検証結果
兄は太田とイッシーの能力を見て、勝てると思っていたらしい。
マッツンも珍しく頑張っていたし、佐藤さんもあの三振の悔しさから次は勝つと気合を入れていた。
犬山とゴリ川も面白そうだと言って、練習は真面目にやっていたんだよね。
唯一の懸念はロックだけだったんだけど、兄を通して見ていた僕も、これなら良い勝負になるんじゃないかと思っていたんだ。
だが、結果は惨敗。
初回から打ち込まれたマッツンは涙目で、攻撃は三振や凡打の嵐。
兄はジャイロボール対策に時間を掛けたが、実際に登板したのはルースさんだった。
この人、二刀流という言葉が本当に似合う人だった。
投げては豪速球、打ってはホームラン。
ルースって、ベーブ・ルースの事なのか?
兄はそう聞いていたが、笑って話を有耶無耶にされてしまった。
多分、本人なんだろう。
そりゃ勝てんわな。
試合には負けたが、ルースさんは約束通りに洞窟の守護を担当してくれるという。
その代わり王国に近い南限定で、北は勘弁してほしいとの事だった。
しかしそれよりも気になって仕方なかったのは、ルースさんが流暢になっていた事だ。
その原因がロックのオタクのススメによるものだと知った時は、僕はアニメとかオタクから言葉を覚えるって、本当なんだなと実感したのだった。
俺は軽い気持ちで言ったつもりだった。
安土はオタクの聖地。
もしそうなったら、信長は化けて出てくるんじゃなかろうか?
(信長は新しい物好きって話だから、案外喜んで受け入れそうだけどね。メイド喫茶に行って、萌え萌えキュ〜ンであるか、とか言ってそう)
ブフッ!
チョンマゲでそれを言われたら、俺は堪えられないぞ。
「オタクの聖地か。面白そうだよ。新しい事に挑戦すれば、連合や王国からも人はやって来るかもしれない。稼ぐチャンス!」
「マジでやる気?」
「ブギーマンがアイドルにハマったんだから、次は漫画だな。漫画を出して、そのグッズを出す。キャラになりきりセットみたいな物も用意して、安土で集まるイベントを開催するんだ!」
「コスプレの撮影会みたいな事?」
「そう!カメラは安土にしか存在しない技術だったよね?だからこそ安土に来ないと撮影は出来ない。来てくれた人達には、記念に自分の写真を一枚プレゼントすれば、その人には良い思い出になるでしょ」
・・・面白そうだな!
予想以上に話が膨らんでいたが、これが本当に実現したなら、相当な規模になりそうな気もする。
(これには僕も賛成だね。漫画にはエロい女の子が出てくるのはマストだよ!)
それはどっちでも良いんだけど・・・。
(オイオイ、良い格好しようとしてんなよ。本当は見たいんだろう?)
ムッツリスケベのお前と一緒にするな。
話は戻して、まずは漫画だな。
いろんな漫画家を探さないといけない。
うーん、これに関してはロックに一任するしかないな。
「ロック」
「えっ!?やっぱり駄目?」
俺を見るロックは、悪ノリしていたせいか怒られると思っているらしい。
逆にその話を進めろと言ったら、どういう顔をするんだろう?
それにルースさんをオタクの道に引きずり込んでるし、もう後には引けない。
「まずは漫画家を探せ。最低でも五人以上は確保。描かせる漫画は何でも良い。漫画家を探す為なら、他の国や領地に行く事も許可する」
「え?ええぇぇぇ!!?う、嘘じゃないよね?」
「だって俺も漫画読みたいし。コスプレ見たいし。それに安土が面白い場所だって思ってもらえれば、周りの目を気にして帝国も手を出しづらくなるんじゃない?」
「な、なるほど。それじゃ、花鳥風月とかも連れて行って良いの?ライブツアーとして、回りたいんだけど」
コイツ、本当に面白い事には頭が回るな。
それは俺も考えてなかったわ。
一人で行かせるよりはそっちの方が良さそうだし、別に良いか。
護衛は花鳥風月にハマってるゴブリンを探せば、喜んで一緒に行動してくれるだろ。
「許可する。全て任せるから漫画家探してこい」
「あざます!」
「ロック、私も楽しみだよ!南にも寄ってよね?」
「勿論だよルーちゃん!」
気付くと、安土オタク聖地計画という一大プロジェクトが発足していたのだった。
ブギーマンが去ってからしばらく。
コバ達の検証がようやく終わったという報告が入ってきた。
「直接見てもらいたいので、来てもらって良いですか?」
目の下にクマを作った高野が、若狭特製の栄養ドリンクを片手に言ってきた。
普通の魔王なら不敬だぞ!とか言うんだろうけど、この顔を見たらそんな事言えないわ。
高野に連れられ、研究所にやって来た俺は少し驚いた。
「こんな建物あったっけ?」
「最重要機密を扱うという事で、急遽作りました。コバさんにドワーフ、ノームとオーガ、そして小人族の力を合わせた建物です」
凄く大変だったという言葉が聞こえたが、それは俺には関係無いので無視しよう。
「やあやあ!やって来たのであるな!」
「魔王様!凄いですよコイツぁ。ワシ、本当に生きてて良かったと思いますわい」
疲れ切った三バカとは別に、ハイテンションな二人。
余程楽しかったのだろう。
二人ともベラベラと喋るが、同時に口にするから何を言っているのか全く分からない。
「落ち着けよ。とりあえず、オリハルコンから聞かせてもらおうか」
田中が何も言わずにオリハルコンを取り出し、コバの前に置く。
コバと昌幸はそれを見ると落ち着いたようで、ようやく本題へと入った。
「まずオリハルコンだが、これは聞いていた通りの代物であるな」
「その通り。増幅作用という点は間違っていませんでした。しかし」
「しかし?」
「オリハルコンによって、増幅する大きさが違います」
大きさが違うという事は、倍増するオリハルコンもあれば、微々たる変化しかしない物もあるんだな。
やっぱり大きさかな?
「ちなみにそれは、大きさではありませんでした」
聞く前に言われたよ。
二人とも説明したくて仕方ないのか、進行が早い。
「それで、大きさじゃないなら何が理由か分かったの?」
「時間は掛かったが、判明したのである。それは、オリハルコンの純度である」
「純度?」
「魔王はどうやってオリハルコンやアポイタカラが作られているか、知っているのであろう?」
「えーと、特定の鉱石に魔力を帯びさせるんだか、浴びさせるんだっけ?」
「左様です。そして、オリハルコンに変化する際に浴びた魔力の量や質によって、純度が変わるのだと推測されます」
魔力の量や質か。
という事は、魔王である俺とマッツンみたいなタヌキが同じだけの魔力を浴びせても、オリハルコンの純度は変わるのかな?
(そういう事だろうね。マッツンだと不純物だらけで、オリハルコンにすらならないかもしれないし)
それってさ、ゴルゴンやラミアじゃなくちゃ、駄目だったって事になるのか?
近くに居たからたまたま利用されたとは、言えなくなったと思うんだけど。
(ふーむ、言われてみれば確かに。その辺も検証したのかな?)
「なあ、この鉱石に他の人が魔力を浴びせ続けたら、どうなるんだ?」
「どういう意味です?」
「だから、例えばオリハルコン前の元の鉱石に、俺が魔力を浴びせ続けたら、純度は変わるのかって話だよ」
「それは流石に検証出来ませんよ」
「良いか?オリハルコンを作るには、ゴルゴンやラミアが死ぬ程の量の魔力が必要なのである。お前はそれを、気軽に実験しろと言っているのであるか?」
「そうは言ってないけど・・・」
「そう言っているように聞こえるのである!」
怒られてしまった。
まあ怒る理由も分かるけど。
コバは元々、魔族とフレンドリーになりたくて帝国の協力を拒否した人間だ。
それを考えると、死ぬかもしれない実験なんか許すわけもない。
今思うと、俺の発言が軽率だった。
「すまん。ちゃんと考えて聞くようにする。でも、その実験を自分でやるなら問題無いよな?」
「というと?」
「元の鉱石を俺に渡してくれ。肌身離さず持ってれば、修行中とかに魔力を浴び続けるだろう?」
「なるほど。時間がどれだけ必要か分からんが、やってみる価値はあるのである」
これにはコバの反対も無かった。
(何故急にそんな実験を考えたの?兄さんならオリハルコンとか、あんまり必要無いと思うんだけど)
馬鹿だなぁ。
必要なのはお前の方だろ。
俺は身体強化がメインだけど、魔法がメインのお前なら、オリハルコンがあると大きく変わるんじゃないか?
(そういう事ね。同じ魔力量でも、かなり差が出るかもしれない。土壁を使っただけで、要塞並みの壁も作れるかもね)
自分が一騎当千みたいなおこがましい考えはしないけど、帝国のSクラスに対抗するなら、あって困る物でもないはずだ。
だから、やるだけやって成功したらラッキーって考えで良くない?
(そうだね。深刻に考えるより、それくらいの気持ちでいた方が気楽かも。成功したらラッキー。その通りだ)
「それとであるな。オリハルコンは純度が命になるのだが、大きさもある程度関係しているのである」
「結局関係あるのかよ」
「同程度の純度で、大きさの違うオリハルコンを用意しました。すると大きい方のオリハルコンの方が、増幅する速度が速いのです」
「充填するまでの時間が違うって感じかな?」
「その通りです。例えば、火魔法を二倍にするオリハルコンがあったとします。小さい方が三分掛かるとしたら、大きい方は一分のような感じですかね」
「そんなに掛かるの?」
「例え話である。しかし、タイムラグが発生するのは確実なのである」
どれくらいの時間が掛かるか分からないけど、これって使いどころ間違えると、魔法が出るまでにやられるんじゃ?
(僕もそう思った。下手に高火力を求めると、危ないのかもしれない。大きい物なんか、そう簡単に持ち歩けないしね)
そう考えると、帝国って何の為にこんな物必要としてたんだ?
戦いに使えないだろ。
(そこまで深く考えてなかったんじゃない?伝説の鉱石だし、そこまで詳しく知らなかった可能性もある)
という事は、既に持ち去られたオリハルコンやアポイタカラを使って、向こうも同じような結論に至ってるかもしれないな。
「オリハルコンに関しては以上です」
鈴木が次に、アポイタカラを用意する。
彼はそれを置くと、さっさと隣の部屋へ向かった。
開いた扉の奥では、高野達が寝ているのが見えた。
相当こき使われたようだ。
鈴木もゆっくり休んでほしい。
「今度はアポイタカラであるな。こっちも伝承と変わらない・・・とは言えなかったのである」
「というと、永久的に使えるといったわけじゃないと?」
「であるな」
「こちらはまだ分かりやすく、大きさが関係していました」
昌幸はそう言うと、本当に小さなアポイタカラを取り出した。
見た目はダイヤだが、指輪やネックレスにも使えないくらいの、相当小さな物だ。
「これはアポイタカラではなく、金剛石になります。そして今から、アポイタカラに変えてみせます」
「今から?」
昌幸が魔力を浴びせると、輝く色が変化していく。
最初は白く輝くダイヤモンドのような感じに加え、少しオレンジや赤っぽい色があった。
そして気付くと、その色が白から青に変わったではないか。
「これがアポイタカラです」
「えっ!こんな簡単に変わるの!?」
「この大きさだからですね。しかし爪の先くらいの大きさになると、ワシの全魔力を使っても、変わらないでしょう。試したらワシ、死んじゃうかも・・・」
なるほど。
大きさで変わるのか。
ん?
それって、サイズで貯められる魔力が変わるって事か?
「気付いたようであるな。アポイタカラとは、魔力がフル満タンまで貯められた金剛石の事であったのだ。その大きさで貯まる魔力量は違う。さっき昌幸殿が爪の先と言ったが、その大きさでもゴルゴン複数人の全魔力が必要であろうな」