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冬の村

 なんだかんだでお世話になったなぁ。

 エクスとブルーの二人が船に滞在してくれたおかげで、下手な魔物は一切近付いてこなくなった。

 それにもっと大きかったのは、この二人による火と水の使い方講座だろう。

 ドラゴンの姿では無理でも、人の姿なら火力調整が出来るみたいで、僕達でも扱えるような闘い方を教えてくれた。


 爆発は火魔法だけでなく、風魔法も使わないと無理という事なので、少し難しい気もする。

 又左や慶次、佐藤さん達には会得出来なかったが、蘭丸は使えそうな気配を感じていた。

 今後の特訓に期待だ。

 ブルーによる水の使い方も教わったが、それは今度話すとしよう。


 雪が舞い散る陸地が見えた時、二人との旅は終わりを告げた。

 お世話になった二人に別れの挨拶を済ませ、いよいよ東の地へと足を踏み入れた。

 そして僕達は、船の見張りと東の領地を目指す二手に分かれて行動をする事にした。

 とは言っても、船でずっと待つのは辛いものがある。

 だからまず、全員で待機組の為の家を作る事にした。






 コバの指示を聞いていると、昔ながらの瓦屋根の日本家屋を思い出した。

 安土の屋根はよくよく考えると、平べったい屋根が多い。

 雪が降ったりしないからかもしれないが、水捌けもあまり良さそうな気はしない。

 多分同じような屋根にすると、雪の重みで潰れてしまう気もする。



「切妻屋根で十分である」


「切妻?」


「三角屋根の事である。作りやすいが、劣化もしやすい。しかし吾輩達は、ここに住み移るわけではないのである」


 コスパ重視で考えるなら、それが良いという結論らしい。

 それよりも気になるのは、コバは何故屋根の種類なんか知ってるんだろう?

 そんな事覚える必要が、あったのだろうか?



「官兵衛よ。吾輩が言うように絵を描くのである。魔王は少々、かなりか?芸術面に疎いのでな。設計図を見せても分からないであろう。絵で説明するのである」


 家造りに芸術関係ある?

 とは言うものの、この世界に来た直後の半壊した小屋を思い出すと、そっちの方が無難である。

 絵を見てすぐに理解出来れば、創造魔法で作り出すのも簡単だからね。



「流石は官兵衛である。絵が上手い」


「お褒めいただき、ありがとうございます」


 聞いた事を忠実に再現出来るのは、頭が良いからだ。

 彼はそう言って、僕に官兵衛の絵を見せてくれた。

 確かに上手だ。



「これならすぐに完成させられるよ」


「大人数で住むのである。耐久性重視で、戦艦に積んである資材も使うが良い」


 意外にもコバが資材を使う事を許可した。

 魔物に襲われた際の補修用に、かなりの量を積んできたのだが、実際はエクス達の働きで使う機会がほとんど無かった。

 おかげで余ったので、それを流用しようという考えらしい。



「では、建てるのである!」


「任された」


 絵を見ながら、細かい所まで想像していく。

 僕はまず、最初の一棟を完成させた。



「これでどうかな?」


「うむ。バッチリである!」


 コバからバッチリと言われると、結構嬉しいものがある。

 自分にも他人にも厳しいから、アレが違うとかここが駄目とか、指摘が入ると思ったからだ。



「よし、コレと同様の家を、あと二十は欲しいな」


「ま、任された」






 何処の建売住宅だろう?

 二列に並んだ同じ家が、海岸沿いに沢山作られている。

 もしこの光景を近くに住んでいる人が見たら、一夜城ならぬ一夜宅として驚く事は間違いない。



「これで済んだな。何処に住むかは、各々で決めるが良い」


「オレは女性航海士達と一緒に住むから、後は勝手に決めてくれ」


 嘉隆は早々に、数人しか居ない女性航海士と住むと断言した。

 あわよくばと考えていたイッシーは、仮面で表情は分からずとも肩がガクンと落ちた事で落胆したのは丸分かりだ。



「流石に俺達が誰と住むかなんて決めるのは、アホらしいからな。それくらいは自分で頼むぞ」


「それじゃ僕達は、今夜も船で寝るとしよう。明日は朝食を済ませたら、街探しに出るよ」


「トライクにキャリーカーを牽引させて、資材を積み込むのである。長旅に備えて、万全を期して向かうのだ」



 陸地に着いたら着いたで、やる事は多い。

 僕達は意外にも、無事にたどり着いたという安堵からか、疲れがドッと出てすぐに眠りについた。



「では、内陸部を目指して出発しよう。皆、留守は頼んだよ」


「任せろ。何かあったら、すぐに連絡するから」


 蘭丸は右手に持った携帯電話を掲げて、そう言ってきた。

 便りが無いのは良い知らせとなれば良いと思う。



 僕達は防風林を越えて、山が見える方へとトライクを走らせていった。





 雪道が結構辛いな。

 バイクなら何度転倒しているか、分からないぞ。



「なかなか大変ですね。速度を上げると滑るし、山道が険しいです」


「太田、後ろにはハクトが乗ってるから安全運転だぞ」


「御意」


 不意に攻撃されても耐えられる太田を先頭に、異変を聞き逃さないようにハクトが聞き耳を立てている。

 過度な警戒は疲れるだけだけど、しないよりはマシだ。



「何か面白い事無いかなぁ」


「滅多な事を言うな!そういう事を口にすると、ほら来た!」



 角が立派な鹿のような魔物が現れた。

 明らかに鹿と違うのは、口に牙が生えているので、肉食獣だという点だろう。

 見た事の無い魔物なので、東側にしか生息していないのかもしれない。



「兄さんのせいだな。罰として一人で倒しなさい」


「俺もやるよ。身体動かしたいし」


 佐藤さんがトライクから飛び降りると、鹿に殴りかかった。

 そこに兄が、突然避けろと口を出した。



「うおっ!何だこれ?形状が変わるのか。阿久野くん、助かったよ」


「佐藤さんが向かった瞬間、角から金属の反射した光っぽいのが見えたんだよね。もしかして剣かなって思って」



 今の魔物の角は、鹿の角から二股槍のような形に変わっていた。

 戦闘態勢になると、変化するっぽい。

 兄が試しに石を頭目掛けて投げると、角で石を真っ二つにしていた。

 切れ味も刃物同様にあるようだ。



「形が変わるなんて、凄いな」


「それよりもだ。コイツ、美味いのかな?」


「だよね。佐藤さんもそっちが気になるよね」


「さっさと倒して、ハクトにメシ作ってもらおう」



 如何に角が立派でも、魔物は魔物。

 兄達の敵ではなかった。

 角の攻撃は人が振るう剣とは違い、少し戸惑っていたが、佐藤さんも慣れた頃にはカウンターで顔を殴りつけると、すぐに失神してしまった。

 そこに兄がトドメを刺して、今は皮を剥いでいる。



「山奥に行けば、もっと寒くなるかも。皮は捨てずに、残しておいた方が良いかもね」


「皮のなめし方なんか知らないからなぁ。どうしよう?」


 コバをチラッと見たけど、流石にそんな事までは知らないらしい。

 こういう時、スイフトとか居たらやり方知ってたんだろうけど。

 って、電話すれば良いのか!



「もしもし、アタシ魔王。スイフトくん居ますか?」


「ハイ?魔王様!?」



 アホな会話からスタートしたけど、スイフトの魔力量はそこまで多くない。

 要件だけ言うと、すぐに教えてくれた。



「樹木の液や草から汁を取り出して下さい。それを皮に含ませると、硬くなりづらいです。金属からも出来ると、ドワーフの方々から聞きましたが、そちらはやり方が分かりません」


「分かった。ありがとう」


 スイフトが少し疲れたような感じだったので、早々に電話を切った。

 すると、コバが金属からという言葉に、何か思い出そうとしている。



「コバ、どうした?」


「その話、以前に昌幸殿から聞いた気がしたのだが。興味が無くて聞き流してしまったのである。ちゃんと聞いておけば良かった・・・」


 頭を抱えてそう呟いたコバ。

 珍しい姿に、コバでも反省するんだなと皆は少しだけホッコリした。






 数日掛けて走り回ったある日。

 とうとう村を発見!



「昼時だからですかな。煙も上がってます。人が居るのは確実でしょう」


「やった!第一村人発見だ!」


 別にダーツは投げてないのだが、確かにようやくと言った感はある。



「いきなり大勢は危ないな。太田と佐藤さんで、様子を見に行ってもらっても良いかな?」


「分かった。俺達は旅の商人的な感じで良いよね?」


「そうですね。資材を積み込んでるので、それで問題無いかと」


 官兵衛のOKが出たところで、二人は歩いて村へと向かっていった。



 しばらくすると太田が、村へと入る許可を得たと戻ってきた。



「よし、東の領地の村人達に話を聞こう」





 村は何処にでもある素朴な感じだ。

 どうやら東の領地にある、ヒト族の村らしい。

 畑や田んぼもあり、不自由な生活をしているとは思えない。

 それに家も結構立派なのが多く、むしろ裕福な印象を持った。

 唯一疑問に思ったのは、村人に対して家が大きい。

 大きな家なのに、住んでるのは少ないなという気がした。



「我が村、ヤッシローへようこそおいで下さいました」


「こちらこそ大人数を受け入れて下さり、ありがとうございます」


 挨拶をしているのは、太田だ。

 僕達は子供の姿なので、代表としては論外。

 ハクトや官兵衛も代表としては頼りなく、長谷部はリーゼントで何者か分からないので除外。

 コバは偉そうだが、挨拶とか出来なさそう。

 佐藤さんと太田で迷ったが、佐藤さんは辞退したので必然的に太田になった。



「ところで皆さん、商人という事ですが。何か変わった物を売ってたりしますか?」


「ねえ、おじさん。どうして俺達が、変わってる物を売ってると思ったの?」


 おぉ、兄さん!

 昔と比べると子供っぷりが上手くなったな。



「ヒト族と魔族の商人隊など、初めて見たからね。普通はヒト族だけとか魔族だけみたいな、商人が多いんだよ。それにキミ達にはあまり大きな声で言えないけど、帝国から近いからね。魔族が見つかったら危ないから、キミも気を付けるんだよ」


 なるほど。

 驚いてる割には、そこまで忌避感のような物は感じない。

 むしろ歓迎されている感がある。

 それにわざわざ、兄に気を付けろなんて言ってくるとは。

 この村はヒト族しか見当たらないけど、魔族には寛容なんだな。



「ふむ。吾輩達が扱っているのは、このような物である」


 コバが無難な発明品や、鉄製の鍋などを見せている。

 その間に僕達とハクト、そして官兵衛と長谷部は村の中を歩き回る事にした。



「この村、少し違和感がありますね」


「ですよね。なんつーか、隠し事してるような?」


 官兵衛と長谷部がそんな事を言っているが、ハクトは聞き耳を立てても、僕達に隠し事をしてたり避けているといった声は聞こえないという。



「家が大きいのが気になるんだけど、雪が降るから頑丈にしてるのかな?」


「それでもこの辺りは、暖かい方だよね。海岸と比べると、雪なんか降ってないし」


「うーん、分からん!それよりもこの村、裕福そうだけど。何が特産品なんだろう?」


 兄は分からない事は後回しにして、自分に興味がある事を優先し始めた。

 人形の姿で歩き回れない僕は、兄のバッグから頭だけ出しているので、歩くのに合わせて首を動かして周りを見ている状態だ。

 すると、兄が何かを発見したらしい。



「あの畑、もしかして・・・」


 走り出す兄。

 僕は畑の方を見ると、そこには久しぶりに見たある物を発見した。



「トマトだ!久しぶりに見たな」


「トマト?違うよ。これはトメイトゥだよ」


 畑の持ち主であろう。

 僕達がトマトに興味を持ったからか、話し掛けてきてくれた。



「トマトでしょ」





「違う違う。俺達が作ってるのはトメイトゥ。ほら、道を挟んで向こう側にも、赤いのが見えるだろ?あっちがトマァトだ。トメイトゥは比較的甘いが、トマァトは加工して使う事が多い。ま、どっちも美味いけどな」

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