オケツ
二重の意味で鬼嫁だよね。
上手い事言ったと思ってます。
どうも魔王です。
流石に茶々と結婚も騎士王国に喧嘩を売るのも、お断りなんですよ。
結婚はどうにかして断れたが、問題はもう一つの条件だ。
どう断れば良いか言い淀んでいたところ、柴田勝家がフォローしてくれたじゃないか!
ホントこの人、鬼とは思えないくらい優しい。
流石に主人がこう言ってるんだから、もう少し条件が緩和されるでしょ。
なんて考えは甘かった。
逆に巻き込むハメになるとはね。
すまんな柴田よ。
ちょっとホッとした自分が居る。
そんな柴田勝家のおかげで喧嘩を売るのは阻止されたが、それでも潜入調査はやらなくてはならないみたいだ。
官兵衛の案で船に居る連中を呼び出し、代わりにコバやハクトには戻ってもらう事になったんだけど、のんびり待ってたら越前国を追い出されるとは思わなかった。
主人である柴田勝家も居るから、余裕だと思ってたよ。
渋々少しずつ進みながら合流を待つ事にしたんだが、それにはツムジと八咫烏の手助けが必要だった。
八咫烏はそんな僕等に、召喚契約と名付けを希望してきたんだけど。
名付けはね・・・。
八咫烏は諦めた。
やはり気に入る名前は無かったらしい。
僕達のネーミングセンスをナメるなよ!
「ウフフ、アタシは魔王様に付けてもらったけどね〜」
「ぐぬぬ!だったら俺も」
「チャー、シュー、メンはどうだ?」
「・・・嫌です」
ツムジの優越感に満ちた顔を見た八咫烏は、やはり僕達にと言おうとしていたんだと思う。
それも兄の一言で、すぐに躊躇したっぽい。
「難しいよな。三羽分の名前だし、一羽になった時の事を考えると尚更な」
「メリー、ケン、サックとかどうすか?」
「おぉ!悪くないんじゃない?」
「え・・・。普通に嫌ですけど」
「駄目かぁ。俺的にはバッチリ決まったと思ったんだけど」
ヤバイ。
何も言わなくて良かった。
兄と同様、良いじゃん!って言いそうになってしまった。
八咫烏の反応は凄い残念な目で見てきた事から、全然駄目だったんだろう。
「三羽揃ってなければねぇ。多少は考えられるんだけど」
「構わないっす!なんか良い名前をよろっす!」
「じゃあ、フギンとムニン。それとワタリ」
「何すかそれ?」
「北欧神話に出てくるカラスの名前だ」
「佐藤さん、詳しいね」
「そういうの、ちょっと好きだったから」
佐藤さんの案は、そこまで悪くないと思うけど。
本人達はどうなんだ?
「一羽になったら、フギンムニンワタリ?」
「それは長いっす・・・」
「英語だとクロウ。安直だし、ラテン語でコルニクスとかは?」
「ま、魔王様!それかっちょえぇっす!」
「あ、気に入ったなら良かった」
なんだよ。
名前というより、ただ烏をラテン語にしただけなのに。
それで良いなら最初から言ってくれ。
「くそー!俺が付けたかった。まだ案はあったのに」
「ちなみに他には何を用意してたの?」
「ワイ、ファイ、アンテナ。ウー、ロン、ティーとかな。ほら、茶じゃなくてティーにしたんだぜ。俺、考えてるだろ?ほら、え?駄目ですか?」
誰も何も言わなかった。
フギン達も言わなかった。
誰もが絶句したようだ。
「それじゃ俺はフギン」
「じゃあ俺がムニン」
「だったら俺はワタリか。うーん、カッコ良い!」
喜んでくれて何よりだ。
これでようやく先に進める。
「アンタ達、考えてくれた佐藤さんにお礼を言っときなさいよ」
「うるせーな。でも佐藤さん、マジサンクス」
「リスペクトするっす」
「俺達マブダチになれるっす」
「お、おぉ。俺、烏とマブダチかよ」
フギン達の言葉に、佐藤さんはちょっと戸惑っている。
烏に親友って言われるのか。
僕なら苦笑いだな。
「名前も決まりましたし、そろそろ行きましょう。オイラ達にはあまり時間も無いですから」
フギン達とツムジは空へ飛んでいった。
北の方へ飛んでいったのは分かるが、誰がどっちに行ったのかは分からない。
そもそもの話、僕はフギン達の見分け方が分からないのだ。
全員揃って黒い烏だし、身体が普通の烏に比べて大きいとしか判別出来ない。
三羽の状態だと普通の烏に近い大きさだが、それはすぐにフギン達だと分かる。
理由は一羽につき、脚が一本になるからだ。
一本しかない足の持ち主で喋れるなら、間違いなくフギン達だろう。
特に口調が軽かったら尚更ね。
「一羽、戻ってきましたっすよ」
長谷部が空を見上げた。
しかし烏の後ろには、誰もついてきていない。
烏は降りてくると、慌てた様子で何かを伝えようとしている。
「案内してきたんじゃないのか?」
「カァー!カァー!戦闘!戦闘!」
「戦闘!?誰が戦ってるんだ?」
「カァー!知らない!」
「落ち着け。さっきみたいに、流暢に話せって」
どうやら興奮していると、カタコトになってしまうらしい。
「よし、フギン。水でも飲んで落ち着くんだ」
「カァー!ムニン!俺、ムニン!」
「あ、すまん」
羽をバタつかせて怒っている。
つーか、だったら見分け方教えてくれよ!
「フゥ。誰かが西の方で戦ってたっす」
「どんな格好をしていましたか?」
「どっちも鎧を着てたっす」
「鎧ねぇ。俺達関係無くない?」
蘭丸は軽鎧を着ているが、慶次はそういう類の物を着ない。
肩周りが動かしづらいと言っていたかな。
イッシーは着込んでいるけど、この様子ならうちの人間じゃないと思われる。
「それはミスリルの鎧でしたか?」
「ミスリル?金属製って感じじゃないっすね。光ってたら俺、下に降りて死体から光る物パクってるし」
「お前、結構物騒だな」
「フフフ、死体にはお宝が一杯あるんだよー!」
光る物を集める習性は、八咫烏も変わらないってか。
それにしても死体に宝があるって、コイツ大きな声で危ない事言うなぁ。
「オイラ達もそちらへ行きましょう」
「え!?どうして?」
「それはおそらく、騎士王国の人間ですな」
「流石は柴田殿。気付きましたか?」
官兵衛の言葉から、柴田勝家もすぐに騎士王国の兵だと分かったらしい。
「どうして柴田さんは分かったんだ?」
「柴田さんなどと。勝家とお呼び下さい」
「フフ、だったら権六と呼ぼうか?」
「なっ!どうしてそれを!?」
「え?え?どういう事?」
兄は分かってないみたいだけど、柴田勝家は信長から権六って呼ばれてたからね。
もしかしたらこっちでもと思ったけど、やっぱりそうだった。
「久しく呼ばれてなかったので、驚きました。魔王様は初代様の事を、知ってらっしゃるのですか?」
「多少はね。久しく呼ばれてなかったの?」
「そうですね。三代目からは、勝家と呼ばれるようになってましたから」
「そうなんだ。嫌なら僕達もそうするけど」
「嫌というより、懐かしい気持ちになりました。むしろ魔王様から権六と呼ばれるのは、嬉しいですね」
本当にそうなんだろう。
破顔一笑。
僕は彼の顔を見て、こういう事を言うんだろうと心から思った。
トライクで走る事、十分弱。
微かに砂煙が上がっているのが分かる。
「柴田殿は騎士王国の王家以外とは、関わりは?」
「あの国に王家はありません。なので、知り合いかは行ってみないと分からないですね」
王家が無い?
王国なのに王家が無いとは、どういう国なんだ?
「こっちに向かってるっす!」
「俺達のトライクの砂煙に気付いたんだ」
「敵かもしれないのに、よくこっちに向かってくるな」
「東に見える砂煙です。おそらく敵ではないという、希望的判断でしょう」
それだけ追い込まれてる連中か。
「あ、そうそう。魔王様方は、こちらを装着して下さい」
「何これ?薄い仮面?」
権六から渡されたのは、薄い顔パックのような物だった。
渡されたのは、兄と官兵衛だけ。
佐藤さんには渡されなかった。
「俺は?」
「佐藤殿は必要無いですね。このように使うので」
「うわっ!凄いな。顔に付けただけでヒト族になったぞ」
「そういう事です。私は騎士王国では顔が知られています。もし敵であれば、有無を言わさず攻撃をしてくる可能性もありますので」
まずは変装して、誰にも気付かれないように接触しようというわけか。
脳筋かと思いきや、なかなか考えている。
いや、見た目で判断しちゃ駄目だな。
この人、むしろ金棒じゃなくて扇子持ってたんだった。
「来ます!」
目の前から現れたのは、馬ではなく大きなトカゲのような生き物に乗った集団だった。
二十人弱の集団か?
それが後ろから、百人近い連中に追われている。
「そこの方!武器を持っているなら戦えますな!?加勢していただきたい!」
白い髭をモジャモジャに生やした人が、僕達を見て叫んでいる。
武器を持っているのを確認して、有耶無耶に巻き込む作戦らしい。
「官兵衛」
「双方の話を聞きましょう」
トライクで彼等に並走し、そのまま話を聞く事にした。
下手にどちらかに手を貸せば、これから潜入する騎士王国でマズイ事になるかもしれない。
まずは情報収集が先決だ。
「手を貸すにしても、まずは名前を聞きたい。お前達は誰だ?そして後ろの連中は?」
「拙者はオケツ、オケツ・キチミテ!奴等はハッシマーの連中です!」
オケツ?
ハッシマー?
「知ってる?」
「両家ともアド家の家臣ですな。アド家は、騎士王国を治めていた家です」
「それじゃ、アド家が謀反にあったって事?」
「そうなりますな」
むむむ?
謀反に遭ったアド家の家臣が戦っている。
そうなると、どちらかがアド家で謀反を起こした可能性が高いのか?
それとも、この機に乗じた天下取り狙い?
「お前等、謀反人であるオケツに味方するのか!?」
「謀反人?」
「違う!我等は嵌められたのだ!」
「嵌められたって言ってますけど」
「罪人の言う事を聞くのか!?ならば貴様等も同罪。死ね!」
後ろから銃声が聞こえる。
もはや関係無く、僕達ごと殺そうという考えらしい。
「権六、俺は理不尽に逃げるのは好きじゃない。アイツ等、ぶっ飛ばすぞ」
「魔王様!?」
「良いねぇ。兄さん、方向転換するよ!」
僕のトライクが逆を向くと、途端に僕に向かって銃弾が飛んできた。
やはり目撃者は、全て始末する考えのようだ。
「食らえ!」
兄は懐かしい物を作ったいた。
トライクの両サイドには、簡易型ピッチングマシンが設置され、その中に鉄球を用意している。
「ギャア!」
「鉄球!?」
「速い!」
鉄球は無差別に飛んでいった。
騎乗している者や大きなトカゲにも当たり、倒れた人やトカゲに後列は巻き込まれている。
そこを自分で鉄球を投げてトドメを刺す兄。
「フハハハ!これがホントのデッドボールじゃ!」
「鉄球をあの速度で投げる子供だと!?」
「鍛えてますから」
見た目がヒト族にそっくりな為、何故こんな豪速球が投げられるのか不思議なのだろう。
驚きの顔で顔面に鉄球が命中して、そのまま落トカゲして彼は絶命した。
「退け!退却だ!」
「どんなもんじゃ!」
反転して後退するハッシマーの連中に、兄は追い打ちのピッチングマシン連射をしていた。
「た、助かりました。この度はなんとお礼を申せば良いか」
「お礼は結構です。しかしお聞きしたい事があります」
「何なりとお答えしましょう」
「オケツ殿。本当に貴方が、謀反を起こしたんじゃないんですか?」
官兵衛のヤツ、かなりストレートに聞いている。
耳と尻尾が斬られて、ほとんどヒト族と変わらない見た目が、今は顔パックのおかげで本当にヒト族と変わらない。
「拙者達ではない!」
「では、誰が謀反を起こしたのか分かりますか?」
「それは分からない。ただ、拙者達は嵌められたのだ!殿からの手紙に従い、休息していた場所へと向かった。着いてみると、殿の休まれていたボンノウジが燃えていたのだ!」