表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
458/1299

闖入

 クソー、チート連中め。

 水嶋爺さんには振り子鉄球を簡単にクリアされたと思ったら、今度は官兵衛が路面凍結ゾーンを簡単にクリアするとは。

 自らトリモチをタイヤに付けてグリップ力を上げるなんて、そんな考えしてなかったよ。

 チートって言えば、イッシー太田組も変わらないけどね。


 まさかノーブレーキで全てをぶち破るという、力技だけでクリアしていくとは思わなかった。

 せっかくの部屋スラロームも壁が粉々になってるし、鉄球なんかパンチで弾いてるんだぞ?

 おかしいだろ!


 そんな強引な走りに、水嶋官兵衛組も被害を受けた。

 せっかくの振り子鉄球も、太田のパンチで全てタイミングが狂ったのだ。

 嫌がらせと言わんばかりに、今度は官兵衛がトリモチを鉄球のコース上に置いていた。

 爆走するイッシーはそれを見落とし、太田は大仏くんから放り出される事になった。

 前方の鉄球にぶつかってたけど、流石は太田。

 無傷である。

 対してイッシーはボロボロだったけど、大仏くんが間に入ったんだろうね。

 怪我はしていなかったけど、代わりに大仏くんの顔は半分にひしゃげてしまった。

 失格じゃないよねと、後ろを振り向くイッシーだったが、こんなボロボロになるとは想像していなかった僕には、何も言えないのだった。






 酷い。

 ここまでボロボロにするなんて。

 神様に叱られちゃうんじゃないか?



「これ、良いんですかね?」


「え?何が?」


「確か大仏くんは壊しちゃいけない。壊れたら直さないと駄目なんじゃなかったっけ?」


「そうそう、それ。俺達も何度か腕が取れたりしたけど、あんな頭が半分無いくらいにボロボロなのは、初めてだよ。判定としては、まだ問題無しなの?」


 それ!

 それだよ。

 実況なんだから、映像見てる人達にも説明しろや。



「えーと、良いんじゃない?まだ走る気あるみたいだし。大仏くんが動かなくなったら別だけど、まだタイヤ回ってるからね」


「大仏の面影はほとんど無いけど?」


「大丈夫だよ。頭見れば、あのパーマっぽいの分かるし」


 酷い理由だな。

 でもこれで判定は決まった。

 続行だ!



「太田殿!急いで!」


「大丈夫ですか?」


「俺は大丈夫。大仏くんの方が酷いがな」


 端まで吹き飛ばされた大仏くん。

 太田が後ろに乗り込むと、魔力を一気に放出する。



「動きますか?」


「トリモチがタイヤにくっついて、やっぱりスピードは落ちそうだ。だが太田殿の馬力なら、それでも前の二人に追いつく。行くぞ!」


 空転させたタイヤが白煙を上げながら、トリモチを少し削ぎ落とす。

 ブレーキを離したイッシーは、急加速で振り子鉄球ゾーンを抜けていった。






「お前、かなりえげつない事してたな」


「見てたんですか?」


「そりゃ、後ろから叫び声が聞こえればな」


 振り子鉄球ゾーンを抜けようかというタイミングで、官兵衛のトリモチに引っ掛かったイッシー太田組。

 太田が前方に身体を投げ出された瞬間を、水嶋は目撃していた。



「オイラ達も鉄球で邪魔されたではないですか。おあいこです」


「おあいこって・・・。向こうは鉄球に激突してたぞ。怖い奴だ」


「オイラだったら身体が粉々になってたかもしれないけど、皆さんなら大丈夫!」


「・・・本当に怖いな」


 ドン引きの水嶋だったが、予想外の展開が待っていた。

 路面凍結ゾーンで再び残ったトリモチを、少しタイヤに付けて走る二人。

 既にトリモチは使い切った。

 この氷ゾーンを抜けようかというタイミングで、再びイッシー太田組が姿を現したのだ。



「鉄球に自ら激突しておいて、無傷だと!?」


「太田殿ならアレくらい、意に介しませんよ」


「官兵衛の言った通りか。ここは逃げに徹するぞ!」


 水嶋はたまに振り返りながら、路面凍結ゾーンを無難に走っていく。



「むあぁぁてえぇい!」


 何処ぞのインターポールの警部っぽい言い方で追い掛ける、イッシー。

 さっきと同じように、激突しても無理矢理走ろうとしていたが、何故か滑らない大仏くんに驚いている。



「もしかして、トリモチのせいじゃないですか?」


「なるほど!って事は、あの二人が滑らないのも・・・。それじゃアイツ等、自分でトリモチを踏んだ、いや付けたのか!?」


「官兵衛殿の策でしょうなぁ。しかし、これならワタクシ達の方が有利」


「だな。太田殿、一気に追い付くぞ!」


「御意!」


 アクセルをベタ踏みするイッシー。

 氷の上でもグリップが効いていて、物凄いスピードで駆け抜けていく。



「これなら甲板で追い付ける!」







 ラスト一周。

 そして最後の甲板ストレート。

 いよいよクライマックスがやって来た。



「凄い凄い凄い!水嶋官兵衛組を、とうとう捉えたぞ!」


「イッシーさん!ここまで来たら逆転だ!」


「ジジイ!最後に抜かれたら、みっともないぞ!」


「え〜、解説の方は個人の応援を控えて下さい。その他の人達は、じゃんじゃん応援してやって下さい」



 うおぉ!

 ここまで白熱した展開は、今までのチキチキ走れ大仏くん史上初だ!

 どっちも応援したい気持ちで一杯だが、まだレースは動くだろう。



「イッシー殿!ここは仕掛けましょう!」


「ストレートなら多少ブレても問題無い。食らえ!」


 イッシーは右手を振り上げると、手投げでトリモチを投げた。



「おおっと!最後の最後に、残しておいたトリモチを投げたイッシー。しかし勢いが無い。水嶋官兵衛組には届かなかった」


「やっぱり手投げじゃ無理があるか。少しスピードが落ちるけど、立つしかないな」


「イッシー、アクセルから右足を離し、なんと大仏くんの上で立ち上がったぞ!頭に大仏くんの腕をぶつけて、また折ったけど、ギリギリ繋がっている!」


「危ねぇ!また壊すところだった。食らいやがれ!」


 イッシーは、今度こそトリモチをしっかりと投げた。

 投げた後は、すぐにアクセル全開にしている。



「水嶋殿、前方を注意して下さい。後ろからトリモチが来ます」


「ぬおっ!素晴らしい精度だ。しかし、正確故に読みやすい!」


 目の前に落ちたトリモチだが、ハンドルを切ってドリフト気味に抜けていく水嶋官兵衛組。

 ドリフトで落ちたスピードによって、イッシー太田組が後ろへと張り付いた。



「よしよしよーし!ゴール直前まで、スリップストリームに入らせてもらうぜ」


「急ブレーキを」


 官兵衛の無慈悲な一言に、水嶋は頷きもせずにブレーキを踏む。

 イッシーは慌ててそれを回避。



「そのままぶつかっても、良かったのでは?」


「駄目だ。こっちの大仏くんは、もうボロボロだ。少しでも壊れたら、一時停止して直さなくてはならない」


「なるほど!官兵衛殿の策、恐るべし!」


「だが、それでも太田殿の加速には関係無い!」


 急ブレーキで生まれた差も、太田のとんでも加速には敵わなかった。

 再び背後に張り付くと、今度こそスリップストリームに入る。



「まもなくゴールラインが見えてきます。さあ、どっちが勝ってもおかしくない展開だ!」



 既に僕も、イッシーの後ろというよりは二台の後ろを走っている感覚だ。

 もうすぐゴール、これは決定的瞬間を収めたい!



「勝負に出る!」


 水嶋官兵衛組の真後ろから、左後ろへと出るイッシー。

 更に加速していくようだ。



「勝てるぞ!」


「まだまだ!」



 ゴールラインが僕にも見えてきた。

 まもなくこのデッドヒートも終わりを迎える。

 迎えるはずだった。



「なっ!?戦艦が揺れている!?」






 大きな縦揺れの後に、戦艦は大きく傾いた。

 大仏くんに乗っていた四人は、甲板を滑っていく。



「官兵衛!」


「官兵衛殿!」


 官兵衛が思わぬ衝撃で、大仏くんから放り出されてしまったのだ。

 水嶋も慌てて後ろに手を伸ばしたが、届かない。

 しかし斜め後ろを走っていたイッシー達が、それにすぐに気付くと、太田はそのまま大仏くんから飛び降りた。



「ナイスキャッチだぞ!太田ぁ!」


「太田殿ぉ!」


「すいません。助かりました」


 お姫様抱っこで助けられた官兵衛だが、ここにBとLが交わるようなモノが好きな人は居ない。



「レースは中断だ。まずは状況確認!」


 ナイスキャッチと叫んだ後の兄は、意外に冷静な判断だった。

 このまま興奮のまま続行するって言うかと思ったが、やはり原因不明のこの状況には看過出来なかったみたいだ。



「太田はそのまま、官兵衛を連れてブリッジへ。水嶋さんは銃持ってる?」


「持ってるというより、すぐに出せるぞ」


「なるほど。それじゃ、敵襲に備えて甲板でイッシーと警戒を」


 水嶋は銃を何処からか取り出し、イッシーも甲板に備え付けられていた銃を持ち出した。



「兄さん!そっちは何か分かった?」


「今、嘉隆に確認を取っている。・・・何?巨大な何かって何だよ?」


 嘉隆の方なら、レーダーで何かを探知しているはずだ。

 むしろ、普段の嘉隆なら何かにぶつかる前に回避している。

 それが出来なかったという事は、生物か?



「全員、衝撃に備えろ!」


 兄達の声を遮って、嘉隆の声がスピーカーから聞こえた。

 甲板に居た僕と水嶋イッシーは、慌ててその辺の手すりにしがみついた。

 その直後、海面が大きくうねると、海中からシーサーペントが姿を現した。



「これが原因か!」


 銃弾を浴びせる二人に対し、僕も風魔法でシーサーペントを押し返す。



「違う!そんな小さな雑魚じゃない!」


「これで小さい!?」


 甲板に乗り上げたシーサーペントは、明らかに今まで見た中で、一番大きい。

 それを小さな雑魚と言った嘉隆。



「何だ?急に静かになったぞ」


 海面が穏やかになり、シーサーペントの群れが海面から一斉に頭を出していた。

 こんな大群は、初めて見たぞ。



「本命のお出ましだ!皆、海に放り出されるなよ!餌になるぞ!」


 海面に段々と波紋が広がっていく。

 そして地鳴りのような音と共に、海面からそれは姿を現した。



「なっ!?ドラゴンだとぉ!」





 海面から姿を現したのは、戦艦と同サイズの青いドラゴンだった。

 戦艦の真正面に位置を取るドラゴンに、嘉隆は急旋回を始める。



「あんな化け物に勝てるか!退避だ!退避!」


「逃がすか!この人間どもめ!」


 えっ?

 コイツ、普通に話したぞ。

 エクスは最初、僕達をゴミ扱いして話してくれなかったのに。

 意外と話せる感じ?



「僕達は何もしてないですよ。一度話し合いませんか?」


「何もしてないだと?貴様等、我の眷属を倒したではないか!」


 もしかしなくても、シーサーペントさんの事ですよね。

 マズイね。

 そりゃ怒るのもごもっとも。



「でもでも!そっちが先に手を出してきたんだけど。それを退治しただけで、僕達が怒られる謂れは無いかな」


「黙れ小僧!貴様等は、我をも取り込もうとした事を知っているのだぞ!」


「え?」


「何度も海へ足を運び、シーサーペントを痛めつけて我を呼び出そうとしたではないか!」


 何だそれ!?

 知らんぞ、そんな情報!



「嘉隆!聞こえてたな?」


「聞こえてましたけど、オレ達はそんな事してないですよ!たまに襲ってきたシーサーペントを駆除した事はありますが、痛めつけてというのは一度も無いです」


「という事なんだが」


「そんな話、信じろと?馬鹿か、小僧」


 ですよねぇ。

 僕だって魔族の死体の前に帝国兵が居て、俺じゃないですよ言われても、信じるわけがない。



「お前等は敵だ。死ね」


 青いドラゴンが口を開くと、そこには大きな水球が出来ていく。

 それが発射されるのかと思いきや、その水球から細い水の線が飛び出してきた。



「主砲発射!」


「何!?」


 水とレーザーが交わると、そこには水蒸気で霧が発生する。

 周りが見えなくなり、手探りで水嶋、イッシーと合流すると、そこにスピーカーから大きな声が鳴り響いた。






「ウォータージェットである!その水圧なら、腹に穴が空くぞ!それか切断である。このままだと、戦艦は撃沈されるのである。魔王よ、どうにかしろ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ