官兵衛の推察
ボンノウジにアド・ボブハガーねぇ。
確かに物凄く聞きづらい声で言われれば、本能寺と織田信長に聞こえなくもない。
でも、無理矢理過ぎじゃない?
それに、もし日本と同じような話だとしたら、ケルメン騎士王国は日本の模倣もしくは、なぞらえて作られた国って事?
信長が作った国ならまだ分かるけど、騎士王国ってヒト族の国だったはず。
信長の死後に独立したヒト族が、どうしてそんな事をする必要があるんだろう。
この国、かなり不思議だ。
そんなボブハガー殺しを押し付けられたオケツを助けた僕達だけど、なんと彼等は僕達を雇いたいと言ってきた。
理由は兄のせいで、傭兵集団を名乗ったからなんだけど。
報酬の事で断っても良いかなと思っていたら、出してきたのはなんとクリスタル!
実戦でも使えそうなので、僕達は快諾した。
逃したハッシマーの残党も蘭丸達が倒した事で、僕達の傭兵としての腕を大きく認めてくれたようだ。
襲撃の心配が無くなったオケツは、改めて僕達に名前を尋ねた。
そして僕の脳は、八咫烏達の名付けで既にパンク済み。
今更名前なんか考えられるか!
と思っていると、銃を下ろした水嶋爺さんがとんでもない事を口にした。
自分達は雑賀衆だと。
このジジイ、何言ってくれちゃってるのかな!
雑賀衆って言ったら、基本的に織田信長の敵じゃないか!
普通に考えたら、信長モドキのボブハガーを狙う方でしょうよ。
「サイカシュウ?失礼ですが、聞いた事ありませんね」
「が、外国の傭兵集団だからだよ」
「それもそうですが、それほどの腕前ならば、騎士王国でも名が知られていても、おかしくないと思うんですよね」
うぅ、無駄に鋭い指摘だな。
嵌められるくらい微妙な男なのに、こんな事だけ鋭くなるなよ。
「こちらが頭領の雑賀孫市。流れの傭兵だからな。ちょっと前までは帝国で魔族と戦っていたんだ」
「おぉ!その御老体で魔族とも戦うとは。彼等の身体能力は侮れないというのに、凄いですね」
「ハッハッハ!男はいくつになっても常在戦場よ」
水嶋の適当な言葉に、皆は一斉に顔を逸らした。
実際は真逆なんですけどね。
僕達が魔族で、僕達が帝国と戦っているんですけどね。
しかしこの人、楽しんでないか?
妙に饒舌なんだが。
「オイラ達の事はもう良いでしょう。傭兵と仲良くなっても、次に戦場で会う時は敵かもしれないですから」
「敵としては出会いたくありませんな。もう我々は、貴殿等の強さを知ってしまってます。その時は逃げますよ」
「そうですか。話は変わりますがオケツ殿。この後は何処へ向かわれるのですか?」
「ケルメンの我が領地に戻ります。ハンバの国を知ってますか?私はハンバの大名なんですよ」
「半端な国?」
「ハンバです!」
長谷部の言う通り、僕も半端な国って聞こえた。
口にしなくて良かったよ。
しかし大名か。
やっぱりケルメンは、日本と近いシステムっぽい。
「ケルメンは長い間、鎖国をしています。我々が知らないのは当然ですよ」
「その割には、身体の大きな御仁は詳しいですね」
「ケルメンの武芸者と、手を合わせた事がありますので」
「なるほど。道理で」
権六はそう言っていたが、越前国はケルメンと取引をしていた数少ない場所らしい。
知っていてもおかしくない。
ちなみにケルメンは、帝国とは大々的には交易は無いという。
大々的にというだけあって、各大名は行なっているようだ。
「では、我が国へ向かいましょう」
彼等が乗るトカゲは、結構速い。
馬よりもスピードは出ているんじゃないかな?
ただし人を乗せる事に特化しているみたいで、馬車のような物を牽引するのは難しいようだ。
「このトカゲ、何て名前なんですか?」
「正式にはラッシュリザードと呼びますが、トカゲかリザードで通じます。頭も良く、主人には襲い掛からないです。主人と認めさせるまでが、大変なんですけどね」
そういう理由か。
さっきから僕達がトライクで並走しているが、たまに威嚇されるのだ。
長谷部なんか頭きて、木刀で頭を叩いて認めさせてるっぽいけど。
長谷部には妙に、懐いてる気がする。
「もうすぐハンバです」
「近くない?」
「騎士王国の南側にある、一部の領地なので。本来ならもっと魔物に襲われたりするんですが、予想外に何も起きませんでしたね」
起きてはいると思うよ。
水嶋爺さんとイッシーが、サイレンサー付きの銃で何度か撃ってるから。
さっきから後ろで、パシュッ!って音がしてたし。
「見えました。あの大きな門がある場所がハンバです」
「これが騎士王国か」
オケツが到着する前に、門は既に開いていた。
見張りが帰ってきた事を、確認していたのだろう。
「城だ!和風の城だぞ!」
「和風?あそこに見えるのは私が築城した、キャメロン城です」
「キャメロン・・・」
見た目と名前がマッチしない。
どうしてあの見た目でキャメロンなんだよ!
「なんか、時代劇見てるみたいだな」
「俺も思った。だけど、武器が違和感がある」
「ふむ。あの長さは太刀だな。少尉殿が持っていた刀よりも長い」
「そういや水嶋さんも、昔の人間なんだっけか」
「俺はここまで古くないぞ!」
佐藤さんとイッシーが少し懐かしさを感じている中、水嶋爺さんは違うところに着目していた。
少尉殿と言われた時点で、貴方も時代錯誤ですけどね。
「太刀をご存知なのですか?」
「えぇ、裏で出回っているみたいですよ」
「そういえば、長浜国で売ってたのを見たなぁ。銘があったとは思えないから、大した品ではないと思うけど」
「そうなんですか。恥ずかしながら、私は外国を知らないので。良ければ城で、諸外国の話をお聞かせ下さい」
権六から太刀が出回っていると聞いた彼は、外の話を知りたがった。
どうやら外の世界に興味があるらしい。
「こちらです。我がキャメロン城へようこそ」
名前はアレだが、完全に日本の城と同じ感じだ。
どうして名前だけ、こんな感じなんだろう?
「部屋へ案内させます。私は鎧を脱いでくるので、少々お時間を下さい」
通されたのは、板張りの広い部屋だ。
やはり時代劇や大河ドラマで見た事のあった。
長谷部なんか周りを見回して、カメラでもあるんじゃないかと警戒している。
それくらい僕達に見慣れた場所だった。
「この国、本当に日本そっくりじゃないっすか!」
「だな。ビックリするくらいだ」
「俺も過去に城の見学は行っているが、確かに似ている。この世界でも過去の日本と通じる場所があるのか?」
過去の日本か。
どう考えても何かの影響はあると思うんだよね。
まず一番気になったのは、ボンノウジ。
明らかに本能寺に似通っている。
そうなるとアド・ボブハガーが、織田信長だよな。
ん?
じゃあオケツ・キチミテって・・・。
「明智光秀か!」
「ビックリした!何が?」
「オケツは明智だ。ボンノウジで謀反を起こしたオケツ。本能寺の明智と言葉が似ている」
「あぁ、言われてみると確かに。でもアイツ、嵌められたって言ってたぞ?」
それだ。
可能性としては、ハッシマーに嵌められたと考えるべきか。
そうなると、ハッシマーは羽柴?
当時ってまだ、羽柴姓じゃなかった気もするけど。
そこは突っ込んじゃいけないのかな。
「あの、どういう意味でしょう?」
「僕達の知っている過去の偉人達の話だよ。彼等はそれになぞらえて、この出来事が起きている」
「なんですって!」
官兵衛が珍しく驚くと、彼は手で顔を覆った。
しかしすぐにこちらを向くと、話の続きを教えてくれと請うてきた。
「その話、詳しく聞かせてもらってもよろしいですか?」
「というわけで、明智光秀は主君である織田信長を本能寺で倒したんだが、その三日後に他の地方に居たはずの木下秀吉が戻ってきて、やられてしまうんだよね」
「それで、明智光秀とやらは?」
「敗走してからは謎だらけ」
「色々な説があったと思うけど。農民に竹槍で突かれて死んだとか、逃げ延びて生き残ったとか。一番怪しい説は、生き残って天海になったって奴だよな。・・・何だよ」
珍しく色々と話すイッシーに、全員が黙ってしまった。
イッシー曰く、戦国時代は好きなようで、そういう伝承話やオカルト的な話まで知っているらしい。
佐藤さんは、自分と同じくらいの浅い知識しか持っていないと思っていたらしく、イッシーの頭が良くて凹んでいた。
「そうですか。オイラの考えを言っても良いですか?」
「勿論!」
官兵衛の考え。
これは実に興味深いと思う。
黒田官兵衛と言えば、秀吉の家臣である。
半兵衛時代も含めてだが、本来なら敵である秀吉側の人間が、逆の立場で考えを述べるというのだ。
戦国時代好きなイッシーと僕は、固唾を飲むくらい緊張している。
「オケツ殿に詳しく聞かないと分かりませんが、おそらくはハッシマー氏は羽柴同様、遠征に出ていたと思われます。しかし、実際は遠征に出ていなかったとしたら?」
「中国大返しが嘘だと?」
「それが何かは分かりませんが、既に敵と和睦もしくは、一時休戦の約束をしていたと考えると簡単です」
「そうか!信長には遠征に向かっていると伝えておいて、毛利とは既に手を結んでいた。京都付近で見つからないように待機していたなら、すぐに京都に踏み入るなんて簡単なんだ!」
うわあぁぁ!!
目から鱗の話である!
イッシー、仮面の下から涙が出てるぞ。
めっちゃ感動してると思われる。
「魔王様達から聞いた情報だけですので。あくまでも仮定の話です。では、今の状況に当てはめましょう」
「つまりは、ハッシマーは遠征に行っておらず、ボンノウジ付近で待機していた。ボブハガーを殺した後に、偽の書状でオケツを呼び出して、ボブハガー殺害をなすりつけたという考えかな?」
「その通りです」
「となると、ハッシマーと手を結んだ相手も敵になるんじゃないんすか?」
「いや、それよりもきな臭い話があります」
「きな臭い?」
「どのようにして、ボンノウジの近くに伏せていたかという話です」
あ、言われてみると確かに。
中国地方に攻めているはずの秀吉が、本能寺より東にある長浜へ戻っていたら、明らかに不審だもんな。
そう考えると、京都付近で手を貸している人物が居てもおかしくない。
という事は、もしかしてすぐ近くに裏切り者の領地があるんじゃないか!?
「それって、ハッシマーの協力者がボンノウジ近くに居るって事だよな?ケルメンの地理は分からないけど、丹波国は本能寺と同じ京都にある。そう考えると、もしかして敵はすぐ近くに居る?」
頷く官兵衛に、僕とイッシーだけは言いようもない興奮に包まれた。
ちなみに長谷部は途中リタイアして、慶次と駄弁っている。
「権六は騎士王国で、誰と取引してたんだ?」
「私はアド家の方々と、それに近しい人物だけですね」
「その中に裏切り者が居たりして」
「まさか!いや、どうなんでしょうね」
そんな事を考えていて思った。
これだけ盛り上がっていたが、この中に当の人物が居てもおかしくなかったはずだったのに、渦中の人物が見当たらない。
「そういえば、秀吉って越前国から一緒に出たっけ?」
「俺達は見てないな」
「オイラも見ていませんね」
どういう事だろう。
まさか、本当に秀吉が裏切り者だったりして・・・。
「秀吉殿ですか?彼は市にお酒を持ってきていたみたいで、それを一緒に飲んでいたみたいですけど。え?二人きりにして大丈夫か?私が疑うわけないじゃないですか。疑っている事がバレたら、後が怖いですからね」