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試合

 野球が出来る人を探すっていうのは、なかなか難しいね。

 まあ今の子供達は、日本でもやった事無い人も居るらしいけど。

 異世界なら尚更難しいのは当たり前か。

 日本人だけで集まるのは不可能だと分かった兄は、急遽蘭丸とハクト、そして太田を追加で招集する事に決めた。

 呼んでもいないマッツンが経験者というのは驚いたが、こう言ってはなんだけど、微妙だよね。


 兄はピッチャー経験者のマッツンの球を受けたが、僕からしてもお世辞にも球は速くないと思った。

 マッツン曰くスライダーも、僕からしたらカットボールくらいにしか見えない。

 それでも兄は、やりようはあると言っていたけどね。

 球種が少ない方が、キャッチャーからしたらやりがいがあるのかな?


 そして未経験者の太田とマッツンの勝負を見てみると、それはそれは凄かった。

 まず、ルールが分かってない太田に、雄叫びにビビって降板したがるマッツン。

 太田はマッツンのチェンジアップという名のスローボールを、アッパースイング気味に打ち返すとそれはピッチャーライナーからセンターフェンスまで直撃するという、化け物じみた打球を披露した。

 そして太田という四番が決まった事で、他のメンバーのポジションをどうするかという話になり、兄は何故か監督をやりたいという事を告げるのだった。





「監督!?お前、出ないのかよ」


「ロックとかもそうだけどさ、自分で呼んでおいてベンチ要員にするのって失礼でしょ」


「それは言えてるな」


「あの、俺達っちは出なくても良いんだけど。応援要員でも」


「というわけで、皆には今から希望ポジションを聞きます」


「だからベンチ・・・」


 あーあー何も聞こえない。

 コイツ、ただサボりたいだけだろう。

 たまには活躍しなさいよ!



「希望が被ったらどうするの?」


「その場合は、プレーを見て判断するしかないでしょ」


「分かった。じゃあ俺は、外野が良いんだけど」


「佐藤さんは外野ね。足速いから、センターとか良いかもね」


「俺は何処でも。あんまり経験無いから、難しくない場所で」


「そ、それは俺っちがやりたい!難しい場所は無理!」


 うーん、意外と未経験も居るのか。

 まだ犬山とゴリ川も仕事中だし、全員集まってない。

 これは一度、練習をしてから決めた方が良いかもしれないな。





 夕方になり、全員が初めて揃った。

 犬山とゴリ川も小さい頃にやった程度で、経験者という程ではないらしい。

 これから本格的に練習と行きたいところなのだが、やはり暗くなり始めてしまっては難しかった。


 流石にナイターの為だけに、クリスタルを用意させるのも無理なので、今日は顔合わせとポジション決めだけで終わってしまった。



 とりあえず、本人の希望と監督である俺の意見を取り入れた結果が、こんな感じである。



 一番センター佐藤

 二番ライトハクト

 三番サード長谷部

 四番ファースト太田

 五番ショート蘭丸

 六番レフトゴリ川

 七番セカンドロック

 八番キャッチャーイッシー

 九番ピッチャーマッツン



 控えに犬山が居るが、彼はセカンドとキャッチャー要員だ。

 かなり難しいポジションであるキャッチャーをやらせる理由は、単純に彼の能力に関係している。

 キャッチ!と言えばくっつくそれは、野球のボールでも可能らしい。

 彼がキャッチャーをやる限り、触れさえすれば必ず球を後ろに逸らす事は無いのだ。

 なんて羨ましい能力!

 俺もそんな能力が、日本で欲しかった。



 ちなみに犬山が交代するとしたら、マッツンが有力だ。

 やはり野球でも器用だったのは、イッシーだった。

 おそらく草野球って感じで考えれば、全ポジション出来るのではなかろうか?


 その為、彼は控えピッチャーも備えている。

 というより、イッシーの方がマッツンよりはるかに上手い。

 イッシー本人も分かっていたが、大人な彼はエース云々にこだわりは無かったので、マッツンの気分を損なうような発言はしなかった。



 そして最後に、監督俺!

 プレイングマネージャーとして、代打とかで出るつもりだけど、良い試合してるなら別に交代しなくても構わないかなと思ったりしている。

 だって、おっさんが日曜の朝に草野球で集まってる中、プロ目前だった奴が本気でやったら冷めるでしょ。

 あのジャイロボールに関しても対策が出来たので、彼等なら打てると思うしね。



「というわけで、明日から本格的に練習します。皆さん、どうぞよろしく。そして勝ちに行くぞー!」


 オー!という掛け声で、俺達の結束力は高まった。

 ロックだけは下を向いていたけどね。





 翌朝から猛練習が始まった。

 やるなら良い試合をしたい。

 ロック以外の全員がやる気を出し、久しぶりに健全な形で身体を動かしていた。


 やっぱり戦闘なんかと比べると、皆笑いながらやれるよね。

 俺のノックも下手くそで皆は笑ってたけど、こういう風に笑われるなら構わないかなと思った。



 そして肝心のジャイロボール対策だが、話は簡単だ。

 イッシーが見よう見まねでやった結果、投げてしまえたのだ。

 スマホで投げ方を調べて動画を見たら、こんな感じか?程度に真似をして成功する。

 気持ち悪いくらいに器用だと思った。

 イッシー本人は打つ練習は出来ないけど、それでも投げてるんだから軌道は分かるはず。

 どうせ打てるんだろうなと思っている。



 長谷部も釘バット以外で振った事あったし、なんだかんだで彼等は運動神経が良い。

 二日後の試合、これは勝てるかもしれないな。



「はい!これで練習は終わります。明後日は試合です。頑張って勝ちましょう!」






 翌日、ロックがダウンした。

 筋肉痛だと言っているので、太田とゴリ川にマッサージをさせると、ものの数秒で動けます!と言ってくれた。

 やはり仮病だったか。

 許すまじ!



「太田、バッティング練習だ。セカンドを狙いなさい」


「ワタクシ、狙えるほど上手くないのですが」


「だから練習なのだよ」


「なるほど。それもそうですね」


「ちょ!そんなの無理でしょ!」


「太田の打球を取って、上手く処理出来たら終わります。ライナーなら直接取れば終わり」


 取れればだけど。

 無理矢理取ろうとしたら、手首の折れるんじゃないか?



「行くよー。コノヤロ!サボろうとして!仮病使うんじゃ!ないよ!」


 俺の軽いトスに、太田は流れるようにボールを打っていく。

 やはり方向は定まらないが、セカンド方向にはたまに飛んでいっている。



「なっ!こんなのどうやって・・・あっ!おぶぅぅぅ!!」


 腹にボールが命中したロック。

 得意の受け流しなんか出来るわけもなく、勢いよくライト方向へ転がっていく。

 腹を押さえてのたうち回ると、しばらくして動かなくなった。



「お、俺っち、本当に明日は無理かも・・・」


「回復魔法班、出番です」


 ライトを守るハクトが、転がってきたロックに回復魔法を使うも、彼はそれでも立ち上がらない。



「そこまで重傷なのか?」


「もう大丈夫なはずなんだけど・・・」


 仮病だな。

 許すまじ!



「太田、ロック狙って打ちまくれ」


「フゥ!ありがとう。回復したよ。本当に助かった。どうしたの?まだポジションに戻ってないよ」


 あたかも、今起きました感を出してくるロック。

 センターでは佐藤さんが苦笑いしている。



「ロック、次は無いよ」


「俺っちも死にたくないので、真面目に練習します!」


 この言葉は本当だったようで、アレからは本気で練習に取り組んでいた。



 マッツンもイッシーに投げ方を教わり、球速アップに変化球も更に曲がるようになった。

 なかなか良い仕上がりですよ。



 勝てる。

 明日、試合に勝てるぞ!

 フハハハ!!

 待っていろブギーマン。






 翌日。

 試合を行いました。

 えっ?

 結果?

 12対2でした。

 勿論、2点の方は我々ですね。

 完敗ですけど何か?



 つーかさ、おかしいでしょうよ。

 ジャイロボール対策して、全員が打てるようになったまでは良いよ。

 ピッチャー別人なんだもん。

 凄く曲がるスライダーに加えて、スライダーの速さがストレートと変わらないんだよ?

 意図的にストレートの速さを落としてるんだろうけど、あんなの素人に打てって言ったって無理だって。



 マッツンも初回からボコボコに打たれて、半ベソになるし。

 イッシーに代わっても、二巡したらすぐに対応されちゃって為す術無し。

 仕方ないから蘭丸とかハクトも投げたけど、結局は変わらず五回まで毎回失点を繰り返した。



 公式戦ならコールド負けという屈辱的完敗に、皆は戦意喪失でした。



「そういえば俺様、野球に向いてないからホスト目指したんだったわ」


「あ、そうなの。仕方ないね。泣いちゃったもんね」


「泣いてなんかない!風で埃が目に入って、少し涙は出たかもしれないけど」


 言い訳が小学生だな。



 とは言っても、今回は相手が本当に悪かった。

 俺も途中出場したけど、打てなかったからね。

 一応、点を取ったのは俺だけど、佐藤さんの足が速かっただけなんだよね・・・。

 あとは蘭丸の二塁打にイッシーが続いて、蘭丸が戻ってきて点が入っただけ。



 言い訳無しに、負けましたと言いました。

 メジャーリーガーって、こんな凄いんだと実感した一日だった。



「キョウハ、タノシカタデス。マタ、オネガイシマス」


「そ、そうね。皆がやる気出したら、次やりましょう」


 絶対に次は無い。

 あるとしても、このメンツは無いな。

 又左と慶次が帰ってきても、多分やらない気がする。

 ハァ、本気で勝ちに行ったんだけどなぁ・・・。



 長谷部だけは負けん気強くて、まだまだと言っている中、試合が終わって官兵衛がグラウンドにやって来た。



「我々は完敗してしまいましたが、約束は反故にされないのですよね?」


「ドウクツノマモリデスネ。ノープロブレム」


「それなら安心です。次までに練習を重ねておきますので、またよろしくお願いします」


 笑顔で応える官兵衛だが、お前試合出てないじゃないか!

 とは言っても、本題の洞窟の守護の件は確約したので、別に良いのかな。



 そうだよ!

 接待野球だと思えば良かったんだ。

 負けても接待だと思えば・・・って思えるか!

 キイィィィ!!

 やっぱり悔しい・・・。

 次は俺も、最初から出場しよう。





 試合が終わり一週間程経った頃、ブギーマン達にも動きがあった。

 約束通り、洞窟の守護に向かってくれるというのだ。

 安土を堪能した彼等は、王国に近い南の洞窟の守護を担当すると言ってくれた。



「我々は南の洞窟なら、交代で守る事が出来ます。その代わり、試合に勝った代償として北は勘弁して下さい下さい」


「分かりました。北はこちらでどうにかしましょう。南の洞窟はよろしくお願いします。ラミアの方々にも分かるように、魔王様の名前で手紙を持っていって下さい」


「助かります」


 何だかよく分からないうちに、官兵衛とルースさんの間で話が出来てしまっていた。

 俺にそんな話をされても困るから、助かると言えば助かるのだが。

 それよりも気になる点が一つ。



「ルースさん、知らないうちに流暢に話せるようになったよね。どうして?」


「そうですか?何故でしょう?」


 本人にも自覚が無いのか。

 この早さで会話が出来るようになるのは、相当な努力があったと思うんだけど。

 と思ったら、そんな努力は無かったっぽい。



「ヘーイ!ルーちゃん!俺っちのアイドル達、気に入ってくれた?」


「ヘーイ!ロック!あの夜は本当に楽しかったよ」


「今度はコバに、ペンライト作ってもらうから。二人でオタ芸やろうね」


「オタ芸?やるやる!よく分からないけど、ロックが言うなら楽しいと思うし」


 どうやら試合が終わった後からこの二人、意気投合したらしい。

 凄くフレンドリーな感じだ。

 仲良くなるのは良い事だ。

 ただ問題もある。






「お前、安土をアキバみたいに、オタク文化の地みたいにしようとしてない?別に悪い事ではないけど、これが後々に、安土はオタク文化発祥の地とか歴史に残ったら、俺ちょっと信長に申し訳ないわ」

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