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魔王、出港する

 戦艦とかスーパーカーって、男の夢だよね。

 そう思えるのは、佐藤さんやイッシーも同じ反応だったから。

 又左達や蘭丸達とも違う、僕とほとんど同じ感想を言ってくれるので、やっぱり間違ってないと実感出来た。

 まあ、実際に乗った事のあるお爺さんには、響かなかったみたいだけど。

 水嶋って爺さんからしたら、この船も遊びにしか見えないのかな?


 大漁船マオーエリザベス号が戻ってきた。

 あの船には僕達の手助けをしてくれる、スペシャルゲストが乗っているらしい。

 それはこの船の船長であるキャプテンクキッドの孫娘、当代九鬼嘉隆だった。

 ハッキリ言ってエロい。

 おっさんズの佐藤さん達は、完全に鼻の下が伸びていたくらいだ。

 僕もあんな顔をしてたかもしれないけど、まだ子供の姿だからね。

 あそこまで変態じみてないと思う。


 そんな嘉隆だが、昔とは違い自信に満ちていた。

 戦艦に連れていくと、彼女は乗りこなせると答えたのだ。

 祖父の手から離れるからか、意外にもすぐに出港しないのかと聞いてくるくらいだ。

 そんな彼女の希望に添えるように、僕達は明日、早々に出港する事になった。






 展開が早い。

 急遽、明日には出港すると決まり、皆は慌てて外へ出ていった。

 長期にわたる船旅だ。

 買い出しにでも行ったのだろう。



「お前等は行かないのか?」


「とうに終わっておるわ。吾輩達は、船の最終チェックである。これですぐに沈没したら、笑い話にもならん」


 うぐっ!

 怖い事言うなよ。

 それでもビビってると思われるのも癪なので、大した事無いという顔でいないと。

 それに、皆の事は信用してるからね。

 絶対にそんな事は起きない!



「根詰め過ぎて、途中で倒れたりするのは無しだから。頑張って」


 素人の僕が横から口を出すのも、どうかなと思うし。

 僕も準備に取り掛かる事にしよう。






 翌日、祭りの本番で街全体が盛り上がっている。

 そんな中、祭りとはまた違った盛り上がりを見せる場所があった。

 造船所である。



「乗り込んだな?」


「全員乗船確認済みです」


 官兵衛の言葉に、僕は頷いた。



 知ってる人だけなら全然構わないのだが、船を動かすには多くの人が必要だ。

 その為、航海士として嘉隆の部下達も乗り込んでいたり、機関士としてドワーフも乗っている。

 僕はそれを全て把握しているとは言えないのだ。



「昌幸殿、後は頼んだのである」


「コバ殿、土産話を期待しているぞ。信之、しっかりとな」


 昌幸は安土に戻る事になった。

 流石に自分の店を、長期間留守にするわけにはいかない。

 代わりにこの船を知り尽くしている、信之が乗り込んでいる。

 弟の信繁は、王国からの依頼もあるので、昌幸同様に王国の留守を任される事になっていた。



「小型船は誰が操縦するんだ?」


「吾輩である」


「えっ!?」


「失敬な。小型船舶くらいは持っているのである」


 失敬なって。

 普通、一部の釣り好き以外でそんなの持ってる人は、金持ちと決まっているのに。



「では、もう一度説明する。吾輩が先に、駆逐戦安土で川を下る。後ろから、姿を消した戦艦阿久野で追従してほしい」


「任された」


 良い返事をする嘉隆。

 船の上から、胸の谷間でも覗こうというのか?

 佐藤さんとイッシーのおっさんズが、身を乗り出して嘉隆の真上に居た。



【石でも投げれば、海に真っ逆さまだな。やっとく?】


 面白そうだけど、出港に遅れればコバがキレる。

 やめておこう。



「魔王は吾輩と来い。お前はこっちの船から、街の皆の視線を集める役目なのである。光魔法で川を随時光らせる役割も、忘れるなよ」


「なるほどね。了解した」


「それでは出港するのである!」






 造船所の門が動き出した。

 門が開くと、陽の光が差し込んできて、少し眩しい。

 この辺りには祭りが開催されているので、まだ人通りは少ない。

 下った先の街中に入ったら、そこからが勝負だ。



「よし!見えないのである」


 小型船で造船所から出たコバは、振り返って戦艦の確認をしている。

 水面に波が大きく立っている以外には、何も見えない。

 勿論僕にも見えていないのだが、一つ気になる点がある。

 僕の欠片なのに、僕も見えないのはどうなんだよ。

 もっと使いこなせば、見えるようになるのかな?



「もうすぐ人通りが出てくるのである。魔王よ、光魔法を使え」


 指示通り、水中から光の玉を一定間隔で生み出した。

 水面は光り輝き、その上を小型船が通っていく。

 街の方からは、船が光の川を流れているように見えるだろう。



「見ろ魔王。街が大騒ぎである」


 見上げると、多くの人達がこっちに手を振っている。

 振っていない人は、その幻想的な光景にうっとりしている人達が多い。



「手を振っておけ。お前に視線が集中すれば、後ろには目が行くまい」


「任せろ。俺のアルカイックスマイル&テレビでよく見る、陛下の手の振り方を実現してみせよう」


「馬鹿者。もっと派手にやれ!視線を集中させねば意味が無いのである」


 派手にとか。

 せっかく昨日、練習したのに。

 膝の先から手を振って、笑顔は下品にならないように。

 静かな佇まいから、高貴さを演出していたんだけどなぁ。


 仕方ない。

 でも、僕に人の視線を浴びるのは向いてない。

 やっぱりそういうのは兄さんがやるべきだ。



【俺!?まあやれなくはないけど】


 それじゃ、僕は人形の姿になって光魔法に専念する。

 後は頼んだよ。




「よっしゃ!皆、どうだ?祭りを楽しんでるかー!?」


 俺は大きな声で、船の上から街の方へ叫んだ。

 幻想的な光景には似合わないかもしれないが、多くの人が喜んでくれている。

 ハッキリ言って、こっちの方が視線を集めるには好都合だろう。



「やるな。流石は魔王である」


「任せろよ。それよりもここからが大変だろう?」



 俺が大変だと言った理由は一つ。

 視線の先にある物の存在だ。



「腕の見せ所である。娘よ!ぶつけるなよ?」


「ぶつけるかよ!オレの腕を見せてやる」



 視線の先にある物。

 それはマオーエリザベス号だ。

 停泊している大漁船の横は、計算上では通る事が出来る。

 しかしそれは、あくまでも川の広さと船のサイズの計算上である。

 波に揺れながら進む戦艦に、そこまでの余裕は無い。



「俺達もスピード落とすのか?」


「船はそう簡単にスピードは落ちない。プロペラが回っている以上、必ず進行していく。だから、この速度を維持したまま抜けるのである」


 元々速度を出していたわけではないが、それでも速く感じるのは、後ろが気になっているからか?

 チラチラと後ろを気にしてはいるが、全く分からなかった。

 そもそも見たところで、どうにか出来るというわけではないが。



「抜けられるか?」


「気が散る!話し掛けるな!」


 コバの問いに怒声が返ってくる。

 普段なら、こういう返し方をされるとキレるのがコバだ。

 しかし自分も分かっているんだろう。


 何かの研究や製作中に、同じ事をされたらキレると。



 俺達の船が、漁船の横を通過した。

 手を振りながら街の人達に声を掛ける俺だが、気になるのは後ろばかりだ。



「しっかりと手を振っておけ。漁船を抜けたら、少し速度を上げるぞ」


「そのまま海へ直行って事か?」


「その通りである」


 スピードを上げるという言葉とは裏腹に、コバも後ろを振り返っている。

 ぶつかった衝撃音はしない。

 そんな音がすれば、下手したら戦艦は姿を現すだろう。



 駆逐船の方は、漁船からかなり進んでいる。

 戦艦の大きさを考えると、そろそろ漁船の横を通り抜けてもおかしくないくらいの距離なのだが。

 しかし、戦艦がどれくらいのスピードで進んだか分からない。

 その為、集中している彼女の妨げにならないよう、こっちからの連絡は控えていた。


 しかし、いつ来るか分からない連絡を待つのは焦ったいな。



「まだかな?」


「気にするな。とは言っても、気にはなってしまう。吾輩もそろそろ心配である」


 通信は繋いでいないから、向こうには聞こえていないはず。

 それなのに、何故かこう返ってきた。



「そっちは心配でもしてたんじゃないのか?余計なお世話だけどな。戦艦阿久野、無事に大漁船の横を通過したぞ」


「おぉ!」


「娘!いや、嘉隆!でかしたぞ!」


 コバが嘉隆を認めたのか、名前で呼ぶようになった。

 向こうは盛り上がりたいのに騒げなくて、ムズムズしているらしい。



「その気持ちは分かるな。コバ、スピードを上げよう」


「嘉隆よ。全速前進である!」


「あいよ!」


 駆逐船の速度が上がった。

 トライク同様に静音設計なので、唸りを上げるとかは無いんだけど。

 気持ち的には、唸ってるかな〜的な感じだ。



 とにかく手を振っていると、いよいよ街の外れに来たらしい。

 人がまばらになって来た。



「来た!あの橋を潜れば、街の外である。ん?」


 コバが何かを見つけた。

 橋の上に居るらしい。



「誰か居るのかって、キルシェか!?」


 何かを叫んでいるようにも見えるが、何を言ってるのかサッパリ聞こえない。

 とりあえず手を振っておけば、間違いないだろ。



「じゃあなキルシェ!またな王国!今度はクリスタル持ち帰ってくるぜ!」






 俺達は川を下って、ツヴァイトフルスから遠く離れた場所で停泊した。

 理由は簡単。

 戦艦の姿が現れたからだ。



「すげーよ!マジで感動しちゃったよ!」


「俺も!あんなギリギリの所を通れるなんて、凄いと思った」


 戦艦に乗り込むと、佐藤さんや蘭丸達の興奮の声が聞こえてきた。

 更には船には興味が無いであろう、慶次や太田といった面々も興奮している。

 そして皆が口を揃えて、嘉隆の偉業を褒め称えていた。



「嘉隆よ。よくやったのである!」


「よ、よせよ!照れ臭い・・・」


 あまり褒められ慣れていない嘉隆は、顔を赤くして背けた。

 そんな姿も囃し立てるおっさんズ。

 やり過ぎると嫌われそうなのだが、今は皆もやってるから問題無いだろう。



「ここから先は、安土を阿久野へとドッキングさせる。艦長、後はお前の指示待ちである」



 艦長か。

 やはり艦長といえば、二度もぶたないといけない。

 この中で反抗的な少年が居たら、叩いた後に甘ったれだと言うんだ!って言いたいんだけど。

 アレ?

 少年って俺だけじゃね?

 殴られるの、俺じゃねーか!



「痛っ!」


「早くするのである」


「え?何が?」


「馬鹿か貴様。艦長はお前なのである」


 そんな事を考えていたら、コバに肩を叩かれた。

 俺が艦長!?

 そんな事より、俺!



「な、殴ったね!二度も」


「うるさい。殴って何故悪いか。今後、バ艦長と呼ぶぞ」


「あ、はい。それは嫌です」


 全てを言う前に、コバに話を遮られてしまった。

 それよりもだ。



「俺が艦長なの?嘉隆じゃなくて?」


「艦長は魔王様でしょう。オレはあくまでも操舵。この艦の操舵手に過ぎないですから」


「そもそもこの艦の名前は何だ?魔王以外に艦長は、あり得ないのである」


「そうなんだ」


 知らぬ間に艦長に任命されてしまった。

 艦長って、何やるんだろ?



「艦長になりました。で、何するの?」


「今は安土を収納作業中である。その後の指示はお前が決めるのである」


 なるほど。

 指示とは言っても、分かるのはコレくらいか?






「安土を収納後、戦艦阿久野は海へ向かう。海へ出たら、そのまま帝国の領土を回避して、東の領土を目指す。野郎ども!あ、嘉隆は野郎じゃないな。皆の衆。長い旅になるけど、よろしくお願いします!」

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