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操舵士

 珍しく官兵衛がやらかしたね。

 戦艦をどうにか出来ると分かって、気が緩んだかな?

 キルシェ達に、オリハルコンとアポイタカラの事がバレてしまった。

 でも、いつかはバレたと思うんだよね。

 船や武器の動力源は何かと聞かれたら、僕じゃ答えられないし。

 だから官兵衛を非難するつもりは無い。

 バレたから製造方法を話して、取引するつもりは無いとハッキリ伝えた。

 彼女もそこまで馬鹿じゃない。

 ちゃんと納得してくれたからね。


 しかし、こんなに長く滞在する事になるとは思わなかった。

 八割九割は完成していたのに、一部修正が入ったからだ。

 下手に手を抜くよりは良いんだけどね。

 ようやく完成した船を見て回ると、そこは男のロマンに溢れた光景が広がっていた。

 いくつになっても男は子供。

 蘭丸とハクトも興奮していたし、戦艦になって正解だったな。

 船頭にはバカでかい杭が用意され、砲台が多数設置されている。

 対空砲火もお手の物らしいし、早く撃つところを見てみたいものだ。

 そして主砲には、なんとレーザービームが用意されているというのだ!

 信之達は僕達が何を求めているか、分かってるなと改めて思った。

 ただ、実戦で使えないのはどうなんだろう。






 分かる。

 非常に分かるよ。

 レーザービームなんて、ライブとかで見るアレくらいしか知らない。

 それを武器として作るって、もっと未来の話だと思ってたから。

 このサイズなら、メガ粒子砲なのか?



「カッコ良いけど使えない。それって主砲の意味あるんですか?」


 ハクトよ。

 ストレートにそれを言ってはいけない。

 分かりやすく言えば、オシャレに我慢が必要なのと同じだ。

 寒くてもスカートの女性と変わらんのだよ。



「だから困っているのである。実質、海獣に使える武器はパイルドライバーのみ。魔王よ。何か良い案は無いか?」


 そんな簡単に言われてもなぁ。

 組み合わせで何か作るなら、何が良いんだろうか。



【素人考えで良いなら、俺もちょっと考えたぞ】


 おぉ、助かる。

 どんな方法?



【氷を撃ち出すのはどうだ?風魔法と組み合わせれば、水中でも発射出来るんじゃないか?】


 なるほど。

 だったら勢いを付けるのに、火魔法も一緒に使えば・・・氷が壊れるかな?

 いや、物は試しだ。



「コバ、こんな方法は?」


 僕は兄の案をアレンジして、コバに説明してみた。



「なるほど。氷なら弾は海水で作り放題。方向を定められれば、使えそうである。よし、時間が許す限り、作ってみよう」


 コバは昌幸達と相談して、新たな武器を作るらしい。

 官兵衛もその話に加わると、又左や佐藤さん達が到着するまでの間という事で、話はまとまった。



「急いで作るのである!」






 又左達がとうとう到着した。

 少し時間が掛かったが、それはイッシー達の部隊は馬とトライクの混成部隊だからだ。

 トライクと違い馬は休養が必要なので、仕方ないと思う。



「これが私達が乗る船。デカイですね」


「拙者、こんな大きい物に乗るのは初めてでござる」


 大型トラックを用意した事はあったが、比べ物にならないくらい大きい。

 船をあまり見た事の無い二人だが、むしろ日本から来ている二人の方が驚いている。



「戦艦ってマジかよ!」


「俺、箱根の遊覧船とかしか乗った事無いぞ」


 二人も杭と主砲を見て興奮しているが、一人だけマジマジと戦艦を見る人物が居た。



「・・・フン。武装が弱いな。我が艦隊の旗艦の方が、強そうだ」


 そう言っていたのは、何故か一緒に付いてきた水嶋という老人だ。

 僕はあまり絡みが無いのだが、何十年も前にこの世界に来た、元日本人らしい。

 銃を扱い、老人という見た目に反して戦闘力は高い。



「あの人、どうして来たの?」


「私もよく分かりませんが、この世界を見てみたいとの事です」


 世界を見たい?

 見てどうするんだ。

 この人、何がしたいのか分からない。



「爺さん、勝手に動くなよ」


「うるさいぞ。俺だって興味はある」


「水嶋氏、何処か気になる点を聞きたい」


「えっ!?」


 コバが下手に出る姿に、蘭丸達は驚きで大きな声を上げていた。

 前もちょっと見たけど、コバは知識がある人には丁寧だと思う。

 この場合、戦時下に生きたこの人の経験や体験を、戦艦に活かしたいのだと思う。



「う・・・むぅ。俺が気になったのは、この船は戦艦なんだよな?何故こうも、居住空間が優れているのだ?」


「戦艦と言えど、他国に攻め込むのではなく、戦うべきは未知の海獣。吾輩達は長期航海で帝国の領土を避けて、東の土地に行きたいだけなのである」


「敵国と戦うわけではないとな?ならば俺に言う事は無い」


「・・・もし海獣ではなく、敵国との戦闘を想定していたならば?」


「多々ある」


「それは吾輩が後程、教えて頂きたいのである」


 趣味かな?

 それとも今後を見越して?

 コバは明らかに、対人戦を考えているようだ。

 そんな事に使いたいとは思わないけどね。






 一週間後、マオーエリザベス号が間も無く帰港するという知らせが入った。


 コバは水嶋から教わった事を実践して、中を改装したらしい。

 船内戦闘になった時の為の、改装という事だった。

 海獣には必要無い改装なのだが、帝国兵と鉢合わせした時の為を思えば、やっておいて損は無い。


 それにあまり考えたくはないが、東の土地の連中とも良い関係を築けるとは限らないのだ。



「僕達が手助けを頼んだ人が、あの船に乗ってるんだよね?」


「乗ってます。すぐに分かりますよ」


 目の前を通るエリザベス号。

 街の人達は慣れたもので、皆が船に向かって手を振っている。



「あの船が帰ってくると、お祭りになるんですよ」


「へぇ、初耳だ。何て祭り?」


「海鮮バーベキュー祭りです」


 なんじゃそりゃ!



 しかし凄いな。

 この船が目の前を通過しただけで、潮の香りがやって来る。

 皆もその香りに釣られて、港へと集まってきた。



「降りてきますよ」


 船員達が降りてくると、早速魚を陸へ揚げていく。

 数百人でやる作業は、圧巻の一言だ。

 そして最後に、船長である先代九鬼嘉隆、通称キャプテンクキッドが姿を現した。



「凄い人気だ。まさか王国で、魔族がキャーキャー言われる日が来るとはね」


「あの人は特別です。女王様も含め、色々な人達から信頼されてますから」


「それはドルヒも?」


「そうですね。海上戦を教わったりしてますし、師匠と呼ぶべき存在です」


 何ともまあ、二度目の人生を謳歌してますな。

 美人の女王様からの信頼は厚く、美人の女騎士からも師匠と呼ばれる。

 ・・・ジジイのくせに羨ましい。



「最後が船長なんだろ?じゃあ俺達の船に乗るのは誰なんだ?」


「見えましたね。あの人です」



 船長の後ろから姿を現した人物。

 肌の露出が多くセクシーボディこ持ち主で、腰に結んだシャツの裾のおかげで、あの豊満な胸がとても強調されている。

 彼の孫娘である、当代九鬼嘉隆だった。



「まさか嘉隆が!?」


「でも彼女って、部下が居ないと駄目なんじゃなかったっけ?」


「拙者もそう記憶しているでござる」


 彼女の船は有能な部下達が居て、初めて成り立っていた気がするんだけど。

 自分は何も出来ないと、嘆いていた気がしたな。



「彼女は九鬼嘉隆を本当の後継者となる為、今は彼に教わっているようですよ。その一環として、オイラ達の戦艦を操舵してくれる事になりました」


 そうだったんだ。

 しかし日焼けの跡が眩しいな。

 とてもエロい。



「良いですねぇ」


「あぁ、とても良い」


「おいおっさん。下手な下心出すんじゃないぞ」


「あ、阿久野くん!俺はまだおっさんではないよ!」


 佐藤さんは一貫して、おっさんを否定し続ける。

 見た目はまだ二十代でも通る気がするけど、言動がなぁ。

 残念だけど、既に片足は踏み入れている。



 そんな事を言っていると、嘉隆はこっちに気付いたようだ。

 駆け足で船から降りてきて、こちらへやって来た。



「お久しぶりです!九鬼嘉隆、只今戻りました!」


「お、おう!おかえりなさい」


 ヤバイ。

 胸がブルンブルン震えてて、何処を見て良いか分からない。

 胸を見ないように下を見れば、綺麗な太ももが。

 かと言って顔を上げれば、目の前は大きなオパーイがある。

 そんなエロい身体なのに、笑顔はとても無邪気だ。

 それを見ると、自分達が如何に汚れているかを思い知らされる。


 それはおっさんズも同じだった。



「俺、姪っ子が大きくなったら、こんな感じかなって思えてきた」


 イッシーの言葉に同意する佐藤さん。

 大きく頷くと、彼も目のやり場に困っている。



「久しぶりでござる。早速聞くが、拙者達が乗る船を操れるのでござるか?」


「慶次殿か。相変わらず、槍の修行三昧のようだな。マオーエリザベス号と同じなら、任せろ」


「ほう。昔とは違うようでござるな」


 出会った頃は、周りに支えられていた感が強かった。

 本人もそれを自覚していて、自分に自信を持てていないのが、僕達の印象だ。

 しかし今は違う。

 祖父に教わって、一人前に近付いているという自信があるのだろう。



 そんなやり取りを、羨ましそうに見ているおっさんズ。

 会話に入りたくて仕方ないみたいだが、僕は手助けしない。



「久しぶりでございます。何やら孫がお世話になるそうで」


 手を振って忙しそうだった爺さんが、ようやくといった様子でこちらへやって来た。

 相当な人気者だ。



「モテモテだなぁ」


「海の漢になりましたから」



 胸を張るクキッドだが、あながち間違っていない。

 全身日焼けに何処で鍛えたのか、身体はムキムキになっている。

 頭の皿が無ければ、米国海軍とかに居そうな男になっていた。


 しかも以前と比べると、はるかに見た目も若い。

 色が黒過ぎるのが、ちょっと気持ち悪いけど。



「それで、彼女は期待して良いの?」


「期待してなかったと?」


「そういうわけではないけど」


「ワシの孫ですぞ!やる時はやります!」


 地雷踏んだか?

 孫自慢の話が始まってしまった。

 だって昔は自信無さげだったんだから、そういう聞き方にもなるでしょうよ。



 話が長い・・・。

 誰か助けてくれ。



「魔王様。彼女に戦艦の確認をお願いしませんか?」


「そうだね!そうしよう!」


 ナイス官兵衛!

 僕達はそそくさと、その場を立ち去った。







 さらばクキッド。

 今の話はほとんど忘れたが、嘉隆が出来る女になったという事だけは確かなようだ。



 漁船が帰ってきて祭りの準備が始まった事で、今や造船所周りは誰も居ない。

 僕達は気軽に扉を開けた。

 中へ入って行き、戦艦を見上げる嘉隆。



「これは・・・かなり違いますね」


「船内は変わらないみたいだよ。そうだよね?」


 信之に確認すると、彼は頷いた。

 彼の案内でブリッジへ向かうと、嘉隆は早速、機器類の確認に入った。



「どう?使える?」


「・・・大丈夫です!行けます」


 おぉ!

 自信満々に答えてくれるとは。

 これは期待出来そうだぞ。



「それで、もう出港しますか?」


「・・・え?」


「まだ準備は出来ていないんですか?」


 彼女の突拍子も無い言葉に、僕は思わず官兵衛を見た。

 彼も両手をブンブンと横に振っている。

 話が通じていなかったようだ。



「嘉隆は久しぶりの陸地で、休養とかは要らないの?」


「別に必要無いですよ」


「そ、そうなんだ」


 再び振り返る僕に、官兵衛は困った顔をしている。

 そうこうしていると、コバが横から口を挟んできた。






「だったら明日出港するのである!皆の者も準備は出来ている。娘も一日くらいは、陸で休んでおけ。その間、吾輩は昌幸殿と共に、最終チェックをしておくのである」

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