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計算通り

 テイク3!

 10メートルくらい離れてから、スケボーで颯爽と犯人の前へ。

 テーマ曲を口ずさみ、名探偵魔王様の登場だぜ。


「てれてーてーてれ、あっ!あうち!」


 小学生以来のスケボー、上手く乗れませんでした。

 犯人の直前で転んで、後頭部打った。

 痛い素振りを見せると、犯人につけ込まれる。

 ここはビシッと!


「犯人はお前だ!」


「・・・3回も聞けば分かるかと」


 テイク2から周囲は静かになっている。

 流石にテイク3はやり過ぎたかもしれない。


「ズンタッタ、取り押さえなくていいの?」


「あ!」


 名探偵のオーラに当てられたかな?

 呆けてたズンタッタに、僕は声を掛けてあげた。


「ちょ〜っと待ってくださいよぉ〜!何故私が、犯人扱いされなければいけないんですか!?」


「何故って、帝国の事を知ってたからです。リザードマンが胡椒とか付近の村が原産地とか、そこまで詳しい事知るわけないでしょ。知ってるかもしれないけど、ラーメンの味を知ってるリザードマンがあり得ないから。だってラーメン、この世界に無い食べ物だから。今この時が、初お披露目だったんだよね。それなのに醤油以外の味、塩とか味噌という言葉をアンタは口にしただろ。だから、犯人はお前だ!」


 長いセリフを噛まずに言えたぜ。

 自分でも驚きだ。

 いつか毒魔法で睡眠使いたいな。

 ズンタッタ眠らせて、後ろから推理を聞かせたい。



「クソッ!帝国の事を話し過ぎたか!?」


「あの、ちょっといいでしょうか?」


 あら?

 アウラール町長が話に割り込んできた。


「あの、帝国の事なんですけど。この町に帝国の商人、結構訪れますよ。それに胡椒も普通に売ってますが」


「え?」


 胡椒売ってた?

 見てないんだけど。

 そもそも、胡椒売ってるか聞いたっけ?


【聞いてなかった気がする】


 だよね。

 これは完全に僕等のミスだな。

 でも、やらかしたのは僕等だけじゃない。


「ハッハッハ!今、話し過ぎたとかって言ったよね?この人、自分で言ってたよね?」


 近くに居る人達に聞いてみた。

 ちゃんと聞いたと頷いてくれた。


「ほらね!ほらね!計算通り!お前は僕の罠にハマったのだ。今、自分で言っちゃったからね」


 多分誤魔化せたと思う。

 ちょっと視線が怪しいけど、大丈夫でしょ。


「お前、それっぽい事言って誤魔化そうとしてるだろ!俺は騙されないぞ」


 黙らっしゃい!

 もう自白の言葉は聞いたのだ。

 僕が何を言ったかとか、関係無いのである。


「僕の話なんかより、お前の自白の方が大事だから。自分で帝国の事、話しちゃってるから。残念でした〜!」


 最早、体裁など気にしていられない。

 向こうもそれが分かっているからこそ、隙を見てこの場から逃げようとしている。

 逃げられたら、また変装されて分からなくなるだろう。

 この時だけが捕まえるチャンスなのだ。


「ズンタッタ!今捕まえないと、また変装されたら厄介だぞ。取り押さえろ!」


「承知しました!この下郎めが!貴様のせいで犯人呼ばわりされた、私の怒りを思い知れ!」


 うむ、私怨だな。

 でもそのせいで町長から煽られたりしてたし、キレてもいいと思うんだよね。


「クソッ!やっぱり帝国兵は強いな!」


「貴様もなかなかやるではないか」


 ズンタッタは、リザードマンなら簡単に取り押さえられると思っていたのだろう。

 隊長格の自分に劣らない剣の使い手に、驚いている。

 ズンタッタは相手が強いと思ってるけど、こっちからしたら必死にズンタッタの剣を捌いているように見えるんだけど。

 手こずっていると、万が一の時がある。

 僕は万全を期すのだ。


「太田、取り押さえろ」


「御意!」


 バルディッシュを振るい、簡単に吹き飛ばす。

 ズンタッタの剣を捌いてる時も思ったけど、あまり力が入ってない気がする。

 そういえば、まだラーメン食べてないんだっけ。

 腹が減って、力が入らないとかだったりして。

 もしかして、昨日ラーメン屋やるって言ってたの聞いて、楽しみにして朝メシ抜いちゃったりしたのかな?

 それだったらコイツ、本当にアホだよね。

 昨日のうちにさっさと町から抜け出して、逃げれば良かったのに。


「魔王様、賊を取り押さえました」


「ありがとね!」


 お礼を述べただけなのに、太田は歓喜に震えている。

 力が入っているのか、下から痛い痛いという声が聞こえた。


「さてと、真犯人さんよ。変装を解いてもらおうか」


 リザードマンのマスクでもしているのだろう。

 頭を思い切り後ろに引っ張ってみた。


「イタタタタ!首折れるから!このガキめっちゃ力強いな」


 アレ?

 マスクじゃないの?

 どうやって変装してるんだろ。

 まさか魔法じゃあるまいし。

 もしかして、本物のリザードマンなのかな。


「お前の正体は分かっているんだ!早く本当の姿を現せ!」


「俺の事、バレてたのか。でも魔法が使えるなら、この魔法を見破るのも出来るって事だよな」


 魔法?

 これ魔法なの?

 じゃあ魔族・・・って、誰だコイツ?


「やはりヒト族?だったか」


 ヒト族だよね?

 合ってるよね?

 僕には、ただのハゲたおっさんにしか見えないんだが。

 これがたまたま頭の薄いエルフだったりとか、そんな訳ないよね。


「魔王様、今ちょっと疑問系だったように聞こえましたが」


「気のせいだよ、気のせい。それよりアンタ、一体何者だ」


 ズンタッタがツッコミを入れてくるが、そこは華麗に回避。

 話を強引に戻して、有耶無耶にするのが一番である。


「なんだ、帝国から指名手配とかされているものだと思っていたんだけど。俺の事は何も知らされてないんだな」


 指名手配?

 無銭飲食とか空き巣とか、帝国でやってたのか?

 怪盗薄毛とか、そんな感じで名乗ってたりして。


「お前、今ちょっと失礼な事考えてただろ」


「な、何も考えてませんけど」


「嘘つけ!頭見てたから、ハゲとかそういう事考えてたんだろ。そういう視線は敏感なんだからな!」


 これに関しては、素直にすいませんでした。

 って、僕が謝る必要無いじゃないか。


「ではハゲのおっさん。笑いが・・・間違えた。悪いが縛らせてもらおうか」


「このガキ、ホントムカつくな。人のデリケートな部分を笑うとか、ロクなガキじゃないぞ」


「盗っ人が!魔王様に対して何て口を聞きやがる」


 太田の横で、他にも怪しい人物が居ないか警戒していたラコーンだったが、ガキの連発にちょっとイラッとしているみたいだった。


「ハッ!魔王だって?帝国の王子が魔王を名乗ってるのに、何でこんなガキが魔王なんだよ!」


 まあ普通はそう思うよね。

 アウラール町長と衛兵の数人は、視線をそらしたし。

 気まずいのだろうが、それはそれで貴方達がこちらの話を信用しなかったのが悪かったって事で。


「王子は魔王を名乗ってるだけに過ぎない。このお方こそが、神の使徒であり真の魔王でもある、阿久野真王様である!」


 リザードマン連中も騒ついてきた。

 神の使徒だって!?と、半信半疑で見てきている。

 そういえば神の使徒は、ズンタッタも言ってなかった気もする。

 今更なので、どうでもいいか。


「魔王は魔族からしか誕生しない。魔王を勝手に名乗っている王子なんかと、一緒にされちゃ困るんだよね」


 あまり魔王に詳しくないけど、自分が正当な魔王だって意味合いを込めて教えておいた。


「本物?でも魔王が何でラーメン売ってるんだよ!つーか何でラーメン知ってるんだよ」


 仕方ない。

 このおっさんは召喚者っぽいから、教えておこう。

 ただ、僕が転生者だという事はあまり広がってほしくはないので、身の自由は与えないけど。

 なので、そっと耳元で囁く。


「僕は転生者だから。自分達の魂を取り戻すまではこの身体だけど、いつかは元に戻るから」


「な!?」


「転生者なのは内緒。もし喋ったら、太田のバルディッシュが首に落ちると思っていた方がいいよ」


 脅しも含めて伝えておく。

 そしてハゲのおっさん、肝心な事を話してくれていない。


「おっさん、それでどうやって変装してたの?いや、変装というより変身か。ヒト族が魔法使えるって事は、クリスタルの力?」


「・・・俺の胸ポケットに小さい石が入っている。それのおかげで変身の魔法が使えた」


 それを聞いて、チトリが胸ポケットを漁った。

 小さい石を見つけて、これかと見つめている。


「魔王様、ちょっと変身してみていいですか?」


「いいんじゃない?どうなるのか見てみたいし」


「へへ、じゃあシーファクに変身!」


 別に掛け声は要らないと思うけど。

 しかも何も起こらない。

 魔力が必要ならヒト族は無理だろうけど、この人は変身してたわけだし。

 他にも理由があるのかもしれない。


「その小石に選ばれないと、変身出来ないらしい。俺と一緒に帝国で研究した奴等も、結局はこの小石が何なのか分かっていなかった。俺が触ったら、石が光って姿が変わっていたんだ。だから俺にしか扱えないんだよ」


 最後のセリフで軽くドヤ顔されてイラッとしたが、選ばれないと無理なのか。

 じゃあ他の連中にも、試させてみよう。

 選ばれるという言葉に興味が湧いたのか、ラコーンやシーファクだけじゃなく、スロウスも試したがっていた。

 ズンタッタもチラチラ見ているし、順番にやってみよう。



 駄目だな。

 誰も変身出来ない。

 魔力の問題かと、蘭丸とハクトに太田も試した。

 しかしそれでも、結果は駄目だった。

 町の連中で希望者にもやらせたが、誰も扱えず。


「ほらな。俺しか扱えないんだよ。だからそれは俺の物だ」


 うーん、使えない物を持っていても仕方ないか。

 コイツの罰が決まって、償いが終わったら返してもいいのかな。


「あのさ、マオくん試さないの?」


 あ、僕やってなかったわ。

 他人にはやらせて自分がやらないとか、これが仕事だったら怒られてますな。


「忘れてたよ。じゃあやってみる」


 その小石を左手で握りしめた。

 誰に変身しようかな?

 よし、決めた!

 頭の中でその人物を思い浮かべると、その小石が光を放ち始めた。


「そんな馬鹿な!?俺以外に扱える奴が居るなんて!」


 おっさんが驚いているって事は、僕の変身は成功したのかな?

 目線が高くなったから成功したとは思うけど、顔とかは自分で確認出来てないから何とも言えないんだけど。


「成功した?」


「成功です!流石は魔王様!」


【お前、凄いな!誰も成功しなかった魔法を、成功させるなんて!】


 まあね。

 そこはもう魔王の身体だからじゃない?

 じゃないと無理だったと思うよ。

 太田が再び興奮しているけど、誰か鏡とか持ってるとありがたいんだけどなぁ。


「誰か鏡持ってない?」


「アタシが持ってます。はい、どうぞ。でもこの人誰ですか?ヒト族に変身するとは思わなかったんですが」


 まあそうだな、ヒト族って言えばヒト族か。

 じゃあ、鏡を見てみよう。


「おぉ!成功してるじゃん!まんまソックリだわ」


 ソックリって言葉を聞いて、周りから称賛の声が上がる。

 いや〜、思ったより精度が高いというか、そのまま過ぎて気持ち悪いな。


【気持ち悪いとか言うな!お前、これ俺じゃねぇかよ!此処に来る前の俺の姿とか、もう何年も前なのによく覚えてたな】


 そりゃあね。

 毎日見てたから。

 そう簡単には忘れないって。


【そうか、そういうもんかな。俺もお前の顔なら覚えてるしなぁ】


 試しにやってみる?

 僕は出来ても兄さん出来るか分からないし。


【それもそうだな。試すだけ試してみるか】




 交代して試したけど、どうやら駄目なようだ。

 そうするとこの小石、僕とおっさんだけが使えるらしい。


「あのよ、ちょっといいか?」


「何?変身した姿については聞かないでほしいな」


「いや、そっちじゃなくて。確認なんだが、この小石をもう一度借りてもいいか?」


 蘭丸が妙な事を言い出した。

 何を確認するんだろう?


「やっぱり!勘違いかと思ったんだけどさ、違和感があったから確認したかったんだ」


「もしかして、僕が感じたのも勘違いじゃなかったって事!?」


「ハクトもそう感じてたなら、益々そうなるのかな」


「あぁ、それならワタクシも不思議に思っておりました。魔王様が握ったからだと納得していたんですが、どうやら間違いないようですな」


 え?

 何この幽霊でも見るような目は。

 もしかして兄さんの顔、こっちだと幽霊とかに居そうな顔なのかな?


【お前、それ自爆だからな。俺と顔、ほとんど変わらねーだろうが!】


 冗談だよ、冗談。

 しかし3人とも結構顔色悪いけど、本当に大丈夫なのか?


「結局さ、何が確認したかったんだ?」


「魔力だよ。この小石から出る魔力」


 魔力ねぇ。

 この小石、クリスタルっぽいし、誰かが魔力を封入したって事なんだろう。


「へぇ、それで何か分かったんでしょ?3人とも顔が青褪めてるけど、何か重大な事でも分かったの?」


「重大というか、あー!もうよく分かんねー!」


「蘭丸くん、落ち着いて!」


 確認して分かったんじゃないのか?

 分かんねーって何だよ!


「もう率直に聞くけどさ。何でこの小石、お前と同じ魔力が出てるの?」




「え?」

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