犯人はお前だ!
ラーメンが完成したその日、ズンタッタ達は暗くなるまで帰ってこなかった。
「ぬぅ、このままだとアウラール殿の鼻を明かさぬ。盗っ人め、アウラール殿に捕まったら容赦せぬぞ!」
目的が変わっている気がする。
あの人は最初から犯人はうちらを疑っているんだから、そこまで犯人探ししてないんじゃない?
「犯人探しはそっちに任せるよ。うちらはラーメンを売る事に専念するから」
俺達はハクトのラーメンで、スマホ代を稼がないと。
滞納魔王になりたくない!
借金魔王は嫌なのです!
「キャプテン、ところで犯人の情報は手に入りましたか?」
生姜を手に入れた店で聞いた話と、大まかな予想だけは伝えておく。
でもあくまでも予想。
俺達の意見を鵜呑みにするのはやめてほしい。
「そうですか。私達の聞いていた話と同じですね。やはり結論はそうなりますかね。ヒト族と魔族、両方の線となると、そう簡単には見つからないとは思いますが・・・。しかし!アウラール殿には負けたくないのです!」
そうですか。
がんばってください。
おうえんしてます。
翌日、朝日が登る前から、ハクトは屋台に出向いていた。
スープの仕込みに時間を掛けたいようだ。
力仕事を手伝うように、太田も強制で連れて行ったらしい。
「いいですか?キャプテンの為になるんだから、気合いを入れて手伝ってください!分かりましたね」
太田よ、その通りだ。
俺はもう少し寝ていたい。
あと2時間くらいしたら行くから、頑張ってくれたまえ。
というわけで、俺は二度寝の為に部屋に戻るとしよう。
「マオくんは麺を作ってね。作れるよね?ね?」
あ、はい。
そろそろ起きようと思ってました。
頑張ります。
俺達がスープを煮込んでいる頃、ズンタッタ達も行動を開始した。
まずは、町を出る人間の確認。
俺達が大きく犯人探しをし始めた事で、真犯人はこの町から逃げ出そうとするかもしれない。
知らない人なら未だしも、知ってる人ですらそうそう町の外へは出るものではない。
町から出る人を覚えておけば、戻ってこない人が怪しい。
なので衛兵に確認を頼んでいるみたいだ。
他にも聞き込みと、町の中で隠れられる場所の探索をしているらしい。
偶然アウラール町長とバッタリ会っては、にこやかに挨拶を交わす。
「ズンタッタ殿、まだ町に滞在しておりましたか。犯人探しなどやめて、さっさと出て行ったかと思っておりましたぞ。その途端に犯行が止むやもしれませんがな」
「町長こそ、朝から散歩ですかな?町の異変に気付かないようでは、上に立つ資格などありませんからな。あぁ、既に異変が起きておりましたわ。失念でしたな」
ラコーンとチトリは顔が真っ青だったらしい。
そして向こうのリザードマンの戦士団も。
喧嘩っ早いというか何というか。
お互いに、上に立っているという自覚を持ってほしいですね。
あ、俺も魔王だったっけ。
魔王の自覚とか、そんなものを教えてくれる人がいるならさっさと教えてくれよ。
どういう振る舞いをしていいか、サッパリ分からんわ。
そろそろ昼前になる。
完成したスープの味見をしてみた。
うむ、昨日より長く煮込んだからか、更に美味く感じる。
豚骨の臭みも無く、ほぼ完璧と言って良いだろう。
「よし、開店の準備だよ!」
店長からの声がかかり、太田が屋台の屋根に看板を取り付ける。
そして周りの家の屋根より高く、赤い幟を立てた。
風に揺れて、大きく目立っているね。
周りのリザードマン達も、何だこれはと集まってきた。
「いらっしゃい!神の世界の食べ物、ラーメンはいかがですか〜!」
太田が大きな声で客引きをしている。
神の世界って大声で言われると、めっちゃ恥ずかしいな。
ラーメンの匂いが周囲へ広がっていく。
だが、問題が起きているこの町に昨日来たばかりの他種族である俺達に、信用は無い。
匂いは良くても、神の世界の食べ物という売り文句は、怪しさ満点だ。
遠巻きに見てるだけで、誰も寄ってこない。
このままでは売れないぞ。
せめて食べてもらえれば、ラーメンの美味さと素晴らしさが伝わると思うんだけど。
お!?丁度良い人がやってきた。
この人の言葉なら、皆も納得してくれそうだ。
「町長!アウラール町長!」
遠くでズンタッタと話しているのが見えたのだ。
内容は聞こえないけど、目は笑ってない。
わざわざ身体強化してまで、見るものじゃなかった・・・。
でも声に反応して、こっちに来てくれるようだ。
「昨日、太田が暴れちゃったからさ。迷惑かけたお詫びとして、ラーメン奢るよ」
「らあめん?」
聞いた事のない言葉に、見た事のない料理。
流石にちょっと戸惑っている。
「熱いので気をつけて」
「熱いのか。まったく、私は熱いのが苦手だというのに」
リザードマンって生魚食ってそうだもんなぁ。
冷たい物ばっかり食べてそうだし、猫舌なのかもしれない。
トカゲなのに猫舌とは。
ちょっと笑える。
しかしその様子を真剣に見つめる男も居る。
ラーメンを作ったハクトだ。
彼が人にラーメンを出すのは初めてではない。
味見や試食で、俺達が何度も食べている。
だがそれは、身内に、家族に出しているのと同じような物だ。
今回は違う。
正真正銘、初めてのお客さんなのだ。
この人の一言が、今後の明暗を分けると言っても過言ではない。
箸で麺を取り、スープの入ったレンゲの上に乗せて口に入れる。
・・・ん?
反応が無いぞ。
小刻みに震えているが、スープ熱過ぎたかな。
やっぱり猫舌で怒ってる?
「スープ熱かったですか?そしたら・・・」
「う・・・」
「う?」
「うーまーいーぞー!!」
叫んだ後、レンゲではなく器に直接口を付け、スープを飲み始める。
アチッ!とか言ってるけど、それでも飲んでいる。
麺よりスープがお気に召したようだね。
「んー、ぃよっしゃあ!」
おぉ、可愛い可愛いといつも言われていたハクトが、随分と男らしい声を出したもんだ。
今までの苦労を考えると、この喜びも分かるけどね。
「この料理は何というのだ!蕎麦に似ているが麺も違う。そして何より、この汁が蕎麦とか全然違うではないか!」
「これは神の国の料理、ラーメンです。同じ味を出す為に試行錯誤を重ね、昨日ようやく完成したばかりの品でございます」
丁寧にハクトが答えている。
しかしこの町長、気付いたら上半身が裸なのだが。
余程スープが熱かったのか?
目を瞑り、味を噛み締めているようにも見えるけど。
「あの、普通に支払うからもう一杯頼んでもよろしいか?」
その言葉をキッカケに、周囲で様子を見ていた他のリザードマン達も、一斉に注文をしてきた。
「凄い勢いですな。ハクト殿の努力が実ったと思うと、ワタクシも感慨深いです」
「キャプテン、私達も手伝いましょうか?」
ラコーン達もこちらにやって来た。
どうやらこの繁盛の様子を見て、3人では大変じゃないかと思ったようだ。
しかしあまりにお客さんが多い。
予想以上の混み具合なので、待っている人が沢山居るのだ。
(どうせだから、即席でテーブル席でも作ろうか?4人掛けのテーブル席を4組くらい作れば、立っている人も減るでしょ)
それだ!
俺だとあまり綺麗に作れる自信無いから、代わるか。
「太田、町の外から適当に木を切って持ってきてもらえる?テーブルを作るから」
「分かりました。魔王様」
太田は本当に凄いな。
何も言ってないのに、代わった事が分かるなんて。
ちょっと怖いくらいに感じる。
「よし、こんなもんだろう。」
太田が切ってきた大木から、テーブルと椅子。
そして割り箸も作ってみた。
でもこの割り箸、全然綺麗に割れない。
作り方を知らないから、上手く作れなかったようだ。
そして無駄なこだわりもある。
町中華によくある、ベコベコの灰皿を作ってみた。
テーブル席の見た目だけは、完璧と言えるだろう。
「あ、あの。ちょっとよろしいか?」
ん?
町長が挙動不審な感じで話し掛けてきた。
「なんでしょう?おかわりですか?」
「いや、それは大丈夫なんですが。今の魔法って、もしかしてアレですか?」
「アレ?ただの創造魔法ですけど」
魔王しか使えない魔法だから、ただも貴重も関係ないんだけども。
「言いませんでしたっけ?ズンタッタがこの町へ来た時に、僕が魔王って話してたと記憶していますが」
「聞いてますよ!本当だなんて思いませんでしたよ!子供の戯れだと聞き流してましたよ!」
ネギが口から飛んでくる。
汚いから、食べながら大きく口開けないでほしいよ。
「私の言う事を信じないからです。それを貴方達は馬鹿にしておりましたがな」
ズンタッタが勝ち誇ったように話に入ってきた。
アウラール町長は分が悪そうですな。
しかし予想していた反応では無かった。
「申し訳ありません。私達の早とちりで、ご迷惑をおかけしてしまいました」
ズンタッタにすんなりと頭を下げたのだ。
こうなると、こちらも大人の対応。
「勘違いというものは、誰にでもある事です。私達の対応も悪かったのかもしれません。らあめんを食べた後にでも、また犯人探しをしましょうぞ」
よかったよかった。
これで2人とも、真犯人探しに集中出来るだろう。
お客さんもまだまだ増えているし、僕達はラーメンを出す事に専念でもしますか。
「あ!すいません、醤油ラーメン以外はありますか?塩とか味噌とか」
「・・・え?」
「え?」
ラーメンが食べたい。
それだけの為にこの町に残った。
この世界に来て3年以上か?
ラーメンなんて言葉、久しぶりに聞いたわ。
同じ召喚者達も、食事に関しては不満が多そうだったし。
ラーメンとかハンバーグが懐かしい。
何故かカレーと唐揚げはあったけど、流石に毎日カレーは飽きた。
カレー南蛮はルーの使い回しで、美味くなかったもんなぁ。
そんな食料事情の中、ラーメンが食べられるなんて聞いたらねぇ。
夜になり少し冷静に考えてみた。
言葉だけ同じで、別の料理という可能性もあるんじゃないかと。
でも屋台って言ってたし。
俺の知ってるあのラーメンだろう。
そう考えると、楽しみで仕方ない。
だから今晩は、ご飯を食べるのを我慢した。
翌朝、お腹が減って早い時間に起きてしまった。
昨夜は我慢したけど、もう食べちゃおうかな?
ん?あの耳は・・・。
昨日、屋台の所に居た獣人だ。
こんな早くから作るのか。
思わず隠れてしまったが、別に今は悪い事をしているわけじゃなかった。
近付いてどんな料理か確認してみよう。
あの寸胴、そしてスープ作りで何かを煮込む様子。
間違いなくラーメンだ!
中止!朝食も中止!
昼まで腹を目一杯空かせよう。
そろそろ昼食時だ。
屋台の開店も間も無くだろう。
何度か気になって、何人かに変身して見に行ってしまった。
お?ミノタウロスが看板を取り付けたぞ。
「神の世界の食べ物、ラーメンはいかがですか〜!」
キター!!!
ラーメン屋だよ!
俺の知ってる屋台だよ!
しかし神の世界の食べ物ってどういう事?
日本って、この世界だと神の国とかなの?
まあそんな事よりラーメンだ。
仕事帰りに、よく塩ラーメン食べたなぁ・・・。
おぅふ、いい匂いだ。
よし、行こう!
何故だ!
何故誰も行かない!
俺が一番乗りとか、怪し過ぎるだろ!
早く行こうよ。
誰か行ってくれよー!
しばらく周りの連中と同じように様子を伺っていると、子供が大きな声で誰かを呼んでいた。
呼ばれた人がラーメンを食べるようだ。
よし!美味いって言え!
言わないと、ここまで我慢した甲斐がない。
「うーまーいーぞー!!」
やったぁぁぁ!!!
美味いって言った!
ラーメン美味いって言ったぞ!
よし、皆行け。
俺も続くから早く並んでくれ。
アイツ行った!
俺も続くぞ。
って、速い。
リザードマンってこんな速いのか。
イタッ!
おい、俺転けたから。
踏んでいかないでくれ。
ふう、やっと列に並んだ。
知らぬ間にテーブル席まで準備されている。
用意がいいじゃないか。
今ならクチコミ投稿で、星4つ以上は付けてあげるね。
ずっと立ったままじゃないのは助かる。
隣のテーブルを見ると、醤油ラーメンが売りなのかな?
皆、醤油ラーメンしか食べていない。
出来れば塩が食べたいんだけど。
もしくは味濃い目の味噌も良いなぁ。
一応、店員さんに聞いてみるか。
「あ!すいません、醤油ラーメン以外はありますか?塩とか味噌とか」
「・・・え?」
「え?」
この人、塩とか味噌って言わなかった?
聞き間違いじゃないよね?
【いやいや、ハッキリ言ってたぞ】
たまたま他の味があるって知ってたなんて、そんな偶然無いよなぁ。
でもいきなり疑うのも悪いし。
【鎌をかけてみたら?そんなアホだとは思わないけど、もしかしたらね】
まあやらないよりマシか。
「すいません、うちはまだ醤油専門なんですよね。他のラーメンも納得出来るレベルになったら、売り出そうと思ってます。次は何が良いかリクエストありますか?」
「そうだなぁ。俺は塩が好きなんだけど、出来ればサイドメニューが充実してると助かるな。ライスと餃子とか」
あぁ、これは日本人だわ。
後はどっちかだな。
【どっちかとは?】
たまたま日本で死んで、記憶を残したままリザードマンになった。
もしくは帝国兵が、どうやってか知らないけど変装しているか。
【その判別は出来るのか?】
うーん、難しいんだよねぇ。
俺達が知らない帝国の話を知っていれば、分かりやすいんだけど。
そんな上手く引っかかるとは思えないし。
「すいません、胡椒は無いんですか?」
「あぁ、ラーメンには胡椒欲しいですよね。でも胡椒とか見た事無いんですよ。あれば仕入れたいんですけど」
「え?そうなんですか?帝国とかで普通に流通してますよね。それを手に入れればいいのでは?」
「え?帝国にはあるんですか?」
「帝国近辺の町や村にもありますよ。あの辺の村が原産地じゃないかなぁ」
こ、コイツは!
【アホだな】
まあそうだけど。
これは決まりだな。
「ズンタッタ!」
「何でしょう?」
「コイツ、犯人」
「え?」
【バカ!違うだろ!】
あっ!
「あ、もう一回最初から行きまーす」
何が何だか分かってない皆は置いといて。
テイク2スタート!
オホン!
ビシィ!って決めポーズを決めて、
「犯人はお前だ!」