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ミッション

 弱い者いじめしか出来ない国?

 人じゃなくて、国が弱い者いじめするの?

 意味が分からない。


「すまない。ちょっと意味が分からないんだけど、詳しく説明してもらえる?」


「すいません、俺の口から言うのはちょっと・・・。怒りで今にも攻めてしまいそうで」


 悔しいのか怒ってるのか、こめかみに青筋が立っている。

 ラコーンの顔だとちょっと怖い。


「私が代わりに説明しましょう。あの国は一言で言うと、魔族が嫌いな王が、魔族が嫌いな者だけを集めて作った国です」


 なんと分かりやすい説明。

 しかし弱い者いじめの意味が、まだ説明出来てない。


「そして弱い者いじめというのは、比較的弱い魔族には強気に出るという事です。目の前に居て申し訳ないのですが、小人族の方は非力です。一番狙われやすいと言えるでしょう」


 弱い魔族には強気って。

 どんだけ性根腐ってるんだ。


「そんなのが王様やってて、よくやっていけるな。普通なら他の国に攻められても、おかしくない気がするんだが」


「そこには理由があるのです。あの国帝国や連合、騎士王国等とは違い、土地が広大です。普通なら進攻されて奪い取られてもおかしくないのですが、痩せた土地ばかりで持っていても赤字になると言われています。しかし王国は独自で開拓し、今では農業大国となっています」


「じゃあその開拓した土地を奪えばいいんじゃない?」


「普通はそう考えるのですが、開拓した土地を奪った後に維持が出来ないみたいなんです。だから奪うより、安く輸入した方がお互いに悪くないと考えているのだと思います」


 なるほどね。

 安全を保証する代わりに、安く輸入させてくれよって事か。

 なんか日米関係に少し似ている。

 でも日本は、輸入に頼らないとやっていけないけどね。


【日米関係の話なんかされても、俺には分かんねーや。分かるのはMLBのスター選手とか位かな。ま、俺の方が送球タイムは早いけど】


 そんな事知らんがな。

 しかし、やっぱりそれだけじゃ説明がついていない。


「今の話を聞く限り、ラコーンがそこまで嫌悪する理由には及ばない気がするんだけど。他にも理由があるんじゃないのか?」


「あの国は他の国に知られていない事があります。さっき隊長が言ったように、弱い魔族には強気って話。それだけじゃないんです」


「・・・奴隷か?」


「魔王様、そういう所鋭いですよね。その通りです。でも皆が思っているような奴隷じゃない。家畜以下なんですよ。農業大国なんて言ってるけど、実際にやっているのは魔族の人達です。基本的には寝る時間以外は全て働かせて、死んだら焼いて肥料に。エルフのような見目麗しい魔族は、男女問わずに性奴隷。弱い獣人は兵達の捌け口として、武器で一方的に死ぬまで攻撃されます」


 聞いちゃいけない事を聞いてしまった。

 ラコーンの拳からは、強く握り締め過ぎて血が滲んでいた。

 自分で説明するのを嫌がったのが、今になって分かるなんて。

 僕は無神経な男だ。


「ラコーンの過去をほじくり返すような真似をして、本当にごめん。もっと僕が配慮すべき事だった」


「魔王様は悪くないですよ!でも俺は、あの大人達が本当に嫌いだった。俺の親父もお袋も、家にエルフを連れ込んでいたんですよ。お互いに見て見ぬ振りをしてね。そして仕事は魔族にやらせ、自分達は快楽に溺れる。あの国は腐ってる!だから俺は実力主義の帝国へ、家を出て向かったんです」


 うーん、人に歴史ありと言っていいのか。

 これは結構凄惨な過去な気がする。

 それともこの世界の人達は、こういう過去を背負っている人が多いのだろうか。

 少なからずとも、蘭丸やハクトにはそんな過去は無いと思うけど。


「王国が魔族が嫌いな大きな理由、知ってますか?」


「いや、私も知らんな。単に嫌いな王族だとしか聞いていない」


「あの王族はね、信長様に虐げられた連中なんですよ」


「な、なんだってー!!」


 来ました太田くん。

 キミ、警戒任務じゃなかったかね?


「お、太田殿ですら知りませんでしたか。信長様は、ヒト族より魔族を優遇したじゃないですか。それに反対したのが今の王族の祖先ですよ。元々は貴族だったらしく、治めていた土地を信長様から奪われたわけです。そして信長様に強く反対した結果、怒りを買ったわけで。土地どころか全てを奪われたと言われています」


 なるほどね。

 その貴族と部下達が、今の王国を作ったって感じかな。


「でもその話聞くと、信長にやられたわけであって、魔族関係無いよね」


「要は信長様には逆らえない。その怒りの矛先が魔族へ。しかも普通の魔族には勝てないから、弱い魔族へと移行したんだと思いますよ」


「何だそれ!ただのクソ野郎じゃないか!あ!ごめん」


「いえ、その通りですよ。そんな奴等の血を引いていると思うと、本当におぞましい気持ちにさせられますから。大体、信長様も有能な人材は、種族関係無く登用したと聞いています。無能だから追い出されただけなんですよね」


 苦笑しながら言ってるけど、心の中は穏やかじゃないんだろう。

 俺もさっき殺したいくらいキレたけど、多分ラコーンの比ではない気がする。


「魔王様、中の様子はどうなっておりましたか?」


「兵の数は約5百。武器や防具は基本的に鋼鉄製だと思うが、少なくない数の魔法兵も存在する。生き残りだが、俺の目の前で殺された人を抜いて、3人しか居なかった・・・」


「3人!?8人は残っていたはずなんですが!?そんな・・・」


 膝から崩れ落ちるスイフト。

 ズンタッタが肩に手をやり慰めている。


「魔王様、具申してもよろしいでしょうか?」


「ラコーン、撃退したいんだろう?」


 膝をついて大仰に言ってきたが、それくらい分かっているさ。

 僕だって同じ気持ちなんだから。


「僕がアイツ等を殺すつもりだったんだが、今回は譲るよ。ただし殲滅しろ。ただ1人として生き残らせるな」


【お前、結構キレてるだろ。口調がいつもより荒い気がする】


 目の前で見てれば分かるよ。

 アイツ等に価値なんか無い。

 信長が追い出したのも分かるくらいのクソ野郎共だ。


【そこまで言うのも珍しいな。俺はお前の考えには反対するつもりはあまり無いけど、全滅させろっていうのはどうなの?】


 その言葉の通りだよ。

 だけど、こっちは小人族入れても50人未満だったっけ。

 いや、小人の被害はもう出したくないな。

 だから僕等だけで殺ろう。

 また魔王にやられたら、結局は逆恨みが酷くなるだけっぽいね。

 だから今回は。ダークエルフのクソガキとして殺ろうと思う。


【お前、本当に大丈夫か?ちょっと落ち着けよ】


 落ち着いてるよ!

 でも、それ以上に怒りの方が上なんだよ!

 見てみればいいよ。

 どんな気持ちになるか分かるから。


【落ち着いているならいいよ。下手に油断して、怪我でもしたらアホみたいだろ?】


 ちょっと言い過ぎたかもしれない。

 とりあえず、皆と話し合おう。



「魔王様、全て殲滅するという事ですが、戦力差があまりにもあり過ぎます。このままですと魔王様以外は、全滅の可能性もあるかと」


「そうだな。今回、小人族の人達には戦線に加わってもらうつもりはない。だから、今回は真正面からは行かない事にする」


「奇襲でございますか?」


「そうだ。ただ、どのようにしてやるかが問題なんだよなぁ。何か良い案ある人居ない?」


 自分だけで分からないなら、周りの意見を取り入れる。

 これ、基本ね。


「蘭丸とか、何かないの?」


「えぇっ!?いきなり俺かよ。そうだなぁ、奇襲の基本である夜襲かなぁ。でも夜襲なんか、普通に備えていそうな気もするし」


 月が出ていたら夜襲も難しそうだけど、今は曇か。

 天気次第というのは、どうなんだろう。

 あまり良い案ではないのかもしれないな。


「スロウスとかは、思いつかないか?」


「・・・うーん、二正面作戦とか?」


「二正面作戦?」


「魔王様とそれ以外で攻撃」


 それってそっちが劣勢になっても、助けられないって事だよね。

 それこそ全滅の可能性がある。


「却下。僕の方に集中すればいいけど、そうとは言い切れないからね。皆が全滅したら意味が無い」


 やはり良い案なんて、そうそう簡単に出るものじゃない。

 やっぱり僕が殲滅した方が早いのかな?


「恐れながら申し上げます」


「え?」


 お前が言うの?

 作戦が脳筋っぽい気がするんだけど。


「太田、何かあるのか?」


「はい、ここは信長様を見習ってはどうかと?」


「信長を見習う?」


 太田の言葉に頭を傾げる。

 皆も分かっていないようだ。

 何を見習えというのか。


「魔王様は信長公記を読んでいませんか?」


 読んでないよ!

 日本の一般人で読んでる人、ほとんど居ないだろ。

 信長公記に、ヒントなんかあるのか?


「残念ながら読んでいない」


「そうでしたか。ならばご存じないのも仕方ありません。信長様が有名になるキッカケになった戦があるのです」


「信長が有名になった戦?」


「名前もご存じないかと思われますが、今川義元という武将を討ち取った戦でございます」


 ちょっと待て!

 それってもしかして・・・


「桶狭間の戦いか!?」


「アレ?桶狭間の戦いはご存じなのですか?流石は魔王様」


 信長公記は読んでないけど、桶狭間の戦いは小学生でも習うだろ!

 詳しい内容が思い出せない。

 ゲームやってた時に、どんな戦いだったか気になって調べたのに!


「桶狭間の戦いって、少数で義元本陣に奇襲した話だろ?詳しい話が思い出せないんだけど」


「詳しくは、雨が降る中での奇襲です。明らかに油断をさせておいて、視界が悪く周りが見渡せない中で見つからないよう少数で本陣に仕掛けます」


「雨が降るとは決まってないだろう?」


「この天気であれば、確実に降ると思われます。それまでは油断させる為に、わざと敗退するように見せれば良いかと」


「なるほどな。囮を使って油断させ、視界が悪い雨の中を少数で本陣に奇襲か」


「その通りでございます」


 ヤバイ!

 思った以上に普通の案を出してきた。

 この牛、絶対に脳筋だわ!なんて思ってすまんかった。


「分かった。じゃあこうしよう。囮は僕だ」


「それはいけません!大将が囮になるなど、危険極まりないですぞ!」


 ズンタッタが物凄い勢いで止めに入ってきたな。

 自意識過剰ではないが、僕があの連中に負けるとは思えないんでね。

 だったら死なない僕が囮になって、他の連中が奇襲した方が良い。


「いいか?囮は長く生きていられる者でないと駄目だ。しかも油断を誘う意味でも、弱そうな奴の方が良い。この姿なら奴等の嗜虐性を煽るならピッタリだろうよ。それに、僕があんな連中に負けるとでも?」


「失言でした。申し訳ございません」


「いや、僕の心配をしてくれているんだ。謝るような事ではないよ」


 ちょっと威圧的になってしまった気がする。

 心配をかけておいて、この態度は駄目だ。


「ツムジ、僕が囮になっている間に、空から村の様子を見てくれるか?敵の本陣の位置を知りたい。雨だから視界が悪いかもしれないけど、出来る?」


「余程高く飛んでない限りは大丈夫。皆に伝えれば良いんでしょ?任せなさい!」


 よし、これなら村の中を一直線に本陣目掛けて進めるだろう。

 他に心配なのは、アレか。


「ラコーン。ぶっちゃけ聞くけど、王国の兵は強いのか?」


「一兵卒の強さは、ハッキリ言って帝国よりは強いと思います。しかし負ける事は無いでしょう」


「何故、そう言い切れる?」


「武装の差ですかね。奴等は魔族に借りを作りたくないんです。だから、ドワーフからミスリルの装備なんか買わないはずですよ。もしミスリル製の物があるとしたら、捕虜にしたドワーフに作らせたという事でしょう。圧倒的に数が足りないと思われるので、もしミスリル製の武装をしているようなら、それが隊長だと思われます」


 そんな所まで嫌悪してるのかよ。

 使える物は、憎い相手からでも買えばいいのに。

 腕だけで勝てるとか思ってるのかな?

 その慢心が命取りになるというのに。


「じゃあこれで行こう。とりあえずは、雨が降るまで休憩としようか」


「あ、あの?」


 話をずっと聞いているだけだったスイフトが、声を掛けてきた。

 すまん、小さいのもあってか存在を忘れていた。


「どうしました?」


「私達に出来る事は何かありますか!?」


 無いな。

 足手まといになる可能性すらある。


「後方待機くらいしかないかと?むしろ小人族は何が出来ますか?」


「何と言われても・・・。戦闘は苦手ですし、敢えて言えば手先が器用なくらいでして」


【それならさ、魔王人形の頭作ってもらえば?人形取り戻して戻ってくる頃には、完成してるんじゃないか?】


 それは良い考えだ!

 シーファクに馬鹿にされずに済む頭を作って欲しい。


「じゃあ人形の頭とか作れる?ミスリルの塊と、ミスリルナイフを置いていくから」


「ミスリルですか!?扱った事が無いですが、彫る事が出来るなら可能だと思います」


「人形を取り戻してくるから、それまでによろしくね」


 これで、準備は整った。

 アイツ等は生きる価値無し。

 全員死んでもらう。




 そして何より、僕の人形をブサイクと言った報いを受けてもらおう。

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