襲撃を知る
凄いぞマッツン!
ボロボロになったマッツンは、ゴブリンが助けてくれない事に腹を立てていた。
やっぱりカッちゃんナオちゃん半ちゃんが居ないと、駄目だと心から実感していた。
これは自力でどうにかするしかない。
彼は秘密裏に覚えた、とっておきの魔法を使った。
光魔法である。
たまに僕が使うのを見て、目立つから覚えたらしい。
彼の光魔法は少し特殊だ。
普通なら身体全体が光ったりするのだが、彼の場合は腹のみだった。
マッツン最大の魔法、自称ヘソフラッシュ。
大男は間近でそれを見て、目眩しを食らった。
だが、それだけである。
眩しくて目が開けられないものの、掴んだ手は離していない。
故に、目をやられた怒りから、更に地面へと叩きつけられていた。
鼻血を出しながら、堪忍やで!を繰り返すマッツン。
そんなマッツンに、ようやく助けの手が現れる。
勿論僕ではない。
目が見えない大男は、誰が近付いているか分からなかった。
彼はマッツンを振り回していた腕を掴まれると、何かで腕をへし折られる。
叫びながらマッツンを手放す大男は、ようやく視界が戻ってくる。
その時目の前に居たのは、ゴリアテ配下のオーガ達だった。
胸ぐらを掴まれた金髪は、再び殴られるのではとオドオドしている。
それを見た長谷部は、自分が弱い者イジメをしている気分になり、金子への影響を考えて手を離した。
「早く答えろ」
「ハイ!Bです。俺はBでした!」
「・・・お前、よくそれであんなに強気に出れたな」
金子の能力は、明らかにAクラスに近い。
それなのに大した力も無い二人が、金子をイジメられる程強気になれた理由が無いのだ。
もし金子が本気を出していれば、壁を使って圧死させられたと思う。
試しにそれを伝えてみると・・・。
「お前、俺に勝てると思う?」
「ハイ!?そんな事無理に決まってる!」
「でも金子、俺を殺せそうだったぞ。下手したら俺、死んでたからな。お前、アイツが手を抜いてなかったら、今頃はアレと変わらんかったと思うぞ」
アレとは、お仲間のツーブロックである。
首の骨が折れて既にお亡くなりになっている。
アレと変わらないというのは、そういう事だ。
「ひ、ヒイィィ!!たしゅけて!もう手出しはしませんから!ひぶっ!?」
「あ?誰だ!?」
金髪は、連中の後ろに居た馬車から飛んできたナイフで、背中を突き刺され死んでしまった。
心臓を狙った一撃に、長谷部も何も出来ずに居た。
「仲間が殺されたぞ!仇を討て!」
馬車の中から、そんな声が聞こえてきた。
馬車の護衛兼荷運び隊だと思っていた兵士達が、一斉に襲い掛かってきた。
長谷部や太田の実力を見た連中の狙いは、主に秀吉や官兵衛、そしてゴルゴンの方へと集中する。
「ズルイ連中だな」
「でも、オイラ達が足を引っ張るわけには。えいっ!」
右トリガーを引くと、機関銃が連射を始める。
ミスリルの鎧を着ていない彼等には、さっきと違いかなり有効だった。
それを見た秀吉も、機関銃の範囲から逃げられないように土壁を展開している。
秀吉の作る土壁は、鉄分を多く含んだ鉄壁と言った方が正しい。
機関銃の跳弾で、壁の中はもはや銃弾の結界となっていた。
「凄い!僕の壁とは違うんだ」
「ハハハ。キミの見えない壁の方が凄いよ。キミもその壁を使いこなせば、見えない壁の中でこれくらい出来るかもね」
「そうかな?」
「そうだとも」
秀吉の作る鉄壁に感動していた金子は、自分の方が凄いと言われ少し照れている。
壁を使いこなす。
自分と他人を拒絶する為だけに使ってきた壁。
彼の中で、壁への認識が少し変わった瞬間だった。
「やってみるかい?」
「えっと・・・」
「金子!やめとけな」
戦いながら話を聞いていた長谷部。
血を吐いた彼の身体を安否してか、大きな声でやるなと叫んだ。
唆かす秀吉を睨むと、秀吉は怖いお兄さんが睨むからやめておこうねと、金子への提案を取り止めるのだった。
「終わったな」
「しかし誰が叫んだんだ?」
帝国兵は全員倒れている。
馬車の中も確認したが、食料や荷物だけで、人の姿は無かった。
「もしかして、逃げる為に叫んだんじゃないですか?」
「太田さんの言う通りかも。可能性はありそうだ」
「丁度良いです。持ってきた金剛石とアポイタカラは、全て馬車に載せましょう」
官兵衛の提案で、ゴルゴン達が運んでいる鉱石を全て載せ、村へ帰る事にしたのだった。
ゴルゴンとラミアの救出に、南北の洞窟調査。
その一連の作戦は全て終わった。
南の村には、洞窟からオリハルコンを発見した蘭丸達が、新たな仲間である水嶋を連れて帰還した。
「これがオリハルコン!?」
「おぉ!ゲームでもよく聞く名前だな。連中、こんなのを発掘してたのか」
佐藤とイッシーは、オリハルコンという名前に興奮していた。
しかし直政とその部下である重好は、伝説の鉱石であるオリハルコンに神々しさを感じて、違う意味で興奮している。
「これは凄い!マッツンの乗る神輿、これで作れないだろうか?」
「ナオちゃん。それは良い案だよ!」
「オリハルコンで神輿とか。そんな無駄遣いは、マオが許さないんじゃねーの?」
「無駄遣いだなんて!」
蘭丸の意見に、ナオちゃんヨッシーは否定する。
両者は意見を曲げなかったが、そこに割って入ったのはハクトだった。
「ちょっと待って!オリハルコンって、そんな簡単に扱えるの!?」
「あ・・・」
皆は気付いた。
伝説の鉱石であるオリハルコンを、どうやって加工するのかと。
安土には昌幸という有名な鍛治師が居る。
そして現代科学に精通したコバの存在もある。
しかし、両者ともオリハルコンを扱った事は無かった。
「神輿はまだ見送っておこうか」
「ナオちゃん、まずは武器とかで試してからでも良さそうだよ」
そういう問題ではない。
聞いていた皆は思ったが、ここでイッシーはある人を思い出した。
「仙人であるセンカク殿なら、オリハルコンの扱いが分かるのでは?」
「師匠は分かるんですか!?」
「分からんよ」
即答されると皆はため息で応える。
結局のところ、昌幸達に見せて初めて話が進むという事になった。
「まずはマオくんに報告しよう。それに、ラミアの人達の話だと、オリハルコンは人工的に作れるかもしれないし」
「そうなのか!?だったら神輿も」
「神輿作るなら、マッツンに聞いてからの方が良くない?アイツが要らないって言ったら、無駄になるぞ」
「そっか!流石は佐藤さんだよ!」
頭は回るのに残念だな。
佐藤は苦笑いしながら、直政への評価を改める。
「アレ?」
「ハクト、連絡まだ取れないのか?」
「うん。掛けてるんだけど、出ない」
「電話に誰も出んわ。・・・すまん」
イッシー渾身のギャグは、滑って終わる。
アラフォーになったイッシーは、若者と会話が通じない事が増えてきた。
それに一抹の寂しさを感じる年齢なのだ。
「出た!もしもし、マオくん」
「すまん!今、安土襲われてっから!後で折り返すわ」
一言だけ言って切れる電話。
スピーカーモードにしていたので、全員が聞いていた。
「・・・えぇぇ!!」
一方、北のゴルゴンの村まで戻った官兵衛一行は、疲れていた又左達と合流する。
「どうしたんです?」
顔色が悪い又左達に、官兵衛は心配そうに声を掛けた。
しかし、その返答で彼は真顔に変わる。
「官兵衛殿、おかえりなさい。カッちゃんが戦勝祝いだって言って、飲み会をしているんだが。もう一週間続いている。流石に気持ち悪い・・・」
「どうでも良いですね。それで、ゴルゴンの救出は?」
「酷いでござる・・・。捕まっていたゴルゴンは全員助けたでござるよ」
腕や足を失ったゴルゴン達も居るし、殺されたゴルゴンも居た。
しかし助けられた命もあると、彼等は気持ち悪そうな顔をして説明する。
「やはり全員は無理でしたか」
「秀吉殿も手を貸していただき、ありがとうございました」
官兵衛の手を貸してくれた事に感謝した。
秀吉はそれよりも、無職扱いしてきたあの連中が居ない事に安堵する。
「ところでその少年は?」
「この子は金子くんと言って、帝国で酷い扱いを受けていたので保護しました」
「俺が安土で、責任持って世話するから。ラーメン食いに行く約束したんだ」
長谷部の陰に隠れる金子。
又左や慶次等、見た事の無い獣人に人見知りしている。
そして極め付けはこの人だった。
「帰ってきたって聞いたよ〜!うぃ〜。お疲れちゃ〜ん!」
「はい!これを皆で持って。ささっと乾杯!」
酔っ払った忠勝と半蔵に、戻った長谷部達はすぐに酒が入ったグラスを渡される。
そして乾杯と言ったところで、誰も乾杯していないのに酒を飲み始めた。
「酔っ払いだ」
「んん〜?少年、俺達は酔っ払いではない。超酔っ払いなのだ!」
「さっすがカッちゃん!今日も足がフラフラだぜ!」
真っ直ぐ歩けないカッちゃんに、又左と慶次は皆に謝って二人を飲み会の場へ連れていった。
「良いか金子。安土はあんな人ばかりじゃないぞ」
「皆ドン引きしてるから、それは分かるよ」
官兵衛と秀吉は、特に顔に出ていた。
秀吉は、無職連呼をしたあの連中に、心の中で酔っ払いウゼェと叫んだのだった。
「又左殿達が戻ったら、魔王様に連絡をしましょう」
その後彼等は、南へ向かった連中と同じ報告を聞く事になる。
「オイ!安土が襲われてるって本当か!?」
さっきまで千鳥足だったはずの忠勝が、慌てて官兵衛に駆け寄ってきた。
マッツンが心配なようだ。
「えぇ、どうやら戦闘が続いているらしく、少し忙しなかったですね。ただ、電話に出れたという事は、魔王様自体は戦闘に参加していないのでしょう」
官兵衛の話だと、以前と比べそこまで切羽詰まった状況ではないと判断していた。
しかし、そんな事はお構いなしのゴブリン連中は、マッツンの事が心配でならない。
そこで官兵衛は、ある提案をする。
「一部の連中を残して、戻りましょう。そして戻ってもらうのは、又左殿と慶次殿。お二人になります」
「何故!?ゴブリンは駄目なのか?」
「急ぎ助けに戻りたいのでしょう?馬の速度に合わせるよりもね。トライクで二人だけで先行させた方が、本多殿達よりも早く着きますよ」
「なるほど・・・。マッちゃんケイちゃん!安土を頼んだぞ!」
「任せるでござる!」
忠勝は駄々を捏ねる事はなく、すぐに官兵衛の意見が最善と判断した。
半日足らずで準備を終えた二人は、トライクで早々に安土へと向かった。
「南もおそらくは終わっているはずです。一度連絡を取ってみましょう」
官兵衛はハクトへ電話をしてみた。
すると、向こうも同じように安土襲撃の話を聞いたらしく、慌ただしい声が聞こえてくる。
「官兵衛さんはどうしたんですか?」
「又左殿達が安土へ戻りました。トライクに乗れる人なら、早く戻る事が出来ますから」
「なるほど。じゃあ、南からは僕達が戻るべきですね。ナオちゃんさんと相談してみます」
ナオちゃんさん?
官兵衛は聞いた事の無い名前に、ちょっと疑問を抱きながら、電話口で待った。
「ハイハイ、こちらナオちゃんこと井伊直政だよ」
「井伊殿でしたか」
「ナオちゃんで良いよ。とりあえず話は聞いたから。こちらも蘭ちゃん達に戻ってもらう事にする」
「了解しました」
直政の判断の早さに、官兵衛は声だけながら信用に値する人物だと確信した。
少し軽いのは微妙だが、彼とは話が合うかもしれない。
次の言葉を聞いた官兵衛はそう思ったのだった。
「北の洞窟って、何か希少な物出た?出来ればそれ、奪われたくないんだよね。だから今後、ゴブリンを洞窟警備に派遣したいと考えてるんだけど。官ちゃんはどう思う?」
 




