偽蘭丸の正体
兄さんグッジョブ!
金仮面を味方に引き入れたのは大きかった。
こっちで戦えるのは、人形の僕を含めて五人。
一人一人の戦力が大きいから問題無いと考えていたけど、向こうにも手練れが居たせいでその作戦も白紙になってしまった。
金仮面の部隊が混乱させてくれれば、その隙に乗じて強い連中から倒せるかも。
僕も金仮面隊を支援する為に前線に出たけど、意外と気付かれないもんだ。
ポケバイで足を切り裂いて走ってはいるけど、鎧の隙間に当たらないと無傷なんだよね。
これがまた、スピードを出しながらだと難しい。
そこで遭遇したのが、長谷部だった。
佐藤さんを探してたのに、予想外に長谷部が先に見つかるとは。
しかも相手にしていたのは、慶次ブラックことムエドだった。
ネタキャラに思わせておいて、実は強いとか。
帝国卑怯だぞ!
と思ってたら、騎士王国の人でした。
意外にマトモな奴だったが、やはり考えはおかしかった。
金仮面が裏切ったのを聞いても、どうでも良いと答えるムエド。
彼は長谷部と戦えれば、後はどうでも良いという考えだった。
その辺は慶次と同じだなと、僕も感心してしまった。
脳筋かぁ。
これならバラされる心配も無さそうだ。
長谷部は勝つと宣言してるし、僕の出番は無いな。
二人の間で空気がピリピリしているし、ここはそっと退散しよう。
ポケバイ、重っ!
いつも乗って移動してたけど、長谷部達に気を遣って静かに離れようとしたのが失敗だった。
途中で敵に見つかって横に倒しちゃって傷ついたし、ロクな事が無い。
ゲスい顔で僕に斬りかかってきたから、顔面丸焼きにしてやったけど。
「居たぞ!あの変な人形だ!」
変とは何だ!
スイフト謹製の素晴らしい人形だぞ!
「アイツです」
「アレか。フゥ、醜いな」
ロングのサラサラヘアーを靡かせてやって来たのは、銀色の軽鎧を身に纏った蘭丸シルバーと名乗る男だ。
蘭丸の偽者とあって、顔の造形は良い。
十人が見たら、十人がイケメンだと言うタイプだろう。
ただし、性格は悪そうだ。
「あんな人形、早く壊してしまいなさい」
「ハイ!」
自分の手を汚さないタイプか?
シルバーの部下なのか、これまた肩の一部をシルバーで統一された兵士達が僕を囲み出した。
さっきのゲスい奴とは違い、若くてそこそこカッコ良い連中が多い。
「皆、行くよ!」
「は?」
何がしたいのか、僕を中心にコイツ等踊り始めたぞ。
踊りと言っていいのか?
マイムマイム?
かごめかごめか?
コイツ等アホだろと、呆気に取られていたのが失敗だった。
「天に染まりし赤い雨。燃え尽きろ、レッドシャワー!」
「な、何だ?うおっ!ヤバイ!」
上を見上げると、空には無数の小さな火が用意されていた。
踊りに夢中と言うと語弊があるが、そっちに気を取られていたせいで、反応に遅れてしまった。
すぐにしゃがんで土の壁を作ったが、どうやらそれなりに威力はあるらしい。
壁を突き抜けて、僕の腕を焼いてきた。
「ヤバイヤバイ!」
すぐに水魔法で消火したが、一部が焦げてしまっている。
焼けた部分の確認の為に軽く動かしていると、追い打ちとばかりにシルバー隊の連中の武器が一斉に襲い掛かってきた。
焼けた土壁は簡単に槍で崩され、剣や棒等で突かれている。
「ハハハ。汚い物には死を与えるべきだ」
「お前、気持ち悪いな」
「何!?あの攻撃でまだ壊れていないのか?」
「あいにくとこの身体、ミスリルで出来てるからね。顔は違うから、攻撃してくるのはやめてほしいけど。もし顔が焦げてたら、お前等同じ目に遭わせるよ?」
相手もミスリルの武器なんだろうが、顔さえ守っていれば傷がつく程度で済む。
それも創造魔法で綺麗に元に戻せば、あら不思議。
無傷な身体の出来上がり。
しかしそんな事が分からない彼等には、僕がとても硬い物質に思えているだろうね。
不気味に思えたのか、少し後退りしている。
「この化け物人形が!我の想いに応えろ!サンドスピアー!」
砂の槍?
それ強いか?
僕の目の前から槍が突き出てきたが、砂なら水魔法で何とかなるでしょ。
水の槌を作り出しそれを叩きつけると、砂は霧散して消えた。
「隊長!今のは魔法ですか?」
「馬鹿を言うな!魔法なら詠唱があるはずだろう」
「魔法ですけど。詠唱なんかしてたら時間が掛かるし、だから無詠唱に決まってるでしょ」
「ハァ!?詠唱破棄なんか普通は出来ないんだよ!」
あらら?
化けの皮が剥がれてきたかな?
口調が荒くなってきましたよ。
それよりも気になるのは、何故この気に入らないイケメンが魔法を使えるか。
そっちを確認してみよう。
「うわっ!突風?」
「この風め。俺の美しさを際立たせに来たのか。風に靡いた俺の顔を見ろ。悪くないぞ」
うわわ、気持ち悪!
これがナルシストってヤツか。
僕の周りにはこういう人、居なかったからな。
俺様キャラならマッツンが居るけど、アレはお笑いキャラだし。
コイツとは被ってない。
「そんなに好きならもうちょい強くしてあげるよ」
「な、何!?」
さっきまでは攻撃をする為の風じゃなかったので、今度は一気に台風並みに強くしてみた。
風速一桁から、三十メートル級に変更である。
「おぶぶ!つよ、強過ぎる!」
「あっ!」
なるほど。
コイツが魔法使えたのは、そういう理由か。
お笑い番組のように風に耐えているのを見るのはかなり面白いが、そろそろやめておこう。
でもその前にスマホで写真を・・・って、バッグは兄さんの方か。
チィ、イケメンのブサイク面を撮るのに良いチャンスだったのに。
「な、何なんだお前は?」
「何だお前はってか?そうです。私が魔王です」
「嘘を言え!」
そうね。
この姿だと信用してもらえないよね。
それにわざわざ教えるのもアホらしい。
「フハハハ!吾輩は魔王様に造られた人形。吾輩は魔王様の力の一部しか使えないが、貴様等などそれで十分。しかし、そんな貴様にチャンスをやろう」
「チャンス?」
「貴様、その耳はエルフだろう?何故帝国の味方をしているのだ」
そう。
彼はエルフだった。
風魔法を使ったのも、ただ単に長髪が邪魔で耳が見えなかったからだ。
台風並みに強くする必要は無かったけれど、あの態度を見たらちょっとイラついたのでやってみた。
後悔はしてない。
「もう一度聞こう。魔族は帝国では虐げられていると聞いたけど。何故、協力してるのかな?」
「別に意味は無いさ。勝ち組に乗るのが普通だろう?」
「勝ち組に乗る?」
「虐げられているっていうのは、最初から反抗的だった連中さ。俺達のように最初から帝国に協力していれば、その地位は安泰。むしろこのように、人を従える事だって出来る」
なるほど。
コイツは帝国へ自ら、進んで協力していたわけか。
そうする事で自分の身を守り、そして魔法が使えるという希少価値もあり地位を得たと。
しかも火の雨みたいな、僕が使った事の無いようなオリジナリティある魔法も使える。
そりゃ隊長格になるわな。
「お前みたいな魔族、帝国に多いのか?」
「居ない事は無いが、大半はクズ。獣人は魔法も使えないし、身体強化出来るだけで召喚者とやらには勝てない連中が多い。やはり俺のような、魔法が使えて美しい者こそ優遇されるのだよ」
「隊長なら当然です!」
「皆、ありがとう!」
ちょっと気を抜くと、自分達の世界に入る連中だな。
しかし良い話が聞けた。
後は最終確認だけだな。
「ちなみにキミ、魔族なら魔王側に寝返る気は無いの?」
「何故そんな、負けた奴の方へ行かないといけないんだ?新しい魔王はガキと聞いているし、この美しい俺がガキの指示など聞けるはず無いだろう?」
「なるほど。じゃあキミ達は全員、敵だな」
僕は自分ごと、彼等を炎の壁で包み込んだ。
その外側には土壁も作り、二重の意味で逃げられないようにしている。
「何をする!自らも炎の中に残るとは、馬鹿なのか?」
「馬鹿?だって僕、人形だぞ。キミ達と違って酸素も必要無ければ、顔以外は燃えない。そこのキミ、僕が自殺行為でもしてると思う?」
聞いたがパニックを起こして、それどころじゃないみたいだな。
剣や槍で土を掘り起こして、消火しようとしている。
「隊長!水魔法を!」
隊員達が縋るような視線で隊長を見ているが、どうやら僕の予想通りのようだ。
「キミ、水魔法使えないでしょ?」
「なっ!」
「さっき火魔法と土魔法は使ってた。じゃあ他の二つの属性は?無理でしょ」
「どうしてそう思う!」
「基本になる四属性全てを使える人は、稀だ。余程の努力を積まないと無理だし、教えてくれる人が居なければ、どうやって覚えるのって話だよ」
寺子屋では全ての魔法を教えてくれる。
でも全ての魔法が使えるようになるのは、相当頑張らないと無理なんだよね。
だから蘭丸とハクトは。凄いと思うよ。
ハクトに至っては、回復魔法まで使えるし。
「隊長!」
「フハハ!大丈夫だ。任せておけ」
余裕を崩さない彼は、僕を見ながら笑みを浮かべている。
まだ切り抜ける術を用意しているらしい。
「別に火を消すのに、水を用いる必要は無いのだよ」
「・・・へぇ」
「残念だったな。炎が消される様を見ていろ」
彼は再び詠唱を始めた。
風魔法を使って、一部だけ炎を消し飛ばすかなとも思ったけど、三属性使えるとも思えない。
だから使うのは、火か土のどちらかの魔法だと思っている。
そして彼は、僕の予想通りの結果にたどり着いた。
「起きろ!サンドウェーブ!」
彼は暑さから額に汗を流しながらも、ドヤ顔で詠唱した。
そして確信したかのように、右手を炎の方に向けてサンドウェーブと叫ぶ。
が、何も起きない。
「な、何故だ!?」
焦る彼はもう一度詠唱をやり直す。
「サンドウェーブ!どうして!?」
「どうして砂の波が起きないと思う?」
「お、お前か!!」
「ピンポーン!大正解。では答えを教えましょう。足下をご覧になって」
下を見るように促すと、彼等はようやく何かに気付いた。
「地面が黒い?」
「これ何だ?」
しゃがみ込み黒いそれを掴んだ男が、一言呟いた。
「砂鉄?」
「正解!」
「隊長、砂鉄も砂じゃないんですか?」
「そ、そうなのだが、俺では扱えない・・・」
予想通りですね。
彼はどういう状況か分かったらしい。
帝国では魔法を教えてくれる人なんて居ないんだろう。
得意な魔法を伸ばす事なんて、不可能だったんだ。
元々素質はあったから、アレンジして火の雨みたいな魔法を作り出せたんろうけど。
だからと言って、炎が大きくなったわけじゃない。
オリジナルの魔法でそれなりに凄く見せていたけど、結局は初級中級レベル。
土魔法も砂という、大雑把なレベルでしか扱えないというわけだ。
「では、答え合わせをしましょう。彼は砂の波を使って覆い被せて、消火したかった。でも、砂の波は起きない。何故か?それは僕が砂の上に砂鉄を敷き詰めて、地面に敷物をしているからです」
「砂で押し上げれば良いんじゃ?」
「砂と砂鉄、どっちが重いと思う?」
「砂鉄」
「はい正解!そんな貴方には、先にトドメを刺してあげます」
砂鉄からさっき見た魔法のように、槍を突き出した。
彼の胸に刺さると、少しだけ痙攣して動かなくなった。
「う、うわあぁぁぁ!!」
「出せ!ここから出せ!」
「というわけで、お得意の土魔法で砂の波は起こせません。どうやって出れるでしょうか?」
隊員達がパニックになる中、まだ冷静さを保つ偽蘭丸。
しかし観念したらしい。
「どうやったら出る事が出来る?」
「以前は結構同じ手を使ってたんだよね。でも召喚者みたいな強い人だと、すぐに壁が破壊されちゃって閉じ込めるのは意味が無いって分かった。なので正解は、力づくで壊すだよ」