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試食会

 僕はそんなに心が狭く見えるのかな?

 ズンタッタが、ミノタウロスに支援要請を頼みに行く又左達との同行を求めてきたのは、少し意外だった。

 でも、何でそれを断ると思ったのかな?

 僕は謝りたいって言ってる人に、駄目なんて言わないよ。

 というか、一度謝罪してるし、あの時ミノタウロスも負けたからってしょうがないって言ってたんだけどな。


 イチエモンの案内で、又左達は出発した。

 国王に厳しめのズンタッタと、弟達に厳しいイチエモン。

 二人が居なくなる事で、バスティとゴエモンはウキウキのようだ。

 アイス食べたいって言ってる子供と同レベルなのは、国王としてどうなのかと思うけど。


 彼等が旅立った後、今度は王国から待ちわびた物が届いた。

 ニック率いるトロスト商会が、魚介類を持ってきたのだ。

 かなり楽しみにしていたので、連合から帰った後、すぐに城に冷凍庫を作ったんだよね。

 使ってなかったせいで、中が凍りついてて大変だったけど、順調に運び込まれていった。

 ただ、運び込まれる魚を見ていて思った。

 デカいしカラフル。

 これ、本当に食べられるの?

 食べたというニックに確認をすると、不味い魚もあるという話だった。

 まさかとは思ったが、僕達はやっぱりキルシェに謀られたという事だ。





 不味い魚なんか持ってくるなよ!

 と思いつつ、加工すれば違うのかも?

 なんて甘い考えを俺は持った。



「オイ、普通に美味いのとめっちゃ不味いの。冷凍庫の中で分けろ」


「えぇ!今からですか!?もうメンドイんですけど・・・」


「次からは、パウエルのフロート商事に頼もうかな。どうしよっかな〜」


「ぐぬぬ!この鬼畜魔王!」


 フハハ!

 なんとでも言うが良い。

 ニックは渋々といった感じで、冷凍庫内で分別作業に入っていった。




「終わったで!」


「ご苦労様。寒かっただろうから、ラーメンでも食べてこいよ」


 俺はトロスト商会の人間全員が食べられるように、金貨をニックに渡した。

 それには震えている連中も、大喜びだった。

 野球部でもプロになったOBとか、大量の差し入れとか嬉しかったからな。

 頑張った人には、それなりに良くしてあげたいと俺は思う。



「流石太っ腹魔王!おおきに!」


「誰だ!?俺の腹を太っ腹だと言う奴は?」


「別にお前は呼んでないから。帰れ」


 何故かマッツンが、冷凍庫の前に現れた。

 どうやら普段は人が集まらない冷凍庫が開いていたから、何かあると来たっぽい。



「ちょっと待て!」


「何だよ。何か用があるの?」


「俺様もゴチになりまーす」


「・・・」



 マッツンは何故かそのまま、ニックと一緒に出て行った。

 誰も奢るとは言ってないんだけどな。

 後でマッツンだけ、別請求しようと思う。





 トロスト商会の面々が居なくなったので、俺は冷凍庫の中に入った。

 めっちゃ寒い!

 これは汗なんか掻いたら、余計に寒くなりそうだ。



 俺が冷凍庫の中へ入ったのは、魚の確認の為だ。

 ニックから渡された手紙は、キルシェからの物だった。

 その中には、魚の絵と食べた感想が書かれていた。


 美味い物は、焼いても刺身でも美味かったと書かれている。

 刺身で美味くなかった物は、焼けば食える物や干物にして食べたりしてみたらしい。

 どうやら向こうでも、どのように食すかは試行錯誤してるっぽい。


 そして不味い魚。

 これは分かりやすく言うと、固くて噛みちぎれないや、臭いが酷い。

 単純に不味い等と書かれていた。


 危険と書かれた魚も数尾あった。

 これは毒持ちみたいで、食べた後に痺れが出たり、嘔吐を繰り返したらしい。

 そんな危険な魚、寄越すんじゃないよ!



 手紙の最後には、こう書かれていた。

 安土は良い料理人が揃ってるから、美味い食べ方考えてくれ。

 ・・・なんか釈然としないな。



 言おうとしてる事は分かる。

 安土と王国の両方で、食べ方を考えようって話なんだろう。

 気候や風土も違うし、王国は農業大国だから調味料が沢山あると思う。

 対してこっちは、料理人が優れている。

 色々試そうよって言いたいんだろうけど、どうしてもキルシェの策に乗せられている気がしてならないんだよな。


 ま、美味い物食べられれば、何でも良いか。






 翌日、俺はハクトと、安土で食堂や飲食店を開いている者達を集めた。



「皆、集まってくれてありがとう。今日はコチラを使った料理を考えていただきたい」


 大きな布で隠していた魚を見せると、皆はどよめいた。

 そりゃ外洋の魚なんて、見た事ある人の方が少ない。

 驚くのも無理はないんだけど、ちょっと予想と違った。


 未知の魚に目を輝かせる連中と、食えるのかよと不審に思ってそうな連中。

 更に面倒そうにアクビとかしてる連中も居た。



 個人的には、料理人って凄い食材を前にしたら、めっちゃ興奮するものだと思ってたんだけど。

 そうでもないんだなと、現実を知ったよ。

 あまり興味が無さそうな連中には、帰ってもらおう。

 魚が勿体無い。



「まずは、こっちの魚を使って何か作ってくれ」


 俺が指定したのは、美味いと書かれた方の魚だ。

 どんな料理でも良い。

 刺身も焼き魚も良かったと書かれていたから、とても楽しみだった。



 しばらくして、調理場は興奮の嵐だ。

 俺に出す前に味見をした連中が、美味いと驚いているのだ。

 色々とメモを書き込んでいる連中も居る。

 覗き込んでみると、どうやらアイデアがどんどん出てきているらしい。

 この魚、仕入れの量を増やさないとな。



「じゃあ皆、他の人達の料理を食べてみてくれ」


「他の人の料理を食べるんですか?」


 一人の小人族が、挙手して質問をしてきた。

 これは俺の案ではなく、弟の案だ。



「他人の料理を食べる事で、新たな発見があるかもしれないからね。自分の中だけで完結させるんじゃなく、外からも取り込んで良い物を作ってほしいんだけど」


「なるほど。魔王様は食に貪欲ですね」


「まあね。美味い物は正義なのだ!」


 皆も俺の言った事を理解すると、各々いろんなテーブルを回って食べていた。



 結論から言って、どれもかなり美味い。

 だが、かなり大味な気もする。

 調味料の問題なのかな?

 もっと美味しく出来そうな気もするんだけど。

 ただ刺身でも美味かった時点で、これは文句無しだ。

 雲丹や蟹みたいな身の魚もあったりして、俺は大満足なのだった。





 問題は次だ。

 調理が大変な魚、もしくは不味い魚。

 ついでに毒持ちの魚である。


 コチラは希望者のみ、参加という事にした。

 美味く料理出来なくても、仕方ないからだ。

 そして、ここからはゲスト審査員を呼んでいた。



「皆、食べてもらうのはこの連中だから。頼んだよ」


「ワタクシ、あんまり魚は好きじゃないんですけど」


「魚は久しぶりですけど、本当に私で良いんでしょうか?」


「俺も楽しみだ。おっさんになると、魚が恋しくなるんだよ」


「俺様の胃を満たせる奴は居るのかな?俺様、食にはうるさいぜ」


 審査員、それは太田とセリカ。

 そしてイッシーに、呼んでいないのに勝手に来たマッツンだ。



 何故この三人を呼んだか?

 それにはちゃんと理由がある。



 まずは太田。

 これは異世界代表だ。

 しかもあまり魚が好きでないという事で、そんな奴が美味いと言えば、その料理は成功だと言えるだろう。



 次にセリカとイッシー。

 この二人は日本人代表だ。

 セリカは元お嬢様という事で、色々と美味しい料理を食べていると思う。

 それこそ高級料亭みたいな所で、行儀良く食べてたんじゃなかろうかと。

 全部想像だけど。


 次にイッシー。

 これは庶民代表。

 仕事帰りの飲み屋で、ホッケ食べてそうなおっさん代表である。

 正直、彼の感想が一番気になると言ってもいい。



 最後にマッツン。

 特に無い。

 毒味役でもしてもらおう。

 コイツなら、吐いても痺れても問題無い。

 チャレンジャー求む。


 以上の面々でお送りします。





 うむ。

 なかなか大変だ。


 まず太田。

 大半は食えますねの一言。

 余程不味くないと、拒否反応は示さない。

 審査員として必要無かったかもしれない。


 次にセリカ。

 やはり厳しい。

 彼女の舌は、ハクトでも唸らせるのは大変だった。

 ハクトも最初はニコニコしてたのに、気付いたら目がマジになってた。

 どうやってセリカに美味いと言わせるかって方向に変わっていたし。

 それと、気付くと彼女が色々な魚料理を教えていた。

 煮付けやかまぼこ。

 煮付けの汁を使った煮こごりみたいな、ちょっと予想と違った料理が出来ていたけど。

 でも美味かったから問題無し。


 そして一番気になるイッシー。

 彼の評価も結構厳しかった。

 でも役に立つ意見ばかりで、料理人も皆真剣に聞いていた。

 彼の評価は、御飯と合う料理と酒に合う料理というやり方だった。

 塩辛い味付けで酒に合うと言ったり、ご飯と食べるならこっちの方が良いと言ったり。

 結局鍋が美味いと言っていたけど、つみれとか作れば?と案を出していたので、なかなか良いアイデアを出してくれていた。


 最後にマッツン。

 役に立たない。

 何でも美味いの一言だ。

 馬鹿舌というヤツだな。

 美味いって言うから俺も一口食べたが、臭みを消す為にめちゃくちゃ辛くしてあったりして、食えたもんじゃない料理でも美味いって言うし。

 途中から失敗料理だけを回す、残飯係になってもらった。

 そういう意味ではグッジョブ!





「審査員の皆、今日はありがとう。お土産に残った料理は持って帰っても良いよ」


 太田は遠慮していたが、セリカとイッシーは持ち帰っていった。

 セリカは長可さんと蘭丸に食べさせると言って。

 イッシーは自分の隊の連中と、飲み会をやる為に沢山欲しいと言って、大量に持って帰った。



「なあ、俺様は何故残っているんだ?」


「えっ!?」


 最後の料理、毒持ち魚が待っているからですよ。

 なんて言えるわけもなく、どう説明して良いか困っていると、ハクトが素晴らしいアシストをしてくれた。



「マッツンさんはこの前、安土の防衛戦で活躍したって聞きましたよ。だから特別に、マッツンさんだけの料理を出そうと思ってます」


「そう!そうなのよ。マッツンのおかげで、ゴブリン達が凄かったからね。代表して、マッツンだけ食べさせてやろうと思って」


「むむ?むむむ!?」


 あ、ヤバイ。

 怪しまれてる。

 と思ったら、全然違った。



「ダァーハッハ!!そうかそうか。俺様の活躍あってこその、今の安土だからな。苦しゅうない。マロに特別な料理を食べさせるのぢゃ」


 良かった。

 ただの馬鹿だった。



「それじゃ、コレなんですけど」


「へぇ、流石は特別料理。美味そうじゃん」


「・・・そうね」


 ハクトが代表して、恐る恐る皿をマッツンの前に出した。



 この毒持ち魚料理は、皆が協力して作り上げた一皿だ。

 見た目は美味そうになっているが、よく見ると少しおかしい。

 ソースの色でごまかしているが、魚から滲み出る妙な黄色の液体が少し目に染みたりする。

 ちなみに予想通り、誰も味見はしていない。



「ど、どうぞ」


「頂こう。その前に、魔王!お前も食べて良いよ」


「へっ!?」


「だから、二人で分けようって言ってるの。お前も防衛に奔走してたし、俺様だけの手柄ってわけじゃないからな」


 オイィィィ!!

 コイツ、何言ってくれてるの!?

 こんな時にその優しさ、ノーサンキューですよ。

 ちょっと皆、何故目を逸らすのかな?

 やめて!

 俺を見捨てないで!



「ほら、こっちの取り皿に分けたから。俺こっち貰うわ」


 あ、なんか黄色い汁が目に染みる。

 え?

 普通に食べるの?



「美味いな。少し山椒が効いてる感じが良い」


「山椒?」


 俺はハクトを見たが、首を横にブンブン振ってる。

 そんな物、入っているわけが無かった。



「良いよコレ。さっきまでの料理と違って、味にアクセントがある。お前も早く食えよ」


「えっ!?いやその・・・俺、食べ過ぎたかなぁ?」


「その割には余裕そうだけど。ほら」


「うぇ!?」


 コイツ、俺の口の中に切れ端を入れやがった!?



「ぐえぇぇぇ!!」






「ま、マオくん!?おーい!痙攣してる。用意してた薬を早く!まさかこんな凄い即効性のある毒だったとは。あ、白目で気を失った」

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