突き破るシュート
マックとハマーか。
僕はちょっとだけカッコ良いと思ったんだけど。
兄もコバもボロクソ言っていたから、何も言わなくて良かった。
それにしてもこの二人、思った以上に厄介な攻撃だ。
街全体が揺れるなんて、相当な威力だぞ。
又左と慶次もやって来たけど、まさか慶次の腕が一撃で破壊されるなんて。
サッカーボールだと侮った慶次が悪いのかもしれないけど、アレが兄ならキャッチか打ち返そうとしてただろう。
もしゴールキーパーみたいにキャッチなんかしてたら、身体全体が慶次の腕みたいになってたかもしれない。
そう考えると、僕は震えが止まらなかった。
言っちゃ悪いが、慶次が先に食らってくれて助かった。
兄は慶次が負傷して一人になった又左を助けるべく、下へと降り立った。
無駄にカッコ良く登場しようとしたせいで、目が回っていたけど。
ぶっちゃけアレ、僕も見てて気持ち悪くなったから・・・。
体操選手やフィギュアスケートの選手って、凄いなと実感したよ。
そんな兄だが、どうやら対抗策を見つけたらしい。
又左の槍が揺れているのを見て、発見したようだ。
ハマーの蹴るボールに野球のボールを当てると、サッカーボールは弾かれ、野球ボールは下へと落ちた。
一回しか揺れないなら、このやり方は効果的面だと思った。
我が兄ながら、なかなかやるなぁ。
俺は胸を張って笑った。
もうアイツの攻撃は怖くない。
ハッハッハ!
魔王の敵ではないわ!
「魔王様、あの球は何処から出て来るんでしょうか?」
「え?あ、そういえばそうね。球増えた時、近くにボール無かったよな。アレも能力で出来たボールなのかな?」
「回収してみましょう」
又左も変な事に気付くと思ったが、そうでもなかった。
考えてみたら、ボールを全部奪えば何も出来なくなるはずだからだ。
威力にばかり囚われて、今更になってそんな事に気付くとは。
魔王、不覚。
「おい、この千葉県民っぽい神奈川県民。さっさと打ってこいよ」
横浜を挑発すると、奴は顔を真っ赤にして怒ってきた。
俺、間違えたらしい。
「俺は千葉県民だ!」
「あ、横浜くんは千葉県民だっけ?いやぁ、本当にややこしいな。引っ越せ」
「こんのクソガキが!マック!」
「おうよ!」
幕張からのパスをシュートする横浜だが、さっきと同じように当ててみた。
ただ、少し検証をしてみようと思う。
すぐに二球目を当ててみたのだ。
すると二球目の威力で、サッカーボールは大きく横浜の足下へ転がっていった。
俺のボールもこちらへ戻ってきたし、俺の考えは間違っていないらしい。
「やっぱり一回だけしか揺れないらしい。だったら俺が当てた後、又左の槍でボールを回収してくれ」
「なるほど。御意」
マックは少し悩んだ。
既にどういう能力かバレているのでは?
そう考えたからだ。
「マック、次だ」
「・・・分かった」
次の一球で考えよう。
そう思ったマックは、同じようにパスを供給した。
しかしハマーのシュートは、野球ボールを当てられて止まってしまう。
更に予定外に、そのボールを奪取しようと槍を持った男が近付いて来たのだ。
「ハマー、取られるな!」
「アイツ!」
ハマーは凄いスプリントで、ボールへと近付いていく。
流石は暴走ストライカー。
そのダッシュ力は並じゃない。
だが、向こうの方が上手だった。
物凄く長い槍を振り回して、ハマーを牽制。
そして槍でボールを突いたのだ。
「取った!取りました!」
向こうからそんな声が聞こえてくる。
やはり狙っていたようだ。
こうなったら、普通のサッカーボールじゃない事もバレるだろう。
また能力で増やして、今度は違う手を考えなくては。
ボールを突いて喜ぶ又左。
だが俺は、又左にゲンコツを食らわせた。
「痛っ!えっ?何で!?」
「お前、馬鹿か!槍で突いたら、ボール破けて壊れちゃうだろうが!検証するのに壊れたボールじゃ、意味無いだろ」
「なるほど。確かに。でも、何か分かるかもしれないので」
又左は破けて空気の抜けた、サッカーボールだった物を手渡してきた。
受け取ってみたが、やはり普通のサッカーボールっぽい。
少し違うなと思ったのは、色が黒っぽいくらいだ。
サッカーボールで真っ黒なのは、あんまり見た事無いな。
「あっ!」
破けたサッカーボールが、透けて見えるようになってきた。
触っている感覚も無くなり、数秒で手元から綺麗サッパリ無くなってしまった。
「やはり能力で出来たボールか。じゃあどれだけ奪っても、向こうにはボールが出てくるのかもしれないな」
「奪っても破壊しても駄目という事ですね。チッ!厄介な」
舌打ちした又左だが、俺も同じ気持ちだ。
ボールを奪っても無駄なら、倒すしか方法は無い。
「どちらから狙いましょう?」
「そうだなぁ、やっぱり横浜かな」
シュートを打ってくるのは横浜だし、コイツを抑えれば怖くない気がする。
でも、何か違う気もするんだよなぁ。
「マック!」
「ハマー、チェンジだ!」
チェンジ?
何か変えるのかな?
「魔王様。お願いします」
懲りずにシュートを打ってくる横浜。
少し違和感があったが、同じようにボールを当ててみた。
「えっ!?」
俺のボールが破壊された!?
サッカーボールが野球ボールを破裂させて、壁へと当たった。
しかも壁は突き破られ、ボールの跡の穴が空いてしまった。
「ど、どうして!?」
「鉄球に変えてみましょう」
「そ、そうだな」
再び打たれるシュートに、今度は鉄球で対抗してみた。
さっき触った感じだと、あのボールは普通のサッカーボールと変わらない重さのはずだ。
多少は重かったとしても、鉄球より重いという事は無いだろう。
しかも今度は、俺の本気の投球だ。
絶対に当たり負けはしない自信はある。
いや、自信はあったんだけどなぁ・・・。
「何と!」
「マジかよ・・・」
俺の鉄球が、凄い音を立てて破壊された。
破片を見る限り、中心から大きく割れている。
後ろの壁には、また同じような穴が空いてしまった。
「ハッハッハ!アレだけ自信満々に対抗策見つけたとか言っておいて、このザマか。ダサいな!」
「クソッ!このエセ千葉県民の分際で!」
「俺はちゃんと千葉県民だ!」
またシュートを打ってくるので鉄球で対抗するも、やはり破壊されてしまう。
マズイ。
防ぐ術が見つからない。
「一度で駄目なら、二度三度当ててみては?」
「お前、簡単に言ってくれるねぇ」
「魔王様なら、座っていれば出来ると思ったので」
座ってというのは、キャッチャーとしてという事か?
確かにピッチングで当てるよりは、速く投げられる気がするけど。
連投すると、コントロールは落ちるんじゃないか?
(駄目で元々。やってみるだけやってみれば良いじゃないの)
全く、二人して簡単に言ってくれるよな。
ま、天才の俺なら出来ると思うけど。
(出た!自称天才くん。井の中の蛙ですか?)
うるさいな!
この世界で俺より上手いキャッチャーが・・・ブギーマンには居そうで怖い。
やっぱりやめておきましょう。
仕方ない。
何処まで出来るか分からないけど。
「やってやるぜ!」
やはりこっちのシュートは、打開策は見つかっていないようだ。
しかしこのシュートにも、問題はある。
貫通するだけで、範囲は極小なのだ。
このまま同じシュートを繰り返していても、時間が掛かってしょうがない。
シュートを打ち分けて、嫌がらせするしかないな。
「ハマー、どっちを打つかは任せる」
「分かった。最高のパスを待ってるぜ!」
最高のパスか。
やはりコイツは、俺の気分を上げてくれる。
最高のパートナーだ!
「又左、横浜に注視しろ。俺はお前が言った通り、当てまくる方法を取る。当てる為にボールに集中するから、お前がシュートの違いを見つけるんだ」
「承知しました!」
「ハマー!」
早速来やがったな。
俺は右膝を軽く地面に着くと、飛んできたサッカーボールに向かって、とにかく野球ボールを何球も投げた。
「クソッ!一球外した」
二球は当たったが、最後の三球目は外してしまった。
もう少しスローイングを速くするべきか?
いや、コントロールが悪くなる。
ボールをもっと速く、右手に作るべきだ。
「バッチこいやあぁ!!」
俺が気合を入れる為に叫ぶと、幕張と横浜は少し距離を取った。
どうやら二球当てられた事で、対策を取ろうとしているらしい。
又左が隙を見て槍で攻撃しようとしていたが、槍が破壊される事を恐れた俺が止めた。
「な、何だアイツ!?」
「本職はキャッチャーか。しかしエルフが野球やってるなんて。ハマー、お前知ってたか?」
「知るわけ無いだろ!でも、妙に様になってる。野球素人の俺でも、アイツが上手いって分かるぞ」
「俺もそう思う。一流は一流を知る。アイツもプロレベルの上手いキャッチャーって事だろう」
褒められているとは知らない俺は、奴等が話し合っている間に練習をしていた。
ボールの軌道に合わせて、狙う位置を変える。
止まっている的を狙うのでも難しいのに、動いているのに当てる事なんて、俺に出来るのか?
(兄さん、そこは集中だよ)
集中、集中か。
明鏡止水の境地。
こういう時に入れないで、いつ入るんだ!
「どっちで打ちたいかは、目で合図する。マックなら俺の要求に応えられるはずだ」
「任せろ!」
「魔王様、奴等が来ます」
「よっしゃ!」
俺は壁を背にして座った。
横から狙うより、壁を背にした方が当てやすいからだ。
まずは三球。
駄目なら四球。
とにかく当てて当てて、当てまくってやる!
幕張の綺麗な弧を描いたボールが、横浜の左足へと吸い込まれていく。
俺はまず、打たれた直後のボールに、当てる事が出来た。
二球目、右ナナメ上へ飛んでくるサッカーボールに当てる事に成功。
三球目は、俺の右上へと飛んでいくボールに当たった。
そしてラストの四球目。
俺は立ち上がり、バットでサッカーボールをぶっ叩いた。
バットが粉々に砕けても、勢いさえ無くなれば壁は穴が空かない。
俺はそう思っていた。
しかし、現実は違った。
俺の手に、確かな感触が残っている。
サッカーボールは幕張の居る方へと、飛んで行ったのだ。
「魔王様!」
「うぉっしゃ!」
三球。
三球防げば、壁に当たっても跳ね返る。
それが分かっただけでも、大きな収穫だ。
「マジかよ!俺のシュートが破られた!?」
呆然も立ち尽くす横浜に、幕張はすぐに声を掛ける。
「まだだ!たった一回成功しただけだろ。ハマー、壁は一旦中止だ。奴等を狙うんだ!」
「そ、そうか!そうだよな。当たりさえすれば、奴等の身体にダメージが与えられる。よし!」
二人は諦めず、すぐにボールを蹴り始めた。
「ハマー、次からは間髪入れずに行くからな」
「了解!」
幕張からのボールを、右往左往しながら蹴り出す横浜。
俺はすぐに座り、ボールを投げ込んだ。
しかし、今度はそう簡単にはいかない。
何故なら、飛んでくるのが自分に対してだからだ。
もし外せば、自分の身体が貫かれる。
想像するつもりは無くても、そういう恐怖が身体を強張らせた。
「クソッ!」
途中で横っ飛びで逃げるのに精一杯になり、作戦は失敗に終わった。
一人じゃ、どうやっても無理だ!
もう一人くらい当てられる人が居ないと。
でも、又左じゃアテにならないし。
せめて経験者が必要だ。
(経験者?居るじゃないか)
何処に?
又左はブギーマンとの試合にも、参加してないぞ?
(違うよ。居るのは向こうだ)
・・・あ!
「又左、作戦変更だ。あっちで戦ってる、佐藤さんとイッシー、その二人と交代するんだ。あの二人をこっちに呼んで、又左は代わりに向こうで暴れてこい。そっちの方が、又左には向いてるだろう?」