表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/1299

僕の小石

「もう一回聞いてもいい?」


「だから!何でこの石から、お前と同じ魔力を感じるんだって言ってるんだ!」


 ・・・ふむ。

 ちょっと何言ってるか分からないですね。

 分からない事があれば、スマホで調べるといいよね。

 って、そんな事がネットに上がってるわけないじゃないか!


【・・・普通に考えたらさ、それが魂の欠片じゃないか?】


 敢えて考えないようにしてたのに。

 もしそうだとしたら、僕等の魂で犯罪を行われてるって事だよ?

 そんなの受け入れられると思う?

 無理でしょ!?


【そうは言うけど、じゃあその欠片は犯罪に使われたから捨てるっていうのか?そんなの無理だろ】


 そんなの分かってるよ!

 分かってるからこそ、許せないんじゃないか!



【そもそもその魂の欠片だとしても、どっちの魂の欠片か分かってないんだからな?それが俺のだったら、別にいいじゃんか】


 あれが本物の魂の欠片なら、そう考えるとあの欠片は僕のだと思う。

 多分、いやほぼ確信があるから。


【ハッキリ言うけどさ、別にお前が犯罪を起こしたわけじゃない。俺はお前の欠片がそんな事に使われたとしても、別に軽蔑する事も無いし拒絶もしない。それはこのおっさんが他の村で殺人を犯してたとしても、その気持ちは変わらないからな】


 何で?どうしてそう言えるの?


【お前はこの欠片が自分のだと自信があるって言ってるけど。それって俺も自分の欠片を見つけたら、多分分かるって事だろ?じゃあその欠片がさ、盗難や傷害じゃなくて殺人を、もしかしたら戦争に使われていると分かったら、お前ならどうする?俺の事、軽蔑する?】


 そんなの関係無いじゃん!

 僕等が起こしたわけじゃないんだから!

 ってアレ?

 そういう事か。


【な?分かっただろ。確かに嫌な気持ちにはなるけど、だからといって自分がそれを丸々背負い込む必要は無いんだよ。多分だけど、これが俺の魂の欠片だったら、お前はすぐにその事に気付いたんじゃないか?】


 ごめん、冷静じゃなかった。

 僕は今、自分の事しか考えられてなかったね。


【たまにはそういう時もあるって。俺だったら何も考えずに、このおっさんぶん殴ってたと思うぞ?】


 フフ、そうかもね。

 でも、ありがとう。

 だいぶ気が楽になった。


【おう!俺が凹んだ時は、慰めよろしく!】


 最後の一言が無ければカッコ良かったのに。

 まあその辺が、らしいと言えばらしいんだろうけど。

 さて、じゃあ欠片を取り戻しますか!


「長い間、深く考えておられたようですが」


「あぁ、すまない。ちょっと話し合っていたんだ」


 どうやら話し合ってる最中に、顔色が悪くなったから気になったとの事。

 心配させて悪いね。

 でも、もう大丈夫。


「この小石なんだけど、多分僕の魂の欠片だと思う」


「魂の欠片!?魂は欠けても平気なんですか?」


 平気かって聞かれると、どうなんだろう。

 元の身体には入れないから、平気ではない?

 でも魔王の身体には2人で入る事は出来るから、平気って言える?


「平気かどうかって聞かれると、平気ではないんじゃない?正直な話、分からないんだよね」


 神様がこの身体を渡してくれたって事は、今すぐにどうこうするとかではないと思うけど。

 そういえば僕の魂なんだから、返してもらうって言い方が正しいのかな。

 というか、この欠片どうやって取り込むんだろ?


【飲み込むんじゃね?】


 ホントかよ!

 それで間違ってたら、出てきた後が・・・。

 想像しただけで恐ろしい。

 うーん、分からないなら聞くしかないか。


「ちょっと調べ事してくるから。その間にこのおっさんの取り調べしておいて。これが無ければそう簡単には逃げられるとは思えないから、何処かに拘留しておいても大丈夫だろう」


 というわけで、返事も聞かずに町の外へ出てきた。

 町中で神様を呼ぶわけにはいかないしね。

 この辺で大丈夫だろ。


「ヘイ、神!欠片の取り込み方教えて!」


 スマホに向かって言ってみた。


『すいません、よく分かりません』


「絶対分かってるだろ!」


 よもや返事してくれるとは思わなかった。

 しかも無駄にAIっぽく言ってくれるし。

 何でそんなとこだけサービス精神旺盛なんだよ。

 だったらスマホ料金、タダにしてくれ。


「お久しぶりです。で、欠片はどうやって取り込むんでしょう?」


『なんという前置きの少なさ。神なのにちょっと悲しいです』


「で、どうなんでしょう?」


『・・・何か言いたくない』


 オイィィ!!

 言いたくないじゃないでしょうよ!

 神なのに拗ねるんじゃない!


『もうちょっと優しくしてくれないと、言いたくないなぁ』


「・・・神様、最近身体の調子はいかがですか?風邪とか引いてないですか?」


『私、神なので風邪とか引かないですね。不死なので身体も不調とかありえないですし』


 じゃあ言わせるなよ!

 何なの、この小芝居。

 必要ある?


「ところで魂の欠片だと思われる物を見つけたんですけど、これは本当に魂の欠片ですか?」


『そろそろお答えしましょうか。それが魂の欠片です。どちらの方の欠片かまでは分かりませんが、自分で分かると思いますよ?』


 じゃあ、やっぱりこれは僕の欠片だね。

 なんとなく自分のだって気がするし。


『魂の欠片は、それぞれ願望や欲望等が入っている事が多いです。その願望や欲望が一番分かるのは、それはやっぱり本人なんですよ』


 なるほどね。

 自分の欲望が丸見えという、とんでもない露出プレーをしてるという事か。

 そう考えると、めっちゃ恥ずかしくなってきた。

 とっとと自分の中に戻したい。


「それでこの欠片を自分の中に戻すには、どうすればいいんでしょう?」


『はい、分かりません』


 ん?聞き間違いか?

 またAIっぽく言ってた気がするけど、冗談だよな?


『冗談じゃなく、本当に分かりません。おそらく欠片だけが召喚から外れた為、私でも想像つかない状況となっております』


「えぇ・・・。じゃあどうすればいいんだろう」


『おそらくは、持っていれば馴染んでいくかと。一時的に離れたから、そのような現象が起きていると思われます。なのでアクセサリーのように身につけていれば、いつかは一体化するはずです』


 いつかっていうのは気になるけど、それ以外は理解した。

 なんとなく、全部揃わないと駄目な予感がする。

 しかしアクセサリーのようにか。

 あんまり身に付けた事無いから、どういう物を作ればいいか分からない。

 指輪とか適当に調べて作るのが無難だな。


『あとスマホの使用料に関してですが、等価交換用の袋を用意しました。見た目は布製にしか思えないような感じですが、念じると袋の口が広がるので、大抵の物は大丈夫だと思います。ただし等価交換を使用した場合、その場ですぐに金額が分かりません。ある程度相場が変動している事があるので、少し時間を置いてから金額が袋に表示されるようになります』


 おぉ!

 その場ですぐに金額が分からなくても、かなりありがたい!

 だって奪ったミスリルとかその他色々、処分に困ってたからね。

 これなら町へ寄付という事ばかりにはならないだろう。


「ありがとうございます。その袋はまた、宅急便で送られてくる感じですよね?」


『そうですね。GPS作動させると位置情報を勝手に調べてくれるので、受け取るまでオンにしておくと便利ですよ』


「なるほど。受け取ったら、またオフにすればいいわけか。それが賢い使い方かもしれませんね」


 ただそれって、突発的に送られてくる場合には対応出来ないんだよなぁ。

 請求書ならどうでもいいけど、他の物だとちょっと困る。


「神様、ちょっとお願いがあるんですけど。もし宅急便を利用するなら、その前に一言連絡していただけると助かるんですが」


『そのタイミングで、GPSをオンにするわけですね。分かりました。今後はそのようにしましょう。ただ、請求書もちゃんと受け取ってくださいね?』


 ちっ!

 バレてやがったか。

 請求書だけは、オフでもいいやと思ってたのに。


「じゃあGPSをオンにして待っています。ありがとうございました」


『現地の特産品、楽しみにしてます。またお会いしましょう』


 現地の特産品って何だ?

 この辺でしか手に入らない魔物の素材とかかな?

 まあ何でもいいから、入れちゃえば勝手に判定してくれるだろう。

 ゴミ以外は、何でも金になってくれる事を期待しよう。




 さてと、もう夕方になってしまったな。

 おっさんの方はどうなったかな?

 どうやら、町長の家の近くの空き家に監禁されているようだ。


「おっさんの様子はどうだい?」


「魔王様、長かったですね。とりあえず名前や此処までの旅路、魔法の使い方等を確認しました。会話されますか?」


「そうだね。ちょっと2人にしてもらいたいかな。彼の今後は、それで決めたいと思う」



 ズンタッタ達以外にも町長が派遣した衛兵達も見張りとして居たが、家の中から全員出てもらった。

 これなら日本での事も聞けるからね。

 それと、変身魔法の使い方も聞いていたのか。

 色々と太田がメモしてくれている。

 字が綺麗だから、読みやすくて助かるね。


「おっさん、じゃなくて斎田さんって言うのか。改めまして、阿久野です。どうぞよろしくお願いします」


「両手が縛られていなければ、名刺くらいは渡したかもな。ところであの小石、返してくれないか?」


 返してくれないか?

 意味が分からない。

 何で自分の物だと思っているんだ?


「返すも何も、これは元々僕の物だ。貴方に渡す理由が無い」


「ふざけるなよ!アレは帝国の召喚で出てきた物って言ってたんだぞ。お前の物って言う証拠なんか無いだろう」


 ぶん殴っていいかな?

 何でそれがお前の物っていう話になるんだよ。

 帝国から持ち出したのが自分だからか?

 ふざけてるのはお前だろ!


「アンタさ、何か勘違いしてない?コレは物じゃない。僕の魂の一部なんだが。それをさ、なに自分の物のように言ってるわけ?そもそも勝手に帝国から持ち出した時点で、盗品だろうが!」


「使えるのが俺だけなんだから、別に構わないだろ」


「コレを使って、アンタは何をしてきた?人の家に入って無銭飲食?誰も居ない家に入って空き巣か?それともリザードマンの町に来る前は、傷害だけじゃなくて殺人まで犯したりしてるのか?」


「殺人なんかしていない!人を傷つけたのだって、今回が初めてだ」


 人を殺していない。

 それを聞いて、少しだけホッとした自分がいる。

 でも、それはそれ。

 やっぱり犯罪に使っていたのは間違いない。


「アンタは今の言い分だと、変身する力を使って無銭飲食や空き巣はやっていたと認めるって事だよな」


「・・・」


「無言って事はそういう事だろう?大体アンタ、何でこの力使えたと思う?何か理由があるからだろ。例えば変身したいとか、変わりたいとか」


「・・・この世界に来る前、俺は変わりたいと思っていた。現状に悲観するだけじゃなくて、変われば何かあるかと思った。俺にだって、美人の嫁さんがもらえる機会があるかもって。でも、変わるどころかこの世界に来ていた」


 詳しく聞くと、ダイエットがてら身体を動かそうと階段を降りようとしたら、足を滑らせた。

 そしてこの世界に来たと。

 なかなか軽いのか重いのか、よく分からない案件だ。

 でもそれは、僕がサラリーマンを経験していないから。

 更に言えば、この人よりも人生経験が無いからかもしれない。


「僕がもし40歳のおっさんで、サラリーマンとして働いていたら、貴方の事を共感していたかもしれない。でもやってきた事は犯罪だ。変わりたいって、犯罪者になる事だったわけじゃないでしょう?」


「それは・・・。確かに言う通りだと思う。俺だって人の家に勝手に入って、メシ食ったり盗みをしたりする為に変わりたかったわけじゃない」


「じゃあ自分がしてきた事が、悪い事だというのは認識していると?」


「悪かったとは思っている。この力に溺れて、方向性を間違えたのかもしれない。もっと違う使い方をしていれば、真っ当な道を歩めたかもなぁ」


 反省はしているのかな?

 しかしもっと違う使い方か・・・。


【何だ?何か気になるのか?】


 いや、違う使い方に関してちょっとね。

 まあそれは今度説明するよ。

 今はこの人についての方が先決だから。


「斎田さんは、今からでも変われると思ってる?」


「それは周りが許してくれないだろう?俺が変わりたいと言ったとしても、既に罪を犯した犯罪者なんだから」


 うーん、普通は無銭飲食とか空き巣だと懲役なのかな?

 この世界だともっと罪重い?


【そうだよな。生きるだけでも大変な世界だし、無銭飲食は重そうな気がする】


 でも反省はしてるっぽいんだよなぁ。

 というより、勝手に僕等が決めてもいいのかな。

 リザードマンの町で裁くのが普通?


【でもそしたら、無銭飲食の罪で死罪とかも無くはない気がするんだけど】


 それは嫌だなぁ。

 どうしようもないクズなら別に良かったけど、この人の場合はまだ何とかなりそうな気もするし。

 ・・・勝手に決めちゃいますか。


【どうするんだ?逃すのか?】


 いや、罪は償ってもらう。

 ちょっと大変だけど、まあ大丈夫でしょ。


「決めましたよ、斎田さん」


「何を?」




「貴方には死んでもらう事にします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ