五武将の実力2
酷くない?
ハクトの男っぽい面は何処だって聞いたら、料理してる時の怖い顔だって。
本人が聞いたら、更に怒ってたと思うよ。
しかも行けとか勝手に言っちゃうし。
そういうのは官兵衛と話して、後手を踏まないようにしてから行くのにね。
しかし今回の敵は、少し変わった連中な気がする。
いつもなら奇襲や兵力に物を言わせた戦い方が多い帝国だが、今回は何故か鏑矢なんて使ってきた。
わざわざ少人数相手に使う理由、あるのか?
戦意を喪失させる為に使った?
それにしては放った直後に攻めてきたし、そういう理由じゃない気もする。
そして偽者佐藤さんや太田といった五武将は、どんな連中なのか?
ハクトも怒ってた割には、自分がどんな女の子か気になってるし。
佐藤さんは自分の偽者を見て凹んでたけど、確かに顔は似てなかった。
顔だけなら、タイとか東南アジアに居そうな感じだし。
でも強さに限っては、一言で偽者と言いづらいらしい。
あの太田が同じバルディッシュを持ったおっさんに、やられているからだ。
しかもその偽者から、凄い煽られ方をしていた。
弱い奴の偽者だなんて、言われたくない。
確かに偽者として自覚してたとしても、弱い奴の偽者になんかなりたくないなと僕も思った。
太田、結構押されてるな。
ヒト族に力で勝っている太田なら、偽者なんか軽く蹴散らせると思っていたのに。
力には技術をという考えは、計算外だった。
「この!」
「甘いですね。そうやって力任せに振り回すから、脇が開くんですよ」
大きく横薙ぎをしようとする太田に、その隙を突いて偽者のバルディッシュで太田は腹を突かれた。
ミスリルの胸当てが少し凹むと、太田は息を吐き出す。
「ブハァ!」
「それも隙になります」
大きく息を吐き出した太田に、バルディッシュが横薙ぎに襲い掛かる。
再び胸当てと当たり、激しい金属音が鳴り響いた。
大して反動がついてなかったおかげで怪我は無かったが、太田は混乱していた。
何故、自分だけ一方的に攻撃を受けるのか?
どうして相手は、簡単に避けられるのか?
太田は頭の中で考えながら、防戦一方になっていく。
「太田殿!」
思わず太田の手助けをしようとする佐藤だったが、そこに身体で割って入った男が居た。
「お前は俺が相手なんだよ」
エラが張ったその男は、軽やかなステップで佐藤と太田の間に入った。
「邪魔だ!この偽者が!」
「ハハッ!話は聞いてたけど、大した事無いな」
「何だと!?」
佐藤の三連ジャブを肩でブロッキングした男は、三発目のジャブを弾き返すと、お返しとばかりに右のジャブを突いてくる。
それをグローブで弾いた佐藤は、ある事に気付いた。
「お前、召喚者だな。ボクシング経験者だろ?」
「ご名答。何かよく分からないが、この世界では俺はそこそこの実力者になれるらしい」
「・・・何人も殺してきたな」
「そうしろと言われたんだから、仕方ないだろう?それに一人殺しただけで、急に力が付いた。殺して褒められて強くなれるなら、こんなありがたい事は無い。お前だって変わらないだろ?」
「俺も殺した経験はあるけど、お前みたいに喜んで手に掛けてない。俺は自分の、仲間の身を守る為にやってるんだ」
「考え方の相違だな。やってる事は変わらんよ!」
偽佐藤は佐藤へ一直線に前へ出た。
佐藤は身体を振りながら、偽者の横へとステップで避けてジャブを入れる。
しかし止まらない偽者はそのまま佐藤へと向きを変えて、突進を続ける。
「クッ!」
逃げ回る佐藤の後ろに、帝国兵達が待ち構えていた。
それを見て方向を変えようとする佐藤に、偽者の拳が脇へと入った。
「ぐあっ!」
慌てて距離を取る佐藤。
一呼吸置いて、偽者へと話し掛けた。
「お前、階級何処だよ」
「フフ、日本に居た時はライトだよ」
「ライト!?」
「アンタ、今はナチュラルウェイトなんだろうけど、本来はバンタムかスーパーバンタム辺りかな?」
「答える義理は無いね」
佐藤は答えなかったが、ほぼ負け惜しみだった。
彼の言う通り、自分の階級はバンタム級だったからだ。
佐藤の階級だったバンタム級は、約54キロ以下。
対して偽者のライト級は約61キロがリミットで、その差は四階級存在している。
佐藤は減量しなくなった今でこそ、60キロを超えている。
しかしそれは向こうも同じで、逆に向こうは70キロ近いと佐藤は見ていた。
10キロという差は、軽く殴られただけで吹き飛ばされるレベルである。
スピードで勝っているかもしれないが、一発食らっただけで逆転してしまう。
佐藤は今まで以上に、慎重にならざるをえなかった。
「ハハハ!この世界は階級なんか無いもんな。試合なら断れる。でも喧嘩、いや殺し合いか。それは断っても、一方的にやられるだけだもんな!」
また一直線に突っ込んでいく偽者。
佐藤はそれを避けようとしたが、ある攻撃に気付き咄嗟に反対へ身体を倒した。
「良いぞ、お前達!」
「クソが!」
「試合じゃないからな。リングサイドから魔法が飛んできても、文句は無いよな?」
佐藤は回避に専念した。
専念せざるを得ない状況になっていた。
「何か手を考えないと・・・」
マズイ。
非常にマズイ。
こんなに偽者が強いとは思わなかった。
ただの原色キワモノ軍団としか考えていなかったのに、まさか太田と佐藤さんが自分の偽者に押されるなんて。
【お前、人形持ってきてるんだろ。このままだと最後は押し切られる。分かってるよな?】
そうだね。
僕は支援と遠距離を担当しよう。
兄さんは、太田と佐藤さん達を助けてやって。
【ガッテン!自分の偽者も居ないし、相手が仲間に似てるわけじゃないからな。誰をぶっ飛ばしても問題無い!行くぜ!】
兄は敵のど真ん中へ鉄球をぶち込んでから、帝国兵の中へ入っていった。
なかなか敵もやりおるな。
統率されてるし、後ろから飛んでくる魔法も盾で防いでいる。
少しだけ、イッシー軍団を思い出した。
と思ったら、その通りだったらしい。
「お前達は前進を。向こうの牛の所には、予備隊から援軍を出せ」
金色の仮面を着けた男が、身振り手振りで指示を出してるじゃないか。
乗っている馬の装飾も金色で、かなり目立っている。
イッシーより派手で、微妙な感じだ。
しかし周りの連中も、何故か仮面を着けているのが不気味だな。
「お前、偽者の割には本物より目立ってるぞ」
「何者だ!?」
「あん?お前等仮にも魔王の配下名乗ってるなら、俺の名前くらい覚えとけよ。俺は阿久野。ちなみに本物な」
「コイツが!?お前達、全員で刺し殺せ!」
偽イッシーこと金仮面の指示で、長槍を持った連中が一斉に突き刺してきた。
「オイオイ、魔王様に手を出してくるとは、不敬は奴等だな。ぶっ飛ばすぞ?」
「黙れ偽者め!」
「偽者に偽者言われちった。ふざけんなっての」
鉄球を金仮面へと投げると、仮面に当たり偽イッシーは落馬した。
少しよろけているが、まだ動けるようだ。
どうやら仮面に当たる瞬間、首を逸らして威力を殺したらしい。
しかし金色の仮面は、既に壊れている。
「仮面ごと顔面を潰してやるつもりだったのに。アンタ、なかなかやるじゃないの」
「隊長!」
「大丈夫だ。だが、すまないが俺は一旦引く」
「お任せ下さい!」
本当にイッシー隊みたいな統率だ。
敵じゃなければ嫌いじゃないんだけど。
ん?
何だとおぉぉぉ!!
「お、お前!い、イケメンやないかい!」
「見たな!」
「あ・・・あぁ、そういう事」
「許さん!お前、俺の頭の事を吹聴してみろ!絶対に殺すぞ」
彼の顔に目が集中して気付かなかったが、髪の毛が少し残念な事になっていた。
顔はカッコ良いのに、髪が薄い。
若ハゲというヤツだ。
壊れた仮面を見ると、そっちには黒い物がある。
どうやら仮面は、カツラにもなっていたらしい。
なるほどね・・・。
これは寝返らせるチャンスかもしれんな。
「オイ偽者!お前においしい話をしてやろう。聞かないと、一生後悔するぞ。どうする?」
「黙れ!口車には乗るか!」
「そういう事言っちゃうかぁ。髪がフサフサになる話なんだけどなぁ。おっと!これ以上は・・・」
「隊長!」
「き、聞かないんですか!?」
まさかとは思ったが、予想通りだったとは。
仮面の下、というよりはカツラの下かな。
結局は彼等も、イッシーと同じ悩みを抱えていたわけだ。
「う、うるさいぞ!俺は日本で育毛剤も発毛剤も、どれだけ試したと思ってるんだ。そんな物はまやかしだ!」
「フハハハ!この世界を何処だと思っている。異世界だよ異世界。ファンタジーな薬くらい、あると思わないのかね?しかもヒト族には作れない、そんな薬がねぇ」
アレ?
意識したわけじゃないけど、言い方が悪者っぽい。
悪魔の、いや魔王の囁きみたいになってる。
「我が安土のイッシーは、キミ達と同じ悩みを持った同志だった。仮面の上を見た事があるかな?それが今ではフサフサだよ。そして彼の部隊は、同じ悩みを共有し、それを乗り越えた者達で構成されている。だから彼の部隊は、とても団結しているのだ!」
「隊長!我々は」
「黙れえぇぇ!!」
あまりの叫び声に静まり返る金仮面隊。
何処から取り出したのか、もう一度仮面を着け直している。
動きが止まった仮面の部隊に、周りの帝国兵も不審に思ってるようだ。
動かない彼の部隊の中から、ある行動に出る連中が現れた。
「お、俺は降る。この子の話が本当なら、その話に賭けてみたい!」
「お、俺もだ。それが例え悪魔に魂を売る事だったとしても、もう一度あの姿に・・・」
仮面を脱ぎ捨てる男達。
やはり頭頂部が寂しい事になっていた。
でも俺は、イッシー達がどれだけ変わったかを見ているからな。
「M字だろうがU字だろうが、バッチ来い!恥ずかしくて全部剃った?そんな奴も関係無いね。これだけは言っておいてやる。俺の言葉が偽りだと思ったら、後から腹切ってやるよ」
「隊長!!」
周りに説得された金仮面だったが、仮面の下の表情が分からないが一切動かない。
苦悶の表情で悩んでいるのか、それとも油断させようと薄ら笑っているのか。
何をされるか分からないので、俺は近付いていない。
「隊長、俺達は降りるぜ。別にアンタに借りがあるわけじゃないしな。ただ、その責任感だけは認めてるよ」
「お前」
「アンタはどう考えてるか知らないけど、俺達って別に帝国に助けられたわけじゃないと思うんだ。だったら自分の意志を尊重しても問題無いと、俺は考えるけどね」
身体の大きなスキンヘッドの人が、金仮面の男に話し掛けている。
どうやらこっちに来てくれるらしい。
「このガキが魔王かどうかも怪しいが、嘘だったら殺せば良いだけ。だが俺は、大人に囲まれながら腹を切ってやるなんて言ってくる奴が、嘘言ってるとは思えないんだよなぁ」
「・・・」
別に嘘じゃないんですけど。
嘘吐き呼ばわりされるのは癪に触るな。
なんて反論をしようかと思った時、金仮面がある行動に出た。
「俺達はあの村の救援に回る!悪いが皆、俺に残りの髪を賭けてくれ!」
金仮面が立ち上がると、仮面隊は全員が周りの連中に襲い掛かった。
スキンヘッドのデカイ人を筆頭に、結構押している。
まさか急に敵に回るとは、帝国の連中も思ってなかったんだろう。
「良いか。嘘だったら本当に殺す」
「本当だから信用しなよ。それと俺は、分が悪い賭けに出てくれた時点で、アンタ等を信用してるよ。だから死なないように、皆を指揮してやってくれ」
「分かった」
金仮面はそう言うと、仮面の部隊に戻っていく。
無駄な戦いをせずに勝ってしまった。
「こういうのは、弟や官兵衛しか出来ないと思っていたのに、俺でも出来るじゃないか。これをキッカケに、魔王改め賢王とか呼ばれてもおかしくないかな?ワハ、ワハハ!」




