ゆとり世代
ウィアー雑賀衆。
英語だとチームサイカになるのかな?
水嶋爺さんの一言で、僕達はオケツから雑賀衆という認識になった。
雑賀衆って言ったら鉄砲集団のイメージなんだけど、それを主に使ってるのは一人、使えて二人しか居ないんだけど。
それで雑賀衆を名乗っても、良いのだろうか?
オケツは自分の領地に戻るというので、雇われた僕達も向かう事になった。
半端な国ではなく、ハンバの国。
彼の城、キャメロン城は凄い和風で僕達も見慣れた城だ。
そして城の中で僕は気付いた。
オケツは明智だと。
ハッシマーが羽柴だというのなら、おそらくは本能寺の近くに居た明智が嵌められて、その三日後に山崎の戦いで亡くなるという事だろう。
現実の世界とは違うかもしれないけど、こうして話すとオケツはそこまで悪い人とは思えない。
そして僕達の話を聞いた官兵衛も、おそらくは秀吉の謀略だろうと予想している。
まあ日本であれば、これが官兵衛の考えた策の可能性もあるわけだが。
本人が本人の策を見破るか。
それはそうと、秀吉の姿が見当たらない。
権六が言うには、彼はお市に認められて越前国に残ったという話だった。
マジかよ。
この辺は結構違うなぁ。
日本だと秀吉は、お市から嫌われていたっていうのが通説なんだけど。
浅井長政との子を殺されたからとか、元々顔や性格が好きじゃなかったとか。
まあ色々言われてるけど、この世界では逆に気に入られてるのかな?
「マジすか。俺達は追い出されたのに、あの人だけ残れるなんて。ズルくないっすか?」
「ライプスブルグで過去に少ししか生産されなかった、幻の名酒を持ってきていたとか何とか。そんな物を用意されていたら、仕方ないですよ」
「旦那は放り出すのに?」
「ハハハ。慣れてますから」
だから慣れるなって。
この地域、寒いんだから尚更慣れると駄目でしょう。
そのうち寒波に襲われて、凍死した鬼が見つかっても知らんよ。
「お待たせしました。食事が用意出来るまで、外の世界の話をお願いします!」
「あぁ、そうね。うん」
「孫市殿、どうしたのです?歯切れが悪いですね」
甚平のような服を着て、その上に毛皮を羽織ったオケツが、急に部屋を訪ねてきた。
余程話が楽しみだったらしく、少し息が切れている。
さっきまでの話を知らない彼は、今の僕達には哀れなピエロに見えて仕方がない。
「カシラ、言っちゃって良いっすか?」
「カシラ!?そ、そうね!言ってやって」
長谷部が急に、僕に向かってカシラとか言ってくるから驚いてしまった。
今の僕は雑賀孫市なのだ。
間違えないように、心に余裕を持っておかなくては。
「ではお願いします」
お前が言わないのかよ!
言っちゃって良いっすかなんて言うから、長谷部自身が説明するんだと思っていた。
よく長谷部が言う気になったものだと、少し感心までしたのに。
現実は官兵衛の後ろに下がり、手を後ろに回して胸を張って待機している。
彼は官兵衛の親衛隊か何かなのかな?
「オケツ殿、貴方はこのままだと孤立して、近いうちに殺される可能性があります」
「どういう意味ですか!?」
官兵衛はオケツに、さっきの考察を説明した。
みるみるうちに顔が青くなるオケツ。
「他のアド家の家臣団は、もしかして他の大名と戦っていたりしていませんか?」
「してます!どうしてそれを!?」
どうしてと聞かれると、そういう歴史だったからとしか説明しようがない。
信長は当時、多方面に喧嘩を売っていたようなものだ。
それを部下に任せて、自分は京都へ向かっていたところを殺された。
僕達が知っている歴史だと、明智光秀も本当は秀吉の手助けに向かうはずだった。
それを考えると、秀吉なら光秀の行動を知らされていてもおかしくない。
「オケツ軍は、ハッシマー軍の支援に向かう予定でしたよね?」
「何故そこまで!?ハッ!凄腕の傭兵は情報収集も長けているというわけですか。勉強になります」
「はあ、そうです。でもどうして、ボンノウジへ?」
「出立直前に、ボブハガー様から陣容などを検分したいという連絡が入りまして。急遽ボンノウジへ向かったところ、煙が上がっていて・・・」
「目の前に着いたら、ボンノウジが燃えていた。そして直後にハッシマー軍が現れた。そんなところかな?」
「凄い!全部当たっています!」
やっぱり嵌められてるね。
おそらく彼は、政治力に弱いんだろう。
というより、人が良過ぎるのかもしれない。
僕達を簡単に信用するのもそうだし、周りのライバル大名を疑わないのも微妙だと思う。
「イッシー、歴史上でこの頃に秀吉傘下もしくは、協力してそうな武将は居る?僕はそこまで詳しくはないから」
「そうなの?そっかぁ」
あらら?
顔は石仮面で見えないけど、自信がありそうな声をしているな。
軽くイラっとするけど、そこは大人として我慢だ。
「自信満々なんだから、分かってるんでしょ?誰なのよ」
「それは多分、山名氏だな。但馬国の有力武将の一人だけど、負けてから息子が秀吉の弟の秀長に従軍しているから。俺の中では、ほぼ確実にコイツだ!」
「おぉ!イッシーが自信に満ち溢れている」
「イッシーさん、頭良いんすね」
胸を張って答えるイッシー。
佐藤さんと長谷部は称賛しているが、水嶋爺さんは違った。
「博識だな。仮面を着けているから、馬鹿なのかと思っていた」
「仮面は関係無いでしょうよ。仮面をしているだけで馬鹿は、酷いでしょうよ」
仮面を着けていると馬鹿って理屈が、よく分からない。
後で聞いてみると、怪我や火傷を隠す為なら分かるが、それ以外の理由で味方に顔を隠すのは、敵と入れ替わられる可能性もあるので、馬鹿のする事だと言っていた。
「爺さんの一言は後でケリをつけるとして、俺は山名氏だと思うぞ」
「山名って名前に近い人は居る?」
オケツに確認すると、彼はその名前に覚えがあるらしく、すぐに頷いた。
「ヤバメですね」
何がヤバいの?
何か危ないの?
なんてツッコミを入れたくて仕方なかったのだが、彼からするとちょっと違うらしい。
「ヤバメ氏は、我々オケツに力を貸してくれていたのです。勿論アド家の為なので、ハッシマー家と繋がっているのも知っていましたが。まさかこんな形で裏切られるとは」
「ヤバメの領地はここから近いよね?」
「西に少し行くと、ヤバメ氏が治めるタンズメの国があります」
彼は神妙な面持ちで答えると、自分達が如何に敵に囲まれているかを理解したようだ。
「西のヤバメに東にハッシマー。他の領主も下手したら、取り込まれているかもしれないよ」
「オケツ家はもうおしまいだ!」
「いや、知らない人も居ると思う。もしかしたら知ってるかもしれないけど、怪しんでる人も居るんじゃないかな?」
「どういう事?」
イッシーは自信は無いと言いつつ、持論を話し始めた。
「多分だけど、佐々成政と柴田勝家は。あっ、アナタじゃないですよー。違う人ですよー」
「続けて」
権六が反応しかけたので、イッシーは軽く制した。
むしろ雑賀衆を名乗っているのに、柴田勝家で反応するのは駄目でしょ。
「この二人は当時、北陸の方で上杉軍と戦ってたのよ。知らせを聞いた時に引き返そうとしたけど、上杉軍の逆襲に遭って動けなくなったわけ」
「それがどうして怪しいの?」
「こう考えられるでしょ。上杉軍は何故、急に二人が撤退すると分かったのか」
「秀吉が裏で情報を流したから?」
「そう!後の清洲会議で発言権を強くしたい秀吉は、二人をこっちに来ないように仕向けて、手柄を挙げさせないようにした。そんな考えは出来ない?」
と言われても、それは僕達のただの想像でしかない。
官兵衛はその話を聞いて、なきにしもあらずといった表情をしていた。
「オケツ殿は他の方々とは、連絡は取っていますか?」
「いやぁ、あんまり・・・。他の家臣って歳上ばかりなので、話づらいんですよね」
「ハイ!滅亡!オケツ家滅亡!お前ナメてんだろ」
「ちょっ!イッシーさん!?」
何かオケツに対して、スイッチが入ってしまったイッシー。
ここからイッシーによる、怒涛説教が始まった。
「お前なぁ、歳上とは話さないとか馬鹿なの?仕事の都合で、話さなきゃならない時とかあるだろう。そういう時に普段から少しくらいは話をしておかないと、連絡も円滑に出来ないだろうが」
「普段の連絡は、お互いに使者がしてくれるので」
「じゃあボブハガーの前で、一同が会する時だってあっただろ。お前一人、外れて誰とも話さなかったの?そういうのって自分では気付かなくても、相手は分かるから。いくらおじさんでも、避けられてるの分かるから」
何だろう。
この実体験を語るようなイッシーは。
サラリーマン時代の、嫌な思い出なのだろうか?
わざわざオケツに詰め寄って話している。
「能力はあるのかもしれないけどな、周りから浮いていたら社会ではやっていけないぞ。自分が起業したって必ず相手は居るんだ。好き嫌いで人を判断してたら、そのうち自分もそういう目で見られるんだからな」
「ハァ・・・」
「お前、おっさん面倒だなとか思っただろ?」
「いや、まあ・・・はい」
「滅亡してしまえ!」
駄目だ。
この二人は根本的に合わない。
多分オケツは、僕みたいな子供のような姿とか蘭丸くらいなら話が合うと思う。
佐藤さんもギリギリ合うかなとも思うが、体育会系のノリを持ち出したら、途端にアウトだろう。
水嶋爺さんや権六は、意外とどうでも良いといった態度で問題無いとは思う。
話してて思ったけど、自分の興味のある事以外は、どうでも良い人なんだろうな。
だからヤバメ氏が裏切っていても、気付かないんだろう。
「オケツ氏の親御さんは、何をされてるのかな?」
「パパは亡くなりました」
「パパ!?」
「今は爺が色々とやってくれてます」
「駄目だコイツ。この調子なら俺達が手を貸しても、居なくなったらすぐに滅亡するぞ」
イッシーの言ってる事は、あんまり間違ってはいない気がする。
それでも手を貸さないといけない理由はある。
「滅亡したら報酬がもらえないから。頑張って手を貸しましょう」
「拙者、滅びようが何しようが、どうでも良いでござる」
「慶次はそうだろうね。そうだ!イッシー、ここは一つオケツ殿を鍛えてみては?」
「えぇ!?」
「えぇ!?」
「嫌だよ」
「嫌ですよ」
どっちもお断りしたいらしい。
悲しいかな、もう修復は不可能だろう。
「ところで、食事はまだでござるか?」
「もうそろそろだと思いますが。慶次殿はケルメン生まれですか?話し方がこちらと同じですけど」
「そういうわけではないんだけど。あ、食事の準備出来たんじゃない?」
面倒な事になりそうな気がしたので、慶次の話はパスだ。
丁度白いヒゲモジャさんがやって来たので、食事の準備が出来たんだと思う。
と思っていたのに、様子が違った。
何やら神妙な面持ちなのだが、僕達は席を外した方が良いかな?
「坊ちゃま。お客様です」
「こんな時間にか?もう遅い。引き取ってもらえ」
「しかし、そういうわけにもいかず・・・」
「もう!誰だよ!」
家だとこんな感じなのね。
こりゃ確かに坊ちゃんだわ。
しかしこの世界で夜に訪ねてくるなんて、結構非常識な人だと思うんだが。
それを突っぱねる事が出来ない相手とは、誰が来たんだ?
「誰か聞いてから判断した方が、良いんじゃない?」
「そうですね。孫市殿の言う通りだ。爺、誰が来たんだ?」
「そ、それが、アドボブハガー様本人だとおっしゃる方が訪ねてまいりました。ご尊顔は似ていないとも言い切れないのですが、風貌はボロボロですので判断しかねております。いかが致しましょう?」




