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昼の顔、夜の顔

 トマト、じゃなかった。

 トメイトゥは魔族には不人気らしいね。

 見た目が真っ赤で悍ましく見えるみたい。

 食べたらすぐに美味いと分かってくれたけど、まさかそこまで第一印象が悪いとは思わなかった。

 それでもこの村の特産物として、帝国では高値で買われているという話だ。

 ヒト族には高級食材として扱われているみたいだけど、魔族に浸透しなかった理由は何だろう?

 後で聞いてみよう。

 夕食はナポリタンを食べたけど、ナポリタンって子供の頃を思い出すよね。

 子供の頃はパスタなんて呼ばずに、スパゲティって呼んでたなぁ。

 どうしてだろう?


 夜になると僕達は、食べ過ぎて寝られなかった。

 外には出るなと注意されたけど、何故か物音ではなく声が聞こえた。

 僕達は外へ出てみると、そこには昼間と同じように人々が行き交っていた。

 何が違うかよく分からなかった僕達だったが、さっきまで不人気だったトマトジュースを、多くの人が飲んでるじゃないか。

 それを見た長谷部は腰を抜かしていたが、それはトマトジュースではなく、飲んでる人を見ての事だと分かった。

 彼等はどうやら吸血鬼らしい。

 ただ、ヒト族の村を襲ってるって感じじゃないんだよね。

 紳士的だし、どういう事なんだろう?






 夜は我々の時間?

 もしかして、ここに居る人達は全員吸血鬼か!?

 僕達、結構ヤバイ状況にあるんじゃ?



「そんな怖い顔しないで下さい。せっかくの食事がマズくなりますから」


 食事?

 トマトジュースが食事だっていうのか?



「トマトジュースが食事?」


「そうですよ。私達の夜食です。あ、皆さんで言えば、朝食か昼食ですかね」


「吸血鬼って血を吸うんじゃないの?」


「それは過去の話ですよ」


 過去って事は、今は違うのかな。

 何か思ってた吸血鬼像と全く違うな。



「オイラからも質問よろしいですか?」


「長くなります?だったら皆さん、私の仕事場でお話ししませんか?」


「仕事場?」


「申し遅れました。私はヤッヒロー村、夜の村長、ヴラッド・レイです」


 名前、カッコ良いな。

 顔色は悪いけどイケメンだし、モテそうだ。

 背は高いけどスラっとしてて、草食系男子が好きそうな人にはたまらない感じっぽい。



「ご丁寧にどうも。僕は安土から来た、阿久野マオです。よろしく」


「阿久野さんですか。珍しいですね。遠い地で名乗ったと言われる、魔王様と同じ名だ」


「あ、ハイ。そうですね」


 あら?

 ここまでは名前が届いてるだけで、容姿までは知られてないっぽい。

 子供が魔王ってのは、結構有名になりつつあると思ったんだけど。

 帝国を挟んでこっちには、詳しい情報は出回ってないのかな?



「ではヴラッド殿。お邪魔になりたいのですが、よろしいでしょうか?」


「では、ご案内致します」






 着いた場所は、最初に見た大きな家だ。

 というか、村長の家だったのか



「仕事場って村長宅?」


「もしかして、昼間に来ましたか?」


「大きな家だなぁって思って。そもそもこの村の家、皆大きい気がするんですけど」


「それはですね、我々吸血鬼族とヒト族が、同居してるからですね」


「同居!?」


 そんなの可能なのか?

 昼間に働くヒト族と、夜に活動する吸血鬼族。

 そんな正反対の生活をする二組が、どうやって上手くやっていけるんだろう。



「不思議そうな顔をしていますね。でもこれは、お互いにとってもメリットがある話なのです」


「メリットですか。例えば?」


「分かりやすく言えば、役割分担ですね。我々は今や血の代わりに、トマァトジュースを頂いています。しかし我々は昼の日光には弱く、トマァトの栽培が上手く出来ません」


「それをヒト族の彼等が行なっていると。では、その対価に、吸血鬼族は何を差し出しているんですか?」


 官兵衛がグイグイ聞いている。

 さっきからかなり積極的だ。



「我々は主に、夜でも出来る仕事ですね。このような事務作業は、夜の村長である私が。昼の村長であるパウルさんは、対外的な事を任せています。特に帝国との交流は、全て彼が行なっていますね」


 そりゃそうだろう。

 魔族だと知られたら、彼等も捕まってしまうだろうし。

 パウルさん、一見はただの人の良さそうな人だったけど、こんな事を隠してたとは。



 しかもこの村には、本来ならヒト族を泊める宿は無いという。

 僕達の場合は、太田を代表にしたのが大きかったみたい。

 佐藤さんやコバ達みたいなヒト族とも仲良くやってる僕達は、彼等の意思を理解してもらえると特例的な感じで泊めてもらえたようだ。



「それと、狩りは我々の仕事ですかね。トマァト栽培を任せる代わりに、彼等の食材を我々が用意します。ウィンウィンの関係ですよ」


「は、はぁ・・・」


 ウィンウィンと言われても、官兵衛はよく分かっていない。

 持ちつ持たれつと教えると、なるほどと言っていた。



「遅くなりましたが、オイラの質問よろしいですか?何故、ヒト族と魔族がこのように暮らしているのですか?」


「それを聞いちゃいますか・・・。ちょっと長くなるんですけど」


 そういうと彼は、僕達にコーヒーを淹れてくれた。

 長くなるから寝ないようにかな?



「では、お話ししましょう」






「元々、我々吸血鬼族は、この地の者ではありません」


「というと、西や北、南から来た?」


「違います。別の大陸からやって来たのです」


「別の大陸!?そんなのあるの?」


 頷くヴラッドさん。

 疑問には感じていたけど、本当にあったとは。



 実はコバと戦艦の中で、ある話をしていた。

 この世界は何処まであるのかと。

 僕達は海の魔物が強力過ぎて、その先を知らない。

 もしこの海を更に北へ行けば、新大陸があるんじゃないかってね。

 まさか、それがこんな形で実証されるとは思わなかった。



「だったら、どうしてその別の大陸からこの地へ?」


「お恥ずかしい話ですが、別種族との戦争に敗北しました。居場所が無くなったのです」


「吸血鬼って弱いのか?俺の中では、そう簡単には死なないイメージなんだけど」


 長谷部の言う通り、僕達の中では吸血鬼って強いイメージがある。

 斬られても死なないし、コウモリに変身出来たり狼にもなれたりするって聞いた事がある。

 その反面、ニンニクに弱いとか銀に弱い。

 十字架もダメだし、弱点も多いかな。

 何より、さっきも自分で言ってたけど、太陽の光に弱かった。



「さっき私が自分で言いましたが、我々は日光に弱いんですよ」


「それって太陽の光を浴びると焼けちゃうとか?」


「日焼けに弱いのもありますね。すぐに赤くなります」


「そっちかよ!」


「スキンケアが大変です」


「女子か!」


 思わずツッコミを入れてしまった。

 想像してた弱点と違うんだもんよ。



「まだありますよ。長く日の下に居ると、貧血を起こします」


「校長の話が長いとあるよね。って、ちげーよ!」


「阿久野くん、ノリツッコミ面白いですね」


 褒められました。

 嬉しくない。



「それで、敗北したというのは?」


「今言った通りです。我々が太陽に弱い事が知られてしまい、侵略されてしまったんですね」


「でも、夜なら強いんだろ?だったら、夜にやり返せば良かったんじゃないんすか?」


 長谷部の言う通りだ。

 やられたらやり返さないと、駄目だろ。



「我々は他にも弱点がありまして。それは教えられないんですけどね。それを大々的に使われてしまい、攻撃出来なくなってしまったのです」


「うーむ、銀製の門とか壁って所かな?壁の上には、銀の鏃を持った弓兵ってところだろう」


「なっ!?阿久野くんは、我々と同じ大陸出身ですか?」


 首を横に振ったけど、ドンピシャ大正解だったみたいだ。

 ヴラッドさんの顔が、汗だくになっている。

 弱点を知られてしまったからだろうけど、別に戦うつもりも無いから安心してほしい。



「今言った通り、夜はシルバーで覆われた建物に籠られてしまい、手出しが出来なくなってしまったんです。我々が手出し出来なくなったのを見た他種族も、全員が同じ対策を施してきました。その結果、我々の居場所は無くなったのです」


「他の種族の下に就くという考えは?」


「そういう連中も居ましたよ。多くは酷い扱いで、家畜のような生活になったという話です。そんな事に耐えられなかった我々は、こちらの大陸へと渡ってきました」


 敗走して、安住の地を求めてやって来たというわけか。

 それなら静かに暮らしたいのも分かる。

 だけど、我々って言ったよね?



「ヴラッドさん、何年前くらいにこっち来たの?」


「ええっと、百年くらい前ですかね。もっと前かな?」


 要するに、覚えてないくらい前という話か。

 そんな中、長谷部が珍しく手を挙げた。



「あのよ、吸血鬼って言ったら血を吸うよな?こっち来た時、どうやって生活してたんだ?」


「どのような経緯で、ヒト族と暮らすようになったのか。そこが知りたいです」


 官兵衛も気になるらしい。

 彼もフランジヴァルドで、ヒト族の女の子と仲良くやってるからね。

 そう考えると、上手く共生していく術を知りたいのは当然かもしれない。

 あー羨ましい。



「別大陸に居た時は、ヒト族や獣人族、エルフや様々な連中を襲って血を吸ってました。それを行なった結果が、敗北です。だからこちらの世界では、極力ひっそりと暮らしていました。血は魔物を倒して吸ったりしていたのですが、そんな時です。トマァトという実を発見したのは」


「トマトって向こうの大陸には無かった?」


「ありません。トマァトは我々を満たしてくれました。しかし我々には、トマァトの栽培方法が分かりませんでした。当時はトマァトを見つけた時は、歓喜しましたね」


 トマトってその辺に出来てるのかな。

 家庭菜園とか庭先で出来るくらいだから、結構簡単に作れるのか?



「我々がトマァトを探しながら暮らしていると、そこにあるヒト族がやって来たのです。彼等は痩せ細り、血を吸っても美味そうではありませんでした」


「もしかして、それが昼間のヒト族の人達?」


「正確には、彼等はその子孫ですね。彼等は騎士王国という国で負けた、落武者というヤツでした。話を聞く限り、我々と同じ境遇。そこで私達は、ある提案をしたのです」


「それが共生ですか?」


 頷くヴラッド。



「我々が彼等の為に、魔物の肉や森に出来ている木の実、薬草等を。彼等はトマァトの栽培を担当しました。そしてこの地に村を作り、今では帝国や魔族とも取引のある、大きな村へと発展したのです」



 どうやらようやく話が見えてきたぞ。

 吸血鬼族もヒト族も、敗北して逃げ延びた一族だったわけだ。

 そこでお互いに協力し合い、この村を作ったって事だな。

 しかも凄いのが、村なのにヒト族と魔族両方と取引をしているという点だ。

 よく帝国に吸血鬼族が見つからず、ずっとこんな所で生活出来るものだ。



「パウルさん達は更に、トメイトゥという新しい品種まで作ってくれて、本当に感謝してますよ。我々もそんな彼等に報いる為に、森は安全に通れるように魔物の駆逐に精を出してます」


「そうか。魔物が出ないなら、ヒト族も来やすい。そうなればトメイトゥを求めて、商人もやって来る。ヴラッドさん、凄いっすね!」


「ハハ!ウィンウィンですよ。ウィンウィン」



 笑っているけど、この村は凄い。

 僕達が安土を作るより前に、はるか昔から一緒に暮らしてたんだから。

 言うならば、僕達のパイオニア的存在と言っても過言では無い。



「マジで尊敬しましたわ。ヴラッドさん、ありがとう」


「そうですか?お役に立てて何よりです。あっ!」


 そんな事を言っていると、彼は外を見て慌てて立ち上がった。



「ど、どうしたんですか?」






「もうすぐ夜が明けてしまう。その前に洗濯物を済まさないと!洗濯は我々の仕事なんです。日が昇る前に、パウル殿達の洗濯もして、干したら我々は就寝の時間です。すいませんが、手伝ってもらえます?」

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