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又左の驕り

 帰ってきたイケメンエルフくん。

 彼は息を切らせて、再度僕に確認を取ってきた。

 次に彼が持ってきた商品はこちら!

 天然植物由来のボディソープ。


 ・・・良いんだけどさぁ。

 確かに間違ってないよ。

 でも、面白味が無いよね。

 もう少し安土ならではというか、捻りが欲しい。

 こう、魔王様ってこんな物を贈ってくれるの!?みたいな、サプライズ感があると良いんだけど。

 そんな事を言ったら、彼は少し不満そうな顔をした。

 そして小さな声で、ポツリと呟いたよね。

 だったら自分で探してくれませんか?


 ボディソープ決定!

 やっぱり無難が一番だよ。

 凝った物を贈ってもさ、使わないかもしれないじゃない。

 だったら、誰でも使える物を渡すのがベストだと僕は思うわけですよ。

 アレ?

 何か言いたげな顔してますね。

 いやぁ、キミは流石だ。

 やはりイケメンは違いますよ。

 僕達じゃあここにたどり着くまで、もっと時間が掛かるもの。

 やっぱりね、女の子の意図を汲み取れる男は違うなぁ。

 え?

 怒ってる?

 じゃあ言っておくよ。

 ワガママ言ってすいませんでしたぁぁ!!






 又左の腹には、拳の形をしたアザが残っている。

 この隠れ里改め隠れジムの代表である、アイゲリアの言っていた事がようやく分かった。



「まさか、こんな使い手が居たとは。しかし、ミノタウロスらしくないな」


「ミノタウロスらしさとは何ですか?力任せに戦う事ですか?」


「そうとは言っていないが・・・」


 又左の言葉に即答するテリオス。

 図星を突かれた又左は、反論出来なかった。



「・・・貴方は我々が魔王様に助けられた後、ミノタウロスがどうなったか知っていますか?」


「魔王様の下を離れ、この山に来たのではないのか?」


「何故この山に来たか、という事です」


「そこまでは知らん」



 そもそも又左達は、ミノタウロス達がオーガと戦う為に連れてこられたというのは、話でしか知らなかった。

 しかもその時の話では、ズンタッタの名前は出てきていない。

 あくまでも、帝国兵にという事になっていた。


 ちなみにここに居ないズンタッタだが、実は同行していた。

 しかし又左と慶次のトライクの運転に酔い、途中でリタイアした。

 彼は一人で安土に帰ると言い、歩いて二日くらいの距離の所で下されたのだった。



「僕達、というより僕の父達ですね。あの人達は、すっかり日和ってしまいましたよ。好敵手と言われたオーガに負けて落ち込み、隠居生活に入りました」


「なるほど。この隠れジムに、キミみたいな子供や彼女のような女性が見えるのは、そういう理由か」


「ミノタウロスは魔族でも有名な種族。屈強な身体で、人々から恐れられた事もある。僕はね、そんなミノタウロスに生まれた事を誇りに思っていた」


「でも、オーガに負けたと」


「アレは魔王様が居たからだ!僕達だけなら勝っていた。だけど、そんなのはもう言い訳にしかならない。だから!僕達はまた自分達で、その存在意義を取り戻す」


「その心意気や良し。強さも申し分ない。素晴らしいと私は思う」


「その上から見下す態度が、気に入らないんだ!」


 彼は投げたナイフを拾いに、一直線で向かっていく。

 そこに又左の長槍が間に入るが、彼はその槍を掴むと、下を潜って先へ進んでいった。

 ナイフを拾い上げたテリオスは、再び又左と対峙する。



「僕達は負けない」


 再び猛ダッシュで走り始めるテリオス。

 又左も、槍を突いて応戦する。

 しかし槍が全て擦りもしない。



「身体をすり抜けた!?」


「甘いですよ」


「ツッ!コイツ!」


 左手の甲を裏拳で叩かれると、裏拳をした手に持ったナイフがそのまま又左の顔へと向けられた。

 ゴツッ!という鈍い音が響く。



「兄上!」


「案ずるな」


「イッタァ・・・」


 痛みで顔を歪めるテリオス。

 ナイフを持った右手には、又左の左肘が当たっていた。



 又左はナイフが自分の顔に当たると即座に判断し、槍をその場で落としていた。

 腕を伸ばし、自分の顔を狙っているのが分かった又左は、左手の甲の痛みから肘打ちに変更。

 逆にテリオスの右手の甲を、肘で打ちつけたのだった。



「まだ青いな。何処を狙っているのか、視線で分かったぞ」


「クソッ!」


 テリオスはそのまま、又左の懐の中で攻撃を続行した。

 今なら槍は手放していて、持っていない。

 それに長槍を見たテリオスは、又左が接近戦に弱いと判断していた。



「な、何で当たらないの!?」


「そりゃ、お前よりもっと接近戦の凄腕と、毎日やり合ってるからだ」


「チクショウ!」


 的確に急所を狙ってくる右手のナイフと、それに合わせて左手でも攻撃をしてくる。

 フックやアッパーだけでなく掌底を使ってくるので、角度がいつもと違うなと、又左は軌道修正していた。



「そろそろ終わりにしてもいい頃合いか」


「それは僕のセリフだけどね」


 又左がテリオスの攻撃を見切り、反撃に出ようとした時、自分が吹き飛ばされた事に驚いた。



「ゴホッ!なかなか強烈な一撃だな。まさか、蹴りも使ってくるとは」


「だから言ったでしょ。武器はナイフだけど、使うのはナイフだけじゃないって」






 イチエモンは二人の動きを見て、感動していた。

 離れているから辛うじて見えるレベルだが、それでも安土で有名な又左の槍を、間近で見るのは初めてだったからだ。



「テリオスくんでしたっけ?彼も凄いですね」


「そうでござるな。兄上に数撃入れているし、手練れに入れても良いと思うでござる」


「負けたりしませんよね?」


 イチエモンの不用意な発言に、慶次はイチエモンの顔に近付けた。

 真顔の慶次に驚き、尻もちを突くイチエモン。

 少しだけチビりそうになったのは内緒だ。



「本気で言っているのかと思ったでござる」


「冗談ですよ!冗談」


「甘いな。お前の兄貴、やられるぜ?」


「何?」


 二人の会話に割って入るアドネー。

 彼女は又左がやられると言った瞬間、又左が吹き飛んだ。



「兄上!?」


「バク転した?」



 テリオスはバク転の勢いで、又左の腹を蹴り飛ばした。

 両手にばかり集中していた又左は、前後左右の動きには注視していたが、上下の動きには警戒していなかったのだ。



「ほらな。さっきだって下からの攻撃にやられたのに、全然学習していない。駄目だな」


「黙るでござるよ」


「何だ?兄貴を馬鹿にされて怒ったのか?」


「見る目が無いのはそっちでござる。兄上は、わざと食らったのだ」


「わざと?馬鹿かお前。わざと食らう理由が何処にある?」


 嘲笑うアドネーに、慶次は拳を強く握ってから一呼吸置いた。

 怒りに任せて反論するのではなく、ちゃんと説明する為だ。



「兄上は、何故さっきから接近戦に応じていると思う?」


「そりゃ、逃げられないからだろ」


「全く違うでござる。安土には、魔王様も認める接近戦の強者が居るでござるよ。その方といつも戦っている兄上が、彼程度の接近戦に苦戦はありえないでござる。ま、彼の事を指導でもしているつもりなのでござるよ。ハァ、そんな事も分からないとは、残念でござるな」



 ここぞとばかりに馬鹿にする慶次。

 言い返せた事にスッキリして、とても良い笑顔をしていた。

 その横に居たイチエモンは、大人気ないなと呆れていたが・・・。



「見ろ。そろそろ動きがあるぞ」






 慶次の説明は間違っていた。

 勘違いも甚だしいとは、この事だろう。



 確かに又左は、戦い始めた当初、子供であるテリオスに胸を貸すつもりでいた。

 しかし最初にボディを食らった後は、少しだけ本気になった。

 裏拳で左手が痺れた後は、槍を持ってもマトモに振れないと判断して槍を落とし、避ける事に専念。

 そして動きに慣れた頃に、今度は足まで使われたのだ。



「良いぞ。流石はミノタウロスだ」


「だから、上から言うのはやめて下さいよ!」


 内心、又左は結構焦っていた。

 両手だけなら佐藤と同じで、むしろ対応は出来ると予想していたのに、蹴りも警戒するとなると途端に難しくなったからだ。



 何故又左は、上から言い続けているのか?

 簡単である。

 テリオスを怒らせて、動きを単調にしたかったからだ。

 慶次の言うような、指導しているような考えは一切持っていなかった。

 むしろ、さっさと倒さないとマズイとすら思っている。



「そろそろ、私も本気を出すとしようか」


「むっ!?」


 又左の気配が変わり、危機感を察知したのかテリオスは初めて自分から下がった。



 やった!

 やっと槍を拾える。

 又左は心の中でガッツポーズをする。



「良いのか?下がったら槍を手にしてしまうぞ?」


「良いんです。僕は、本気の貴方を倒してみせる!」


「流石はミノタウロス。その勇猛さに免じて、本気の一撃を繰り出してやる」


「ありがとうございます!」


 本気も何も、途中から避ける事に本気でした。

 もう辛いので、本気の攻撃でさっさと倒したい。

 こっちが彼の本音だ。



「行くぞ!」


「僕は貴方を倒す!」



 又左は頭の上で槍を振り回し、テリオスを近付けないようにすると、彼は姿勢を低くしてさっきよりも速いダッシュで懐へ飛び込んでくる。

 すると又左は頭の上から腰を使い、槍を中段へと落としてきた。

 中に入れないと分かったテリオスは、又左の顔目掛けてナイフを投げる。

 頭を傾けて避けると、そこへ大きく飛び蹴りを入れてくるテリオス。

 槍を再び上げようとすると、又左は目の前に布が被せられる。

 頭からすっぽり被った又左は、目の前が見えなくなった。



「何だ!?」


「隙あり!」


 その布は、テリオスが懐から出した風呂敷だった。

 丸めて持っていた物を空へ投げると、広がって運良く又左の頭の上に落ちたのだ。

 本当の狙いは、影を作って上へと視線誘導する事だったのだが、結果オーライである。



「甘いわ!」


「えっ!?」


 又左は回転している槍の石突を地面へとぶつけて、その反動で自らが飛んだ。

 飛び蹴りをしていたテリオスは、そのまま地面へと着地したが、バランスを崩してしまう。

 空へ上がった又左は、頭から被った布を取ると、着地して倒れかかっていたテリオスを発見。

 槍の持ち手を最大限に伸ばすと、彼の頭の横へと大きく叩きつけた。



「どうだ?今の一撃が頭に入っていたら、即死だぞ」


「ま、参りました」


 悔しそうな声で言うテリオス。

 又左は余裕そうな表情で答えたものの、ようやく終わったと大きく息を吐いた。



「勝者、前田殿」







 又左は自分の腹や腕を見て、改めて実感した。

 子供だと思っていたら、こんな目に遭ったと。



「兄上、やりましたね。指導をしながら最後にはあのような大技で勝つとは。流石の一言です!」


「し、指導?うん・・・まあな」


 慶次の勘違いに、又左はとりあえず頷く。

 不審に思ったイチエモンは、ちょっとだけ離れて聞いてみた。



「実際のところは?」


「危なかった。最初から本気でやっていれば楽だったかもしれないが、本当に危なかった」


 慶次の目の前で負けたくない。

 しかも子供相手に。

 又左の意地が、たまたま良い方向に結果が進んだのだった。



「次は拙者の番でござるな」


 両手で顔を叩き、気合を入れる慶次。

 視線の先には、アドネーが居る。



「慶次、ちょっと言っておく事がある」


「何ですか?」


 戦い終わった後の又左は、真顔で慶次に言った。



「絶対に本気でやれ。女性だからと、くれぐれも様子を見てやろうとか考えるな。後手に回るなよ。良いか、絶対だぞ?」






「兄上、それはネタ振りでござるか?拙者に全てを受け切ってから彼女を倒せと言いたいのでござるか?分かったでござる!ドーンと構えて、前田家の懐の深さを見せつけてやるでござるよ」

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