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烏の腐れ縁

 自覚ある変態。

 ぶっちゃけ研究の為とはいえ、全裸にマントは断るべきだと思うんだ。

 それなのにアルノルトさんは、普通にそれを受け入れてしまった。

 しかもこの辺り、冬並みに寒いのに。

 彼からしたら全裸マントは、涼しいレベルになるらしい。

 太田なんか厚着で着込んでいて、着膨れしている。

 吸血鬼族って僕達とは少し違うんだなと、改めて思った。


 そんな人も寄らない変態だが、動物は寄ってくるらしい。

 と思っていたら、久しぶりに招き猫の登場だった。

 この子もなぁ、一度くらいは自分の手で餌くらいあげてみたいんだけど。

 ほとんど近寄らせてくれないからね。

 たまに姿を見せる、近所に住む野良猫の気分だよ。

 その招き猫が今回連れてきた、僕達と縁があるというモノ。

 それは三羽の烏だった。

 アルノルトさんはバカ烏だと言っていたが、そんな烏に馬鹿にされているのはこっちなんだけどね。

 佐藤さんと長谷部はコケにされ、最後の手段として兄を頼った。

 乗り気になった兄は一羽の烏に石を当てると、烏は怒り始めた。

 するとそれを見たアルノルトさんは、ようやく名前を思い出した。

 彼等はバカではなく、八咫烏だと言うのだ。







 八咫烏!?

 聞いた事があるぞ。

 日本では天皇陛下を導いたとされる神鳥だったけど、この世界では魔王を導くとされるんだったな。

 確かツムジが言ってたんだっけ?



(兄さん、珍しく覚えてるじゃないの)


 ゲームの知識から入ったんだけど、日本じゃ別の意味でも有名だからな。



(別の意味?)


 サッカー日本代表のエンブレムに書かれてるんだよ。

 最初、足が三本の鳥が書いてあって、プリントミスだとずっと思ってたんだ。

 それを突っ込んだらサッカー部が本当の意味を教えてくれて、なんとなく頭に残ってた。



(へぇ、兄さんやるな。興味が無かったのもあるけど、初めて知ったよ)


 ウハハ!

 お前に褒められると、なかなか気持ち良い。



「オイ!バカ烏!」


「バカー!バカー!バカはお前ー!」


「うるさい!さっさと俺を案内しやがれ」


「粗暴!粗暴!チビ乱暴!」


 チッ!

 烏のクセに難しい言葉知ってやがる。



「おーい!八咫烏だよねー?私覚えてますかー?」


「ん?」


 空に向かって手を振るアルノルトさん。

 しかし烏の反応は鈍い。



「誰ー?誰ー?アンタ誰ー?」


「忘れられてるじゃないか!」


「おかしいなぁ。あ、違う八咫烏なのかも。私が会った時は、一羽の烏でしたから」


 魔王を導くっていう烏が、何羽も居ていいものなのか?

 あのアホっぽい烏を見る限り、誰彼構わず魔王にしそうなんだけど。



(このままだと埒があかない。顔を知ってるツムジを呼んでみようか?)


 いやぁ、怒るんじゃないか?

 あんまり仲良さそうな話し方じゃなかったし。



(それなんだよなぁ。でも、他に方法は無いよ)


 ・・・仕方ない。

 後で二人で謝ろう。

 それじゃ、また代わるから頼んだ。




 もしもし?

 聞こえてる?



『あら、魔王様じゃないの。アタシに声を掛けるなんて、緊急の用事かしら?』


 えーと、非常に言いづらいんだけど、八咫烏って知ってる?



『八咫烏!?あんのアホ助が何かしたのかしら?魔王様に手を出したんなら、とっちめてやるわ!ちょっと待ってて!』


 え?

 何か勝手に、こっちに来る気になってるんだけど。

 これは好都合か?



『それじゃ、行くわよ』



 一言二言誰かと話したツムジは、僕の問いかけに応じた。

 空に穴が開くと、そこから大きな身体をしたグリフォンが出てきたのだった。






「オゥ!何ですか、アレは!?」


「ツムジ、こっちだ」


「魔王様、久しぶり。あっ!バカ烏!」


 下を見て声を掛けてきたと思ったら、自分の前を飛ぶ烏を見て飛んでいってしまった。

 三羽の烏もツムジを見て、何か慌てたようにグルグル回っている。



「こんのバカ烏!アタシの魔王様を、煩わせるんじゃないわよ!」


「ギャァ!ギャァ!」


「帰れー!帰れー!このバケモノー!」


「痛っ!アンタ、アタシに手を出したわね。丸焼きにしてやるわ」


 手ではなく足だと思うんだけど。

 そこは突っ込んじゃいけないところなんだろう。



「バカー!アホー!オタンコナスー!」


「バ烏!一羽焼いて、元に戻れなくしてやるわ」



 これは、呼んで失敗だったんじゃ。

 空の上で、グリフォンvs八咫烏の戦いが始まってしまった。


 それにしても、元に戻れないとはどういう意味だろう?



「イケー!そこだ!」


「あぁ!烏め、連携上手いな」


 佐藤さんと長谷部は、空を見上げてツムジを応援している。

 官兵衛は長くなりそうだと座り込み、ハクトはトマト料理を作り始めた。



 ツムジの吐く炎を、三羽は器用に避けている。

 二羽が囮になって、一羽の烏が視界の端からツムジにクチバシで攻撃を仕掛けた。

 しかし読んでいたツムジも、尻尾で烏を叩く。

 大きなダメージは無いが、このようなチマチマした攻撃がずっと続いている。



「もう暗くなってきましたね。いい加減、話聞いてくれても良いと思うのですが」


「アルノルトさんならあのバカ烏を、飛んで捕まえてこれるんじゃない?」


「それも可能ですけど、もう一体の方にも危険が及びそうですよ」


 ツムジに危険があるなら、却下だな。



「しかしツムジ、かなり強くなったなぁ」


「そうだね。炎の大きさも前と比べ物にならないし、飛ぶ速さも段違いだよ」


 あの速さで背中に乗ったら、もれなく振り落とされるだろうね。



「ツムジ、そろそろ終わりにしてほしいんだけど」


「待って!このバ烏をせめて一羽くらいは焼かないと」


「やるーやるー!」


「戻れー戻れー!」


「元に戻ってバケモノ成敗!」


「元に戻る?」


 烏はツムジと距離を取ると、グルグルと回り始めた。

 暗くなってきた空を見ても分かる。

 あの辺りだけが、異常に暗い。



「やらせないわよ!アウッ!」


「ツムジ、無理するな!」


 高速回転を始めた烏に爪で攻撃するも、ツムジの足は弾かれてしまった。

 手出しが出来ないツムジは、しばらくそれを見ていると、ボソッと一言呟いた。



「あーあ、面倒なのが来たわね」



 空にあった黒い渦が、ピタッと止まった。

 そして僕達は空を見て、誰もが目を疑った。

 三羽の烏が居なくなったのだ。

 そして一羽の大きな烏が、ツムジの前に現れていた。



「ハーイ!僕、八咫烏!グリフォンのキミ、きゃわうぃうぃねぇ。どうだい?この後、デートでも」







 僕達は全員、開いた口が塞がっていない。

 ボロクソ言っていた烏が、急にチャラ男風になったからだ。

 何が起きたか全く分からない僕達だったが、一人だけ反応をしてみせた。



「おーい!烏くん、僕を覚えてるかなー?」


「んん?ハイハイハイハイ。覚えてますよ。アレでしょ?三軒隣のぬらりひょんでしょ?」


「メールド!このバカ烏!」


「ごめんねごめんねごめんねー。野郎の顔は覚えない主義なの」


 うわぁ・・・。

 ウザさに拍車がかかって、僕ですら攻撃したくなってきた。

 でも、そんなバカ烏にツムジは普通に話し掛け始めた。



「久しぶりねぇ、チビ烏」


「デカ過ぎじゃね?太り過ぎで、空を飛ぶ速度も遅そうだしぃ」


「アンタはやっぱり馬鹿ねぇ。魔王様に乗ってもらうのよ。そんなちっさい身体じゃあ、到底無理よね」


「ハッ!魔王?現れてもいないのに、無駄な事してるんだな」


 え?

 魔王、ここに居ますけど。

 アナタの下に座って、トマトスープ飲んでますけど。



「セボン!ハクト氏のトマァトを使った料理、サイコーですね」


 さっきまで忘れられてキレてたのに、切り替えが早い。

 皆もちょっと慣れてきたのか、トマトスープを飲みながらの見学に切り替わった。



「ウフフ」


「気持ち悪いな」


「いやぁ、アンタ知らないんだ。ま、アタシが選ばれたから仕方ないけどぉ」


「は?」


「アタシが魔王様と一緒に行動してるから、アンタが知らなくても仕方ないんだけどぉ」


「ヘイヘイヘイ!何言ってるワケ!?僕が選ばれないワケないでしょうが!」


「事実そうなんだから、諦めたら?」



 どういう事なんだろう?

 魔王を導くのは、どちらか片方の役目なのかな。

 でも招き猫は、二人とも僕を会わせたんだけど。

 ツムジがたまたま先だっただけで、八咫烏も結局のところ、会う運命だったのか?



「八咫烏!」


「誰だよ!僕は野郎に呼ばれるのが、大嫌いなんだ」


「魔王様よ」


「そうそう。魔王様にだって、呼ばれたくナニイィィィ!!」


 なかなか良いノリツッコミだ。

 少しだけ好きになった。



「あの方が魔王様。アタシが既に確認してるんだから、疑いようも無いわよね」


「はわ、はわわわ!」


 ツムジが胸を張って言うと、烏は凄い勢いで降りてきた。

 僕は何か試されるのだと、咄嗟に身構えた。

 しかし彼は、頭から地面へと突っ込んでいくだけだった。



「すんませんっしたー!ホントもう、すんませんしたー!」


「フッ、ワハハハ!これがホントのフライング土下座か!」


 思わず笑ってしまった。

 だってアホなんだもの。



「やっと降りてきたか。僕の話を聞く気になった?」


「ハイ!そりゃもう。耳をめちゃくちゃかっぽじって、鼓膜が破けて聞こえないくらい聞く気になってます!」


 駄目じゃねーか。

 やはりバカなのは、変わらないらしい。



「それじゃキミに頼みたいんだけど」


「イエッサー!なんなりと言って下さいまし!」


「う、うん」


 ちょっとノリがウザくて面倒だな。

 やっぱりツムジの方が、言動がギャルっぽくなったけどマシだ。



「頼みというのは簡単だ。僕達を越前国に入れてほしい」






 八咫烏はどういう反応を見せるのか?

 流石に初対面の僕達を、簡単に信用してくれはしないと思う。

 まずは信用してもらう為に、試験的な何かを



「ハイっす!そりゃもう案内しますよ〜。魔王様の頼みっすから〜」


 試験も何も無かった。

 スゲー調子が良過ぎて、逆にこっちが信用しづらい。



「ヘーイ!私の事を忘れておいて、魔王氏の事は簡単に言う事聞くんだねー!」


「うるさい下郎。部下は黙ってろ」


「メールド!誰が部下だ!」


「アルノルトさんは協力者であって、部下じゃないよ。むしろ皆、部下というより友達とか仲間だから」


「そうなんすか!?今代の魔王様は変わってるっすね」


 他の魔王と違うという事で、不審がられるかと思ったんだけど、そうでもなかった。



 仲は悪いけど、ツムジの言葉はかなり大きいらしい。

 僕の事を魔王だと信じて、疑わないのだから。



「それでは八咫烏殿。我々を案内していただけますか?」


「任せろチビ助」


「烏ぅ!次に官兵衛さんをチビ助呼ばわりしたら、テメェ焼くぞ」


「イタ、イダダダ!!ま、魔王様!こんなのも仲間なんすか!?」


 官兵衛にナメた口を聞いた八咫烏は、長谷部に頭を両手で掴まれている。

 そのまま押し潰すんじゃないかと思うほど、ギリギリという音を立てていた。



「あんまり下に見てると、捌かれて焼かれて食われるよ」


 ハクトが包丁を持っていたのが幸いしたのか。

 それともトマトの赤いスープが効いたのか。

 八咫烏は鶏のように、コクコクと頷いた。



「皆さん、越前国へ案内するっす!」


 どうやら認めてもらえたようだ。

 すると八咫烏は、僕の前で止まりしゃがみ始めた。

 後ろを振り向いた彼は、ドヤ顔でこう言った。



「ささっ!乗って下さいまし!」


「アンタ、調子乗ってんじゃないわよ。魔王様を乗せるのは、アタシの役目なんだから」


「うるさいバケモノ。お前より僕の方が相応しい」


「そんな貧相な身体には、乗りたくないってさ」


「にゃにお!ただのデカブツが!」


「チビ烏!」


 再び喧嘩が始まってしまった・・・。

 凄い面倒だが、彼女達からするとこれは名誉な事なんだろう。

 お互いに譲れないんだろうけど、ここは一つツムジには我慢してもらうかな。







「じゃあ八咫烏の背中に乗るよ。ツムジにはいつも乗せてもらってるし、やっぱりこういうのは平等にね。ただし、僕を乗せて落ちるのだけは勘弁してくれよな」

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