東の地
エクスちっさ!
あんな大仰な態度を取ってるくせに、人の姿は子供かよ。
ただ、育ちの良さというか何なのか、顔や身なりは綺麗なんだよなぁ。
僕達も自分で言うのもアレだけど、顔は悪くない。
でも、育ちの良さが出るかと言われたらどうかな。
この世界に初めて来た時なんか、犬小屋を大きくしたようなボロ小屋に住んでたし。
ちょっと格差を感じた。
それに対してブルーの方は、ちょっとしたヤンキーっぽい顔ではある。
長谷部と街で目が合ったら、喧嘩しそうな感じだ。
ただし、今はアフロみたいな頭にボロボロの身なりで、更に泣きが入ってる。
喧嘩に負けて許しを乞う人みたいで、少し情けない。
そんなブルーに、誰かが手を出してるという話だが、それが精神魔法の使い手という、魔族としても聞き捨てならない情報を聞く事が出来た。
帝国に手を貸している奴かもしれないし、本当に魔族の誰かかもしれない。
それこそ、今から向かう東の魔族の可能性だってある。
幸いにブルーは手を貸すつもりは無いという話だし、エクスとブルーには手を貸さないでもらいたいという話をしておいた。
仮に借りるとしたら、向こうもドラゴンが相手の時だけ。
でも、ブルーの言い方だと頼りないんだよなぁ。
さっきの威勢は何処へやら。
貴様等、許さんぞ!なんて言ってたのに。
当たればね・・・とか、弱気な発言を繰り返すブルー。
「お前、もう少し自信持ったら?あまりに卑屈だと、ドラゴンの名が泣くぞ」
「蘭丸よ。時に人は、落ち込む時間もあるのだ」
「爺さん。コイツ、人じゃなくてドラゴンだぜ」
「・・・ドラゴンにも落ち込む時間はあるのだ」
水嶋さんの言葉を聞いた皆は、エクスの方を見た。
上を見ながら何やら考え込んでいるが、この様子だとドラゴンは落ち込んだりしてないっぽい。
人それぞれ、ドラゴンそれぞれなんだと思う。
「ワタクシからも質問よろしいですか?お二人はいつから、お知り合いなんでしょう?」
「それ、俺も気になるな。さっきからエクスの事、旦那って呼んでるし。普通の関係じゃない気がするんだけど」
太田や兄は、二人の関係が気になっているらしい。
しかしブルーはそれは話したくないようで、どうにか話を流そうとしていた。
「此奴との関係か。別に大したことは無い。喧嘩を売られたのだ」
「喧嘩ぁ!?」
「昔は山に住んでたわけでもなく、流浪の旅をしていたのでな。海を渡っていたところ、急に海から攻撃をされたのだ。下を見ると、此奴が居たというわけだ」
「その話はもう良いじゃないですか!」
「それで?」
「濡れたので頭きて、ひたすら海面に攻撃をした。すると泣きながら謝ってきたので、許す事にしたのだ」
結局、泣いていたのか。
コイツ、成長してないのでは?
「成長してないとか思ったでしょ!あの時は自分より強いモノが存在するなんて、知らなかったんですよ。今はそんな事無いので、大丈夫」
「大丈夫だったら、攻撃されてないと思うが」
「うっ!だって旦那の事だなんて、思わなかったし・・・。それよりも、坊ちゃんと旦那は何故?」
そういえば、他の連中も知らないんだったな。
やはりドラゴンという、あり得ないと思われる存在を前に、興味津々らしい。
だけどエクスは、更に珍しい神様と会ってるからね。
その点は以前も感謝されたけど、神様の存在だけは伏せて話を進めておいた。
「うーむ、魔王とは凄い存在なのだな」
「爺さん、今更だろ。見た目はこんなだが、魔族を導く存在だからな」
「こんなで悪かったな!」
いじられキャラじゃないのに、皆に笑われる兄。
しかし、いつになったら成長するんだろう。
人形から見る自分の姿に、一向に成長しているという実感は無い。
「坊ちゃんが魔王だったんですね」
「いい加減、坊ちゃんはやめてくれ。阿久野かマオ、魔王で良いから」
「じゃあ、阿久野と呼ばせてもらいます」
あ、そこは呼び捨てなんだ。
感覚がちょっと違うんだろうな。
「とりあえず、これで一件落着で良いかな?ブルーに手出しはしてないし、する気も無い」
「それはもう。こちらから攻撃した事も、水に流してもらえると助かります」
「そうね。水で攻撃してきたから、流しちゃおうか」
「兄さん、全然上手くないから」
「ぐぬっ!」
ドヤ顔してたけど、誰も反応しなかったのは、その顔がウザかったからだよ。
それも分からないとは、駄目駄目ですな。
「ところで魔王。お前達は何処へ向かっているのだ?人間が海へ出るなど、並大抵の事ではないと思うのだが」
「あぁ、それはね」
僕達の目的を話すと、エクスとブルーは少し考え込んでいた。
二人とも、何か険しい表情をしている。
「ふむ。このままだと無理だな」
「無理!?何故?」
「私ほどじゃないけど、強い魔物も居ますよ。多分、耐えきれないんじゃないかなぁ?」
なるほど。
海には更に凶暴な魔物が、棲息しているという事か。
でも、それなりに強い武装だと自負してるんだけど。
「この船の武器って弱いか?」
「弱いというより、合っていない?さっきの光線も、海中の相手には使えないし」
「我の爆破も海中で行うには、ちと工夫があるしな。ふーむ、東か。オイ、お前。一緒に来い」
「ふぇ?」
「この船に乗って、我等も東まで行くぞ」
「は?」
エクスが仰天な事を言い出し、全員が固まってしまった。
しかし、彼の言葉の続きを聞き、なるほどと納得したのだ。
「東の地までは同行する。我等の気配に気付くような魔物なら、手出しはしてこないだろう。ただし、船が目的地に着いたら、そこでお別れだ」
「それはとても助かるよ。でも、何かお礼とかしないと駄目なんじゃ?」
「此奴は迷惑を掛けたからな。迷惑料だと思えば良い」
「えぇ!そんな!」
エクスの指に火が灯ると、途端に無口になるブルー。
そしてエクス自身も、前回神様に拝謁出来た事への感謝だと言って、手伝ってくれるという話だった。
「そういうわけだ。今後、よろしく頼む」
エクスとブルーの存在は大きかった。
魔物は全く近寄ってこなくなり、快適な航海へと変わった。
戦艦から豪華客船になったかのような感じだ。
そして何より大きかったのは、二人による皆への指導だ。
爆発を得意とするエクスには火魔法を教えてもらい、ウォータージェットを使うブルーには、水魔法で同じ事が出来ないかと教わった。
対してこの二人にもお礼に、ハクトの料理を振る舞うと、二人はとても感動していた。
「料理というのは、こうも素材を変える物なのか」
「美味いです!ホント、魚の味がこんなに変わるとは」
「他にも色々とありますけど、やっぱり海の上だから、魚が多めになっちゃいますね」
「むっ!では鳥を捕まえれば、また違う料理が食べられるとな?」
エクスはハクトの料理にハマると、たまに飛んでいっては、色々な物を仕留めて持ってきた。
おかげでこちらも魚介類以外も食べられるようになり、万々歳という結果になった。
そんな彼等との長い旅路も、いよいよ終わりを迎える。
「陸地だ!」
「雪が見えるぞ!」
「雪?」
どうやらこの世界の連中には、雪は馴染みが無いらしい。
白い大地を見ても、何故なのか分からない様子だった。
「もうすぐ到着だな。我等もこの辺りで、失礼するとしよう」
「名残惜しいっすね。ハクトの料理、もっと食べたかったっす」
ブルーは慣れてきたのか、妙に軽い感じになっていた。
見た目はヤンキー、言動はチャラ男。
なんとも日本に居そうな男で、イッシーや佐藤さん、長谷部とは仲良くなっていた。
「我等が干渉するのはここまでだ。ブルー、行くぞ」
「旦那はどっちへ?」
「そうだな。北へ向かうとしよう。お前は自分の縄張りに戻るのか?」
「そうですね。シーサーペントの連中に、阿久野の関係者の船を襲わないように教えないといけないので」
「どうやって判断するんだ?」
「あ、それもそうだった」
ありがたい提案だけど、何も考えていないところがブルーっぽい。
やはり早とちりしそうだ。
「僕の知り合いなら、王国の旗が付いてるから。それは敵じゃないと思えば良いよ」
「王国の旗は、こちらになります」
官兵衛が見本に王国の旗の絵を描いて見せると、ブルーは頷く。
「分かったっす!それじゃ、私はこの辺で帰るっす。旦那もお元気で」
「我も行くとしよう。魔王、そして皆も世話になった。さらばだ」
「世話になったのはこっちだけどね。また機会があれば会おう。じゃあね」
二人は挨拶を終えると、海へと飛び込んだ。
すると、波が大きく立たないように考慮してくれたのか、離れた位置から元の姿へと戻っていく。
二人は最後の挨拶とばかりに大きな咆哮をすると、エクスは空へと舞い上がり、ブルーは海中へと潜っていった。
二人と別れた僕達は、いよいよ東の地へ上陸を目指した。
「何処かに停泊出来そうな場所は無いか?」
「嘉隆、それっぽい場所が無ければ、近くからは小船で向かうけど」
「砂浜があるな。乗り上げるのである」
コバが久しぶりに登場してくると、凄い事を言い出した。
しかし嘉隆は、その提案に乗った。
「戻る時はどうするんだ?」
「簡単である。魔王が巨大化して、海へ押せば良い」
なるほど。
確かに簡単な手だった。
嘉隆は座礁しないように、一気に船を砂浜へと突っ込んでいった。
「オオゥ!衝撃が凄いな」
「無事、到着である。ハイドシステム起動」
乗り上げた船が、姿を消していく。
これなら余程の事が無い限り、誰にも見つかる心配は無い。
「降りるか」
久しぶりに大地を踏みしめた感覚は、何とも言えないものがある。
特に砂浜というのが大きかった。
足が砂に沈むので、自分が船の上じゃないと大きく実感出来たからだ。
「うーん!寒いけど、空気が澄んでて美味いな」
「北国って感じか?でもここ、北じゃなくて東なんだよな」
「召喚された皆さんの世界は、北が寒いのですか?」
官兵衛の質問からするに、東が寒いのは当たり前らしい。
北はこの世界だと逆に暑く、南と西は比較的過ごしやすい感じになっているという。
西は春夏秋冬あるみたいだから、たまに雪は降るみたいだが、僕達が安土を作ってからはまだ降っていない。
「というわけで、東の領地へ向かいたいのだけど。場所分かる人?」
って言っても、こっちに来た人は居ないわけで、誰も知らないのが当たり前だった。
「官兵衛の案は?」
「まずは二手に分かれるべきですね。船に残り外敵から守る者達と、領地へ目指す者達。どうされますか?」
船に残す連中か。
コバや信之達は当然として、嘉隆達も残留だろう。
問題は戦える連中か。
「イッシーと蘭丸、水嶋さんと又左かな。後は・・・慶次も残ろうか」
「私達は行けないんですか!?」
「だって船の護衛は大事だろ。もし皆で向かって船が襲われたら、帰れなくなるぞ。俺達だけ安土から切り離されるんだ」
「うぅ、行ってみたかったでござる。また船上生活は嫌でござる」
そうか。
船の上が嫌なのか。
だったら向かう前に、少しだけ手伝っていこう。
「幸い、あの辺りに防風林っぽいのがある。あの木を頂こう。家を作ってから行くから、それで良いでしょ?」
「助かるでござる!」
これで不満も解消された。
魚以外の食べ物は、勝手に探してもらおう。
「魔王よ。吾輩は行くぞ。クリスタルの話を聞かせてもらわねばいかんからな」
「それもそうか。信之一人でも、メンテは大丈夫?」
「鍛治師をナメるなよ。吾輩よりも彼の方が上手である」
コバが褒めるとは珍しい。
真田家はやっぱり、優秀な人材が多いんだな。
「まずは家造りを開始しようかね」
兄がそう言うと、コバから注意事項が始まった。
「まずは木を集めて、この辺りに家を建てるのである。浜風は強い。下手な建物であれば、倒壊の恐れもある。それと雪が降っているのである。屋根は雪が落としやすいように、斜めにするのである。吾輩や信之殿も居るのだ。立派な物を建てるのである」




