悩む官兵衛
寝ているマッツンの腹の上に、グラスを置いてみました。
イビキで動く腹は、とても躍動感に溢れています。
見事にグラスが傾くと、彼は股間に水を溢しました。
慌てて起きた彼は、おもらしと勘違いして顔が青ざめています。
久しぶりにスッキリした、どうも魔王です。
見事にドッキリ大成功。
僕に見られていた事で少し半泣きになっていたので、ネタバラシをしたら、めっちゃキレられてしまった。
笑いを堪えながら謝ると、逆効果だったらしい。
いつか絶対に同じ事をしてやると言われた。
朝になると、ゴブリン達はスッキリした顔をしていた。
だけど、僕とマッツンが一緒に居るところを見ると、飲み会やろうぜ的なノリの話になっていた。
マッツンが無理矢理というよりは、お互いに飲みたかっただけなんだなと実感した。
だから僕は、この戦いが終わったら王国産の米から作られた酒を用意すると約束した。
それを聞いたゴブリン達は、武器を突き上げてテンションが上がっている。
マッツンがラッキーと言っているのが釈然としないが、コイツがゴブリン達をやる気にさせていると考えれば、まあ良いかという気持ちになったのだった。
水嶋は、自分が死んだと思った。
胸にナイフが当たり、チクリと痛みが走ったからだ。
心の中で彼は、戦友達の顔を思い出したくらいだ。
「岸やん。俺も今からそっちに行くぞ・・・」
ボソッと呟いたそれは、自分が戦場で散ったと思われる戦友に対して言葉だ。
しかし彼女がナイフを突き刺さず、自分に寄りかかるように倒れてくる。
その背中には矢が刺さっており、向こう側を見ると、蘭丸と入れ替わりで離れたはずのハクトが、弓を持っていた事に気付いた。
「そうか。俺は助かったんだな」
ハクトの耳には、水嶋が言った言葉が聞こえていた。
矢が命中しているのに、彼は何を言っているんだ?
少し笑いそうになったハクトだが、真面目に言っていたので彼は我慢する。
「オイオイ。岸やんも草葉の陰から笑ってるぞ」
蘭丸は揶揄うように、岸やんと言った。
顔を真っ赤にして怒る水嶋。
「お、おま!ふざけんなよ!」
「銃も駄目だって、さっき言ったばかりじゃないか」
「うっ!わ、忘れていたんだ」
「ま、聞かなかった事にするよ」
蘭丸は手をひらひらと振りながら、ハクト達が守るラミアの方へ向かう。
余談ではあるが、水嶋の戦友である岸やんこと岸野氏。
彼は別に戦死していない。
戦後七十年以上経った今、彼は介護ホームで最年長の入居者として元気に暮らしていた。
ボケ防止で始めた将棋にハマり、今では介護ホーム最強の棋士として君臨している。
水嶋が岸やんと呼んだ時、彼は長考中でうるさいと言ったとか言わなかったとか。
岸やんの中で水嶋は、既に過去の人だった。
水嶋は少し恥ずかしさを顔に出しながら、蘭丸の後を追おうとした。
すると、女に意識がある事に気付く。
「まだ息があるのか」
「テ・・・メ・・・。絶対に・・・殺し」
全てを言い終える前に、彼女の額に穴が開いた。
水嶋は後ろ手に銃を持ち引き金を引くと、弾が大きく曲がって後頭部から額へ弾が突き抜けたのだった。
「アイツ等、まだまだ甘ちゃんだな。戦場では生死の確認を怠れば、死ぬかもしれないというのに」
さっきより小さな声で呟くと、ハクトの方を見る。
この言葉は流石に聞こえなかったようだ。
だが、奇妙な老人がこちらを見ている事に気付く。
水嶋はオガの死亡を確認すると、蘭丸達の方へと向かおうとした。
「おわっ!」
何かに躓く水嶋。
それは白銀色に光る、粘土のような物体だった。
「何だこれ?」
「それはオリハルコンじゃ」
蘭丸達も異変に気付いた。
皆を連れて水嶋の方へ来ると、センカクがそれが何か教えてくれたのだ。
オリハルコンは、オガの周りに沢山置かれている。
墓石みたいに散らばるそれは、少し不気味にも見えた。
「これがオリハルコン!」
「で、伝説の鉱石だよね!というか、鉱石なの?」
軽く踏むと、足跡が残るくらい柔らかい。
石というよりは、粘土にしか思えなかった。
「オリハルコンはの、魔力を帯びて形が変わる。意志ある石と言われているのじゃ」
「師匠、それは駄洒落ですか?」
「違うわい!」
蘭丸に突っ込まれ、大きく否定するセンカク。
しかしセンカクには、オリハルコンよりも気になる事があった。
「ちょっと聞きたいんだが」
「何だ?ジジイ」
「ワシも聞きたい事がある」
「何です?」
水嶋が蘭丸に尋ねると、センカクもハクトに質問をしている。
「この爺さんは何者だ?」
「この老人は誰なのじゃ?」
声が被って聞こえた質問に、二人は顔を見合わせる。
妙な格好をした爺さんが二人。
お互いに気になっていた。
「この人は俺の師匠。仙人のセンカクさんだ」
「水嶋さんです。森に長年、一人で住んでたみたいです」
「仙人!?」
「森に一人で?」
再び顔を見合わせた二人。
どちらからというわけでもなく、自己紹介を始めた。
二人は握手すると、水嶋が何故森に住んでいたのかという話になった。
「水嶋殿は迷い人じゃな」
「迷い人?」
「異世界からフラッと、こちらへやって来る人の事を指す。ちなみに初めての迷い人と言われているのが、初代魔王の信長公じゃ」
センカクの説明に驚く三人。
しかし一番驚いていたのは、蘭丸達ではなく水嶋だった。
「仙人様の話が間違い無ければ、それは俺の世界の偉人だ!」
「ほっほ。なかなか面白い共通点ですなぁ」
「ハハッ!全くだ。俺が織田信長と同じだなんてな。日本の人が聞いたら、腰抜かして驚くぞ」
笑う水嶋だが、これで納得した。
自分はもう、日本に帰れないのだと。
とは言っても、既にこの世界に来て七十年。
彼の中では、既に諦めていた部分もあった。
本来なら亡くなっていてもおかしくないのに、未だに若い頃と同じ体力を維持している。
あり得ない話に、夢か現か分からない状態になりつつあった水嶋。
センカクの言葉は、これが現実だと知る良い機会だった。
「それじゃ、佐藤さんと水嶋さんは同じ世界から来たのかな?」
「どうじゃろうな?ワシも詳しくは知らないが、並行世界というモノも存在するという。同じ国名でも、全く違う国かもしれないの」
「いや、これが現実だと分かっただけでありがたい。佐藤某とは、直接話して聞いてみるさ」
スッキリした顔の水嶋。
それを聞いた蘭丸達は、彼が同行するという意味に受け取った。
「オリハルコンを持って、ラミア達を村へ送り届けよう」
南の戦いがひと段落した頃、北の洞窟では官兵衛が迷っていた。
「すんなり入れたと思えば、このような事になっていたとは」
洞窟の中は綺麗に整備され、そこでは機械類が多く並べられていた。
作業員のような者はほとんど居らず、兵士達が定期的に見回りをしている。
「何をしているんですかね?」
「分かりません。それよりもまず、ゴルゴン達を探さなくては」
秀吉の問いに即答する官兵衛。
太田は機械を触ろうとして、長谷部から怒られている。
「勝手に触ったら、警報が鳴るかもしれないでしょ」
「その通りだ。ワタクシが軽率だった。ただ、どっちから流れてきてどっちに行くか、それが知りたかったのだ」
機械の流れが分かれば、ゴルゴンの位置が分かるかもしれない。
太田は強制労働をさせられているという事で、流れの上の方で作業をさせられていると考えていた。
「興味深い考えですね」
「木下殿にそう言っていただけると、心強いですね。官兵衛殿は、どうお考えか?」
「オイラは・・・少し考えさせていただきたい」
見た事も無い機械に、彼は答えが出ない。
長谷部も日本にこんな機械あるなという程度にしか、分からなかった。
「難しいですね・・・」
「官兵衛殿が迷っているなら、太田殿が決定するべきではないですかな?」
「ワタクシですか!?」
急な指名に戸惑う太田。
官兵衛はそれでも悩んでいる。
「あのさ。分からないなら、音が大きい方に行くっていうのはどうでしょう?」
長谷部が小さく手を挙げると、申し訳程度に言ってくる。
三人はそれを聞いて、分からないならそれでも良いかという結論に至った。
「そもそも音が大きいなら、人が大勢居るかもしれないって事ですからね」
「運要素が大きいですけど。ここで管を巻いてるより、良いと思います」
「オイラも今回は、長谷部くんに賭けます!」
秀吉と官兵衛の二人に賛同され、少し気まずい長谷部。
適当に言った手前、これで間違っていたらと、少し頭が痛くなった。
「最悪、敵だらけの中に出てしまうかもしれません。だけど、オイラ達ならどうにか出来ると信じています」
「それじゃ・・・音が大きいのは右ですかね」
太田が耳を傾けると、右を示す。
長谷部も同じく右と言ったので、二人を信じて右へ向かっていく事にした。
「ビンゴでしたね」
長谷部が小声で言うと、ゴルゴンを見つけた。
小さくガッツポーズする長谷部に、官兵衛は少し笑みが溢れる。
「どうかしたっすか?」
「いや、何でもないです」
たまには考え込むより、直感を信じるのもアリだなと感じた官兵衛だった。
「太田殿、何をやっているか見えますか?」
一人頭を出す太田に、ゴルゴン達が何をしているのか秀吉が尋ねる。
太田は目を細めて遠くを見ようと努力するも、機械が邪魔で見えなかった。
「これ以上頭を出すと、ワタクシが見られます。それに見張りもそろそろこっちへ来るかと」
太田が言うと、すぐに足音が聞こえてくる。
陰に隠れる四人の横を、ミスリルの装備で固めた男が通り過ぎた。
「ミスリル装備か。これは帝国が絡んでいる可能性があるな」
「秀吉殿は、どうお考えですか?」
「私は、それだけで帝国のせいにするのは早いかなと思います。しかしゴルゴン救出を考えるなら、行動は早い方が良いとは思いますが、今は放置しても良いと考えます」
「は?先に助けた方が良いに決まってるだろうが!」
秀吉は決定打が無い以上は、決めつけるのは早いと考えている。
それに対して長谷部は、考えるなら救出が先だと思っていた。
「ゴルゴンは辛そうですか?」
「え?いや、そこまでは・・・」
太田がそうでもないと言い、秀吉は更に拍車を掛ける。
「ならば無理矢理にしろ、重労働というわけではないようですね。今はゴルゴンを助けるより、何をしているのか探る方が良いのではないでしょうか?」
「そんな悠長な事言ってる間に、急変する可能性だってある。助けるべきです」
「官兵衛殿」
「官兵衛さん」
二人の割れた意見に、官兵衛は悩む。
作戦上、命に危険が無いなら、ゴルゴンを一度見逃すのもアリだ。
しかし、長谷部の言う事も一理ある。
これでもし目の前で亡くなるような事があれば、作戦が成功しても失敗だと言わざるを得ない。
悩んだ末に出した結論は、こうだった。
「助けましょう。ゴルゴンは戦力にもなります。最悪の場合、石化能力に頼らせてもらいましょう」
「そうこなくちゃ!」
長谷部は木刀を構えると、官兵衛の指示を待つ。
太田も異論は無く、バルディッシュを準備した。
「行きます!」
官兵衛の合図で、ゴルゴン達の場所へ突っ走る四人。
そこには帝国兵だと思われる連中が、ゴルゴン達に何かをさせていた。
「テメェ等!ぶっ飛ばしに来てやったぜ!」
「ヒャッハー!雑魚は引っ込んでやがれ!」
長谷部の調子に合わせ、ヒャッハー口調になる太田。
ゴルゴン達の周りの連中を全員倒すと、長谷部はゴルゴンが持つある物に気付いた。
「何これ?ダイヤモンドか?こんな大きいのは初めて見るな。あ、その前に俺、現物見るの初めてだったわ」




