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男の夢

 伝説の鉱石といっても、そこまで万能ではないらしい。

 それでもチートレベルの凄さなんだけど。

 僕がそう思ったのは、多分人工的に作られた物だからなんだろうな。

 今回はコバと昌幸、そして高野達の活躍のおかげで、検証がこんなにも早く出たんだと思う。

 だけど、帝国もいつかは同じ結論に辿り着きそうだ。

 クリスタルも奪われている事で、この二つの鉱石を使えば、大きな戦力になるだろう。

 その前に、こっちも戦力強化しないといけない。


 まず、オリハルコンは封印。

 確かに魔法の威力が増幅するのはありがたい。

 でも純度を高める為に、死ぬ程の魔力を使うのは却下だ。

 次にアポイタカラだが、こっちは何とか増やせそうだ。

 まさか子供が手伝ってくれるとはなぁ。

 子供っていうと、バイト代っていうよりはお小遣いって感じだよね。


 そして金剛石の追加が北の洞窟から届くと、何故かオマケが送られてきた。

 何やら変わった物なので、見てほしいという話らしい。

 大きな金剛石に驚いた僕達なんだけど、それ以上に驚いたよね。

 だって同梱されてきた石って、僕達の魂の欠片なんだもの。






 俺の質問の仕方が悪かったのか。

 それとも、聞き方が悪かったのか。

 伝令役のエルフが、困った顔している。

 鬼気迫っていたとは思わないけど、俺が追い詰めてしまったのかもと、少し反省した。



「見つけた人なんて聞いてないよね。出来れば見つけてくれた人に、お礼を言いたかったんだけど」


「それなら、手紙を書くのはどうですか?」


「手紙か。良いね。そうしよう」


 俺が賛同したからか、彼の顔も少し緊張が解けた気がする。

 まさかこんな質問されるとは、思ってなかったんだろうな。



(こんな重要な物を見つけてくれたんだから、お礼に何か送ったら?)


 それもそうか。

 手紙なんかより、物品の方が喜ばれるかもしれないし。

 でも、何を送れば良いんだろう?



「見つけたのはゴブリンで良いのかな?それとも、ゴルゴン?」


「ゴブリンだと思いますよ。洞窟は安土の者以外は、立ち入り禁止としたと聞いていますから」


「ゴルゴンも立ち入り禁止にしたんだ」



 後々に聞くと、官兵衛がそう決めたらしい。

 洞窟内で仲間が死んだ事を、思い出したりするかもしれない。

 フラッシュバックしたら、危険だからと言っていた。

 確かにその通りだ。

 いつまでも引きずるのは駄目だが、今はまだ悲しみに暮れても良いと思う。


 それを考えたら、ゴブリンだけじゃなくてゴルゴンにも、見舞い品みたいな感じで何か送っておこうかな。



(良い考えなんじゃない。南のラミアにも同じ物を送ろう)


 そうだな。

 ラミアの方が酷かったみたいだし、それが良いだろう。



「ゴルゴンとラミアの村に、何か贈る物考えておいてくれない?」


「私がですか!?」


「食べ物でも何でも良いし。俺はちょっと別件があるから。それじゃ、よろしく」


 こんな話を振られるとは、思ってなかったんだろうな。

 目を丸くして口をパクパクしてたけど、関係無い。



 何より俺が女の人へ贈るプレゼントとか、考えつかないんだよね。

 その点エルフなら、イケメン多いし何とかなるだろ。

 偏見とか入ってて悪いけど、俺よりかは良い物を選んでくれると思う。

 頑張れ!






 というわけで、自分の部屋に戻りました。

 理由は一つ。

 魂の欠片である。



 ひとまず独り言を聞かれるのは恥ずかしい。

 まずは人形に移ってもらって、会話出来るようにしよう。



「これ、どっちのだろうな?」


「うーん、場所的には僕のような気もするけど」


「洞窟の中だとお前なのか?」


「場所的に明るい世界に居た兄さんだとは、思えないんだよね」


 なんという卑屈な考え。

 我が弟ながら、微妙だ。



「そもそもこの欠片、どんな能力があるのさ?」


「それもそうだ。俺が試しに使ってみよう」


 おもむろに欠片を持ってみるが、特に反応は無いな。

 外から見た感じはどうなんだろう。



「何か変わった点はあるか?」


「いや、全く。少し力んでるなぁくらいにしか見えない」


 やっぱり俺の欠片じゃないのかも。



「交代ね。人形でも変化あるのか、分からないけど」


 人形の手に欠片を渡すと、欠片が薄らと光り始めた。

 明らかに俺とは違う。



「光ったね。と思ったら、光が消えた。どういう事だろ?」


「オイ、お前何処に隠れたんだ?」


「は?目の前に居るけど」


「マジか!?何も見えないぞ」


「本当に?という事は、姿が見えなくなるのか」


 声は聞こえるんだけど、姿は全く見えない。

 これは凄い。

 だって男なら誰でも考えるアレ、出来ますよ?



「へー、ほー、ふーん。この欠片は姿を消すんだ。そっか」


 コイツ、間違いなく使い方が分かっていやがる。

 絶対に覗きに使うつもりだ。



「許さん、許さんぞ!お前一人だけ堂々と覗きだと!?そんな事、神様が許しても俺が許さん!」


「うるさい!これは神様が与えてくれた僕への褒美。神様ありがとう。だから僕は・・・阿久野、行きまーす!」


「許さん!何処だ?あ、コレだな。テメー、絶対に手を離さないぞ!」


 何か固い物を握ったのが分かる。

 腕なのか足なのかまでは不明だが、暴れて振り解こうとしている。



「魔王様、何をバタバタやっているんですか!あら?誰も居ない・・・。違う部屋だったかな?」


 いきなり開いた扉に、俺達は驚いて黙ってしまった。

 すると、開けたはずの小人族が俺達に気付かずに立ち去っていく。

 これはまさか・・・。



「気付いてるよね?」


「なんとなくだけど。これ、お前に触れてるとその人も見えないんじゃないか?」


「確実にそうとは言い切れない。もしかしたら、兄さんだからかもしれないし」


 なるほど。

 そういう理由も考えられるのか。

 ただ、そんな事はどうでも良い。

 俺が言えるのは一つ。



「一緒に連れてって下さい!」






 まさか、こんな事をするとは思わなかった。

 気持ち的には若いままだが、僕達は本来なら精神的にアラサーの域に達している。


 でもね、やっぱり覗きとかしてみたいじゃない。

 しかも絶対にバレないと分かっているなら、尚更だよね。



「本当にありがとうございまっす!」


「まあまあ。ここは大船に乗ったつもりで、私の手を掴んでいたまえよ」


 兄という、ちょっと余計なお荷物も付いてきたが、問題無い。

 どうせ声は上げられないんだ。

 二人で堪能しようじゃあないか。



「おい、俺こんな事初めてだよ」


「僕だって同じだよ。むしろ兄さんの方が、合宿とかでマネージャーのお風呂とか覗いてたんじゃないの?」


「合宿・・・。あんな地獄めぐりの後に、そんな元気は無かったわ」


 声からして、本当に大変だったようだ。

 握っている手も、微かに強くなった気がする。

 僕からしたら、良い思い出なのか悪い思い出なのかは分からないけど。



「もうすぐ、城の風呂だ」


「まだ時間が早いからね。誰も入ってないと思うよ」


「全ては予行演習だよ」


 兄の足が、少しずつ早くなってきた。

 僕の今の姿からすると、ちょっと小走りになっている。

 下見というか、どうやって扉を開けたりするか。

 その辺の予行演習なんだろう。



「お前、女風呂入った事ある?」


「あるわけないじゃない」


「誰も居なくても?」


「うーん、無いのかな?温泉の入れ替わりなら、別だけど」


 やっぱりそれが普通だよな。

 そうなると、俺達の知らない世界が向こうには広がっている。



「人が来た。風呂掃除かな?」


「意外と入って帰る人、多いらしいからね」



 そうなのだ。

 安土で働いている人なら、フリーで入城出来るシステムになっている。

 ちなみにそれを知ったのは、住み始めてだいぶ経ってからだった。

 何故かセリカが城に居るんだけど。

 そう長可さんに聞いて、初めて知ったんだよね。


 上の階はプライベート空間という事で、僕達以外は限られた人しか立ち入らないようになっている。

 守らない人も居るけどね。

 マッツンとかマッツンとか、俺様タヌキとか。



「扉が開いた。行くぞ」





 慌てて入る必要は無かった。

 換気の為か、立看板に掃除中と書いてあって、扉は開けっ放しになっていた。

 風呂場へブラシを持って入っていくと、彼女は奥の掃除から始めた。



「ここが脱衣所か。皆、ここで脱ぐんだな」


「そりゃ当たり前でしょ。脱がないと、風呂入れないし」


「お前、もう少し想像しろよ。さっき入っていったエルフの子も、ここで全部脱ぐんだぞ」


「う・・・全部か。ヤバイな」


「忘れ物とか無いかな」


 兄はロッカーを探り始めた。

 カゴの中を確認しようと、一つ一つ手に取って見ている。

 僕は高さ的に、中段以下しか見えない。



「あっ!」


 僕は物凄い勢いで振り返った。

 そりゃ男だもの。

 どんな物を身に付けているのか、気になりますよ。



「・・・タオルだった」


「ちゃんと確認してから反応して!」


「お、おぅ。すまんな」


 まったく、いつも大袈裟なんだから。

 失望させないでほしいよね。



「お前、なんだかんだで楽しんでるよね」


「そんな事無いですよ。僕が楽しんだ事なんて、一度も無いですよ」


「いやいや!さっきの怒り方は、マジだったぞ」


 楽しんでいるのではない。

 兄に合わせているだけ。

 そう。

 あくまでも兄のテンションに合わせているのだ。

 僕は嫌々なんですよ。



「何も無いな」


「安土に下着を忘れるほどだらしない人は、居ないって事だね」


 残念だ・・・。



「そういえばあの子、服着たまま掃除してるのかな?」


「え?」


「だってこんな広い大浴場、一人で掃除してたら汗掻くだろ。洗ったら自分が入るんじゃないか?」


 確かに。

 全裸で掃除して、汗はその都度シャワーを浴びた方が効率良いよね。



「行くか」


「行こう」


「返事早いな!」


 だって僕が行かなくても連れて行かれるでしょ。

 仕方なくですよ。

 仕方なく。

 兄に付き合って、渋々行こうかなと思ってます。



「兄さん、ニヤニヤし過ぎだよ」


「顔見えるのか?」


「そっちからは見えないの?」


「いや、見えてるけど」


 手を繋いでいれば、お互いの姿は分かるらしい。

 それが分かっただけでも、ここに来た甲斐はある。

 それくらい、すぐに気付いたかもしれないけど。



「シャワーの音が聞こえる」


「浴びてるのかな?」


「お前、やっぱり楽しんでるだろ?」


「兄さんがやりたがるからね。渋々参加してるんだよ?」


「渋々の男が、自分から行こうとするか?」


 ハッ!

 騙された!

 気付いたら兄より前に出てた。

 バレてしまってはしょうがない。



「早く行くぞ!」


「・・・本性が出たな」


 だってあの奥には、裸のエルフの女の子が居るかもしれないんだぞ。

 平常心で居られるわけないだろ。

 さっきから、凄くドキドキしてるから。



「風呂桶の中を洗ってるみたいだ」


「行こう」



 僕達は風呂場に足を踏み入れた。

 そのまま他には見向きもせず、彼女の洗っている風呂桶の方へ向かう。

 そして彼女を発見した。

 ブラシで擦っているんだろう。

 視線は下を向いていて、彼女の頭しか見えない。


「近付こう。何も見えない」


「お前、欲望に忠実になったな」


「エルフの女の子の裸だよ?見たくないわけないだろ!」


「馬鹿!声がデカい」


 すると、女の子が頭を上げた。

 僕達の声が聞こえたからだろう。

 しかし姿は見えていないはず。



「魔王様?」


 あ、やっぱり服着てるよね。

 そうよね。

 全裸で洗うなんて、そんなのは男の妄想だよね。

 ま、見えてないから、今のうちに撤収すれば良いか。



「帰ろ。バレないうちに戻ろうか」


「だな。早く帰ろう」


 だが、予想だにしない言葉が・・・。






「今日は早めに、お二人でお風呂に来たんですか?すいません。まだ洗い終わっていないので、もう少しお待ちいただけますか?フフ、こんな時も手を繋いでるなんて。仲良いんですね」

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