表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
457/1299

嫌がらせと嫌がらせ

 とうとう壊したかぁ。

 狙いと違って下りのスロープでコケまくって、既にボロボロだったけど。

 それでも振り子鉄球で、大仏くんにダメージを与えるという狙いは間違ってなかったな。

 ただね、ノーブレーキで鉄球をすり抜けるとか、そういう神業じみた事を初見でやるのはやめてほしい。

 通用しなかった僕にもダメージがあるし、次から挑戦する人達にもプレッシャーだからね。

 せめて、ブレーキ踏んで躊躇したけど、それでも無傷でしたくらいがよろしいのよ。


 その点、イッシーと太田は良い具合に、目論見通りにハマってくれてる。

 見当違いだったのは、路面凍結であんなに安全運転するとは思わなかった事くらいかな。

 なまじ経験があるとどういう運転が危険か分かるから、逆に意図しない方向に進むんだなと思った。


 ようやく一周目の難所を全て終えた二組だけど、まだ逆転の目は残っている。

 二組とも、持たせたトリモチを使ってないからね。

 どういう使い方をするのか?

 この後、どういう運転をするのか?

 非常に楽しみになってきた。






 僕の背後からの途中経過を聞いたイッシーは、予想以上の差に驚いていた。



「マジで!?」


「多分下層から中層に戻る頃、向こうは甲板に戻るんじゃないかな」


「イッシー殿。どうしますか?」


「どうするって言われてもな。まずは確実にこなしていくしかない」


 イッシーには、まだ太田のポテンシャルを引き出す考えが浮かんでいないようだ。

 様子見からいつ攻勢に出るか、楽しみに後ろから見てみようと思う。






「速いなぁ」


「水嶋さん、コツを掴んだんじゃないですか?鉄球を全く苦にもしていないですよ」


「あのジジイ、普段から新しい事に挑戦するのが面白いとか言っているからな。このままだとぶっちぎりで終わってしまう。イッシー殿!頑張れ!」


「解説なのに片方に肩入れは駄目〜。しかし蘭丸の言う通り、このままだと面白くない展開ですね。イッシー太田組の奮起に期待しましょう」



 簡単に言ってくれるなよ。

 太田の不安定な加速に、イッシーは必死になってるんだぞ。

 復路の鉄球では同じように一直線に抜けようとして、第二の鉄球に弾き飛ばされてたし。

 また頭取れちゃったから、今度は前向きに直してた。



「イッシー太田組は、何をこんなに手間取っているんてすかねぇ」


「太田殿のポテンシャルは、とんでもなく高いと思うんですよ。俺も組んだけど、速さだけなら一番だし」


「確かにそうですね。でも速い分、扱いづらい。俺なんか太田殿と初めて出会った時から一緒だけど、感覚がこうも違うのかと思ったし」


 蘭丸は太田が引き篭もりの頃から、一緒に旅をしてきた。

 だけど、一緒に組んだ時は負けてた気がする。



 多分、皆のちょっとという感覚と太田のちょっとは、かなりズレがあるんだと思う。

 太田からしたら、もっと具体的に言ってくれって感じなんだろうな。

 だからいつも、ちょっとだけスピード落としてとか言うと、フルブレーキを掛けたくらい遅くなるんだろう。



「さあ、このままだと差は開く一方です。イッシー太田組、ようやく二周目に入ります」







「慣れてきましたか?」


「え?あぁ、お前の助言が的確だからな。問題は、あの路面凍結している場所だ」


「そうですね。あの凍結は厄介なので、少し対策しましょう」


「対策?」


「下層へ行ったら、一度止まって下さい」


 官兵衛の策とは何なのか?

 水嶋は既に下層で何をするのか、楽しみになっていた。

 そして、自分が官兵衛を信頼している事に、少し驚きを感じていた。



 あまり話した事もない人物。

 水嶋は官兵衛との接点が、ほとんど無かった。

 安土でよく絡んでいたのは、蘭丸を筆頭に、又左や慶次という戦いを主にした連中。

 そして、同じ日本からやって来た、イッシーや佐藤、コバといった連中が主だった。

 ちなみにロックは、気持ち悪いという理由で遠ざけている。


 そんな中、官兵衛は皆の口から出てくる名前だったが、話す機会がほとんど無かった。

 長谷部とは少し話すのだが、官兵衛は話さない。

 そんな相手にこの一周半で、自分が官兵衛を頼っている。

 不思議なものだと、少し笑みが浮かんだ。



「この先が氷だ。官兵衛、どうするんだ?」


「それはですね、こうしようと思いまして」


「何!?」






「面白い!こんな使い方を考えるなんて」


「やっぱり官兵衛殿は凄いな!」


「攻撃にばかり使う物だと考えてたけど、目から鱗だな」



 何?

 どうしたの?

 このヘボ実況!

 面白いとか感想言ってないで、何をしたのか早く言いなさいよ!



「まさか、トリモチをタイヤに自ら付けちゃうなんてなぁ」


「しかも一個を四分割して、粘着力も落としてる。これならスピードも少し落ちるだけで、そこまで影響しないでしょう」


「実際走ってるのを見るまでは、何やってんだ?って思ったけど。曲がる時も坂道も、氷の上なのに普通に走ってるのを見て、あの人本当にすげーやって思ってしまった」



 ・・・トリモチ?

 え!?

 まさかそんな方法で、路面凍結もクリアされちゃったの!?



「これはもう、イッシー太田組に勝ち目は無いかもな」


「半周以上の差が出来たからね」


「イッシー殿も太田殿には、上手く指示は出せなかったか・・・」


 半周か。

 今僕達は、甲板のストレートを目一杯踏んでる。

 対して向こうは、氷ゾーンを越えたって事だもんな。



「イッシー、官兵衛達は下層の路面凍結をもう越えたってよ」


「は?マジかよ!」


「上がってきたら最終ラップだぞ。このままだと差が広がるだけで、負け確だ。何か対策を考えた方が良いんじゃないの?」


「そんな事を言われてもなぁ」


 イッシーはどうやって上手く走れるか、未だに思いつかなかった。

 太田はそれを見て、頭を下げている。



「ワタクシが不器用なばかりに、本当に申し訳ありません。キャプテンには、常に全力を心掛けろと言われていましたので、どうにも力を調整するというのが苦手なんです」



 それって魔力調整が下手なのは、あの馬鹿兄のせいって事じゃないか。

 全く、もっと上手く教えろよな。

 って、僕も見てたんだけどね。

 共犯だから、何も言わんとこう。



「常に全力か。本来ならそれが当たり前なんだよな。ん?太田殿、常に全力ってどれくらい全力でいられるんだ?」


「そうですねぇ。戦う相手にもよるかと」


「ゴールするまで、全力出しっ放しになれるか?」


「それくらいなら、ハイ」


 お?

 イッシーの雰囲気が変わったぞ。

 何か思いついたようだな。



「太田殿、魔力を放出しながら、身体強化は使えるか?」


「勿論です!でも、武器の使用は禁止ですよ」


「大丈夫。これなら追いつけるぞ!」






 イッシー太田組は、部屋スラロームに入った。

 微妙な魔力調整をして、加速したり速度を落としたり、太田が最も苦手とするコースだろう。

 しかし、彼等は度肝を抜く作戦を使ってきた。



「イッシー殿、どうするんですか?」


「良いか?ここから全力で突っ込め!前に来て、壁を殴りながらぶち抜いていけ!」


「えっ!?」


「へ?」


 僕の聞き間違いか?

 ぶち抜けと聞こえたのだが。



「この戦艦はミスリルを多く使っているとはいえ、部屋の壁にミスリルを使ってるとは思えん。だから太田殿なら、簡単にぶっ壊せるはずだ」


「なるほど!ではイッシー殿、姿勢を低くしていて下さい。行きます!」



 急加速する目の前の大仏くん。

 僕も置いていかれないように、アクセルを回す。


 ほ、本当に突っ込むんだよな?

 抜けなかったら、僕も一緒に壁に激突するんだけど。

 ・・・やっぱり様子見でスピード落としておこう。



「ぬおぉぉう!!」


 太田が壁を殴ると、凄い音を立てながら、破片が飛び散っていく。

 マジかよ。

 本当に全部ぶち抜いていきやがる!



「イテッ!でもこれで良い。このまま行け!」


「御意!」


 前に突き出した拳が、壁をぶち抜いていく。

 大仏くんの頭が赤べこのように揺れているのが、少し滑稽だ。



「下りはどうするんですか?」


「そのまま飛び越えろ!一気に下まで行くぞ!」


「おぉ!」


 部屋スラロームをぶち抜いて、いよいよ中層へと降りていくイッシー太田組。

 狭いスロープなんか使わず、その勢いのまま下へと飛んでいく。



「衝撃に備えろよ」


「だったら、こうすれば!」


 太田は下へ着く直前、横の壁をぶち抜いた。

 太田の腕が壁を削りながら、減速していく大仏くん。



「怪我してないか!?」


「ワタクシ、そんなヤワではありません」


「そ、そうか。よし、鉄球も同じだ。飛んできたら、ぶん殴れ!」



 マジかよ。

 全て力技じゃないか。

 鉄球をパンチで弾いていくイッシー太田組。

 おかげで振り子が不規則になって、後ろを走る僕がとんでもない目に遭ったんだが・・・。

 頭下げただけで通り過ぎる事が出来る、人形サイズで良かったよ。



「イッシー殿、氷の場所だけはどうしようも無いですぞ」


「大丈夫だ。そのままぶつかっても良いから、全力で走れ」



 いよいよ路面凍結ゾーンに突入する二人だったが、どのように越えるのか?

 と思ったら、これまた力技かよ!



「ぶつかりますぞ!」


「行け!ぬおぉぉ!!」



 オイィィィィ!!

 何してんの!?

 大仏くんの顔を壁に押し当てて、無理矢理衝突回避してるぅぅ!



「イッシー殿、塗装が剥げてますが」


「ハゲって言うな!違う。落ちたと呼べ」


 未だにハゲに敏感なイッシー。

 しかし、大仏くんの頭は、既に半分は下地が見えている。



 この調子で、坂道もクリアしたイッシー太田組。

 差はどうなってるんだ?






「オイオイオイ!あんなのアリなのかよ!?」


「ワハハ!流石はイッシーさん!破天荒過ぎるだろ!

 」


「俺、あの人と組むの怖くなってきた・・・」


「イッシー、考える事が凄過ぎる。でも、半周以上あった差が一気に縮んだ!」



 おぉ!

 やっぱり縮んだか。

 さて、ラスト一周はどうなるか?

 僕の目に水嶋官兵衛組の姿が見えるのか?

 楽しみになってきたぞ。






「な、何だこれは!?」


 壁がぶち抜かれた部屋を見て、水嶋は驚いた。

 しかし官兵衛は、冷静な判断でその突き抜けた中央を通っていこうと言う。



「太田殿が突き破ったのでしょう。しかし、凄い荒技に出ましたね」


「おかげで俺達も楽して通れるけどな」


 スピードを落とさず、部屋を突き抜ける二人。

 しかし、振り子鉄球ゾーンに来て、その考えが変わった。



「厄介な!」


「まさか、鉄球も弾いていくとは・・・」


「大丈夫だ。少し時間は掛かるが、もう一度読み直す」


 太田が弾いた鉄球は、全て振り子の間隔がズレている。

 おかげで水嶋は、また読み直しになった。



「・・・行くぞ」


 水嶋は再び一直線に抜けていく。

 官兵衛はそこに、更なる罠を仕掛けた。



「何をしたんだ?」


「鉄球を乱されましたからね。嫌がらせには、嫌がらせです。むっ?速いですね。後ろからイッシー太田組がやって来ましたよ」


「追いついた!」



 凄い!

 本当に最終ラップで追いついた。

 向こうはもう下層へ向かうようだが、太田のパンチで鉄球も意味を為さない。

 これなら下層で追いつくぞ。



「凄いデッドヒートの展開になってきました!面白い!これは好レースですよ!」


「折り返しでは、完全に追いつきそうですね」


「あっ!官兵衛殿、やりやがったな」



 太田が鉄球を弾きながら、進む大仏くん。

 しかし、突然その大仏くんから太田が吹き飛んだ。



「なっ!?トリモチか!?」


 振り子のど真ん中にあったトリモチに気付かず、イッシーはそれを踏んづけた。

 すると猛スピードで走っていた大仏くんに、急ブレーキが掛かる。

 前に身体を乗り出していた太田は、そのまま前方へと飛んでいった。



「太田殿!」


「イッシー危ない!」


「へ?あー!」



 思わず声を出してしまった僕だったが、その直後、鉄球は大仏くんに直撃した。

 大仏くんごと吹き飛ぶイッシー。






「イタタタ・・・。これが官兵衛の罠か。スピード出し過ぎて、トリモチなんか気付かなかった。あー!大仏の頭が無いぃぃ!!左半分、凹んじゃったよ。これ、ゴールしても失格にならないよね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ