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新しい魔法

 いや〜、圧巻の一言だった。

 あんな大きな船を間近で見たのは、初めてだったからね。

 しかも砲台が付いてて、かなりカッコ良い。

 長谷部とマッツンがはしゃいでいたけど、誰も居なければ僕も同じ事をしたと思う。

 やっぱり小さい船より大きい方が良いよ。


 だけど、この戦艦並みの大きさになった事で、官兵衛が立てた作戦が全て白紙になってしまった。

 昌幸が怒るのも分かるけど、そこにコバが参加していなかったんだよね。

 するとコバは、過ぎた事は仕方ないとばかりに船内で作業をしていた。

 どうやらこの船は、元の計画にあった小さな船の周りに作られた物らしい。

 コバはそれを見抜き、小さな船だけを外せるように改良していた。


 コバは官兵衛と話し合った結果、この戦艦も使うつもりだった。

 僕としても、せっかく作ったのだから勿体無いと思ってたんだ。

 何より、この船が海へ出るのを見てみたい。

 そこで官兵衛から、この船を外に出す為に協力してほしいと言ってきた。

 その内容は、変身魔法で戦艦を別の物に変えてほしいという事だった。






 変身魔法かぁ。

 たまに使うけど、こんな大きな物を変える事が出来るのかな?



「出来るのかな?」


「その為のオリハルコンです。実験してみましょう」


 官兵衛は成功すると言っているので、僕は試してみる事にした。

 魔法を使う前に、まずは全員に下船してもらった。

 もし船の姿を変えるなら、小さくするのは最低条件だ。

 大きいままで外に出せば、余計に目立ってしまう。

 この船から目を逸らすのが目的なのに、それでは意味が無い。



「全員降りました。いつでもどうぞ」





 官兵衛からの指示で、僕は変身魔法を使った。

 想像したのは貧相な筏だ。

 コレを元の船に牽引させて、外へ持ち出す。

 それが僕の考えた作戦だ。



「それ!」


 オリハルコンを握りしめて使うと、変身魔法はちゃんと効果が現れてきた。

 戦艦は徐々に小さくなり、丸太が見えてくる。

 しかし、ある一定の大きさから、僕に異変が起きた。



「んん?」


「どうしました?」


「何だろう?何か壁のような物を感じるんだけど。これ以上無理に押し出すと、ガラスが割れるような感じがする」


「どういう意味でしょう?」


「初めての感覚だから、ちょっと分からないな」



 簡単に説明すると、ベニヤ板を押してる感じかな。

 押せば凹むけど、それ以上は進まない。

 無理矢理押せば、ベニヤ板は割れて押し通せる気もする。

 でも割れたらどうなるかは分からないから、少し怖い。



「・・・コバ殿」


「やってみるのである。何事も実験なのだ。失敗は成功の母。駄目だったら他の方法を考えるだけである」


 官兵衛はコバの意見を取り入れ、僕に続行を指示する。

 やはり自分の魔力がオリハルコンに通って行かない感じがするが、込める魔力を上げると、それは起こった。



「フンッ!」


 無理矢理魔力を込めた結果、パンっ!という風船が割れたような音がした。

 僕はビックリして目を閉じてしまったが、コバはこんな音くらいでは動じないようだ。

 普段から爆発音とかで、慣れてるのかもしれない。

 彼は一言、失敗であると言った。



「うわっ!丸見えじゃないか。元に戻っちゃったけど、何故だろう?」


「何を作ろうとしましたか?」


「貧相な筏だけど」


「なるほど。質量の問題ですかね?あまりに大きさの違う物に変える事は、不可能なのかもしれません」


 それって、このサイズの物は少しくらいしか小さく出来ないって意味だよな。

 目立ちたくないから小さくしようとしているのに、マズイんじゃないか?



「多分、変化が止まったくらいが、限界の大きさなんだと思う。アレじゃ二割くらい小さくなった程度で、あんまり変わらんと思うけど」


「そうなると大きさではなく、数を変化させる事は可能ですか?例えば、砲台だけを隠してみるとか」


「元々は欠片を使って一つしか変えられないんだし、オリハルコンを使っても無理だと思う」


「そうですか・・・」


 明らかに落胆している。

 変身魔法が頼みの綱だったっぽいな。

 まさか、僕もこんな弱点があるとは知らなかった。



「魔王よ。他に何か手立ては無いのであるか?」


「手立てって言われてもなぁ」


「ほら、そこは魔王らしく何かチートがあるだろ。その何かを出せ」


 何という無理難題。

 僕の事を何だと思っているんだ?

 青い猫型ロボットでも無理だっつーの。



【いや、試していないのが一つだけあるんじゃないか?】


 一つ?

 そんなのあったかな。

 ・・・いや、あった。

 あるぞ!

 むしろ、そっちの方が向いている気がする。



【このサイズに通用するか分からないけど、試してみる価値あるんじゃないか?】


 よく思い出したね。

 流石は兄さんだ。



 よし!

 早速、提案してみよう。






 官兵衛は再び、コバとの話し合いが始まった。

 今回は直政も加わり、安土で考えられる最高の頭脳の持ち主達が集まったとも言える。

 そこに入るのは抵抗があるが、僕も加わった。



「何か新しい代案はありますか?」


「無いのである。この魔王が使えないから、どうしようもないのである」


 オイ、この野郎。

 言うに事欠いて、使えないとは何だ。



「まあまあ。コバちゃんもそうカッカしないの。私も考えてあげるから」


 直政の気楽な対応に少し救われた気分だが、やはり解せぬ。

 だから意地悪をしよう。



「代案はあったけど、まあ僕よりも優れた頭の持ち主である、天才ドクターコバなら、そんな案は必要無いと思うんだよね。天才なら、簡単に無いとか言わないはずだし」


「むむ!?貴様、我輩を愚弄するのか?」


「先に無能扱いしたのはそっちだ。とびきりの案だったけど、やっぱり言わない」


 コバの顔が明らかに赤い。

 怒っているのか恥ずかしいのか、あまり分からない表情だ。



「魔王様。遊びではないのですから、そういうのはちょっと・・・」


「でもね、馬鹿にされっぱなしなのはどうかと思うんだけど。仮にも僕は魔王なんだろ」



 ちょっと卑怯な言い方だけど、魔王を馬鹿にされて、他の連中は良いの?って話だ。

 やはりそこを突かれると痛かったようで、官兵衛は黙ってしまった。

 直政は僕よりもマッツン派なので、特に何とも思っていないようだけど。

 コバは未だに真っ赤なままだが、とうとう口を開いた。



「す、すまんかった。早く代案を教えてほしい」


 珍しく謝ってきたコバ。

 顔が赤くなっていたのは、謝るのが照れ臭かったかららしい。

 大の大人が頭を下げたのだ。

 僕もそこまで愚かじゃない。



「意固地になって僕も悪かった。新しい代案なんだけど、まだ確実に出来るか分からない。だから、三人にもそこから修正案を提示してほしい」


「分かりました!」


 官兵衛が明るく返事をすると、直政も酒を持ってこいと要求し始める。

 それは駄目だと断ると、少し残念そうな顔をしていた。






「では、代案を発表します。まずはコレを見てほしい」


 見てほしいと言っても、見えなくなるんだけど。

 分かるかな?



「は?魔王が消えたのである!」


「凄い。気配すら薄くなって、居場所が分かりませんね」


「それ、北の洞窟で見つけたっていう、変わった石の力かな?」


「え?何故に知ってるの?」


 南の洞窟に居たはずの直政が、どうしてそんな事を知っているんだ?

 この欠片は、北の洞窟から出たというのに。



「マッツン経由で、カッちゃんから聞いちゃいました〜!驚いた?ねぇ、驚いた?」


 ちょっとだけイラッとしたが、問題はそれじゃない。

 機密を軽々と話す、マッツンが悪い。

 後でしばこうと思う。



 再び姿を現した僕に、三人は何が言いたいのかすぐに理解していた。



「この力を、戦艦に組み込むのだな?」


「問題は変身魔法と同じく、全てを覆い隠せるか。というところだよね」


「その為のオリハルコンです!変身魔法の時に、魔王様特有の力にも対応出来ると分かりました。大丈夫だとオイラは確信しています」


 いや〜、頭が良いと話が早い。

 何も言わずに、問題点を全て言ってくれたよ。



「というわけで、コレなんだけど。まずはオリハルコン無しで使ってみるね」



 欠片を持って魔力を込めると、船は少しずつ姿を消していく。

 だがやはり、ある一定の距離からは無理だったようだ。

 三割くらいしか消えておらず、逆に半壊した船に見えて目立ってしまうだろう。



「やっぱり無理だったか。というわけで、オリハルコンでブーストしてみます」



 今度は左手に欠片とオリハルコンを両方持って、右手を船に触れてみた。

 オリハルコンはやはり凄い。

 同じだけの魔力で、一気に八割くらいの姿が消えたのだ。

 残るは船尾のみ。

 しかし、そこからが少し大変だった。



「消えないのであるな」


「魔王様、ガンバ!」


 直政の応援が少しイラっとするが、僕もこれで終わりじゃない。



「ふ、フフフ。僕だって明鏡止水の境地に達してるからね。兄より時間は掛かるけど」


「明鏡止水だと!?ちょっと、何それ!カッコ良いんですけど」


 マッツンが僕の一言に食いついてきた。

 教えろとか早く見せろとか、喚いている。



「すいません。うるさくて集中出来ない」


「ごめんねぇ。ほら、マッツン。少し静かにしようね」


 直政グッジョブ!

 何かオカンみたいな対応だけど、似合っているのは気のせいじゃないはず。



「・・・よし!更に増幅、一気に行けえぇぇ!!」


 欠片に込める力が一気に強めると、船は全て消えてなくなった。



「凄い!完璧に見えなくなった。こんな事が可能だなんて」


「しかし、触れるとそこに船があるというのは分かるのである。なるほど。姿を隠す能力か。それは魔力をずっと流していないと駄目なのであるか?」


「いや、一定時間は消えっぱなしみたいだ。今は魔力を流していない」


「凄いですねぇ。こんな能力、初めて見た」


 マッツンの口を押さえながら戻ってきた直政は、次なる問題点を指摘する。

 それは僕も、どうなるか気になっていた事だった。



「船は隠せたけど、動かした時に発生する波はどうなのかな?」


「ちょっとだけ動かせますか?」


 官兵衛が信之に確認を取ると、動力源が無いから無理だと言う。

 オリハルコンとアポイタカラ待ちだったのだ。

 当たり前の話だった。



「手で引くしか無いのであるな。そんな事は不可能なので、今別の手を考えたのである」


「おぉ!流石はコバだ。仕事が早い」


「吾輩を誰だと思っている!」


 一頻り自慢が終わった後、コバは説明に入った。



「魔王、光魔法を水辺に使えるか?」


「光魔法?・・・もしかして、光の屈折?・・・鏡か!」


「フフ、流石は理系出身である。ご名答」


 コバにそう言われると、先生に褒められたような感覚になるな。

 ちょっと恥ずかしいような、こそばゆい感じだ。



「これは戦艦でなくとも出来る実験である。小型艦を漕いで動かし、試しに光の屈折を使って、波が見えないように出来るか試すのである」



 下で係留していた幸村達に、オールで船を漕いでもらった。

 そこにコバが計算した入射角で光魔法を使うと、するとあら不思議。

 波打つ部分が見えなくなったではないですか。



「なかなか素晴らしい成果である」


「これ、戦艦サイズだと難しいかもよ?流石に大き過ぎて、全てを計算しては無理じゃないかな」


 コバは少し黙ると、唸り始めた。

 そこに、官兵衛と直政が代案を出してくる。



「無理ならパパッと出来る事をやれば良いんじゃない?波が見えないようにしたいだけなら、川の水面を全て光らせるとか」


「それ、良いですね!魔王様が光に包まれながら出ていくという、演出とすれば良いのです」


 なんか凄い事を言っているけど、そっちの方が簡単だ。

 コバもそれに納得したようだ。






「水面の光を目立たせて、肝心の戦艦は隠すか。ミスディレクションであるな。どうせだからこの姿を消す能力も、名前を決めるのである。ハイドシステムで良かろう」

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