五武将の実力3
マズイね。
非常にマズイ。
太田一人が苦戦しているだけなら、何とかなると思った。
その分を他の人達が、カバーすれば良いからね。
でも、まさか佐藤さんまでが苦戦し始めるとは想像してなかった。
五武将さん、どういう基準で選んだか知らないけど、ただの偽者と呼べる代物じゃなかったね。
だから僕は、次の一手を打ったんだけど、それが早々に功を奏したようだ。
次の一手なんて大層に言ったけど、ただ兄と分かれただけなんだけどね。
そんな兄が前線で遭遇したのは、偽イッシーこと金仮面隊だった。
どうして本人よりも目立つ仕様なのかは分からないが、相似点は結構あるらしい。
一つは部隊の統率が取れている事。
そして一番の似ている点、それは部隊の大半の人の頭が、少し残念な事になっている点だった。
兄もちゃんと考えているらしい。
ただ倒すのではなく、味方に引き入れるという作戦に出た兄は、イッシー達が愛用している若狭の薬を教えたようだ。
アレの効果は僕達も知ってるけど、まさに異世界万歳!と言える逸品だろう。
ただちょっと気になったのは、兄があの頭で賢王は無いなという事だ。
金仮面隊は俺を取り囲んでいたが、今はそこから放射状に展開していった。
まさか背中から斬られると思ってなかったんだろう。
俺の周りは混乱していき、辺りの戦線は崩壊していった。
「金仮面、やるじゃんか。イッシー隊に取り込むより、イッシー隊のライバル隊にしてみた方が面白そうかも」
俺は鉄球を投げながら移動していたが、ある地点から凄い爆発音が聞こえたので目を向けてみた。
「魔法?弟かな?」
俺は巻き添えになるのはゴメンだと思いながら、少し離れた後、弟に連絡を取る為に一度後ろに戻る事にした。
「ただいま〜」
「バッカ!早過ぎだろ!」
「馬鹿とはなんだ!一旦連絡に来たんだよ」
俺が金仮面とやり合った事。
そして金仮面の部隊を味方に引き入れた事。
するとその話を聞いた官兵衛が、膝を叩いて立ち上がった。
「流石です!おかげで次なる作戦に移せます」
「えっ?そう?」
官兵衛に褒められると、かなり嬉しいものがある。
しかも今回みたいな反応は、お世辞ではなく本音っぽいから尚更だ。
「まず、金仮面隊の戦力を落とさない為に、魔王様は金仮面隊の支援に集中して下さい」
「それはどっちの魔王?」
「お二人ともです」
「それは僕も、前線に出ろって事?」
「戦わなくても良いです。人形魔王様は、金仮面隊に支援魔法等で援護してくれると助かります」
なるほど。
俺は直接援護をして、弟には支援魔法で援護をさせるってわけか。
確かに人数が少ない俺達に、あの部隊は必須だからな。
数を減らさないようにと考えるなら、それは良い手だと思う。
「じゃあ僕達も行ってくるよ」
「その前にもう一点。太田殿と佐藤殿、そして長谷部くんにも、金仮面隊が味方になったという事をお伝え下さい」
「ここから叫んだ方が早くない?」
「相手に知らせず、混乱させたままの方が効果的です。だから、近くまで行って伝えた方が良いかと」
官兵衛も悪よのう。
とても良い笑顔ですよ。
「兄さんは太田に伝えてきて。僕は佐藤さんに言ってくるから。長谷部は敵に埋もれて何処に居るか分からないから、見つけ次第伝えるって感じで」
「分かった。任せとけ」
「では魔王様、よろしくお願いします」
俺はまた走って前線に戻ると、まだ戦線は混乱していた。
やはり急に敵に回った金仮面隊への対処が、上手くいっていないようだ。
そこで俺は、金仮面に官兵衛の作戦を伝える為に、その辺りで戦っている金仮面隊に話掛ける事にした。
「アンタ等の隊長はどっちに行ってる?」
「何だ?あぁ、お前か。隊長なら左に向かったが、何やら手こずる相手と遭遇したらしい。俺達はその援護に向かう途中だ」
「手こずる相手?同じ五武将か!?」
「それか両腕のどっちかだな」
マズイな。
ここで金仮面がやられたら、部隊の士気が落ちて戦力が大幅ダウンする。
だったら俺が、その五武将と戦った方が良いかな。
「俺も行こう。前まで乗せてってくれ」
「お前が!?いや、魔王様なんだっけか。本物か偽者かは知らんが、隊長に一撃入れた子供なんだよな。分かった。すぐに連れて行ってやる」
俺が走った方が速いのは分かるが、場所が分からない。
だったら彼の馬に乗せてもらい、一緒に行った方が賢明だろう。
「行くぞ!」
フハハハ!
戦場を駆け抜ける風。
僕は今、マシンと一体になっている。
あ、どうも。
ポケバイで爆走中の魔王です。
「何かが足下をウロチョロしてるぞ!」
「気を付けろ!通り抜ける時に、足を切り刻まれるらしいからな」
「カマイタチか!?」
残念、カマイタチではありません。
ポケバイの両サイドからブレードを出して走ってるだけの、僕でした。
あまり長いとスピード落ちるから、片側30センチくらいだけどね。
それでもスネを切ったり太ももを切りつけるには、丁度良い。
視線を下にやらないのか、案外気付かれないものだ。
しかし、佐藤さんの戦ってる場所はどの辺りだ?
さっき見た時は囲まれてたのを確認したけど、今は金仮面隊が乱戦を作ったからか、分からなくなっちゃったんだよね。
あ!
誰かが派手に戦ってる。
というか、声で分かったわ。
「オラァ!テメェ等邪魔なんだよ!」
「うるさい奴でござる」
「ござる?慶次さんのマネしてんじゃねーよ!」
「マネ?拙者の国は、皆こう喋るでござる。ケルメン騎士王国を知らぬでござるか?」
「ハァ?そんな国知らねーよ」
「無知は恥でござるな。あー恥ずかしい」
どうやら慶次の偽者は、帝国の人間ではないらしい。
元々喋り方が似ているだけで、全然関係無いのかもしれない。
「長谷部、ソイツ強いか?」
「人形の方っすか!?今邪魔されたばかりだから、分からないっす」
「おぉ!人形が動いて喋ってるでござる。魔法でござるか?」
「アンタ、慶次ブラックとか言ったけど本当の名前は?騎士王国の人間なんだろ?」
「ほほう?よく本名じゃないと分かったでござるな。拙者、真の名はムエド・ケイズ・ドシマサと申す」
外国人が聞き間違えましたみたいな、何とも言えない微妙な名前だな・・・。
似せようとしてるのか、それともただ単に偶然なのか。
又左レッドももしかして、ムエドさんなのかな?
「やっぱり偽者じゃねーか!」
え?
そこ怒るところ?
普通に考えれば、偽者だって分かるでしょうが。
「よくぞ偽者だと見破った!流石は・・・名前が分からないでござる」
「長谷部だ!」
「流石は長谷部!」
んー、僕は今、コントを見せられてるのかな?
こんな緊張感の無い戦いに、構ってる暇は無いんだけど。
「拙者の正体を見破ったからには、生きて帰す事は出来ないでござる。食らえ、我が一の太刀!」
「誰がそんな技を食らうか!」
あら?
この人、槍じゃなくて刀持ってるんだけど。
慶次ブラック、本人に似せたのは話し方だけじゃないか!
ネタキャラか!?
「え?」
「ぐおぁ!イッテェ・・・。俺の木刀が、真っ二つに斬られた!?」
「拙者の一の太刀を受けて立っているとは、流石は長谷部」
マジか・・・。
さっさと無視して佐藤さんを探そうと思ったのだが、長谷部の木刀が一本、真っ二つに斬られてしまった。
幸い身体の方は、肩を少し斬られただけで、動かない程の重傷ではないみたいだが。
本人は気付いてないが、長谷部の木刀はミスリルの棒だ。
それを一撃で斬るとは。
あの刀が物凄い硬いのか、それともムエドの腕が凄いのか。
あるいはその両方もある。
ネタキャラだと思っていたのに、実際は無視出来ない強さだった。
「長谷部、ちょっとこっち来い。回復させるから」
「申し訳ないっす」
視線を外さずにこっちへ来る長谷部。
ムエドの動きを警戒している。
「全身真っ黒で、ただの気持ち悪いあんちゃんだと思ってたのに。アイツ強いっすよ」
「拙者、そんな風に思われてたでござるか!?ショックでござる・・・」
気持ちの悪いあんちゃんって・・・。
言い方があると思うぞ。
「俺の木刀、気合でミスリルの剣すら受けられたのに。とうとう斬られちまったか。ここまでよく頑張ったな、相棒」
「そ、そうね」
気合でミスリルの剣を受け止めてたと思ってたのか。
てっきり、何処かで気付いているものだと思っていたのに。
今まで気付かなかったのは凄いな。
「ん?アレ!?コレ、木刀じゃない!断面が金属じゃんか!」
「そ、そうね」
「え!?知ってたんすか?」
「そ、そうね」
「マジかよぉ!俺、恥ずかしいわぁ。気合で受け止めてたと思ってたのに」
ようやく斬られた断面を見て、気付いたらしい。
しかし、今回の件で気になる事がある。
木刀じゃないと気付いた事で、長谷部の能力はどうなるのか?
当初は木刀以外は発動しないという事だったが、実際には木刀に模したミスリルの棒でも圧力は発動した。
だったら、今の長谷部ならどうなるのか?
気付いた事で発動しなくなるのか。
それとも能力開花して、どれでもOKなのか。
これはムエドと対峙するのに、大きな違いがあると思う。
「お前、木刀じゃなくても圧力掛けられるか?」
「んー、分かんないっすね。でも、俺の相棒なんで大丈夫じゃないっすか?」
「めっちゃ楽天的だな。アイツ、どうにか出来そう?」
「そうっすね。強いけど、剣の腕ならアデルモ師匠の方が上かな」
「だったら任せる。一つだけアドバイスしておくわ。あの刀は、メリケンサックで受けた方が良い。じゃないと、また斬られるぞ」
「了解っす!」
長谷部は根性だけの男じゃなく、自分が無理だという時はちゃんと言う。
その長谷部が大丈夫って言うんだから、任せても良いと思った。
「魔法が使える人形さんの手は、借りないのでござるか?拙者、なんなら二人掛かりでも構わんでござるよ」
「冗談だろ。テメェは俺一人で十分だ。こっちから行くぜ!」
長谷部が右手に持った木刀を、ムエドの肩に叩きつけようと振り上げると、そこに刀を合わせてきた。
しかし長谷部は、それをフェイクとして木刀を後ろに落とし、振り上げた拳をそのまま刀に叩きつける。
「冗談でござろう?」
「オッシャア!こっちの拳なら、テメェの刀も怖くねぇ」
「よし!」
ちょっと予定より使い方が違うけど、流石はダイヤモンド。
どんな鉱石を使ってるか分からない刀も、ダイヤモンドは砕けないようだ。
「拙者、まだ未熟であったと自覚したでござる」
「ハッハー!テメェ、俺の拳で眠りな」
長谷部は左手に持った斬られた木刀を腰に差すと、落とした木刀を拾い上げた。
「俺、勝ちますよ」
「口だけとは言えないでござるな。オヌシ、強いと言っておこう」
「長谷部、僕は佐藤さんの援護に行くから。ムエドは任せたよ」
「了解っす」
「あ!それともう一つ重要な話があった。仮面の部隊は味方になったから。くれぐれも攻撃しないように」
「え?」
「え?」
オイ、二人して同じ反応してこっちを見るな。
お前等、意外と似てるな。
「それって裏切って、こっちに付いたんすか?」
「裏切ったというのはちょっと。帝国の命令より大事な物が見つかって、それを手に入れたいんだよ」
「よく分からないけど、分かったっす。仮面は攻撃しない」
分かってないけど、単純な思考で助かった。
それよりも、ムエドが周りに教えないかが心配だ。
しかしムエドの反応は、予想外だった。
「所詮は五武将なんて言っても、寄せ集め。拙者も金で雇われた武芸者。だが拙者は、強いオヌシと戦えれば本望でござる。素顔を見せない不審者など、どうでも良い。いざ尋常に、勝負!」




