戦艦
官兵衛って内緒話というか、秘密主義だよね。
まさか王国の人に、船の進捗を教えてなかったとは。
そのせいで少し睨まれたけど、そこまで恨まれているような感じじゃなかったのは幸いだった。
僕は逆に、てっきり積極的に情報を与えているんだと思ってたよ。
だって王国は国政として、漁獲していく事を決めた。
だったら漁船は、一隻だけで済ませるはずがないからね。
二隻目三隻目と造るのであれば、もっと教えてるものだと考えてたよ。
この戦艦さえ完成したら、まとめて話すのかもしれないけどね。
そんな僕等の船も、いよいよ完成間近。
キルシェ達には隠す必要は無いと、今度こそ船を見せる事になった。
いざ造船所へ!
直政達を加えて到着すると、そこで真田親子が喧嘩してるじゃないか。
親子喧嘩ってした事無いから少しだけ憧れるけど、こうやって見るとやっぱり良いやって思う。
昌幸が怒っている理由を聞くと、どうやら船が理由らしい。
官兵衛がへたり込んだ姿を見るに、相当な事だ。
そして僕は見てしまった。
あの漁船と変わらぬ大きさの戦艦を。
作戦練り直し?
僕が一目見て思ったのは、官兵衛の言っていた作戦の事だ。
小さな船だから、カモフラージュは簡単。
そう言っていたはずなのに、このサイズでは隠す事自体が無理だ。
「信之殿!」
「何でしょうか?」
昌幸の髭を引っ張りながら答える信之。
昌幸も、信之の頭をガンガン叩いている。
「正直にお答え下さい。どうしてこんな大きさにしたのですか?」
「良いでしょう?これなら海の魔物に攻撃されても、そう簡単には沈みませんよ」
「海の魔物を撃退する為に、武器の搭載を許可したのです!それなのにこんな大きな船。もはや戦艦ではありませんか!」
「戦艦ですよ。海の魔物との戦いですから」
駄目だ。
話が噛み合ってない。
信之としては安全を考慮して、沈まないように大きくしたつもりなのだろう。
そして官兵衛も安全を考慮して、武器の搭載を頼んだ。
コンセプトは一緒だけど、方向性に大きな違いが生まれてしまったようだ。
「昌幸は、頼んでない事をした信之達に怒ったと?」
「その通りです。漁船と違い、乗組員と生活居住区だけあれば良かったのです。それなのに、こんな大きな船を・・・」
頭を横に振る昌幸。
頭痛の種が増えたと言わんばかりに、ため息を吐いている。
しかしその横で、盛り上がる連中も居た。
「かっけえぇぇ!!官兵衛さん、流石っす!」
「俺様に相応しい船じゃあないか!」
長谷部とマッツンは、二人並んで叫んでいた。
間近で見た戦艦は、確かに迫力がある。
砲台を見つけると、二人は近くで見ようと走っていく。
おい、マッツン。
エスコートはどうした?
既にキルシェの事など、頭に無いんだろうな。
ゆっくりと歩いてきたキルシェだったが、やっぱり船を見て驚いていた。
「これは・・・」
「貴族には流石に見せられませんな。魔族を討ち滅ぼしましょうと言ってくる馬鹿が、後を立たなくしそうです」
「凄い!」
ドルヒの心配も考えられそうで怖い。
下手に見せたらキルシェは担がれて、戦争の旗頭にされてもおかしくないね。
あくまでも漁船。
だからこそ帝国も、黙認しているのだから。
戦艦作ってるなんてバレたら、何処に売るんだ!ってなりそう。
ただ、昌幸が怒っているのに、もう一人の男が何も言わないのが気になる。
むしろ彼の方が怒りそうなものだが。
「コバは何処へ行ったんだ?」
「船内に入りましたよ」
ここで昌幸達の喧嘩を見ていても仕方ない。
僕等も船の中へ向かってみよう。
船内に入ると、かなり無機質な印象だ。
ミスリルと鉄が主に使われているから、それも仕方ないのだろうが。
所々に小さなクリスタルがあるのは、照明やその他色々な魔法を組み込む予定らしい。
照明である光魔法以外で分かりやすいのが、火と氷だろうね。
この二つがあれば、食料を腐らせる事も無くなるし、加熱して料理に使える。
なかなか考えられた船になっている。
「漁船とは大きく違いますわね。やはり魔族が大勢乗る船。クリスタルがかなり多く、私達の船と比べると快適そうな予感がします」
「マオーエリザベス号って、そこまで辛い生活環境なの?」
「初めての帰港の後、船長である九鬼様から聞いた話ですが、慣れるまでが大変だったという事です」
言われてみれば、そりゃそうだよな。
元々船は川でしか乗っていなかったわけで、休む時は船を停泊させて陸地に居たと思うし。
何ヶ月も不便な船の上で生活なんて、マトモな人なら根を上げるどころか発狂してもおかしくない。
その点こっちの船は、火も使えれば冷蔵庫もある。
シャワーだってお湯が使えるだろうし、頑張れば風呂も沸かせるだろう。
海がどれだけ揺れるか分からないけど、漁船に比べれば快適なのは間違いない。
「コバ殿が居ましたよ」
官兵衛から呼ばれると、コバは何かの作業をしていた。
軽く分解しているようだが、何をしているんだろう?
「来たのであるか。今は手を離したくない。もう少し待て」
「何をしてるんだ?」
「この船の設計図を見たか?」
そんな物見るわけが無い。
そう答えると、コバが面白い事を言ってきた。
「この船、後から継ぎ足した形跡がある。上手くいけば、セパレート出来るのである」
「セパレート?分離させられるって事?」
「その通りである。だからこそ、分離させられるように作り替えれば、なかなか面白いとは思わんかね?」
「面白い!要は合体ロボだろ?小型のロボと合体したら、本来の力を発揮するみたいな感じじゃないのか?」
マッツン、意外とロボット好きだな。
僕も好きだけど、真っ先にそういう考えを口にするし。
ただ、この事でキルシェがこっちにやって来た。
小声で僕に話し掛けてくる。
「あのタヌキ、何者だ?」
やっぱり気になっちゃいましたか。
マッツンはコバの後ろから覗き込んで、子供みたいな目で楽しそうに、コバが弄っている姿を見ている。
キルシェが怪しんでいるなんて、全く気付いていない。
「アイツ、アレで転生者だ。元はホストらしいが、全くモテなかったっぽいよ」
「転生者か。だろうな。言動が残念過ぎる。エスコートすると言ったのに、無視して先に進む馬鹿が何処に居る」
目の前に居ますよ。
あんなでもゴブリンにはモテモテです。
「残念だけど、彼は安土で必要な人材なんだよ。ゴブリン達のトップだからね」
「アレでか!?」
「ん?」
「何でもありませんわ」
キルシェの大きな声にマッツンが振り返ったが、すぐにコバの作業に目を向けた。
「理由は分からないけど、ゴブリン達は皆、彼を慕っている。それこそ、又左や慶次達に匹敵する強さを誇るゴブリン達もだ」
「マジかよ・・・」
「真面目な話、アイツを完全に敵には回せない。ゴブリン達の数を考えると、僕達ですら勝てるか分からん」
「そんなにか?」
「何にせよ悪い奴じゃないし、見ていて面白いからね。それに神様から、僕達の手助けを頼まれて来てるから。そんな事は無いと信じてるよ」
キルシェは残念な奴を見る目から、印象が変わったのだろう。
何かを品定めするような目になった。
しかし、それをあまり良く思わない人物も居た。
「マッツンを利用しようとか、考えないで下さいね?もし利用するだけ利用して、彼が傷つくような事があれば・・・」
「・・・分かっております。魔王様のご友人ですもの。そのような事は一切しないと、誓いますわ」
背後から忍び寄った直政の言葉に、目が笑っていない笑顔で答えるキルシェ。
何だろう、この冷たい空気。
僕、ここに居たくない。
「ま、マッツンは貴女には相応しくないです。ああいう人ですから。高貴な人とは無理でしょう。それと、もう少し軽く話してくれて結構ですよ。聞こえてましたから」
内緒にするからと、軽く人差し指を口元に持ってくる直政。
キルシェも苦笑いした後、言葉遣いを改めた。
「あ、そう。こっちも願い下げだから大丈夫。ただ、友人としてなら、お付き合いはしたいと思ってるよ」
「それはありがとうございます。私達も、王国のお酒を楽しみにしてましたから。今後ともよろしくお願いします」
直政が手を差し出すと、キルシェは握手した。
マッツンと話し合うより、直政に任せた方が早いだろう。
僕が官兵衛に任せてるのと同じだ。
そんな官兵衛だが、コバに付いてセパレートについて話を聞いているようだ。
作戦を大幅修正する為、何かを考えているんだろう。
「可能性はあるのであるな」
「なるほど。コバ殿の作業が終わり次第、試してもらいましょう」
何か決まったらしい。
官兵衛は大きく息を吐くと、こっちを見てきた。
多分、僕が協力する作戦なんだろうな。
「上手く出来そうである。よし、試そう」
コバの考えと官兵衛の作戦が、どうにか決まった。
まずはコバの変更点からだ。
「信之殿、船を一部破壊するがよろしいな?」
「は、破壊!?」
「言い方を変えると、一部穴を空ける。大丈夫。大まかな点は変えないのである」
壊すと言われて驚いた信之だったが、穴を空ける程度ならと承諾した。
すると、コバは僕の横にやって来る。
「魔王よ、あの赤い線で囲った場所。あの場所に穴を空けるのだ。合図を出すまで、空けるなよ?」
「分かった」
コバは川の方に声を掛けた。
幸村達が手で丸印を出してくる。
「よし、空けるのだ」
言われた通り、船体の一部を扉のように改造してみた。
すると、そこから何かが滑り落ちてくる。
「船だ!」
「かっちょいいぃぃ!!」
なんと戦艦サイズの船から、川に向かって小型の船が排出されたのだ。
それを川で待っていた幸村達が乗り込み、流れていかないように係留していた。
「これでOK。一つは解決したのである」
「一つ?まだあるの?」
「一番の問題は、こっちである。この戦艦サイズの船を、どうやって外へ出すか。一番の難題である」
昌幸は小型の船が出てきた事で、何とかなると安堵していた。
しかしその横に居た息子の信之は、あまり良い顔をしていなかったのだ。
双方を納得させる方法を、コバは考えていたらしい。
そして、それは官兵衛も同じだった。
「これだけ立派な船なのです。使わなくては勿体無い。だからオイラは、どっちも使いますよ」
「方法は?」
「そこで、魔王様の出番です」
やっぱりね。
ただ、僕が何をすれば良いのか、サッパリ分からない。
そこでコバが取り出したのは、オリハルコンだった。
「何ですか、あの石は?」
「えっ!?」
マズイ!
キルシェ達の前で、堂々とオリハルコンを出してしまった!
誤魔化すしかないが、アドリブに弱い僕じゃ思いつかないぞ。
「コバ殿と昌幸殿の最高傑作です。企業秘密なので、細かい事はキルシェ様と言えども、お伝え出来ませんが」
こっちを見てくるキルシェ一行。
慌てて首を振る僕に、仕方ないといった様子で納得してくれた。
そんなキルシェ達の視線が痛い中、官兵衛とコバが呼んでくれたので、ダッシュで逃げ出す。
「急にオリハルコン出すとか、マジで勘弁してくれ。それで、僕は何をするんだ?」
「こちらの船に、魔法を掛けていただきます。その魔法は、変身魔法。姿を変えて持ち出したいのですが、この大きさです。だから、オリハルコンを使って魔法を増幅させて、使ってみて下さい」