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近付くスナイパー

 フゥ、一難去ったな。

 夕方になってからの帝国の連中の動きは、実に早かった。

 夜戦をやりたくないのか、陽が沈む前に退却を始めたのだ。

 もしかしたら夜中の奇襲もあり得るけど、あの様子だとそれは薄い線だと思う。


 奴等が撤退して、まずは皆の安全確認を始めた。

 街の住民及び旅人には、被害は無かった。

 ゴブリン達には死傷者は出たものの、彼等はその辺ドライなのか、仕方ないと割り切っていた。

 それよりも気にしていたのは、マッツンの安否という徹底ぶり。

 これを聞いた僕は、マッツンが本当にゴブリン達のトップなんだと思い知った。

 お隣のフランジヴァルドに関しては、黒騎士の強さに弱腰だったようで、ほとんど被害は無い。

 むしろ打って出るという勇猛ぶりを聞かされた。


 というわけで、僕は城に向かった。

 理由は勿論、奴への制裁だ。

 皆が戦っている中、城に入り込んでポンポコ腹を叩いていたあの男。

 さっき見た場所へ向かうと、奴は既に逃げた後だった。

 周りで見ていた小人族から聞くと、敵が引いた瞬間に帰ったという。

 俺様の勝利だ!勝利の美酒を飲むぞー!と言って、一目散に降りていったらしい。

 今度会ったら腹パンしよう。





 佐藤は肩と拳の痛みより、気になる事があった。

 というより、今出来た。



「ヨッシー、そんなにモテるの?」


「モテるかどうかは分からないけど、嫁は居る」


「・・・何でそんなに嫁居るの?」


「えーと、嫁にしてくれって言われたから?」



 佐藤は彼が簡単に言うのを聞いて、少し悲しくなってきた。

 自分の足下で痙攣している男と見比べても、明らかにヨッシーの顔はそうでもない。

 この男は歌舞伎町で働いていたと言っていた。

 おそらくホストだろうと思うが、やはり職業柄なのかイケメンの部類に入る。

 蘭丸やハクトには大きく劣るが。

 そんな奴と比べても、ヨッシーの良さが分からないのだ。



「ヨッシー、頼みがある」


「どした?」


「普段、ヨッシーが女性に何をしてあげているか。俺に教えてくれ。いや、下さい!」


「良いよー。とりま帰ろうか」


 佐藤の怪我をした肩に薬を塗ると、二人は燃えている建物を背に歩き出す。



「ん?忘れてた」


 ヨッシーは振り返ると、男を持ち上げて建物に向かって投げつけた。

 建物と一緒に燃える男の叫び声が聞こえる中、ヨッシーは佐藤の横へと小走りで戻る。



「お仕事完了!それで俺がするのはね・・・」


 ヨッシーの話を聞きながら、佐藤は怪我の痛みを無視し、ウンウンと大きく頷くのだった。





 自らが発光して落下するセンカク。

 彼はアジトを上空から、建物がいくつかあるのを見つける。



「何処か分からないの。仕方ない」


 目を見開いた彼の瞳孔が青く光る。



「ふむ、右じゃな」


 彼は仙術の一つである透視を使うと、複数名居る建物に狙いを絞った。

 透視と言っても、中に居る人物までハッキリと分かるわけではない。

 サーモモニターで人数が把握出来るようなレベルだ。

 しかし、それでも中に何人居るかくらいは分かる。


 センカクの考えはこうだ。

 ラミアを小分けにしておく理由は無い。

 それに少人数の場所は、物置のような感じになっていた。

 おそらくは食糧庫か武器庫だと考えている。

 消去法で、人の多い建物を選んだのだった。



「さて、救出して蘭丸達の場所へ向かうかの」


 センカクは自ら速度を上げ、建物へと激突する。

 大きな破壊音を聞いたゴブリン達は、合図だと言ってアジトへと突撃を開始した。



「敵襲!」


「さっきの爆発の方か!?」


「外にゴブリンの群れだ!」


 情報が錯綜して、アジト内は混乱していた。

 センカクの爆発音と、外からのゴブリン。

 どちらに向かうべきなのか、指示が無い者達は戸惑っていた。



「門が破られたぞ。ゴブリン達をどうにかしろ!」


 誰かの声に、ようやく動き始める男達。

 そこで、ゴブリン達との乱戦が始まるのだった。





「なるほど。確かに下衆の所業のようじゃ」


「だ、誰だ!このジジイ!」


 中で楽しんでいたと思われる半裸の男達が、屋根に穴が空いた場所へ武器を持って現れる。

 男は八人に対し、女性は倍の十六人も居る。

 しかし、その全員が身体の一部を欠損していた。

 泣くとすぐに殴られる。

 ほとんどの女性は虚ろな目で、センカクを見ても何も言わない。



「ワシはセンカク。そうじゃな、オヌシ等へ罰を降しに来た者と言えば良いのかの」


「罰?コイツ、馬鹿じゃねーの?」


 大笑いする男達。

 何も持たずに空から落ちてきた年寄りに、彼等は負ける理由が無いと思っていた。

 そんな彼の手の一振りが、状況を一変させる。



 センカクは左手を胸に置くと、軽く手刀を振った。

 それを見た男達は更に笑っていたが、一人の男が倒れたのを見て、笑いが悲鳴へと変わる。



「ひ、ヒイィィ!!」


「首が!首が落ちてる!」


「ジジイ、何をしやがった!?」


 慌てて武器を構え直す男達。

 しかし、センカクが手刀を振る度に、男達の首は落ちていく。



「見えぬか?ならばそれまでよ」


「に、逃げろ!」


 背を向けて外へ飛び出そうとする男。

 彼も逃走の意思も虚しく、首が落ちた。



「残るはオヌシだけ。最後だから特別に教えよう。今のは鎌鼬を呼んだだけじゃ」


「カマイタチ?か、風が起きてるのか!?」


「違う違う。鎌鼬を召喚したのじゃ。見えないのなら、オヌシには関係無い事じゃがの。では、さらばじゃ」


「ま、待って!」


 手刀が振られると、彼の命乞いも虚しく首が落ちる。

 彼等が一般兵なのか召喚者なのかは分からない。

 どちらにしろ、センカクの呼び出した鎌鼬が見えなかった時点で、彼等の運命は決まっていたのだ。



 センカクは他に隠れている輩が居ないか確認し、安全になってから彼女達に近付いた。

 四肢の欠損が目立っている。

 そして周囲の死体から血が噴き出しているのに、彼女達は全く動じなかった。



「精神が壊されておるのか。いや、何か薬で意識を飛ばされておるようじゃな」


 彼は風魔法で窓を全て開けると、建物内部の換気を始めた。

 その後、何か呪文のようなものを唱えると、最後に大きな声で喝を入れる。



「邪気よ消し去れ!喝!」


 女性達の身体がビクッと動くと、虚ろな目には光が戻っていく。

 周囲の死体を見て最初は軽く悲鳴を上げそうになったが、自分達の周りに男達が居なくなったと分かり、血だらけのまま安堵している。



「身体の痛みはどうかの?」


「お爺さんは一体?」


「ワシは安土から弟子の不始末を手伝いに来た、お節介なジジイだと思ってくれれば良い」


「安土から?」



 弟子の不始末と言ったが、これを魔王が聞いたら怒っただろう。

 そもそも遅れた理由は、彼等が修行に没頭して進行が遅かったのが原因なのだから。



「足を失った者は、誰かの肩を借りて」


「心配はご無用です」


 彼女達の下半身が、蛇の姿へと変わっていく。

 斬られた腕も元通りになっていた。

 この光景には、センカクも驚きを隠せなかった。



「ラミアには再生能力があるのかの?」


「私達はヒト族と同じように、足がある姿に変わる事が出来ます。その時の怪我は、基本的には元の姿には影響ありませんので。異種間での交配をする時には、便利なのです」


「なるほどの。女性しか居ない種の存続には、こういう事もあるんじゃな」


 仙人となった自分にも知らない知識があると、センカクは改めて世界は広いと強く思った。



「外も静かになってきたようじゃ。制圧がまもなく終わる。ヌシ達は村へ送り届けられるから、安心して良い」


 センカクの言葉を聞いた彼女達は、お互いを慰め合いながら泣いている。

 センカクはそれを傍で見ながら、建物内で待機していた。



「ゴブリンに彼女達を引き渡したら、ワシは用済みじゃの。早く来てほしいんじゃが」


 彼の願いは、殲滅戦をしていたゴブリン達には届いていない。





 一方、洞窟近くの蘭丸達は、一晩を土壁の中で過ごしていた。



「腹減ったなぁ・・・」


「まさか食料の入ったバッグを、掠って落としちゃうとは思わなかったよ」


「外に出て、狩りでもするか?」


「駄目だよ。僕達の居場所はバレてるし、出たら狙い撃ちに遭うのは分かってるんだから」


 冗談だと言いながら、蘭丸は寝転がる。



 腹が減りながらも、今は安全だ。

 何故か理由は分からないが、壁の上から銃弾は入ってこない。

 時間はある事から、彼等は情報をまとめに入っていた。



「何で上からは撃ってこないんだろう?」


「俺もそれは思った。この壁に登るほどの体力が、無いのかもしれない」


「時間稼ぎに高くしたんだけど、予想外に助かったね」


 ハクトは運が良かったと言いながら、空を見上げる。

 月明かり以外に木々の葉は見えるが、月自体は見えなかった。



「俺達がここに居るのは、分かっているはずなんだけどな」


「壁にも数発撃ってきただけで、ほとんど撃ってこないね。弾の節約かな?」


「単純に当たらないだけだったりして」


 撃ってこないからか、蘭丸達は少し安心している。

 二人は考えをすり合わせながら、どういう能力なのか。

 彼等なりに考察してみた。



「何故、後ろや横から撃たれたんだろう?」


「複数人居たから?それとも瞬間移動出来たから?」


「普通に考えれば、敵が複数人居るのが当たり前なんだけど。でも、僕の耳にはそんなに気配は感じないんだよね」


「じゃあ一人と仮定しよう。どうやって狙ってるんだ?」


「・・・見て狙ってるに決まってるよね」


 ハクトの当たり前の答えに、蘭丸は軽くイラッとする。

 じゃあ自分は他に考えがあるのか?

 そう思った時、何も思いつかない自分に、ハクトを責めるのはおかしいと感じたのだった。



「見て狙うって言ったけど、お前の耳に届かない距離から狙ってる?」


「そういう事になるよね。もしかしたら、銃声は消音しているのかもしれないけど。それでも多少の音は聞こえるからね。相当遠いんじゃないかな?」


「なるほど。相当遠くから狙える腕を持っているという事か。でも、おかしな点もある。俺達はトライクで走ってたのに、奴は追い掛けてきている素振りが無い」


「言われてみると、そうだった。という事は、後ろじゃなくて横から見られてる?」


「それとも瞬間移動しているから、ハクトの耳にも届かないのか?」


「いや、近くで撃たれれば分かるから。それなりの距離はあるはずだよ。という事は、瞬間移動で前後左右に移動出来て、更には遠くからも撃てる狙撃手?」


 ハクトの結論に、蘭丸は首を傾げる。

 遠くから当たる腕があるなら、近付いて必殺必中した方が確実だと思ったからだ。

 何か他に理由はあるはず。



 蘭丸は考え過ぎたのか、気付くと瞼の重さに負けて寝てしまった。

 ハクトもそれを見て、魔法で上からの狙撃にも狙われないようにしてから、同じく睡眠を取るのだった。





「ッ!寝てた!?」


 急に起き上がる蘭丸。

 何も無かった事に安堵すると、上が暗い事に気付く。

 ハクトが魔法で蓋をしたのだと分かった。



「起きろ」


「うーん・・・。僕達死んでないって事は、上から侵入されなかったんだね」


 物騒な事を、寝起き早々に言うハクト。

 重そうな瞼を擦りながら、彼はある事に気付く。



「ちょっと待って!上に誰か居る」


「何!?鳥じゃないのか?」


「鳴き声は聞こえない。呼吸音かな?いや、息切れしてる?」


「ソイツが蓋まで降りてきたら、俺達壁を突き破って外に出てみよう」


「そうだね。急に弾が飛んでくるかもだから、その辺は警戒して」


 頷く蘭丸。

 ハクトは上からの音を、注意深く聞いている。



「来た!」


 ハクトはすぐに土壁の一部を戻し、外へと出ていく。

 すると、土壁にロープが垂らしてあるのが分かった。



「夜中に登ったんだろうな」


「それでも蓋がしてあったから、更に降りてきたんだろうね。あ、何か言ってるよ」


 蘭丸にも土壁の向こう側で、何か叫んでいるのが聞こえた。

 しかし音が反響しているのか、何を言っているのかまでは分からない。

 そして蘭丸は、ちょっとしたイタズラを思いつく。





「なぁ、蓋を壊してみないか?中に居るのがどんな奴か分からないけど、急に足元が無くなって落ちたら、慌てるだろ」


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