなぁ。ま、怪我をさせない程度に、相手くらいは出来るだろ」



 門の前は乱戦状態になった。

 僕はというと、ボブハガー一行にやられたと思われる門番の治療中だ。

 既に意識は無く瀕死の状態だったので、後回しには出来ない状況だった。

 ハクトがここに居たなら、若狭の薬草と回復魔法の併用で難なく済んだと思う。

 だけどこの場で回復魔法が使えるのは、僕一人だった。

 しかもヒト族の姿で魔法を使うところを見せると、怪しまれるのは必至。

 なのでそれを見つからないように行使するのが、非常に難しい。



「貴殿がこの騎士王国の主、ボブハガー殿でござるか?」


「貴様、この国の人間ではないな?」


「いかにも。拙者は雑賀衆が一人、名前は・・・無い!」


 やはり慶次とボブハガーのやり取りが気になる。

 僕は回復魔法を見られないように気を遣いつつ、二人を見ていた。

 慶次が間違えて本名を名乗るのではとドキドキしたが、そこは心配要らなかったらしい。

 考えるのが面倒になったみたいで、名前が無いとか言って、僕は笑いそうになった。



「雑賀衆?」


「ボブハガー殿。その太刀、見せてもらう!」


「ぬおぉぉ!!」


「なんと!」


 慶次の伸びてきた槍を横へ受け流すと、彼は片手でその槍を掴んだ。

 両手で持つ慶次に、片手で力比べを挑んだのだ。



「離せ!」


「この槍は危険だ。しかもかなりの名槍と見受ける。ワシが勝てば、もらっていくぞ」


「笑止!それは勝ってから言うセリフでござる!」


 慶次は槍を一度手放すと、背中の通常の槍を取り出した。

 その槍で伸びる槍を巻き込むように弾くと、ボブハガーは手を離して上へと槍は上がった。



「面白い。貴様程の腕の持ち主が、キチミテの部下とは。槍共々、お前が欲しくなったぞ!」


「生憎でござるが、拙者は付いていく方を決めているのでござる」


 慶次が回復魔法を使っている僕を見ると、ボブハガーは不思議そうな顔をした。



「童が主人と申すか?」


「いかにも。拙者の主、雑賀衆頭領の雑賀孫市殿でござる」


「ほう?ではキチミテとは関係無いと?頭領というからには、あの童が一番強いのか?」


「悔しいが拙者では、勝てる気はしないでござる」


「それほどとな!?どれ、童。貴様も試してやろう」


「・・・慶次に勝てたらね」



 コイツ、意外に冷静だな。

 さっき死ねと叫んでオケツに斬りかかっていたから、逆上して怒りで周りが見えてないのかと思っていたのに。

 もしかして逆に、慶次と戦い始めて冷静さを取り戻したか?



「慶次!多少は荒っぽくても構わないから、ぶっ飛ばせ!」


「承知したでござる!」







「参ったなぁ。俺、女とやり合いたくないよ」


「性別で判断するとは。まだまだ青二才ですね」


 女は蘭丸に向かって苦無を投げた直後、持っていた薙刀で蘭丸を攻撃した。

 槍で苦無を弾いた蘭丸は、一度後ろへ大きく下がった。



「薙刀か。奇遇だな。俺の槍とほぼ同じ長さだ」


「一目でそれを見抜くとは。貴方、青二才のくせにやりますね」


「俺が青二才なら、アンタは年増だよ!」


 蘭丸が槍で足を払うと、それに合わせて女も下段を攻撃してきた。

 かち合う槍と薙刀。



「マジか!?」


「女だと侮った割には、力が弱いんじゃありませんこと?」


 力比べをしていたところに、女は一瞬だけ力を抜いた。

 バランスを崩した蘭丸は、右側に倒れそうになっている。

 女は、石突で蘭丸のこめかみを狙った。


「クソッ!」


 堪えようとした蘭丸だったが、自分に攻撃が迫っている事を感覚的に理解すると、その勢いを殺さずに前転した。

 臀部を石突が掠り、蘭丸は少しだけ呻き声を上げる。



「ごめんあそばせ。殿方のお尻を攻撃しちゃうなんて。そんな趣味はありませんことよ」


「チイッ!ムカつく喋り方すんな!」


 体勢を立て直した蘭丸に、彼女は馬鹿にしたような言葉を浴びせた。

 頭に血が上った蘭丸は、再び彼女へと攻撃を開始する。



 蘭丸は、数撃合わせただけで感じ取っていた。

 この女は油断出来ない。

 接近戦でここまで苦戦した敵は、数えるくらいしか居なかった。

 水嶋との戦いも苦戦したが、アレは彼を見つけ出すまでが大変だった。

 遠距離戦闘での苦戦は水嶋以外にありえないが、彼女はあの時よりも油断出来ない相手だ。

 一瞬でも気を緩めると、形勢が一気に傾くと感じていた。



「フゥ、なかなかやりますわね。しかし、なかなか程度ですわ」


「うるせえよ。そのなかなかに、お前は負けるんだ」


 言い返した蘭丸だが、その意識は彼女の持っている薙刀へと集中している。



 彼女の薙刀は、刀身が大きく反っていた。

 鍔迫り合いなどになると、自分の目の前に刃がやってくるのだ。

 少しでも気を抜くと、肩や顔に刃が迫ってくるような感覚に陥る。

 そんな蘭丸の意識を、彼女は逆手に取っていた。



 蘭丸が振り上げた薙刀の刀身に気を取られていると、彼女は薙刀をそのまま半回転させ、石突で蘭丸の肩を捉えた。

 そのまま石突を鳩尾へ叩き込むと、蘭丸はヨロヨロと後退する。



「カハッ!」


「それでは冥府へごきげんよう」


「なんてな」


「何ですって!?」


 上段の構えから大きく薙刀を振り下ろす彼女だったが、蘭丸は槍を彼女の顔面へと投げ捨てた。

 それを見た彼女は、慌てて槍を弾き返すと、蘭丸が後ろへ大きく下がったのを確認した。



「負けるようで使いたくなかったんだけどな。悪いが、俺は負けられないんでね」


「弓!?」


 蘭丸の強弓から、彼女に向かって矢が放たれた。

 防御しようと薙刀の刀身を横にする彼女は、予想外の攻撃に尻もちをついた。



「重い!」


「すまんな。風魔法の効果も付与されている。まさか初見で、防がれるとは思わなかったぞ。それじゃ、さらばだ」


 尻もちをついている彼女に向かって、矢を放つ蘭丸。

 彼女は先程の矢の威力と速さを実感して、死を覚悟した。



「チッ!」


「外した!?」


 蘭丸への鳩尾への攻撃が効いていた。

 強弓を引くには、力が入らなかったのだ。

 不完全な形で放たれた矢は、彼女の左側へと逸れていった。



「俺、ダセエなぁ。でも勝ったから、良しとしよう」


 急いで薙刀を拾おうとする女に、蘭丸は弓矢で牽制しつつ槍を拾う。

 そのまま槍の穂先を突きつけて、彼女はそこで降参した。







「なかなか強いでござるな。ヒト族でここまで強いのは、アデルモ殿以来でござる」


「アデルモ?聞いた事がある。帝国の黒騎士だな?」


「今は帝国ではござらんがな」


「傭兵が国の情勢を知っているとは。ワシの見解を見直す必要がありそうだ」


 太刀と槍で打ち合う二人。

 慶次は通常の槍に持ち替えていた。

 あの伸ばす槍を使うと、再び掴まれて奪い取られる事を懸念したのだ。



「傭兵にしては槍が上手い。だがな、ワシの家臣にはケルメン一の槍使いが居るのでな。それよりかは弱い!」


 太刀で槍を大きく弾き返すと、アドは懐へ飛び込んだ。


 そこに前蹴りで対応する慶次。

 アドは腹に蹴りを食らい、一度後退した。



「汚れてしまったではないか」


「アド殿、ケルメン一の槍使いとは誰でござるか?」


「気になるか?我が家臣、ムエド・モチャザエムン・チョキシデだ」


「・・・呼びづらいでござる!」


「モチャザは強いぞ!戦馬鹿だがな!」


「モチャザ?拙者の兄上と、似たような名前でござる」


「兄とな?して、モチャザ似のその男は強いか?」


 ボブハガーはどうやら、強者探しに興味があるらしい。

 さっきまでの怒りは何処へやら。

 今は慶次と戦いながら、その会話を楽しんでいた。



「兄上は最強でござる!拙者の憧れの存在でござる」


「そこまでか!フム・・・では童とどちらが上かな?」


「それは・・・」


 慶次はその答えに戸惑っている。

 その隙を見逃さないボブハガーは、慶次を蹴り距離を取った。



「童、すまんが死んでくれ」


「は?」


 信長は気付くと太刀から銃に持ち替えていた。

 一瞬気付くのが遅れた慶次は、発砲を阻止しようと慌てて前へと出ようとする。



 しかし既に遅かった。

 銃声が鳴り響くと、そこで戦っていた者の動きが一斉に止まった。







 一応ね、僕でも対応出来たのよ。

 回復魔法を行使しながら、土壁も作ったから。

 サイズは小さいけど、僕の頭は見えなくなるくらいの高さには達している。

 薄さはちょっと怪しいかもしれない。

 でも、その心配は必要無かったらしい。



「むぅ、何奴・・・」


 銃を落としたボブハガー。

 彼の右腕から、血が滴り落ちている。



「イッシー?」


「残念。俺じゃない」


「俺だ」


 どうやらボブハガーの腕を撃ち抜いたのは、水嶋爺さんのようだ。



「もしかしたら鉄砲を持ち出すかもしれないと、この男に言われてな。警戒はしていた」


 なんと、イッシーの差し金らしい。

 彼はボブハガーを見て、自信満々に言った。






「悪いな。武田騎馬隊を殲滅したくらいだ。鉄砲の強さを知っているアンタなら、持ち出すと思ったよ。でもな、戦国最強の鉄砲使いはアンタ等じゃあない。最強の傭兵集団、雑賀衆なんだよ」

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