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ミノタウロスの初陣

 ゴリ川って、かなり優秀じゃない?

 初対面の印象が悪かったからかな?

 ただの筋肉バカだと思ってたのに、魚は捌けるし意外と論理的に話せるし。

 ぶっちゃけ慶次の方がアホっぽい。


 そんなゴリ川くん監修のジム機材を、帰ってきた又左とイチエモンに確認してもらったんだけど。

 あんまり好印象じゃないんだよね。

 どうやらミノタウロス達の機材は、もっと原始的な感じだからのようだ。

 鍛えたい部位に負荷が掛けられるこっちの方が、絶対優秀なんだけど。

 とりあえずこの機材は、安土とフランジヴァルドの中間地点に置く事にした。

 ミノタウロスの隠れジムなんだけど、どうせだから希望者は入れるジムにしちゃおうと思う。

 どうせアデルモとか黒騎士、又左達だって使いたがるだろうしね。


 そんな中、ロック達が漫画家探しの旅に出る日になった。

 自分の事になると頑張るロックだが、今回ばかりは僕とも目的が一致している。

 頑張って探してきてほしい。

 なんて思っていたら、なんとミノタウロス達が安土に到着してしまったのだ。

 いやはやタイミング悪いなぁ。

 そしたら、更にタイミングが悪かったよ。

 ミノタウロスに続いて、また帝国が安土に襲撃を仕掛けてきたのだ。






 また物凄いタイミングでやって来るなぁ。

 ロック達に加えミノタウロスで溢れかえる安土の入り口。

 このゴチャついた場所に、更に防衛をしようとゴブリン達が集まってきたのだ。

 中へ戻ろうとするロック達に、外に出ようとするゴブリン防衛軍。

 お互いが衝突して、入り口はてんやわんやだ。



 仕方ない。

 ここは魔王の威厳を見せる時だな。



「オホン。あー、落ち着きたま」


「魔王様!ここは我々ミノタウロスにお任せを!」


 えぇ・・・。

 被せられた。

 しかも声が大きくて、誰も僕の声が聞こえてないっぽい。

 ここはやはり、何も言わなかった事にしよう。

 だってカッコ悪いもの!



「うむ。任せる」


「やったぞお前達!いよいよ私達の力を発揮する時が来た!あ、魔王様。さっき何か言おうとしてましたよね?続きをどうぞ」


「へ?」


 このタイミングで振る?

 僕、明らかに空気読めてない奴じゃん。

 士気が高まっているミノタウロスに、落ち着きたまえはおかしいでしょ。

 この男、やりづらいな・・・。



「えーと、諸君。本当のミノタウロスの力を見せてもらえる事を、期待している。頑張って下さい」


 何かもうよく分からなくなって、最後は敬語になっちゃったよ。

 でも更に士気は高くなったっぽいな。



「到着して早々だが、行くぞ!」


「拙者も」


「慶次殿はしばし待たれよ」


「行くでござるよ!」


「初戦です!我等に華を持たせて下さい」


「あう・・・」


 おぉ!

 あのゴーイングマイウェイ慶次を言い負かした。

 嫌でも参加するって言うと思ったのに。

 このアイゲリアという男、なかなか出来る奴なのかもしれないな。



「蹴散らすぞ!」






 安土に入る前に、また安土から出ていくミノタウロスの集団。

 よく見ると、太田より身体が小さな人が多い。

 数も大きく負けてるし、危険だと思ったらゴブリン投入しないと。



「始まってしまいましたか!?」


「又左か」


 外へ出ていくミノタウロスを見て、遅かったかと言う又左。

 慶次が項垂れているのを発見し、何があったか聞かれた。



「なるほど。しかし良い機会だと思います」


「良い機会?」


「彼等は魔王様の役に立ちたいと言っていましたが、どうにも自己評価が低いのです」


「そうでござる。拙者達も苦戦したというのに、彼等はまだ弱い。まだ鍛え足りないと、言っていたのでござる」


「そういえば苦戦したんだっけ」


 そう言うと、二人して油断したからとか手加減したからとか、様々な言い訳が左右から聞こえてくる。

 聞き流したいのだが、右から左に聞き流しても、左からも言われて本当にうるさい。



「マオっち!コレ、俺っち達はどうなるの!?」


 良いところに来た。

 二人の言い訳を遮り、僕はロックの方へ向かう。



「一旦中止だよね。この戦闘の最中を、無傷で抜けられると思う?」


「だ、だよねぇ・・・。せっかくやる気になったのに!」



 そう。

 珍しくやる気満々だったロックは、率先して動いていたのだ。

 花鳥風月のサポートメンバーとしてゴブリン達を選抜し、ラビの仕事を手伝ってまで参加協力まで得ていた。

 だからこそ、出発までが早かったのだ。


 それなのに、水を差すように現れた帝国。

 ロックの怒りは、珍しく本気だった。



「やっちゃえ!俺っちの怒りも、まとめてぶつけてやれ!」


「自分の怒りは、自分で返しなさいよ」


「え?いや、そこはねぇ・・・。あっ!衝突するよ」


 誤魔化したな。

 ロックの指さす方向を見ると、先頭を走るミノタウロスが金棒を叩き付けた。






 アイゲリアは喜びに打ち震えた。

 上の世代が残した汚点を、打ち消す日が来たから。



 彼はこの中で、唯一のオーガとの戦いの経験者だった。


 経験者と言っても、実際には戦いには加わっていない。

 あの戦闘に参加したミノタウロスの中でも若く、表立って戦いに参加させてもらえなかったのだ。

 若いミノタウロスは使えないと、帝国から荷物持ちのような形で強制的に連行されていた。



 ズンタッタ達が負けてミノタウロスも解放されたが、一緒に居るとオーガと比べられると思い、彼等は出ていく事を選択。

 あの時に魔王から呼び止められなかった事が、アイゲリアの中で強く頭に残っていたのだ。



 そんな魔王からの協力の要請。

 ミノタウロスは見捨てられたと思っていたアイゲリアには、これほどの吉報は無かった。


 しかしその分、恐怖もあった。

 また失望されるのでは?

 もう負けられない。

 彼は簡単に引き受ける事が出来なかった。



 又左と慶次との戦いは、良い分岐点になった。

 魔王の片腕だと言う又左には負けてしまったが、もう一人の強者だという慶次には勝ったのだ。

 アイゲリアは代表として、顔には出さなかったが、勝ちを宣言した時に上げなかった左手は、強く拳が握り締められていた。



 やっていけるかもしれない。

 でも怖い。

 その時、慶次のジムを作ってもらえば良いという言葉に、彼は大きく救われる事になる。

 自分達はまだ発展途上。

 そう言い訳が出来るからだ。

 アイゲリアはそれを条件に、要請を飲んだ。



 今、自分の目の前には、あの時自分に命令してきた帝国兵が居る。

 そして魔王が見ている。

 自分に今出来る事を、全力でやろう。

 アイゲリアは金棒を、全力で帝国兵に叩き付けた。






 これ、僕だけかな?

 あの先頭の男、めっちゃ強くないか?

 あの武器、普通の金棒だよね?

 ミスリルの鎧を着ているはずなのに、身体が弾け飛んでるけど。

 鉄じゃなくて、ミスリルで出来てるのかな?



「あの人、凄くない?太田っちと同じくらい、強い気がするんだけど」


「僕もそう思う」


 むしろ武器の差を考えると、もしかしたらこっちの方が強いかも。



「彼は力で押すのですね」


「又左も知らなかったの?」


「アイゲリア殿とは、戦いませんでしたので。しかし他のミノタウロス達は、変わった戦い方をしますよ」


「あっちを見るでござる」


 慶次の言った方を見ると、一際小さなミノタウロスが帝国兵の海の中から現れた。

 首や腕が、大きく空を舞っている。



「子供、だよね?」


「彼はテリオス。私と戦いましたが、その実力は保証しますよ」


 又左が苦戦したって、あんな小さな子供なの!?

 いや、他人の事言えないんですけどね。

 それを差し引いても、強い。

 血飛沫が凄い。

 角が真っ赤になって、帝国兵も恐怖で腰が引けてるじゃないか。



「マオっち!あっちには麗しい女性が」


「麗しい女性?」


 僕は首をグリンと回して、ロックの指さす方を見た。

 しかし、麗しい女性なんか見当たらない。



「何処?」


「あの先頭の女性だよ。棍で戦ってる」


「・・・うん」


 麗しいと言われたら、とても強そうと答えておこう。

 ボディビル大会の女性部門に居そうな人が、棒を振り回している。



「え?何だアレ?」


「驚いたでござるか?アレこそ、多節棍という武器でござる」


 蛇みたいにウネウネ動いてて、気持ち悪い。

 得意げに話す慶次だが、何故こんなに詳しいんだろ?



「慶次はあの人に負けたのです」


「あ、なるほど・・・」


 自分に勝った人には、活躍してもらいたいのね。



 でも凄いな。

 左から来たら左に折れてガードするし、かと思ったら後頭部を攻撃して昏倒させるし。

 器用な魔力操作が、必要な気がする。



「強いね」



 ハッキリ言って、かなり強い。

 たまにこっちに戻ってくるけど、武器が無いからという理由だ。

 それでもすぐに代わりの武器を与えると、戦場に戻っていく。

 これなら安心して見ていられる。

 と、思ったんだけどなぁ。



「魔王様!別働隊が現れました!」







 どうやら別働隊は、正反対から現れたらしい。

 その数は少ないので、ゴブリンだけで対処出来るはずだった。

 だったのだが、別働隊の方が押されているらしい。



「救援要請が出ています。イッシー殿と佐藤殿が対応していますが、数人に抜かれたそうです」


「街中に入りそうって事?」


 それはマズイ。

 一般人に被害が出たら、僕達の負けだ。

 でも裏手って、この前抜かれて補修した場所だったような?



「壁を新しくしたんじゃなかったっけ?」


「ミスリルをふんだんに使って、補修しました。なので、耐えられるうちに救援をという事です」


「私達が行きましょう!」


 又左と慶次がそう言うと、ゴン!という凄い音がした。

 壁が大きく揺れている。



「は、反対側からここまで届く音だと!?」


「兄上、これは急いだ方が良さそうでござる!」


 二人は再び人混みをかき分けて、街の中へ向かっていく。

 中から反対側を目指すつもりだろうが、ごった返す人を見ると、それは得策じゃない気がするんだよな。



「僕も反対に行こう。あの威力、召喚者が居る可能性が高いし」


「お、俺っちは!?」


「こっちの方が安全じゃないかな?」


 ミノタウロスを見て言うと、確かにと頷く。


 何もする事が無さそうなロックには、ミノタウロスを花鳥風月達と応援しとけと伝えた。

 ラビには僕になり代わり、ミノタウロス達を見てもらおうと思う。

 そっちの方が、彼等のやる気は上がりそうな気がしたからだ。



「それじゃ、反対見てくるから。頼んだよ」


 というわけで、兄さんの出番です。






 俺は又左達と同じ行き方では時間が掛かると思い、壁と屋根の上を走っていく事にした。

 大人の二人だと屋根を突き破るかもしれないけど、俺くらいなら余裕だからね。

 案の定、途中で又左達をすぐに抜いて、反対側に出る事が出来た。



「魔王であるか」


「コバが戦場の方に来るなんて、珍しいじゃん」


「あの音をどうにかするのである!」


 何度か鳴り響いた音は、大きく街全体を揺らしていた。

 その揺れのせいで、精密な作業が出来なくて困ってるらしい。

 キレたコバは、直接文句を言いに来たという話だった。



「お前等であるか!」


「二人だけ?」


 コバを抱えて壁の上に向かうと、そこには二人の男が立っていた。

 壁から離れた所では、イッシーと佐藤さんが戦っているのが見える。

 抜けてきたのは、この二人だけらしい。



「誰だお前等!邪魔をするなら倒すのである!」


 グイッと背中を押すコバ。

 倒すのは俺なのかよ。


 でも、向こうも目立ちたがりらしい。

 誰だと叫んだコバに対して、攻撃をやめて名乗り始めた。



「誰だだと?教えてやろう。俺はハマー」


「俺はマックだ」


 名乗る二人は、どう見ても日本人だ。

 何故にハマーとマック?



「おい日本人。ちゃんと名乗るのである!」


「チッ!よく聞け。俺は千葉の暴走ストライカー、横浜!」


「俺が神奈川の天才司令塔、幕張だ!」


 ストライカー?

 司令塔?

 俺がそんな事に気を取られていると、コバはため息を吐きながら言う。






「お前等、馬鹿なのか?幕張が千葉で、横浜が神奈川であろう。今時のガキは、そんな事も知らんとは。日本の未来は暗いのであるな」

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