表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/1299

他の国

 斎田さんと別れてから、再び北へと向かった。

 リザードマンの町は東に移動していたので、北西と言った方が正しいのだろう。

 アウラール町長から写真を撮らせてもらった地図によると、この辺には多種族が点々と住んでいるようだ。

 中には、地図にすら載っていない村もあった。


 俺達は今まで運が良かったんだと思った。

 だって自分達の目で、壊滅した町や村を見ていなかったから。

 北へ向かう途中、初めて壊滅した村を見た。

 地図によると、ゴブリンの村だったらしい。

 ゴブリンはホブゴブリンと違って、必ずしも人に協力的ではない。

 というのが、ズンタッタ談だった。

 人に協力的ではない代わりに、魔族とは協力関係があったりする。

 オークが狩ってきた魔物や動物と、田畑で採れた野菜等を物々交換したり、それなりの共生関係があったりするらしい。


 しかし、目の前の村に生き残りは居ない。

 ゴブリンの死体と焼け焦げた家、そして帝国兵の死体もあった。


「これはひでぇな」


「誰も生き残っていない・・・。僕達の村と町、よく耐えられたよね」


「マオが居なかったら、俺達の町もこうなっていたんだろうな。そして今頃は、帝国で奴隷か」


 蘭丸とハクトは、村の様子を見た感想を述べている。

 だが、その感想を聞いたズンタッタ達帝国組は、気まずそうな雰囲気だ。

 それも仕方ない事なのだろう。

 蘭丸達の町に直接攻撃していないにしろ、魔族を襲う側に居たのだから。


「死体を見ると、背中から斬られているゴブリンが多いですな。逃げようとして斬られたのでしょう」


 チトリが説明をしているが、やはり顔色は悪い。

 生き残りが居ないか村中を探したが、生存者の残った様子は無かった。


「申し訳ありませぬ。このような事態を引き起こした帝国の人間として、謝罪を・・・」


「いや、その必要は無いだろ。謝罪するなら、生き残ったゴブリンにするべきだ。俺や蘭丸達にしても仕方ない」


「そういえばワタクシの仲間は、ちゃんと鍛えているのでしょうか。オーガの方々に、迷惑かけていなければよろしいのですが」


 ミノタウロスの集落の連中か。

 こいつも天の岩戸状態で篭ってなければ、連れ去られていたんだよな。

 迷惑って、初対面の時のお前の方が酷かったわ!


「この村には食料も何も残っていないですね。全て帝国に持っていかれたと言っていいでしょう」


 このまま焼け落ちた村に居ても仕方ないか。

 焼けた臭いも凄いし、次の目的地へ目指そう。



「暇だから、ちょっとツムジと上から見てくる」


 魔王人形となった弟が、空の散歩に出掛けた。

 実にシュールな絵だ。

 だって幻獣であるグリフォンの背中に、ブサイクな顔した人形が乗ってるんだから。


「だからブサイクって言うな!」


 おっと!

 心の声を聞かれてしまった。

 アイツは上手く隠せるみたいだけど、俺はそういうの苦手なんだよね。

 だから心の声もダダ漏れで、ツムジにもバレてるだろう。


「アタシにも丸聞こえだよ。でも聞こえなくても分かるくらい、キャプテンは分かりやすいけどね」


 お褒めいただきありがとう。

 これからも分かりやすく生きていくつもりだ。


「全く褒めてないから。勘違いするな」


 なんだと!?

 お前、最近ちょっと厳しいと思う。

 俺にだけ厳しいと思う。


「皆が甘やかすから、ちょっと厳しめにしようかと。あ!西に煙が上がってる場所がある!」


 何かを発見したようだ。

 身体強化もしてないから、遠くまでは見えないだろう。

 ツムジ、代わりに見えないか?


「確認したけど、また村だと思う。でも魔王様に見せてもらった地図には、何も無い場所だったと思うよ?」


 そうすると、どんな種族か分からないか。

 強ければ問題無いけど、弱かったら・・・。


「蘭丸、ズンタッタ。西に煙が上がっている場所があるらしい。戦闘中か終わった後だと思う。ちょっと急ごう」



「村の上に来た。やっぱり戦闘中っぽいよ。誰が戦っているかは確認出来ないけど、一方的にやられている感じがする」


 それはマズイな。

 どうにかして、気を引けないか?

 例えば、ツムジが火を吐くみたいな。


「出来るけど、アタシが居る事もバレちゃうよ?それでも良い?」


 うーん、あまり危険に晒したくないな。

 ツムジも大事な仲間だからな。


「嬉しい!でもちょっとだけ驚かせてみる。その隙に逃げてくれればいいけど」


 怪我をするような無茶だけはするなよ。



「彼処の密集地帯に、ファイアブレス行くよ。魔王様、落ちないでね!」


 クアァァ!!


「何だ!?何の鳴き声だ!上から?」


「ツムジ、ヒト族だ。行け!」


 ゴアァァァ!!!


「グ、グリフォンだと!?ブレスに気を付けろ!一旦距離を取れ!」


 兵達と小さな魔族の間を狙い、ファイアブレスを吐いてもらった。

 一旦両者の間に距離が出来る。


「今だ!この隙に村の外に逃げろ!仲間が来ているから!」


 それだけ言って、再び上昇を始める。


「誰か乗っているぞ!落とせ!」


 弓を構え、空に向かって放たれた。

 ほとんどが届かないが、数人の腕は確かなようだ。

 ツムジが左右に避けながら、更に上昇を続ける。


「ツムジ、もう一度ブレス行けるか?」


「それは大丈夫だけど。今度はバレてるから、動きながらじゃないと無理だよ」


「それでいい。やってくれ」


 再び下降を開始して、ブレスを放つ。


「来たぞ!弓隊、魔法隊構え!」


「魔法隊!?チッ!クリスタル使った連中か!ツムジ、弓より射程がある。退避だ」


「分かった!」


「魔法隊放てー!」


 火球に水球、風の槍等が飛んでくる。


「へへーん!そんな程度の魔法じゃ当たらないよ。よーし、またブレスをって、アレ?」


 ツムジが異変に気付く。

 背中が軽くなったのだ。

 避けている最中に、宙返りをしたのが失敗だった。

 緑がかった銀色の塊がら兵の方に落ちていくのが見える。


「あー!」


 ドーン!という音と、グシャッという誰かが下敷きになった音が聞こえる。


【オイ!どうした!?何があった?】


「キ、キャプテン、やらかしちゃった」


【何をやらかした?怪我でもしたか?】


「魔王様落としちゃった」


【なにぃぃぃ!!!アイツ、無事なんだよな!?】


「敵の上に落ちたみたいで、1人は倒したみたいよ?」


(ビックリしたよ〜。気付いたら逆さまで落ちてるんだからさ。でも痛みも無いし、特に問題は無い。流石はミスリルだ)


【お、おぅ。何でそんな呑気な声なんだか分からんが、無事なら良かった】


(このまま人形のフリを続けるよ。いざとなったら元の身体に戻るつもりだけど、これだけ距離があると戻れるか分からないし。ツムジも皆の所に戻っていいよ)


「ごめんなさいぃぃ!後で助けに来るから」




「さっきのグリフォンは何だったんだ?しかも、よく分からない人形を落としていくし。空爆のつもりか?」


 残った兵士が人形を剣で叩いている。

 痛くは無いけど、イラっとする。


「おい。この人形、もしかしたらミスリルで出来てないか?この色、多分ミスリルだろ!?俺、持って帰るわ。これで鎧と剣を作る」


 ふざけた事抜かすな!

 僕の力作だぞ。

 勝手に溶かそうとするんじゃない!


「しかしマヌケ面だよなぁ。コイツ等と変わらねぇわ」


 コイツ等?

 何だコイツ等、随分と小さい魔族だな。

 小人か?

 蘭丸かズンタッタに聞かないと分からないな。


「残ったのはこれだけか?後は逃げられたか。チッ!ふざけた連中だ」


 残ったのは4人か。

 相手は500人くらいか?

 オーガの町で見たくらいの人数だから、大体その辺りだろう。

 勝手に動けないから分からんが、多分後ろに死体がある。

 突き刺す音がさっきから聞こえている。

 もうとっくにコト切れているはずなのに。

 死体を辱めるようなマネをして、クソだな。


「残り4人しか居ないんだから、じっくり遊べよ。そうだな、指1本ずつ切ってみよう。その後に目。無くなったら腕と足で、最後に首だな」


 話を聞くだけで胸クソ悪い。

 動いてぶん殴ってやりたい。


「やめて!やめてください!ギャアァァァ!!」


「うるさいから口閉じろ。あ、口に剣刺しちまった。テメーがうるせえから、殺しちまったじゃねーか!」


「もう首を吊らせる奴も居ないしな。ジタバタしてる所を見るのが面白いのに」


「エルフならまだ犯しがいもあるんだが、コイツ等じゃあそんな気分にもならないしな。死ぬ以外に役目なんか無いだろ」


 怒りがある一定から超えると、冷静になれるって本当だ。

 コイツ等に生きる価値が無い。

 絶対にコイツ等は僕が殺す。

 他はどうでもいいが、コイツ等は駄目だ。


 ん?

 よく見るとコイツ等の鎧、ミスリルじゃないな。

 帝国の正規兵じゃないのか?

 離れた所に旗章が見えるんだけど、身体強化使って見えるかな。

 うーん、なんか帝国とは違うような気がする。

 やっぱり魔王人形じゃ身体強化しても無理があるか。

 そんな事はいい。

 僕も戻って、このクソ共を殺す準備をしよう。




「逃げ切れたのはこれだけか。何人居る?」


「ざっと30人ほどかと。逃げ遅れたのは多分8人だそうです」


 8人か。

 仲間を助ける為に、自分達を犠牲にしたのだろう。

 生き延びた連中の話を聞く限り、そんな感じだ。


「助けていただき、本当にありがとうございました。えーと、どういった御一行でしょう?」


 助けた小人がエルフに獣人、ミノタウロスとヒト族の混成パーティーに困惑している。

 しかも帝国の紋章を持った兵だ。

 本来なら襲われるなら未だしも、助けられるとは思ってもみなかったんだろう。


「ワタクシ達は魔王様と旅する者です。こちらが魔王様であるマオ様」


 子供を紹介されて、更に困惑が強まった気がする。


「怪我人はウサギの獣人の方に集まって。回復魔法を唱えます。軽傷者はこちらの薬を使ってください」


 シーファク達が色々と指示を出している。

 ラコーンとチトリ、スロウスは周囲の警戒で此処には居ない。


「魔王様という事は、帝国の王子様でしょうか?でもダークエルフのようにお見受けしますが」


「アレは魔王を騙る偽者だ。俺が魔王のマオ。今は魔族の町や村を旅して回っている。ドワーフの都を目指している途中、あの村から煙が上がっているのが見えたんだ」


「そうでしたか。私があの村の村長の息子でスイフトと申します」


「息子?村長さんは?」


「父は他の皆を逃す為に・・・」


「申し訳ない」


「いえ、父の抵抗があったから、皆様に助けて頂ける時間が生まれたのです。本当に感謝しております」


 お父さんが亡くなったのに、こうして冷静に対応出来る。

 俺には無理だな。


「しかし、魔王様はどちらの国の方なのですか?最初は帝国が助けに来てくれたものだと思っていたのですが」


 帝国が助けに?

 どういう事?


(ただいま。今、どういう状況?)


 おぉ、丁度良かった!

 俺だと判断出来そうにない話が出てきて困ってたんだ。

 もう魔王っぽくするの無理だから、代わってくれ。




「今の話ですが、帝国が助けに来るというのは、どういった判断でそう思ったのですか?」


「えぇ、以前この村を訪れた商人の方が、帝国には魔族の町や村を回っている勇者がいると聞いていたので、てっきり勇者様が助けに来てくれたのかと思っておりました」


「勇者?帝国には王子が魔王を名乗って、更に勇者がいると?」


「商人の方のお話ですので、詳しくは知らないのです。訪れた町や村の方は、勇者様は素晴らしい、あの方のやる事に間違いないというような事を話していたと聞きました」


 どういう事だろう?

 王子は魔族を屈服させて、奴隷や労働力として扱うつもりなはず。

 それなのに、同じ国に魔族を助ける勇者なんか居るか?

 うーん、実際に会ってみないと分からないな。

 この件は保留という事で。


「ところで助けに来たのが帝国だと思ったのなら、襲ってきた方にも心当たりがあるのですか?」


「あの旗を見る限り、ライプスブルクのものだと思います」


 何処だそれ?

 アレかな?

 ハゲは凄いって国か?


「ライプスブルクだって!?クソが!まだこんな事してやがるのか!」


 周囲の警戒任務から戻ったラコーンが、舌打ちした後にキレていた。

 何か因縁でもあるのかな?


「ラコーンはそのライプスブルクの出身なのですよ」


「隊長、やめてください!あんな国の出身だなんて。俺は国を捨てて帝国に来たんだから」


 母国を捨てて帝国に来るとか、余程嫌いなんだな。

 どういう国なんだろう。


「あの国での事なんか、思い出したくもない。親父もお袋も、狂ってるとしか思えなかった」


「自分の親をそこまで言うもんじゃないよ。何がそこまで嫌なんだ?」





「分かりやすく言いましょうか。弱い者いじめしか出来ない国なんですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ