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珍客

 人の善意は、疑いもせずに受け取りますか?

 動かない身体を見ていた、どうも魔王です。

 やっぱりね、行動というのは自分に全て返ってくるんだなと思いました。


 様々な魚を使った料理を試すべく、僕達はハクトや他の料理人を呼んで、いろんな料理を試したんだけど。

 舌の肥えた?審査員も呼んで、どういう食べ方があるか試食会を開いてみたんですね。

 いやあ、ほとんどの料理は美味かったと思う。

 煮付けやカマボコ、そして煮こごりなんかはこっちで食べられると思わなかったからね。

 加工すれば食べられる魚もあったし、色々な発見があったと思う。


 そして問題は、毒のある魚ですよ。

 日本にだって河豚といった毒のある魚はあるわけで、調理方法次第では食べられると思うんです。

 河豚がどんな味か知らないけど。

 アレは試行錯誤を繰り返して、食べられるようになったと思うんだよね。

 だからこそのマッツン試食だったのに。

 アイツはちょっと痺れて美味いとか言いやがった。

 兄はマッツンの善意を断る事が出来なかった結果、布団の中で目を覚ますという事に繋がったんです。

 皆も断る勇気、持った方が良いですよ。






 というわけで、あの後どうなったか。

 俺は布団の中で話を聞いた。



 マッツンが俺の口にあの魚を入れた後、俺はすぐに失神したらしい。

 白目で泡を吹いて倒れたらしく、生死を彷徨うレベルだと思われたという。

 若狭の薬があったからどうにか生還出来たのだが、無かったらと思うと怖い。

 そのまま目を覚まさない事は無くとも、後遺症が残ったかもしれないからだ。



 ちなみに俺が倒れたのは、寝不足に食べ慣れない物を口にしたからという事になっている。

 じゃないと辻褄が合わないからだ。

 マッツンに毒を食べさせたなんて、口が裂けても言えないからな。

 しかもアイツは無事で俺が倒れたとか、下手したら魔王弱い説が出ても困るし。

 なんにせよ、毒持ちの魚は一度封印する事になった。



「本当に良かったよ」


「すまんな、ハクト。面倒を掛けてしまって」


 ハクトはあの後、かなり慌てたらしい。

 というより、料理人全員かな。

 俺に毒を盛って殺したとなれば、安土は崩壊する。

 そして料理人全員は、下手したら死刑の可能性もあったと言われた。

 いやぁ、そこまで考えとらんかった。



「あの魚の毒、本当に凄かったよ。口にしてすぐに倒れたくらいだし」


「そうなんだ。全然記憶に無い」


 あるのはマッツンやってくれたなという気持ちと、善意からだから怒れないという気持ちの半々だ。

 そんな凄い毒なのに、アイツには山椒レベルなのはどうかと思う。



(あのさ、ちょっと考えがあるんだけど)


 どうした?



(その魚、武器として有効活用出来るんじゃない?例えば、蘭丸やハクトの使う矢に塗り込むとかね)


 なるほど!

 なかなか良い考えだと思う。

 だけど蘭丸には向かないんじゃない?



(どうして?)


 アイツ、今はあの強弓が手持ちじゃん。

 麻痺とかする前に、貫くよ。



(あぁ・・・。その考えは無かったな。じゃあハクトやイッシー、それとゴブリンの弓兵達に使ってもらえば良い)


 それなら俺も賛成だ。

 特にイッシーはアリじゃないか?

 いろんな武器を使うから、奇襲にもなるし。



(食べ物としては無理だったが、違う活用方法が見つかったのは良かった。倒れ損にならずに済んだね)


 あんまり嬉しくないな・・・。

 それよりも、ハクトにあの魚を処分しないように頼もう。



「あの毒持ちの魚達、捨てないでくれよ」


「えっ!?食べるの!?」


「いや、食べるのは遠慮します。じゃなくて、矢に塗り込めば、使えるんじゃないかってね」


「武器にするんだ!あぁ、使えるかも。処分しちゃってるかもしれないし、急いで見てくる。また後で!」


 ハクトは飛び出していくと、代わりにニックがやって来た。





「毒を食ろうて、倒れたんやて?アホやなぁ」


「さて、フロート商事は連絡を」


「嘘!嘘です!ごめんなさい!」


 慌てるニックの顔はマジなので、本気にしてるっぽい。

 流石に冗談だけど。



「それよりも何の用?帰るの?」


「なかなか酷いお人やな。一言目に帰るって・・・」


「じゃあ何よ」


「本当に帰るんですけど。その前に伝えとこ思いまして」


「伝える?」


 ニックが絡んでるなら、連合か王国のどちらかだよな。

 あるとするなら王国のキルシェ絡みな気もするけど、手紙書いてきたくらいだから、そっちで用事は済ませると思うし。

 となると、連合?



「新しい連合についてとか?」


「そっちもありますけど、王国の方ですわ」


「王国?キルシェから何か伝言でもあるって事か」


「間違ってはいないんですけど、本題は王女様ちゃいます」


 キルシェじゃない話とか、何だろう。

 王国も一枚岩じゃないし、そういう連絡かな。



「魔王様は、王国の近くに変わった魔族が住んでるの知っとりますよね?」


「変わった魔族?そんなん知らんよ」


「えっ!?王女様は知っとる言うてましたよ」



 誰だよ!

 そんなの知らねーよ。



(それ、ブギーマンじゃない?)


 ブギーマン?

 そんなの居たっけ?



(ほら、キルシェが連れ去られかけた時に助けてくれた、英語喋る連中だよ)


 居たな、そんな連中。

 つーか、あの人達って魔族なの?



(僕もてっきり、ただの外人さんだと思ってた。身体強化とか出来るんじゃない?)


 森の中に住んでるし、魔物とやり合うならそれくらい出来るかもね。

 それで、用件は何だろう?



「思い出したわ。ブギーマンだっけ?彼等が何か?」


「彼等、安土に近々来ますんで。相手してやってくれとの事です」


「・・・は?」


 コイツ、何言ってくれてんの?

 ブギーマンが安土に来る?



「何しに来るの?」


「そこまでワタシ、知りませんて。何言うてるのか、ほとんど分かりませんし」


「少しは分かるの?」


「単語なら時々」


 たまに英語使ってるから、その辺くらいかな。

 しかし、何しに来るんだ?



「それじゃ、伝えたんで。犬山達も頑張っとるの分かったんで、近々帰りますわ。次回からは別のモンが持ってきます。ほな、今後ともよろしゅう」


 伝える事は伝えたと言って、彼は城から出ていく。

 今度来る時は、ヤコーブスの塩とかも持ってきてもらいたいな。

 塩釜で焼く魚も、アリだと思うんだよね。



(それ、美味そうだな。塩の在庫次第で、作れるか聞いてみよう)






 ニック達が帰って一週間程。

 本当にブギーマンがやって来た。

 彼等の見た目は、本当に外国人みたいな感じだ。

 何というか、色は白くて金髪が多く目も青い。

 中には違う人も居るけど、要は見た目が外国人の魔族らしい。


 彼等はキルシェのお客さんという扱いで迎え入れる事になったので、俺も出迎えに来ていた。

 問題は一つ。

 俺、英語喋れない。



「ないすとぅーみーちゅー。まいねーむいず、マオ。えーと、魔王って何て言うんだ?」


(魔王は・・・デーモンかデーモンキングかな?)


 デーモンなの!?

 初耳だわ。

 少したどたどしい俺に、ブギーマンの代表は握手を求めてきた。



「コンニチハ。ワタシノナマエハ、ルースデス」


「日本語喋れるんじゃん!」


「ニホンゴ?」


「あ、いや・・・」


 そうだった。

 日本語だけど日本語じゃねーんだわ。



「ワタシハミナサント、ハナセマス。バット、ワタシダケ。オーケー?」


「オーケーオーケー。アンダスタンド俺」



 フゥ、緊張したぜ。

 なかなかフレンドリーだし、この調子なら全然問題無いな。






 彼等は安土に、観光という名目で来たという。

 しかし実際は、キルシェの計らいで安土に移住する気はあるかという話だった。



「トイウワケナノデス」


「なるほど。それで、安土に移住するかはどう決めるの?」


「ワカリマセン」


「分からんの?」


「アー、・・・」


「え、英語で言われても分からんて・・・」



 急にペラペラの英語に切り替わってしまったので、俺じゃ何を言ってるか分からないのだが。

 ここはやはり、頭脳担当の弟に交代を



(だが断る。バアァァーン!!)


 何だよ、バアァァーンって。



(自分で効果音を入れてみました。ハッキリ言おう。僕も何言ってるか分からない。故に、交代したところで無駄だと言いたかった)


 オイオイ、どうするんだよ。

 誰か、英語分かる人呼ぶか?



(まず間違いなく、コバだろうな。でも呼んだら呼んだで、伝説の鉱石の検証実験中で怒るだろうね)


 だよなぁ。

 むしろ来てくれない気がする。

 他に話せそうな人は・・・佐藤さんか。

 ・・・無いな。



(お前、酷いな。でも、僕もそう思う。世界戦やってるような人なら、スラングくらい知ってそうだけど。別にそういう人じゃないし)


 お前の方がよっぽどディスってるだろ。

 他には、イッシーとかか。

 あー、分かんねー!



(この際だから、安土に居る召喚者を全員呼んでしまえ!)





 というわけで、俺は安土で活躍?している召喚者の面々をお連れしたわけさ。


 ちなみに呼んだのは、イッシーとセリカ、ロック。

 そして犬山達の三人だ。

 田中や鈴木達の三人は、コバの手伝いで忙しいというので、そっちに専念してもらっている。

 マッツンはうるさいから呼ばなかった。



「外人か?」


「外人ですね」


「外人さん」


「ヘーイ!俺っちとデビュー目指さないですか!?」


「むぅ、流石に筋肉質な人が多い」


 最後の二人はちょっと何言ってるかよく分からないが、まあ概ね外人だと思っている。

 その二人とはロックとゴリ川なのだが、予想を反してこの二人。

 積極的に絡んでいった。



「オゥ!シンガーアンドコメディアン、アクターアクトレス。アイウォンチューアイニージュー!」


「ヘイユー!プロテインは何を使ってるんだい?」



 これは止めた方が良いのかな?

 言葉が通じないブギーマン達が、少し引いている気がするんだけど。

 本人達はそれに気付いてない。



「やめなさい。皆、ドン引きしてますよ」


 流石は犬山!

 二人を止めてくれた。

 というか、本当は俺が止めなきゃいけなかったらしい。

 こっち見て、何故止めないの?みたいな視線を送ってくる。

 だけどそれを聞かれたら、俺はこう言うね。

 そんなの面白いからに決まってるだろ。



「さて、そろそろお仕事しないとね。この中で英語喋れる人、手を挙げて」


 おっと、手を挙げたのはイッシーとセリカの二人か。



「二人とも、ペラペラ?」


「喋れるというより、意味は分かる程度だな。仕事で海外の人達ともやり取りしていた時期もあったし」


「私は海外留学生が学校に居たので。お話ししたくて、勉強しましたわ」


 うむ。

 素晴らしいぞ!

 隣で手を挙げてるロックとゴリ川は無視して、二人に任せたいと思う。



 その前に。

 この二人は、何をどうしたら喋れると思ってるのか?

 気になったので聞いてみた。



「海外のアイドルやバンドの話なら、俺っち出来るような気がするんだよね」


「筋肉で語り合えば、言葉の壁などあって無いようなもの」


 さて、二人には帰ってもらおう。



「魔王様。この方達は安土を見て回りたいそうです」


「観光したいって事?」


「そうみたいですね」


 流石はセリカ。

 無難に会話をこなしている。

 俺だったら、あーはん、オウイェー。

 それとオーケーの三つだけで、話をする自信がある。



「じゃあ、俺がメシ行きたい連中を連れて行こう」


「私は奥様方が服を見たいというので、そちらへ」


「え?金あるの?」


 ブギーマンって、金持ってるのか?

 持ってなかったら、かなり厳しいんだけど。

 キルシェの事だから、金払いは全て安土持ちでとか言ってそうだし。



「オカネ、アリマス。キルシェサン、イロイロカッテクレル。We have money」


 そう言って出してきたのは、大量の金貨だった。

 何故こんなに持ってるのか、分からない。

 だけど、これを見た某安土支店の三人は、態度が急に変わった。






「ようこそお客様。私どもトロスト商会は、お客様のニーズに応える為、様々な物を取り揃えております。お買い物をするなら、トロスト商会。トロスト商会をよろしくお願いします」

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