偽者2
吸血鬼族って強いのね。
佐藤さん達が見てるだけって言ってたし。
身体を霧に変えるのは、魔法なのかな。
それとも種族特有の能力?
しかも佐藤さん達の周りで飛んでいた蝙蝠は、ヴラッドさんの身体の一部だって言うんだから、驚きだ。
身体の一部を切り離して偵察するなんて、チートだよね。
やられても所詮は一部だから、痛いって感じるくらいらしい。
僕もそういうの覚えたいなぁ。
しかしこんな凄い吸血鬼族を、先代魔王は何故スカウトしなかったのかと疑問に思ってたけど、それには昼の村人であるヒト族が関係してたみたいだね。
帝国にも魔王にも吸血鬼族の噂すら流さなかったとは、余程絆が深いんだろう。
昼の村長パウルさんはおじさんだけど、多分ヴラッドさんからしたら子供の頃から知ってたのかもしれない。
下手したら、そのパウルパパの子供の頃も知ってそうだな。
そんな話をしていたら、再び帝国が向かってきているらしい。
しかし夜明けが近いからか、吸血鬼族は戦えそうにない。
ここはいっちょ、吸血鬼族に魔王の強さを知ってもらいましょうかね。
あ、吸血鬼族は寝ちゃうから見てもらえないのか・・・。
昼前かな?
なんだかんだで四時間以上は寝てたっぽい。
どうしてそんなに寝る事が出来たのか?
それは向こうが、吸血鬼族に警戒して立ち止まったのが大きな理由だ。
やっぱり吸血鬼族は、この大陸でも知られていない種族のようだ。
僕も長可さんから、様々な種族と会うのだから失礼の無いようにと、各種族の特徴は教わっている。
しかしそんな中でも、吸血鬼族の話は一切出てこなかった。
貿易都市である長浜出身の官兵衛も、吸血鬼族を長浜で見た事は無いと言っている。
帝国も未知の敵とやり合うのは、少し躊躇するんだな。
「おはようございます。胃に優しい物を用意したので、起きた方は食べて下さい」
「おはようございます」
どうやらパウルさんは、ヴラッドさんから村長引き継ぎを行なったようだ。
何の違和感も無く、僕達に朝食というかブランチ?を用意してくれた。
「パウルさんは、何処まで話を聞きましたか?」
「皆さんが魔王様一行だという事。越前国を目指して、遠い西の地からやって来た事。そして、帝国が我々を贄にしようとしている事ですかね」
ほとんど聞いてるのね。
まだ寝ているが、官兵衛から大半は説明されたという話だ。
「お休みのところ申し訳ないのですが、見張りから帝国軍がまたやって来たという連絡が来ました」
「大丈夫。僕達が何とかしますから。トメイトゥ料理でも作って、待ってて下さい」
「先に起きた方も同じ事を言ってましたが、この少人数で大丈夫ですか?」
吸血鬼族と比べると、確かに心許無く見えるだろうね。
魔族は四人にヒト族三人。
そのうち一人はガキンチョで、二人は戦力外ときている。
パウルさんからしたら、心配するなという方が無理な話だ。
「ヴラッド村長からは、安心して良いと言われてます。だけど、本当に大丈夫ですよね?」
「大丈夫です!何なら鉄の壁で、村全体を覆いますか?」
壁の周りに火を付けられたら、鉄鍋状態でミイラになりそうだけど。
そこまで頭の回る帝国兵は居ないだろうけどね。
「フワァ、よく寝たのである。お、ご飯の用意があるとは、ありがたい」
「良い匂いだ。腹減ったな」
皆も飯の匂いに釣られて起きてきた。
「もうすぐ来るらしいから、食べたらすぐに出るよ」
「朝食にトマトサラダとか、懐かしいな。これとベーコン。それにバターをたっぷり塗った食パンなんかあったら、最高だけど。全部あるじゃない!」
佐藤さんが食卓の上を見て、凄いハイテンションになっている。
よくよく考えると、確かにこの朝食は日本の朝の食卓でも見る気がする。
僕はご飯と生卵に焼き海苔や納豆派だけど、たまにはこういうのも悪くない。
「ミノタウロスの方だけが、先に食事を済ませて外に向かいました」
「太田殿、やる気満々だな」
という事は、太田がトメイトゥ料理を用意して待っててくれって言ったのか。
アレだけ血の色だの言って、嫌がっていたのに。
ハマっちゃったかな?
「じゃ、僕は食ったから先に行くから」
「吾輩もパンをもう一枚食べたら、向かおう。秘密兵器を用意してるから、楽しみにしておくのである」
太田がヒト族の人達の中に紛れて、村の外に立っている。
身体が二回り以上大きいから、すぐに分かった。
「魔王様!おはようございます」
「この子が魔王!?」
「あ、おはようございます。僕が魔王です」
挨拶をしたら、深々と皆から頭を下げられた。
僕からしたら、トマトを作ってくれた彼等に頭を下げたい。
「どんな感じですか?」
「は、はい!ここからは見えないんですが、丘の向こう側で軍が配備されてます。鎧姿で顔までは見えないんですが、旗印に魔王の文字があります」
旗に魔王?
そんな旗、使った事無いよ。
しかもそれ、ダサくない?
「敵の撹乱作戦なんでしょうな。ワタクシも魔王様に会っていなければ、あの旗を見て喜び勇んで駆けつけたでしょう」
マジかよ。
旗だけでそこまで信じちゃうのか。
「敵の数は?」
「正確には分かりませんが、およそ五千近いかと」
「それくらいなら、何とかなるんじゃない?」
「本当ですか!?」
以前に太田が、一人でそれくらいの敵を相手にした事があった。
その時は完全フル装備だったけど、一人じゃないならフル装備じゃなくても大丈夫じゃないかなぁ。
「到着したのである」
どうやら全員揃ったらしい。
その中でも佐藤さんは、コバから何かを運ばされていた。
「意外と重いんだが、何だこれ?」
「見て驚け。手に取るのである」
「ダイヤモンドじゃないか!」
「デカっ!」
拳とほぼ同じ大きさのダイヤが、全部で三つ入っている。
コバはそれを、佐藤さんと長谷部、そして太田に手渡した。
「え?俺も?」
長谷部は自分が渡されると思ってなかったらしく、上擦った声で聞き返している。
「見ての通り、金剛石である。中に魔力は完全に込められていない」
「なるほど。コレを使って魔法を吸収しろって話だな?」
「違うのである」
違うの?
僕、ドヤ顔で自信満々に言ったけど、恥ずかしいな。
「よく聞け。金剛石は最初に吸収した魔力と近い物でないと、魔力は吸収しないのである。ほぼ同じ種族が発した魔力以外は、吸収しないと考えれば良い」
「でもよ、それじゃどの攻撃を吸収するか分からないじゃないか。むしろ吸収するのかよ?」
「長谷部が今、良い事を言ったのである」
「えぇ!?」
自分で言って自分で驚く長谷部。
僕達には何が何だか分からない。
「コレはゴブリン達が、少し魔力を込めた金剛石である。まだ色が変わっていないので、アポイタカラには程遠い。そしてさっき長谷部が言った事を覚えているか?」
「吸収するか分からない?」
「正解である。検証中に知ったのだが、金剛石は魔力を弾く事も出来る!」
「えっ!?」
「奴等がゴブリンに、クリスタルの中に魔法を込めさせていたら、魔法を吸収するであろう。しかし、そうでなければ」
「魔法を弾く?」
「その通り!」
なるほど。
コバが言いたい事が分かった。
金剛石を渡した三人は、接近戦をするタイプだ。
特に佐藤さんと長谷部は手に届く範囲にしか、攻撃が出来ない。
遠距離から魔法で延々と攻撃をされれば、手出しが出来ないという事だ。
しかし、魔法を弾くという金剛石を持たせていれば、弾くのも可能。
二人が接近出来る確率は、大幅に変わるだろう。
「お前達三人は、特に攻撃を受ける事になる。何処に装備するかは、各々で決めるが良い。弾きやすい場所に装備するのだ」
「なるほどね。じゃあ俺はグローブに」
「ワタクシは左腕に」
「え?俺は・・・どうしよう?」
長谷部が何処に着けていいか迷っている。
コレばっかりは本人が決めるしかない。
ここが良いよなんて言ったところで、本人が使いづらければ意味が無いからね。
「装着完了である。長谷部よ、早くしろ」
「えーと、あー・・・。俺、メリケンサックみたいに使いたいんだけど」
「な、殴るのか!?」
「いやあ、佐藤さんだって殴るでしょ?」
「俺は殴る為というより、避ける為に外側に着けてるから。ちょっと用途が違うかな」
佐藤さんのグローブを見ると、確かに手の甲の辺りに着けていた。
これなら弾くような感じで使うと分かる。
「メリケンサックか。しかしそんな物は用意していない。魔王」
ハイハイ。
僕に作れというんだな。
とは言っても、僕だってメリケンサックなんか実物を見た事が無い。
分からん物は作りようが無い。
「長谷部、絵で描いて」
「絵で!?」
「だって見た事無いし。このままだと作れないよ?」
唸る長谷部だったが、地面に枝で描き始めると、すぐに分かった。
ついでにダイヤが装着出来るように、加工しておこう。
「長谷部くん、絵上手いですね」
「本当だ。お前、上手いよ」
「マジっすか?」
「うむ。吾輩も上手だと思うぞ。魔王なんか芸術的センスが壊滅的だからな」
「うるさいな!」
それでも絵を見ただけで作れるんだから、僕だってそこまで酷くないでしょうよ。
兄さんは分からないけど。
いや、似たようなもんか。
【お前に言われたくない。でも、否定はしない。俺達、美術とか下手だったからな】
絵は苦手だけど、図工はそこまでじゃないと自負してるつもりだよ。
プラモデルとかも作れるし。
【プラモくらいは俺も作れるよ。塗装とかは苦手だけど】
結論、そこまで酷くない。
「出来たのである。どうだ?」
「うん。木刀も握りやすいし、悪くない」
「ワタクシ気になったのですが、コレでミスリルの鎧を殴ったら、どうなりますか?」
「そりゃ鎧が凹むだろう。こっちの方が硬いんだから」
「なるほど。腕を振り回しても、攻撃出来そうです」
防御の為だと言ってるのに、コイツは何を考えてるんだ。
全く、怖い奴だな。
「敵が動きました!」
丘の方から走ってきた村人が、大きな声で叫んでいる。
彼の後ろからは、ミスリルの軽鎧を着て顔を隠した連中が足並みを揃えてやって来た。
「俺達も行くぞ!」
「待って下さい!何やらおかしな連中が居ます」
官兵衛が言ったおかしな連中は、僕達にもすぐに分かった。
だって、目立つ色をした鎧を着ているからだ。
「何だ?将軍とかか?」
「いやいや!あんなに目立ってたら、攻撃してくれって言ってるようなものですよ。僕ならあの人達に向かって、矢を放ちますね」
確かに。
僕もあんな真っ黄色な鎧を見たら、魔法で狙い撃つな。
そうこうしているうちに、その目立つ連中が前へ出てきた。
どういう事なのか分からないが、拡声器を持っている。
魔道具ではなく、一般的な物と変わらないようだ。
そして奴等は、僕達に向かって自己紹介を始めた。
「フハハハ!我々は悪の魔王配下である五武将!」
「五武将?」
「そして魔王側近の両腕である、僕達も来ている」
ひいふうみい。
確かに目が痛いくらいの原色は、七人だな。
しかしこの七人、見てて面白い事になってきたぞ。
「トゥ!私は魔王配下の前田又左衛門利家!又左レッド!」
リーダーは又左なのか。
「セイ!拙者は慶次!慶次ブラック!」
慶次は本人よりやる気勢だ。
「俺は佐藤ブルー!」
本人が口をパクパクしてますよ。
「ワタクシは太田イエロー。お前達はもう、万に一つも助かる見込みは無いですよ」
太田は・・・無理があるでしょ。
「ハッハッハ!俺はゴールデンイッシー!仮面の下を見た奴は、死ぬぜぇ!」
何処かの死神か?
しかも五武将なのに、いきなりゴールドなの?
「我等、五武将!」
ポーズ決めないのかな?
するとその両サイドから、両腕と言われる二人が出てきた。
「俺は蘭丸。蘭丸シルバー。悪いな、村の女達は俺がもらってくぜ」
うわぁ・・・。
決めポーズにウインクかよ。
本人見たらキレそう。
いや、こっちの方がキレそうかな。
「ウフフ。私はハクト。ハクトピンク。魔王様の敵は私がやっつけるわ!」
ハクト、女の子になってるんだけど。
全員がハクトの方を見てるけど、流石に笑えない。
あ、怒った。
「ふざけんなぁ!僕は男だよ!何だよピンクって!そりゃちょっとは、男らしくないかもしれないけどさ。だからって女にしちゃう?帝国、馬鹿なんじゃないの!?」




