佐藤達の作戦
しかし今回、又左や慶次は本当に役に立ってない。
言い方が悪いな。
何というか、直接戦うような相手じゃないと、力を発揮しないと言えば良いのかな。
殴り合いや斬り合いみたいな戦いには強いけど、今回みたいな相手は苦手なのかもしれない。
現に慶次の腕は一撃で破壊されたし、又左の長槍もボールに触れたら危うく同じ目に遭ってしまうから、強く攻撃に転じる事は出来ない。
しかも途中から、揺れる以外の力まで使ってきた。
破壊?貫通?
どっちかよく分からないけど、まさか鉄球が割れるとは思わないよね。
又左には揺れる能力ともう一つの能力、見極めてもらおうと思ったけど、結局無理だった。
それ以上に、兄が気付くと大ピンチだったし。
一人じゃ無理だ。
弱音を吐く兄に文句を言おうかとも思ったけど、じゃあ代われよと言われたら、僕は無言になるしかない。
そんな時、僕は向こうでイッシーが戦ってるのが目に入った。
そうだよ!
又左がこっちに居てもする事無いなら、交代すれば良いんだ。
それを兄に伝えると、兄は又左に、佐藤さんとイッシーの二人と交代しろと命じた。
僕としては、どちらか一人と代われば良いんじゃない?と言ったつもりだったのに。
まさか二人とも呼ぶとは思わなかったよ。
又左は少しだけ、悲しそうな顔をした。
俺、何かしたっけ?
「私じゃ役に立ちませんかね?」
なるほど。
お役御免だと思っているのか。
その通りと言えば、その通りなんだけど。
「物事には得意不得意があるよね。今回の相手、又左は不得意な分野だと思うんだ」
「そ、そんな事無いですよ。不得意だと思った事なんて、一度も無いですよ」
「飛び道具が無い時点で、無理」
「そんなぁ・・・」
そんな事を話してる間にも、ボールは壁を貫通している。
かなりの穴が空いてしまった。
この壁、最近修復してミスリルも混合していたはずなんだけどな。
「向こうはイッシーの部隊が居るにも関わらず、拮抗しているんだ。それなりに強いんじゃないか?早く行って、向こうの敵を蹴散らしてこい!」
「わ、分かりました!」
魔王の言う通り、敵の部隊はそれなりに強かった。
今までの帝国兵とは違い、かなり統率された部隊だった。
「召喚者は一人しか居ないのに、何故こんなに強いんだ!?」
「分からん。しかもアイツ、大して動かないのに」
佐藤とイッシーの二人も、困惑しながら戦っている。
佐藤が目の前の敵を倒そうとしても、背後や横からのカバーが素早くて、攻撃に専念出来ない。
イッシーも弓で遠くから狙おうとすると、召喚者の周りに盾兵が構えを取っていた。
「佐藤殿ー!交代です」
「交代?」
又左が槍を振り回しながら、敵を蹴散らして戦場に入ってきた。
交代の意味が分からず、佐藤はもう一度聞き返す。
「魔王様が二人を必要としています。私では役不足のようでして・・・」
「又左殿が役不足!?俺達が行ったって無駄じゃないのか?」
「私は飛び道具が無いから、無理だと言われてしまいました」
「飛び道具ねぇ・・・」
佐藤は、自分もそんな物は無いのにと思っていた。
しかし必要とされているには、訳があるはず。
考えを切り替えて、又左に尋ねる。
「一人で大丈夫ですか?」
「向こうじゃ役に立たなかった分、こっちで暴れますよ!」
又左はイッシーの部隊と連携して、周りの兵を倒していく。
「うちの連中とも戦えてる。大丈夫みたいだ」
「行きますか!」
心配は無用だと分かり、二人は戦場から離脱した。
「くっそー。本当にどうしようもないな」
さっきからボールが飛んでくる間隔が早くなった。
中には揺れる方のボールも混ざっており、避けて見逃すと、大きな音と共に壁が揺れている。
貫通して穴がいくつも空いたからか、強度が弱くなり崩れ始めている箇所もあった。
そうなると、他の箇所まで崩落する危険もある。
「やっぱり俺達ゴールデンコンビには、敵わないみたいだな」
「油断するなよ。さっき止められたんだから」
「マックは慎重になり過ぎだ。もう少し、心に余裕を持とうぜ」
相手が俺一人になって余裕があるのか、ボールを蹴りながら会話を始めた。
馬鹿にされてるみたいで、腹が立ってきたぞ。
「何がゴールデンコンビだ。お前等、良いとこスチールコンビだろ」
「ハァ?意味が分からん」
「そのうち錆びて、ボロボロになるって意味だ」
「コノヤロ!」
ワハハ!
少しは気が晴れたぞ。
バーカ!バーカ!
(鉄鍋は火入れしてから使うと、ドンドン良くなるけどね)
そういう小ネタは要らないです。
むしろ俺が助かる小ネタを下さい。
(そうね。小ネタではないけど、佐藤さんとイッシーが向かってるのが見えたよ)
何だって!?
そういう大事な話は、先にしなさいよ!
鉄鍋の話なんか、どうだって良いんだよ。
(・・・だったら怒らせるなよ)
何を言っているのか分かりません。
ムカついたから、言い返しただけです。
「ハマー、気を付けろ。さっきの犬が、別の奴を呼んだらしい」
幕張は気付いたか。
でも、二人が来ればやりようはある。
「向こうから片付けるぞ!」
「分かった!」
佐藤さんとイッシーの方に、シュートを打つのか。
まあ二人なら背後に壁も無いし、避けるくらいは出来るだろう。
(マズイんじゃないの?)
何が?
二人なら避けられるでしょ。
(避けられるって事は、打ち返す事も可能性としてあるよね。特にイッシーとか、蹴り返そうとしそう)
ハッ!
その可能性があったか!
「食らえ!」
ハマーのシュートが二人に向かっていく。
しかもマズイ事に、懸念していたイッシーの前に飛んで行った。
まだ距離があるからか、少し勢いが弱くなった気もする。
しかし胸トラップでもしようものなら、胸に大きな穴が空くか、心臓を強制マッサージされる事だろう。
(ヤバいな!本当に受けようとしてるよ)
「ボールに触るなー!ボールから離れろー!」
俺の大声が響くと、イッシーは咄嗟に横っ飛びした。
地面に触れたが、特に何も起きない。
「アレ?どうして?」
「チッ!距離が遠かったか」
なるほど。
遠いと能力は無効化されるのか。
コレは良い事を知った。
「へーるぷ!佐藤さん、イッシー!へーるぷ!」
俺の叫ぶ声に反応して、二人はこっちへやって来た。
壁を見てどういう意味か分かったようだ。
ちゃんとボールは避けている。
「阿久野くん、これは凄いね」
「壁が穴だらけじゃないか。しかもあの揺れも気になる。どういう能力なんだ?」
俺は軽く二種類のシュートを説明すると、イッシーは軽く震えていた。
「あの時にボールに触れてたら、この壁と同じ運命だったかもしれないのか・・・」
「距離が遠過ぎると、無効化するみたいだけどね。それでも慶次の腕は、一撃で破壊された。当たりどころが悪ければ、一発で死ぬからね」
「そんな相手の時に呼ばないでよ・・・」
佐藤さんの弱気な発言は聞き流して、俺は対抗策を話し始めた。
「向こうはサッカーだけど、こっちは野球ボールなら作れる。だから、サッカーボールを野球ボールで当て返してほしいんだ」
「野球ボールで?何故?」
「何故?そうしないと、俺達や壁がやられるじゃないか」
「そうじゃない。何故、野球のボールを使うんだ?」
「え?」
アレ?
俺の考えがおかしいのか?
だって、ボールで当てないと危ないし。
イッシーは石仮面だから、石でも投げるつもりかな。
「ボールじゃないと駄目なのか?矢でも良いんじゃないのか?」
「ファッ!?」
「お前、考えてなかっただろ・・・」
そっか。
イッシーなら弓矢も使えるんだ。
むしろ矢の方が、穴が空くかもしれない。
「弓矢ね。いやぁ、そっちの方が良い。じゃんじゃん当てちゃって!」
「とは言っても、残りの本数はそこまで無いからな。ボールも用意しておいてくれ」
「OK。佐藤さんは呼ばれた理由、分かるよね?」
「任せろ。そこまでコントロールは良くないけど、頑張ってみる」
来たな。
これは反撃の狼煙を上げる時じゃないか?
「それはそうと、聞きたいんだが」
「まだあるの?」
イッシーは意外と、細かいところを気にするなぁ。
まあ当たったら無事じゃ済まないし、神経質なくらいが丁度良いのかもね。
「アイツがシュートしたら、危ないんだよな?」
「そうだけど」
「だったらよ、アイツにパスが渡る前に、ボールを弾けば良いんじゃないのか?」
「・・・え?」
「アイツがシュート打つ前に、俺の矢で穴を開けてしまえば、無効化出来るだろ」
し、しまったぁぁぁ!!
避ける事や防ぐ事ばかり考えていて、未然に打たせないという考えには至らなかった。
俺の馬鹿!
「そういう話ならさ、もっと早い手もあるでしょ。アイツに攻撃を仕掛けて、パスを出させなければ良いんだよ」
「だよな。そっちの方が手っ取り早いだろ。お前、何でそんな簡単な事、気付かなかったの?」
「・・・」
言い訳をさせてほしい。
まず二人の時に、そこまでの余裕は無かった。
近付けば、あのシュートに当たる確率は上がるからな。
攻撃をしようにも、又左の槍じゃシュートが当たるし。
だったら俺が攻撃をすれば良いんじゃないか。
それなら多分、同じ事をされて終わりだと思うんだよ。
野球ボールをサッカーボールで相殺する。
結局は詰んでたんじゃないかなぁ。
きっとそうだよ。
じゃないと、俺ただの馬鹿だもの・・・。
「よし、試しにやってみるぞ」
イッシーは幕張からの横浜へのパスに、矢を撃ち込んだ。
その矢は弧を描くボールに当たった。
当たったはずだった。
「すり抜けた!?」
「馬鹿め!俺達の能力は二人で一つ。俺がパスを受けるまで、邪魔は出来ないんだよ!」
射たばかりのイッシーに向かって、シュートが放たれる。
当たった事を確信していたイッシーは、少し反応が遅れたが、佐藤さんの手によって助けられた。
「すまん、助かった」
「俺も穴が空いたとばかり思ってたから。しょうがないですよ。だったら次の手で行きましょう」
パスが防げないのであれば、パスの供給源を断てば良い。
佐藤さんはそう言って、幕張の方へと走っていった。
横浜のシュートが佐藤さんを狙っているが、流石はボクサー。
サッカーボールくらいは軽々と避けている。
「お前を倒せば終わりだ!」
「倒せれば、でしょ?」
「えっ!?」
佐藤さんが近付くと、同じだけ距離を取る幕張。
イッシーが驚いた声を上げたが、俺も驚いた。
佐藤さんの足に匹敵するスピードで、幕張は走っているのだ。
しかもパスを出す瞬間だけボールが出現して、横浜へパスを供給している。
佐藤さんは狙われて、たまにステップを踏んだり速度を落としているので、更に距離が開いている。
「だったら、その間にあっちのフォワードを攻撃すれば。のわぁ!」
横浜の狙いが、佐藤さんからイッシーへと変更された。
逃げ惑うイッシーに、横浜は嘲笑する。
「おっさん、情けない声出すなよ」
「おっさんではない!まだ辛うじてお兄さんだ!」
「おっさんは皆、そう言うんだよな。自分の年齢考えろよ。張り切り過ぎて、腰痛めるんじゃないの?」
「おい!アイツ、ぶっ殺して良いんだよな!?」
イッシーが完全にキレている。
あんな挑発に乗って、もう冷静のれの字も無い。
「イッシーさん、冷静になりましょうよ。年齢の事はしょうがないですって」
「アンタもね」
「あ?」
「見た感じ、もう三十過ぎのおっさんだよね。動きからしてボクシングか何かやってたんだろうけど、もう引退する年齢でしょ?無理して高校生を追いかけちゃって、本当は呼吸もキツイんじゃないの?」
「ふざけんなよ!」
あ、佐藤さんも幕張の挑発でキレた。
このままだと冷静なのは俺だけになってしまう。
俺だけは、二人の挑発に乗らないでおかないと。
「おっさん二人が子守の為に、わざわざ殺されに来るとか。可哀想だなぁ。その子供も、生意気で可愛くないし。成長しても、中身はガキのままっぽい。こりゃ、モテないな」
「この野郎!絶対お前等はぶっ飛ばす!ガキが大人ナメんなよ!その足へし折って、トライクで引きずってやるからな!」