対面、柴田勝家
合体した!
烏が合体って、意味が分からないのだが。
そもそも人格がどうなっているのか不明だが、合体した元の姿と思われる八咫烏は、チャラ男風だった。
そしてツムジとは、とことん仲が悪いらしい。
八咫烏という名前を出しただけで、安土からこっちへすっ飛んでくるくらいだ。
彼女はこっちへ来るなり、いきなり八咫烏と喧嘩を始めてしまった。
そんな仲の悪い八咫烏でも、ツムジの言葉は疑わないようだ。
彼女が僕を魔王だと紹介すると、疑いもせずにフライング土下座をしてきたのだから驚いた。
フライングというより、急直下土下座かな。
さっきまでの敵対心アリアリの言葉は、何処へやら。
八咫烏は僕の言葉に従順になっていた。
アルノルトさんや長谷部と一悶着あったものの、ハクトの包丁を見て素直になってくれたようだ。
そして予想はしていたけど、やっぱりこの件で喧嘩が始まったよね。
いつもはツムジに乗せてもらってたけど、やっぱり八咫烏の方も乗ってもらいたいらしい。
ツムジはキレていたが、一応八咫烏との関係性を良くしたいという考えから、僕は八咫烏の背中に乗る事にした。
「フッフーン!やっぱりデカブツよりは、スマートな僕の方が良いんだよ」
別にそういうわけじゃないんだけどな。
むしろ八咫烏に、越前国へ入れてもらう手筈を整えてもらうという、下心が見え隠れしてるんですけど。
ただ、ツムジは寂しそうに下を向いてしまった。
うぅ、この顔を見ると辛いなぁ・・・。
【だったら分かれて乗ろうぜ】
そ、そうか!
そうだよね。
ツムジなら僕だって分かってるから、人形でも問題無いと思うし。
「ツムジは人形の僕でも良いよね?」
「えっ!」
僕の提案を予想してなかったのか、彼女は驚いた声を上げた。
しかしそれが嬉しかったのか、声は明るい。
「駄目?」
「全然!魔王様ですもの。あんな烏よりアタシを選んでくれて、嬉しいわ」
「あ?意味が分からないんだけど」
そうか。
八咫烏はツムジみたいにちゃんと魂で結ばれてないから、僕と兄の事が分からないんだ。
そして彼女も、それを察したらしい。
「フフン。アンタなんかと違って、アタシはちゃんと魔王様と結ばれてるからね。驚きなさいな」
人形の姿になった僕は、兄の背負うバッグから自ら出て、ツムジの前へと移動した。
「さ、魔王様。乗って」
「ハァ?」
間の抜けた声に加えて、蔑むような眼差しを向ける八咫烏。
どうやらツムジの事を、気が狂ったかと思っているようだ。
「信じられないかもしれないけどな、あっちも本物の魔王だ」
「ま、魔王様!どういう意味っすか!?」
「うーん、これは柴田勝家達にはまだ内緒だぞ?」
「勿論っす!」
兄は八咫烏に説明をすると、口が開いたまま動かなくなった。
「おい、聞いてるか?」
「ふぇ?カー!」
すると八咫烏はいきなり走り出し、ツムジに乗った僕の前で再び土下座を始めた。
「すんませんっしたー!ホントもう色々と、すんませんっしたー!」
「ウフフ、良い眺め」
「カッ!悔じぃ!!」
ツムジは土下座する八咫烏を見て、優越感に浸っている。
それを分かって尚、ちゃんと頭を下げて謝ってくる八咫烏。
少しだけ印象変わったかな。
チャラ男風な話し方だから、もっといい加減な奴だと思っていた。
言うべき事はちゃんと言うし、思ったより調子乗りって感じではなさそうかも。
「頭上げてよ。キミはちゃんと兄さんを乗せてやって。越前国へ案内してくれ」
「クワァ!魔王様、マジ天使!いや、神っすね」
この世界、神様の存在とかあまり信じられてないんじゃなかったか?
僕の存在、希薄って事?
「皆はトライクで追い掛けてきて。二人とも、下からついて来てる人が居るのを忘れずに。ゆっくり飛ぶんだよ」
「任せて」
「うぃっす!りょ!」
僕は久しぶりのツムジの背中からの風景を堪能しつつ、兄の方を見た。
やっぱり乗らなかったとはいえ、八咫烏の背中はツムジとどう違うのか気になったのだ。
だが、それどころでは無かったらしい。
「さ、さむ、寒い!」
「寒いっすか?そうっすね。この辺りはいつも雪降るっすから。今日降ってないのは、運が良かったと思うっす」
「マジかよ・・・。俺、もう凍え死にそうなんだけど」
「もうちょっとで着くので、我慢してほしいっす」
鼻水が出てる兄を見て、やっぱり人形で良かったとつくづく思った。
ツムジも同じ事を考えていたらしい。
「アタシは人形専任でも良いかも」
「可哀想だから、兄さんも乗せてやってよ」
「こっちに居る間は、アイツに任せるわ」
鼻水を垂らされたくないのは分かるけど、流石に兄が不憫に思えてきたよ。
「見えてきたっす!あの壁の向こうが、越前国になるっす」
「で、デカイな」
「これ、普通の壁じゃないだろ」
見えてきたのは、今まで見た事の無い壁だった。
ツムジに乗って空を飛んでいても、この壁を越えて向こう側へ行くのは不可能だと思わされるくらいだ。
「一旦、皆と合流しよう。僕達だけが入っても仕方ないからね」
僕達は降下すると、同じような反応を見せる皆が待っていた。
「コレは確かに、強行突破は無理ですね」
「どうやって建てたんだろう?」
「昌幸殿への土産に、録画しておくのである」
官兵衛もこの壁の突破は、至難の技だと言っている。
おそらくは戦力の大半を注ぎ込まないと、無理だろうね。
突破した後に更に柴田勝家等が待っていると考えれば、その行為が愚かだとすぐに分かる。
「俺達、入れてもらえるんだよな?」
「任せてほしいっす!」
八咫烏は兄の言葉に、調子良く手を挙げた。
いや、翼を挙げた。
壁の方へと近付く八咫烏。
すると壁の中が窓のようにスライドして、中から何人かの兵士が顔を見せる。
「八咫烏じゃないか。誰だソイツ等?」
「ちょっと聞いてよ〜。僕、とうとう魔王様に出会ったんだよぉ〜。彼等がそうだから〜、殿に伝えてほしいみたいな?」
「何!?八咫烏が言うなら本物という事か!?よし、中で待ってな。殿に判断を仰ぐ」
話し方ウゼェ・・・。
兵士は真っ当なのに、八咫烏が妙に語尾を伸ばす。
でも会話は噛み合っているから、彼等は気にしてないんだろう。
そんな事を考えていると、門の横の小さな扉が開いた。
この扉を壊して突破すれば、早いんじゃない?
最初はそう思っていたが、よくよく見てみると材質が壁とは違い、凄く重そうな扉だった。
事実、扉は三人で開けていた。
「は、早く中へ入りなさい」
息を切らして僕達に指示を出す門番。
僕は彼を見て、一目で何の種族か分かった。
「お疲れ様。馬頭で合ってるかな?」
「に、人形が喋った!しかも、どうして我等が馬頭だと知っているんだ?」
「んー、まあそういう知識があったからかな」
好奇の目で見られているのが分かる。
彼等は僕達を少し広めの部屋に案内して、待っているようにと指示を出して消えた。
八咫烏も一緒に行ってしまい、ここに居るのは僕達だけになった。
「魔王様。彼等が何故、馬頭という種族だと知っていたのですか?」
「そういう変わった種族を集めた本が、神様の世界にあったから」
「なるほど。そうなんですか」
本当は漫画とアニメだけどね。
偏った知識だから、知らない妖怪もこの街には居そうだ。
「ワタクシ、少し彼等に親近感が湧きましたよ。かなり鍛えていらっしゃる」
「太田、それはあながち間違ってないぞ」
「ですよね!後でどのような鍛え方をしているか、聞いてみたいと思います」
いや、そっちじゃないんだけど。
馬頭の相方は牛頭だと、相場は決まっている。
ミノタウロスである太田が彼等に親近感を持つのは、当然と言ってもいい。
「な〜んかあの馬面、見た事あるんすよね」
「太田殿と並んでるのを見ると、似合うよな」
「牛頭馬頭くらい、覚えておくのである」
コバに怒られる二人だが、その名前を聞いてもピンと来ていない。
見た事があるだけで、名前までは知らないんだろう。
「シッ!誰かこっち向かってる」
ハクトが外から聞こえる足音で、こっちに誰かが来ている事を示唆した。
どうやら相手は慌てているらしく、急いで向かってきているとの事だ。
「す、すいません!至急、場所を移動します!」
どうやら急ぎらしい。
乗り物を用意されたのだが、どうにも乗りづらい。
「本当にコレに乗るんですか?」
「すいません!急ぎなので、早くお乗り下さい!」
「って言ってもよぉ。この台車、燃えてるぜ?」
そうなのだ。
長谷部が突っ込んでくれなきゃ、どうしようかと思っていた。
獣人とはちょっと違う猫のような人物が、燃えている火の車を牽いているのだ。
この火の車に乗れと言われても、自分達も燃えてしまうんじゃないかと思うのは普通だろう。
「あぁ、この車は見た目だけで、実際には燃え移りません。なのでご安心を」
「そ、そうですか。太田!早く乗れ」
「わ、ワタクシ!?」
兄の無茶振り再び。
この辺の体育会系の上下関係のようなノリは、今の僕としては助かる。
「え、えぇい!あら?熱くないですよ」
「よし!皆乗るぞ!」
完全に実験台として扱われた太田。
ハクトや官兵衛はお礼を言っていたが、コバや長谷部達はただ乗り込むだけだった。
「何処へ向かっているんですか?」
「城です。領主様が直々に会うとの事です」
「領主、柴田勝家であるか」
「領主殿は、どのような方なのですか?」
そういえば、妖怪だというくらいしか聞いた事無いな。
柴田勝家、どんな人物なんだ?
「領主様は温和な方です。自分より皆の者を優先的に考え、とても優しくて皆に好かれています」
「へぇ、思ってたのと違うな」
兄の言う通りだ。
鎖国同然の閉鎖した都市を作り、他の領主とも隔絶している。
一切心を開かない辺り、他人の話を聞かない頑固親父のイメージしかないのだが。
身内贔屓だとしても、あまりに印象が違う。
「では、側近の方々は?」
「側近ですか?それは私の口からは、とても言えないですね」
どういう意味だろう。
言えないという事は、箝口令でも出てるのか?
「馬頭ぅ、違うでしょ。ハッキリ言いなよ〜。凡庸な連中しか居ないって」
「八咫烏!お前!」
「ヘイヘーイ!図星だからって怒っちゃダメダメ〜」
空から火の車に降りてきたのは、さっきまで何処かへ行っていた八咫烏だ。
彼の話では家臣団はそうでもない様子。
官兵衛の質問の意図を考えると、家臣が切れ者ってわけじゃなさそうだね。
「到着しました。って、殿!?」
「殿?」
城の門を潜ると、そこには大きな男が立っていた。
このクソ寒い中、パンイチの変態である。
「オーウ!柴田氏、ご無沙汰してます」
「ほう、珍しいですなぁ。訪ねられたのはアルノルト殿でしたか」
「いやいや、私は道案内を買って出ただけ。柴田氏に用があるのは、彼等です」
「そうでしたか。遠い所から、わざわざ来てくれたそうで。ささ、どうぞ中へ」
拍子抜けとはこの事だろう。
人の良さそうな変態。
もとい、人の良さそうな領主様だ。
「本当に優しそうな人だな」
「めっちゃ笑顔だし。ちょっと怖いけど」
馬頭の言っていた事は、間違っていなかったようだ。
確かに雰囲気は優しそうな人だ。
しかし、見た目は全くの逆。
頭には大きな角が生えていて、アルノルトさんとは違った形の牙が見えている。
「オイラは魔王様配下の黒田官兵衛と申します。失礼ですが、柴田勝家殿で間違いございませんか?」
「いかにも。私が越前国領主、鬼の柴田勝家でございます。この格好気になりますか?鬼の正装ではあるんですけど、やはり他の領地の方々には、あまり評判は良くないのかなぁ。どう思います?」