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越前国の支配者

 やっぱり空を飛べると、フライング土下座は規模が違うね。

 急降下してそのまま土下座してくるスタイルは、迫力があった。

 一言多い八咫烏だけど、ツムジに馬鹿にされてもしっかり謝る姿を見ると、そこまで嫌いにはなれないかな。


 そんな八咫烏だったが、やはり同行してもらって助かった。

 大きな壁で覆われている越前国は、やはりアルノルトさんでも入る事は無理だったようだ。

 しかし八咫烏の案内によって中へ通されると、予想外に話が進んでいった。

 まさか越前国に入って、いきなり城へ直行する事になるとは。

 しかも火の車に乗せられるという、この世界の人間でも驚きの初体験までしてしまった。

 太田をモルモットに火傷をしない事を確認した僕達は、火の車に乗って城へとやって来た。


 すると城の前には、パンツ一丁の大男が立っているじゃないか。

 城の前でパンイチとか、不敬の前に変態だろ!

 なんて思っていたけど、その彼が領主らしい。

 変態が領主とか、無いわぁ・・・。







 評判って言われても。

 パンツ姿に笑顔でお出迎えは、普通ならどうかと思いますよ。

 というのが本音です。



「わざわざ領主自らお出迎え、ありがとうございます。パンツ姿も悪くないですが、フォーマルな姿も見てみたいですね」


「悪くないですか!いやぁ、久しぶりに履いて良かった」


 久しぶりなんかい!

 そのまま封印しときなさいよ。

 コバとかストレートに言いそうで、ちょっと怖かったんだぞ。

 クリスタルの事が頭にあるのか、何も言わずに我慢してくれたのは本当に大きい。



「しかし皆さん、よくそんな薄着で来られましたね。寒くありませんでしたか?」


 パンイチのお前が言うんかい!

 いかんいかん。

 このままだとツッコミを、条件反射で言ってしまいそうだ。



「寒いから中へどうぞ。私も寒いので」


「やっぱり寒いんかい!だったらパンツ姿で登場すんなや!」


「はい?」


「・・・何でもありません」


 駄目だったー!

 思わず口にしてしまった。

 すぐに兄に口を押さえられて、官兵衛がフォローに入ったけど、聞かれてたんじゃないかな?



 しかしコイツ、僕達を試してるんではなかろうか?

 いかにもツッコミを入れて下さいと言わんばかりの言動。

 どういう反応を示すか、何処かで別人が見てるんじゃないの?



「柴田氏は相変わらずですね」


「そうですか?アルノルト殿と会うのは数十年ぶりですけど、私成長してませんかねぇ?」


 そういう意味じゃないだろ。

 これ以上成長されても困るくらい、大きいですから。

 佐藤さんもプルプル震えているが、彼の場合は笑いを堪えるのが大変っぽい。

 ちなみにコバは、官兵衛に言われた長谷部が近くに待機しており、すぐに口を押さえられるように要警戒されていた。



「奥方は元気ですか?」


「ハ、ハハ。げ、元気に決まってますよ」


 ん?

 表情が固くなったぞ。

 さっきまでの笑顔と違って、無理してますという顔だ。



「それではこの部屋でお待ち下さい。今すぐ料理をお持ちしますから」


「食事を頂けるんですか?」


「食べながら話した方が、話したい事も気軽に言えるでしょう?」


 何という出来た男!

 おもてなしの心が凄いあるじゃないか。

 こんな人が封鎖してるのかって、疑いたくなるんだけど。



 彼が服を着てくると言って離れた隙に、僕達は柴田勝家の印象を皆と話し合った。



「どう思う?」


「良い人っすよね。ちょっと変わってるけど」


「吾輩も悪い奴ではないと思うぞ。変だがな」


「腰の低い人だったね。パンツ姿だけど」


「力はありそうです。ワタクシよりは無いと思いますが」


「気配りが出来る辺り、頭も悪くないと思うんだよな。パンイチの変態なのは別として」


「皆、酷い言いようだよ。僕は信用出来る人だと思うよ。それに越前の料理が気になるし」



 パンツの変態なのは置いといて。

 概ね彼の印象は良い。

 ハクトなんか悪い人じゃないと決めつけて、既に頭が料理の方へと向いていた。



「ん?」


「佐藤さん、どうしたの?」


「ちょっと、いや見間違いだったらしい」


 彼は席を立って部屋の外を覗き、何も無かったと言って戻ってきた。



「何か居た?」


「うーん、白い小さな塊のような物が、部屋の前を通った気がしたんだけど。廊下には居なかったし、多分勘違いだと思う」


 まさか、幽霊じゃないよね?

 妖怪が居るんだから、次は幽霊って可能性もなきにしもあらず。

 結構立派な城だし、そういう話があってもおかしくなさそうなのが怖い。



「お待たせしました。料理を持ってきましたので、どうぞご堪能下さい」







 柴田勝家の持ってきた料理は、やはりあまり見た事の無い料理が多かった。

 と言っても、それは現地の彼等が見た事が無いだけで、僕等には多少馴染みがある。

 そのうちの一つが、蟹だ。



「蟹鍋である」


「俺、船に残らなくて良かったって、心底思ってる。こんな大きな蟹を食べるのは、日本を含めて初めてかもしれない」


 興奮しているのはコバと佐藤さんだが、長谷部は何故かそうでもない。

 と思っていたら、あまりの豪華さに固まっていただけだった。

 佐藤さんも足を取ると、箸を突っ込んで中の身をほじくり出そうと躍起になっている。



「コレは、あの蟹ですよね?」


「沢蟹と大きさが違うから、驚いちゃった」


「美味いですよ」


「太田、それは中身を食べるのであって、外側の殻は残して良いんだぞ」


「あ、そうなんですか。食べづらいと思ったんですよ」


 ハクトや官兵衛は、川に生息する沢蟹くらいしか目にしていない。

 海の幸である蟹は、彼等にとって未知の生物らしい。

 太田は関係無く貪り食べているけど、食べ方がワイルド過ぎて話にならなかった。



「他には鯖もあります。美味しいでしょ?」


「美味いっす!越前国、最高だ!」


「うんうん。お客さんなんか久しぶりだから、こういう反応嬉しいねぇ」


 柴田勝家は薄らと涙を見せて、笑顔で喜んでくれている。

 この言動から、やはり外からの客は招いていない事が分かる。



「そういえば八咫烏は?」


「か、彼なら呼ばれて飛んでいったよ」


「誰に呼ばれたんですか?」


「ふぇっ!?か、家内です」


「なんだ、奥さんか」


 八咫烏も一緒に食べれば良いのにと思ったのだが、やはりツムジも居るから来ないのかな。

 ツムジは身体が大きいから、今は城の外で待機してるんだけどね。

 八咫烏なら城の中にも、入れそうだと思うんだけど。



「柴田氏の奥方は、とても美人なんですよ。ちょっとアレだけど」


「美人なんですか!どんな感じの人です?」


「色白でスラッとしていて、長い黒髪がとても目立ちますねぇ。あ、今は髪短いのかな?」


「長いままですよ」


 アルノルトさんの説明によると、黒髪の和風美人っぽいな。

 アルノルトさんもイケメンだけど、そのイケメンがとても美人って言うくらいだ。

 めちゃくちゃ綺麗なんだろう。



「奥さんは来ないんですか?」


「えっ!?」


「俺も見てみたいなぁ。安土だとやっぱり長可さんが素敵だけど、話を聞く限りではタイプが違うしね」


 佐藤さんはそれから、ずっと見てみたいを連呼していた。

 そして、それは起こった。



「ギャアギャアうるさいねぇ」



 部屋の外から聞こえる、冷たい声。

 皆は女性の声を聞いて、黙ってしまった。



「も、もしかして奥さんかな?」


「奥方ですな」


 佐藤さんは少し嬉しそうだが、僕達は違う。

 あの声の反応は、どう聞いても歓迎されていないからだ。



「アンタァ!」


 襖が開いたと思ったら、そこにはとんでもない美人が立っていた。

 一切の汚れも無い白い着物に、腰より先まで伸びた長い黒髪。

 色白のその顔は、確かに和風美人の印象がある。

 僕達からすると、秋田美人といった感じか。



「呼んでいま、アレ?」


 隣に座っていたはずの柴田勝家が居ない。

 思わず声を出してしまったが、彼はすぐに見つかった。



 流れるような動作で襖の前に行き、音も立てずに座ると額を地面へと擦り付けた。



「すんませんっしたー!」






 え?

 どういう事?

 さっきまで楽しく食べながら話していた空気は、一瞬で凍りついた。



「アンタ、どうしてアタシを呼ばなかったんだい?」


「え、えーと、反対されるかなぁと思って・・・」


「分かってるんなら、最初からするんじゃないよ!」


「しゅ、しゅみましぇん!」


 どうした事だろう。

 太田と同格の大きさを持つ柴田勝家の身体が、とても小さく見える。

 彼は頭を上げずに話しているが、それは彼女が頭を踏みつけているからだった。



「それで、魔王様ってのは何処だい?」


「へ?は、ハイ!」

「ハイ!」


「ハァ?何だいこの子供は。それに、人形も一緒に正座してるけど」



 し、しまった!

 あまりの迫力に、僕まで反応してしまった。

 兄も僕と同様に、彼女のひと睨みで正座に切り替えている。

 流石は兄だ。

 この人に逆らったら駄目だと、本能的に分かったらしい。



「そうです。俺が魔王です」


「この人形は?」


「僕も魔王です」


「・・・馬鹿にしてるのかい?」


「ちちちち違います!そんな事しません!これにはふか〜い訳がありまして」


「訳なんか聞きたくないんだよ!」


「イエスマム!」


 駄目だ。

 この人、めちゃくちゃ怖い。

 今までこの世界でいろんな人に会ったけど、王族なんかよりはるかに怖い。

 バスティって良い人なんだなぁと、改めて思った。



「ちょ、ちょっと!言い過ぎじゃあないかなぁ?」


「何?文句あるの?」


「ヒェ!何でもありません!」


「・・・ハァ。まあ良いや。アンタ、席を作りな」


「ハイ!今すぐに!」







 どうやら彼女は、座敷に一緒に座るのではなく椅子に座るらしい。

 急いで部屋を出て行った柴田勝家は、大きな椅子を持ってきた。

 それを僕等が食べていたテーブルの前に出すと、彼女はゆっくりと座った。



「せっかくの料理なんだ。お食べ」


「え?あ、はい。いただきます」


 僕達は食事の続きを始めたが、どうにも味が分からないらしい。

 さっきまで兄達は、美味いって言いながら食べていたはずなのに、箸の進みが遅くなっている。

 僕は人形の姿なので見ているだけだが、明らかに美味そうには見えなくなっていた。



「さて、食事をしていないから丁度良い。そこの人形」


「ファ!?僕ですか!?」


「動く人形なんかアンタ以外、何処に居るってんだい!」


「す、すいません!」


 怖いよぉ〜。

 こんな怖い人と話したくないよぉ〜。



「さっきの話だけど、アンタも魔王ってのは本当なのか?」


「ハイ。僕も魔王です」


「フゥ、冗談で言ってる雰囲気は無いね。詳しく説明してほしい」


 僕は全てを。

 神様からの出会いから、全てを話した。

 隠しておいたのは、この身体が前魔王のモノという事と、中身は日本人であるという事だ。



「なるほど。それじゃあ前回のクソ魔王様とは、全くの無関係だと言うんだね?」


「そうです。親子でもなければ、血の繋がりもありません」


 クソ魔王様って。

 クソなのか敬ってるのか、どっちか分からない言い方だ。



「同じダークエルフなのに、それはおかしな偶然だけど。ま、奴の隠し子って感じでも無いさね」


「誓って前魔王の子ではないです」


「なら良いよ。もっと食べなさい」


「え?もう苦しいかなって」


「もっと食べなさい」


「ふあい」


 佐藤さんが腹をさすって、もう苦しいと言っていた。

 しかし料理は追加されていく。

 断れる雰囲気は無い。



「お、お前、代わってほしいんだけど・・・」


「それ、交代した瞬間に僕が苦しいヤツだよね」


「グフッ!」


 兄は蟹を口からはみ出したまま、倒れてしまった。



「だらしないねぇ。食べなきゃ強くなれないよ?そこのおチビさんだけ、凄い食べてるけど」


「恐縮です。越前国の食事、とても美味しいです」


 官兵衛は黙々と食べ続けていた。

 その姿は彼女の機嫌を取れたようだ。



「奥方はやはり迫力がありますねぇ」


「そういえば奥方は、お名前何というんですか?」


 トマァトジュースしか口にしていないアルノルトさんと、まだ余裕のある太田が、彼女に話し掛けた。

 また怒鳴られると思っていたのだが、彼女もそういえばといった表情で、椅子から下りて座敷に座った。

 そして丁寧な所作で、自己紹介を始めた。





「そういえば、自己紹介していませんでしたね。では改めて。妾は柴田勝家の妻、市と申します。ですがまだ、よろしくお願いしますとは、ハッキリと言えませんね」

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