五武将の実力4
偽蘭丸はイケメンだった。
偽蘭丸はイケメンだった。
イラッとしたので、二度言ってみました。
いやね、そりゃそうだよねと思うところもあるのよ。
だって本人がイケメンだから。
でも似てない可能性だってあるわけじゃない?
佐藤さんの偽者なんか、エラ張ってて本人とは見た目が全然違うわけだし。
慶次なんかもはや、口調以外似てないからね。
わざわざイケメンを持ってくる辺りがムカつく。
・・・僕達の偽者は、イケメンになるのかな?
そんな偽者がイケメンだった理由は、彼もエルフだったからだ。
しかし彼は魔族を見限って、帝国に味方していた。
念の為にこっちに来る気は無いかと聞いたけど、やっぱりそんな気はさらさら無いらしい。
襲撃のほとんどは追い返してるし、負けてないと思うんだけどね。
帝国では僕達の事、どう話してるか気になるな。
でも、敵なら容赦はしない。
悪いがキミ達には、トマトの為に死んでもらうよ。
というわけで、絶望感を与える為に彼の得意な魔法の更に上を行く魔法を、二重で使ってみました。
力づくで壊すしかないこの状況、彼はどういう判断を下すのか。
乞うご期待!
炎の壁と鉄の絨毯。
おまけで土壁もあるのだが、もはや彼等はパニックを起こして泣き叫んでいるだけだ。
ただ後になって、彼等に話していて気付いた事がある。
実は脱出する方法が、一つだけあったのだ。
その方法とは、土壁を壊して炎に覆い被せる事だった。
地面と炎の壁は万全なのだが、おまけで考えていた土壁は、普通の大した強度も無いものだった。
適当に考えていたからか、今にして思えば熱でボロボロなんじゃないかとも思う。
ボロボロなら砂化させやすいし、彼の得意な土魔法でどうにか出来ちゃうんじゃないかと、正解発表の後に気付いてしまった。
「さあて、正解が分かったところで、どうするかな?ハッキリ言おう。キミに僕の魔法に打ち勝つ程の強さは無い」
「わ、分からないだろうが!」
「分かるよ。そうじゃなければ、今頃はこの黒い絨毯は無いからね」
力の差を思い知らせて、彼にさっきの抜け道を気付かせないようにしなくては。
もし元の身体だったら、表情でバレてたかもね。
今は人形で良かった。
というより、人形じゃなければこんな作戦やらないし。
自分も一緒に暑い炎の壁の中に居るとか、ただの馬鹿だよ。
「・・・俺の事は良い。だが、皆は助けてもらえないだろうか?」
「命乞いかね?考えが甘くない?キミ達、何の関係も無いヒト族の村を襲ったんだよね。しかも魔族の仕業に見せかけるように、五武将なんて名乗って。それを自分達が死にそうだから、助けてくれって言うんだ」
「それは・・・上からの命令で仕方なく」
「キミ、顔だけの馬鹿でしょ。その命令を聞いて良い生活してたんだろ?今更他人のせいにするんだ。それは泣き叫んでるコイツ等も一緒。何も知らない、しかも同族の村人を殺そうとしたんだ」
「しかし!」
「しかしもお菓子も無いね。罪には罰を。お前達は苦しみながら死んでいけ」
僕はそう言うと、自分の足元だけを砂鉄で押し上げた。
それを見た連中は、砂鉄の細い柱を登ろうとしてくるが、味方同士で足を引っ張っている。
「その姿、美しいと思う?」
「あぁ、醜いなぁ・・・」
「最後に、本当の名前を聞いておいてあげるよ。これだけ偉くなってるなら、ちゃんとした名前あるでしょ?」
魔族は基本的に、いろは順に数字が混じった酷い名前が多い。
でも彼は帝国に居たし、いろは順の名前では無いと思った。
「オランイェ。俺の名前はオランイェだ」
「分かった。覚えておくよ」
見上げる彼にそう言うと、僕は柱を元の砂鉄に崩し、そのまま壁の外に向かって飛んだ。
あいきゃんふらーい!
過去に何度か試した事があるが、今回は成功するはず。
スイフトにも相談して、僕の身体にはムササビのように余った生地で着けてもらった。
広げれば滑空なら出来るはず。
人形はミスリル製で重いとはいえ、それも加味しても出来るという判断だった。
そして今、僕は空を滑っている。
「アハハ!良いぞ。ツムジの力を借りないで、僕は空を飛んでいる!」
下を見ると、阿鼻叫喚なのはご愛嬌。
偽の蘭丸は諦めて、壁の中央で座して死ぬのを待っていた。
他の連中は炎をどうにかしようと、炎の先の壁を登ろうとして突っ込んでいく者や、砂鉄を炎に掛ける者も居た。
僕としては諦めるより、死ぬまで足掻く彼等の方が正しいのではという考えだ。
足掻けば、助かる道があるかもしれないし。
それは個人の考えなので、何も言わない。
「熱で上昇気流に乗るかな?」
炎の上に来た時、少しだけ浮き上がった。
予想通りだ!
だが、思いもよらない結果が待っていた。
「え?」
焦げた左腕の箇所から、布が燃え始めたのだ。
まだだ!
左手で持って、布を広げれば大丈夫。
そう思ったのも束の間。
今のアクシデントで下降すると、色々な箇所に穴が空き始めた。
「えっ!?どうして・・・。あっ!熱か!」
適当な布で縫いつけたのが間違いだった。
どうやら火の粉が原因のようだ。
不燃、せめて難燃性の布を使っていれば!
「あー!」
足掻いて正解だった。
ギリギリ土壁の外に落ちる事が出来たよ。
もし足掻いてなかったら、今頃は炎の中に真っ逆さまだった。
あんな事言っておいて、自分から炎の中に飛び込むとか。
そんな事になったら、馬鹿を通り越して道化だよ。
「うわぁ、煤だらけだ」
見た目は汚れていると分かるが、触覚のようなものは無いので、ベタつきや汚れによる嫌悪感は無い。
ただ、見た目的に洗いたいなとは思う。
「居た!」
身体の汚れを払っていると、目の前でリンチのようになっている佐藤さんを見つけた。
有象無象の兵達に囲まれて、囲みの中央で佐藤ブルーと戦っている。
周りの連中は佐藤さんの避けた先を狙って、魔法を飛ばしている。
大半はグローブのダイヤモンドで弾いているが、やはり全てを避けたり弾くのは至難のようだ。
佐藤さんに当たるとせせら笑う姿を見せた。
イジメを見ているような気分で、かなり胸くそ悪い。
「だからこそ、同じ事をどーん!」
「アチッ!誰だ!?」
「どーん!どーん!」
同じくらいのサイズの火球をどんどんと浴びせると、彼等はようやく佐藤さんからこっちへと注意を向けた。
「あ、阿久野くんか?」
「大丈夫ですか?」
やはり結構なダメージを負っている。
魔法のダメージだけじゃなく、偽佐藤さんもそこそこやるらしい。
「何だよ、このキモい人形は」
「キモい?キモいのはテメーの面だろ」
「このっ!ぶち壊す!」
突進してくる偽佐藤。
僕は目の前に土壁を作ったが、男のパンチ力は予想外のものだった。
佐藤さんでも簡単には壊せないくらいの土壁も、偽者には通じない。
右ストレート一撃で破壊されると、僕は男に掴まれてしまった。
「捕まえたぜ。手足から徐々にへし折ってやるよ」
「阿久野くん!」
佐藤さんが、偽者に向かってきているのが見える。
しかし周りの連中の魔法で、行く手を遮られていた。
「頼みのお仲間も来ないぞ。ぶっ壊れたら、奴に返してやろう」
「馬鹿だなぁ。捕まえたって言ってるけど、それは僕も似たようなものだよ」
「何?うっ!」
地面から黒い槍が、偽佐藤の腹へと突き刺さる。
オランイェの真似をして、砂鉄で槍を作ってみた。
砂鉄だから、アイアンサンドスピアーかな?
でも、ミスリルの上から鉄で攻撃しても、やはり衝撃を与える程度らしい。
兄のような猛スピードの鉄球なら、内臓破壊が出来るんだけど、僕じゃ無理だな。
チート兄め。
「これでも手放さないの?じゃあ、今度は凍傷になってもらおうかな」
「クソッ!何なんだコイツは!」
僕の身体ごと魔法で凍らせていくと、奴は自分の手に纏わりつく寒さに気付いて、僕を放り投げた。
「逃げますよ!」
「チッ!分かった」
偽佐藤がこっちに来ていたおかげか、佐藤さんは簡単に包囲を突破した。
ポケバイを失った僕を拾い上げると、走り始める。
「何処に逃げるんだ?」
「えーと、適当に走って下さい」
「ノープランかよ!」
だってこの辺り、仮面の連中が見当たらないんだもの。
彼等が近くに居れば、紛れて逃げられるんだけど。
「偽イッシーの部隊と合流して下さい。彼等は仲間です」
「仲間?・・・寝返ったのか!?流石は官兵衛殿」
兄の手柄なんだけど。
面白いから、このまま勘違いさせておこう。
「それなら、仮面の連中を探せば良いんだな?よし来た!」
佐藤さんは後ろから追撃してくる連中の魔法を避けて、人混みに紛れていった。
金仮面が苦戦しているという報告を受けた俺は、彼を助けるべく、彼の部下と共に馬に乗って走っている。
やはりイッシーの偽者というだけあり、彼の部隊は統率されていた。
たまに敵が攻撃をしてきたが、周りの仮面の連中が俺達の馬を先へ進ませる為に、自ら壁になっていくのだ。
その姿に感心していると、俺はとうとう金仮面と合流を果たした。
「隊長!お連れしました!」
「誰を!」
「子供です!」
確かに子供だけども。
もうちょっと紹介の仕方ってものが、あるでしょうよ。
しかもそれですぐに理解する金仮面もどうなの?
「すまん!又左レッドが立ち塞がってきた。奴もなかなかやるのだ」
「王への感謝を忘れた裏切り者め!潔くその首を差し出せ!」
王と来たか。
これは帝国を乗っ取った王子の事だろう。
コイツは全てを知っていそうだな。
というより、元から帝国の人間っぽいな。
「金仮面は、あの男の正体を知っているのか?」
「アイツは俺と同じ、帝国軍人さ。俺もアイツも、名前も姿も捨てて隊長になれって言われた。別に家族が居るわけでも無いし、条件が良かったから引き受けたんだ」
「という事は、召喚者とかではない?」
「全然違う。おべっかが得意で階級を上げた、気に食わない奴だよ。ただし、人を使う能力には長けてるがな」
ほうほう。
ならば簡単に倒せそうかな。
アデルモ級の強さを持っているなら厳しいけど、普通の奴ならね。
「どれ、お前との違いを見せてやろう」
「俺との違い?」
「こうするんだ!」
俺は鉄球を、又左レッドの顔を目掛けて投げた。
金仮面の時よりは距離があるが、媚びへつらって階級を上げたような男だろう?
「っ!」
鉄球が顔面に命中した又左レッドは、落馬した。
命中した時に頭が後ろへ大きくのけぞっていたから、多分首の骨も折れたと思う。
「どうだ?終わったかな?」
「痙攣してるけど、もう無理だろう。お前、かなりえげつないな」
「せっかく助けたのに、酷くない?しかも、アンタにしたのと同じ攻撃だよ。アンタはギリギリで避けた。アイツはおもいきり食らった。実力の差が結果として出たんだ。どうよ?」
「そう言われると、少しは気持ちが晴れるな。ただし、俺も一歩間違えばああなっていたと思うと、やっぱり微妙な気分でもある」
ああとは、原型を留めていない顔の事だ。
動かなくなった奴を見て、どうやら気持ち悪くなったらしい。
「お前の方に付いて間違いじゃなかったと、強く思ったぞ」
「お忍びの旅の最中の魔王様だからね。運が良いのか悪いのか、それは後々に自分達で判断してくれ」
「報酬は忘れるなよ?」
「それに関しては期待してほしいね。なにせ既に実証済みだから」
イッシーに頼めば、同じ悩みの連中に手を差し伸べるのは決まってる。
強い味方も出来て、万々歳だ。
しかし一つだけ気になった事がある。
「どうしてあの男が、又左レッドになったんだ?」
「帝国では前田又左衛門利家という男が、魔王が最も信頼する重臣だと聞いている。さっきも言ったが、リーダーは自分だと上に根回ししたんだろう」
「根回しでなったのか。こりゃ本人には内緒にするしかないな。又左の偽者が一番弱かったなんて知ったら、本人めちゃくちゃ怒るぞ」




