とばっちり領主
ストレス発散ですかね?
吹雪による攻撃が凄いとは思ったけど、彼女は金棒を一切使っていなかった。
魔力補助とかそういうアイテムなのかとも思ったけど、そんな感じもしないし。
ただ単に、彼女がそれでぶん殴りたいだけという結論に至った。
それでもね、やっぱり目が行くんですよ。
彼女がフルスイングする際、着物から太ももが露わになるんですよ。
白くて細い足がチラチラと見えるんです。
先に降りた体力組が後ろで見ていたけど、アレって太もも見てたんじゃないかな?
佐藤さんとかガン見だったもんなぁ。
ストレス発散が終わったようで、昨日の僕達の話を再度聞いてくれる事になった。
あまり隠し事をすると、後でバレた時に怖い。
官兵衛が居たら上手く交渉出来た気もするんだけどね。
結局は、素直にクリスタルと果物の件を伝えた。
どうにか一考してもらえたのだが、返ってきた条件がとんでもなかった。
茶々との結婚か、騎士王国へ行って越前国に手を出すなという伝言役を務めるか。
どちらも無理でしょうよ・・・。
茶々と婚姻って、そりゃこの年齢では無理でしょ。
それに相手はまだ子供。
中身がおっさんの僕等からしたら、犯罪の臭いがしてしまう。
じゃあ騎士王国へ行って、越前国に手を出したら殲滅するぞって言いに行く?
それ、伝言役という名の自殺願望者だよね。
それを言った直後に、太刀で滅多斬りにされるのが目に見えるんだが。
「どうした?早く選ばぬか」
「おい、どうするんだ?」
「僕に聞くなよ。あっ!」
そうだよ。
こういう言い訳も出来る。
「あの〜、もし結婚ってなった場合なんですけど。僕と兄のどちらと結婚するんですか?流石に選ばないと駄目でしょ」
「どちらでも構わぬよ」
「いやいや!それは茶々本人の気持ちもあるしねぇ。更に言えば、どちらかが結婚しても、同じ身体で生活してるわけですし。結婚生活をお互いに見られるのは、嫌だと思うんですよね」
「そうね!俺もそう思うわ。もし俺が結婚したとしても、弟にその生活ぶりを見られるのは嫌だなぁ。やっぱり結婚は難しいですよ」
ナイスだ兄よ!
見事な連携により、二人とも結婚は避けたいという流れに持っていく事が出来た。
しかし問題はここからだ。
「では、ケルメンへ向かい越前国に手を出すとどうなるか、伝えてくれるというわけじゃな?」
「そ、それもちょっと・・・」
「つーかさ、いきなり殲滅は駄目じゃない?せめて、どういう理由があったのか聞くとか」
「ほう?お前はわざわざ喧嘩を売ってきた相手に、どうして喧嘩を売ってきたんですか?と尋ねるというわけか。はっ!そんなだから帝国にナメられるのだ」
「す、すいません・・・」
兄の反論は見事に言い返されてしまった。
確かに殴られた後に、何故殴ったか聞くのもおかしな話だもんなぁ。
普通なら僕等も、帝国にやり返すのが普通だと思うけど。
やり返すにはまず、それだけの戦力を揃えたい。
僕としては、ボスに挑むならレベルに余裕が無いと行かないのだ。
「市、魔王様にそれは無理難題ではないか?流石に相手に囲まれた状態で喧嘩を売るのは、どうかと思うぞ。それに魔王様も安土の領主。魔王様をこき使うというのは、外聞も良くないだろう」
柴田ぁぁ!
何という優しさ!
しかも常識的思考の持ち主!
鬼なのに心は天使!
「だったらアンタも行け。領主自ら文句を言いに行けば、向こうだって対応せざるを得ないだろう」
「・・・」
「良いんですか?」
「仕方ない。市がこう言ったら、もう断れんのです」
「何と言って良いか・・・」
「ハハ、慣れてるので大丈夫ですよ」
慣れてるんだ。
それはそれでどうかと思うけど。
とりあえず道連れ一人確定したし、それに越前国の領主様だ。
向こうだって無碍には扱えまい。
「じゃあ決まりだ。アンタは騎士王国に行った事あるんだ。しっかりと案内しな」
部屋に戻った僕達は、皆に急遽騎士王国へ向かう事を伝えた。
アルノルトさんも起床していたので、一緒に聞いてもらった。
「すいません。私は参加出来ません。騎士王国に我々の存在を知られるのは、遠慮願いたいです」
「帝国にも内緒なのに、無理だよね。それに場合によっては隠密行動を取るし、昼間に動けないアルノルトさんは厳しいかもしれない」
「越前国まで案内してくれたのだ。それだけで感謝なのである」
コバは珍しく感謝の言葉を述べた。
アルノルトさんもコバの両手を取って、感謝している。
「このUVカットの服、是非皆にも作ってあげたいので、出来れば安土との交易を希望します」
「海を渡っていくのはかなり大変だから、交易となると難しいかも。何か手はあるか、考えてみます」
「そうですよね。機会があればお願いします。それでは私は、村へのお土産を探しに行くので。席を外しますね」
彼はそう言い残して、部屋から出て行った。
もう暗くなるので店がやっているのか疑問だが、急いでいたのは自分でもそれが分かっているんだろう。
「騎士王国へ喧嘩を売りに行くのは分かった。でもそれって、俺達戦争に巻き込まれたりしないか?」
「可能性はあります。むしろかなり高いです。お市様はもしかしたら、我々を戦力として考えているのかもしれません」
「それは困りますね。船に残してきた皆も心配です。戦争になればワタクシ達も、いつ安土に戻れるか分からなくなります」
それが一番の懸念事項だよなぁ。
安土だって今は、戦力が多いわけじゃない。
帝国が本腰を入れたら、いつまでも耐え切れるとは思えないし。
クリスタルを手にして戻れなければ無駄足だが、それも帰る場所があってこそだ。
「一度、安土に帰ろうと思う」
「クリスタルはどうするんすか?」
「諦めるしかない」
「いやいや!ここまで来てそれは無いだろ。船で待ってる連中に、どう説明するんだ?」
「そうっすよ。俺も魔王様の意見に賛成だ」
「オイラも帰るべきだと思います」
「官兵衛さん!?」
やはり意見が割れたか。
いや、割れるのが普通だよなぁ。
僕としてはクリスタルも大事だけど、生きて帰ってナンボの考えなんだよ。
一か八かで行動して失敗したらと考えると、皆を率いる立場では賛成しかねる。
官兵衛もそれを理解してくれているようだ。
「吾輩としては、クリスタルは持ち帰りたいのである。だから、帰る連中と手伝う連中で分ければ良いのではないか?」
「なるほどね。じゃあ船に残った連中に帰ってもらうか?」
「それは少々微妙ですね。少し考えさせて下さい」
船に残った連中を返した方が、早いと僕は思う。
それこそアルノルトさんに伝言を頼んで、出航してもらえば良いだけなのだから。
官兵衛は何を考えているんだろう?
「魔王様!やりました!」
「柴田殿!?」
官兵衛の言葉を待って皆が静かにしていると、柴田勝家が飛び込んできた。
何か朗報を持っているみたいだ。
「やったとは?」
「市から条件を譲歩してもらいましたぞ!」
「凄いな!それで新しい条件は?」
「騎士王国の内情を、探る事になりました。どうして越前国へ攻めてきたのか?今の王は誰なのか?色々と調べてこいとの事です」
これは一気にやる事が変わったぞ!
残るにしても、戦闘を主にした連中を残さないと考えていたが、今の話で再検討しなくてはならなくなった。
官兵衛は逆に、今の話ですぐに考えがまとまったらしい。
「柴田様、出発には時間を掛けてもよろしいですか?」
「市が急かすかもしれないから、早めじゃないとまた条件が再び変わるかもしれん」
「そうですよね。分かりました。急で申し訳ないですが、船に戻ってもらう人は今すぐに出てもらいます」
「今!?」
官兵衛の言葉に驚く皆だが、これは仕方ない。
我慢して夜通し走ってもらおう。
「アルノルトさん、本当に申し訳ない」
「大丈夫ですよ。この乗り物頂けるなら、容易いです」
僕達は土産探しをしていたアルノルトさんを呼び出し、急ぎで海岸まで案内してもらう事になった。
そして再び、この越前国まで戻ってきてもらうという、かなりの強行日程だ。
「じゃあマオくん、気を付けてね」
「ハクトもな。戻ってトマト料理の研究を頼む」
「それでは、戻るのである」
アルノルトの運転で走っていくトライク。
後ろにはコバとハクト、そして太田が乗っていた。
「越前国に連れてくるのは誰なんすか?」
「又左殿以外は来てもらうつもりです」
「そんなに!?どうしてそういう振り分けにしたんだ?」
「今回は潜入調査が主になると思われます。ヒト族の国ですから、ヒト族に近い方を連れて行きます」
なるほど。
獣人であるハクトや太田は、その点で除外されるか。
イッシーと水嶋爺さんはヒト族だし、蘭丸は耳だけどうにかすれば問題は無い。
だけど、何故慶次が入るんだ?
「慶次はどうして入れたんだ?」
「彼は変装出来ます。戦力にもなりますし、大丈夫だと判断しました。それと、トライクの運転要員でもあります」
なるほど。
トライクの運転はアルノルトさん一人では、確かに厳しい。
ヒト族の連中には運転は出来ないし、そう考えると誰かしらは魔族も必要って事ね。
ただ、慶次の変装って微妙な気がするんだけど。
変な訛りに、服装もおかしい。
「いつ頃到着しますか?」
「夜通し走って、往復一週間かと」
「市には、まだ準備が必要だと言っておきます。早めに出発出来るよう、お願いします」
「早よ行かんか!」
やはり一週間は長過ぎた。
お市に急かされた僕達は、柴田勝家と一緒に越前国を追い出されてしまった。
「凄いっすね。領主なのに追い出されるって」
「ハハ、慣れてますから・・・」
慣れてるんだ。
いやいや!
領主が自分の領地を追い出されるのに慣れるって、どうなの!?
「仕方ないですね。我々だけで進みましょう」
「でも、どうやって合流するんだ?アルノルトさんだって、俺達が出発した事を知らないだろ」
「その辺は、彼女達を頼らせてもらいます」
「彼女達?」
空を指さす官兵衛。
上を向くとそこには、ツムジと八咫烏が飛んでいた。
ゆっくり降りてくると、八咫烏は僕達に向かって捲し立ててきた。
「魔王様!俺とも契約してほしいんですけど!」
「契約?」
「このばけも・・・コホン!ツムジとも契約したっていうじゃないですか。俺も契約して、いつでも呼び出せるようにしてほしいんですけど」
「あぁ、そういう事」
確かに八咫烏も居れば便利だし、しない手はない。
だけど、その後が大変だった。
「それと名前!名前決めてほしいっていうか。いやホント名前欲しいな〜みたいな」
「・・・断る」
「えぇ!頼みますよ〜。肩揉みでも何でもしますから。頼んます!」
「良いじゃない。阿久野くん、名前決めてあげれば?」
簡単に言わないでほしい!
また残念な顔をされると思うと、こっちが困るんだよ。
「じゃ、カラスで」
「え?ちょちょちょ、ちょっと待って下さいよぉ!それ、名前というより鳥じゃないですか。しかも俺、八咫烏なのに。あっ!それと俺、三羽になるから三羽分でお願いしゃす!」
「ふざけんなよ!名前決めるのも苦手なのに、三羽分だって?そんな面倒な事、僕は引き受けないぞ!」
「そんなぁ〜」
最初から一羽で良いじゃんか。
それを三羽分って、意味が分からん。
合体したら名前どうするんだよ。
「じゃあ、トン、チン、カンは?」
「え・・・ダサッ!」
「ダサいだと!?だったらアン、ポン、タンだ」
「ダサいっす!めちゃくちゃダサいっす!」
酷いネーミングセンスだ。
だけど言えば、僕にもお鉢が回ってくる。
だから口出しはしない。
「考え方を変えるか。三羽烏だから、お前はサン。お前はバカラス。最後はサンバカラス」
「・・・すいません。ワガママ言ってました。皆さんで名前、考えてくれませんか?」