力比べ
すいません。
今度からは時間守りますんで。
ハイ、ホントもう約束します。
あ、どうもこんにちは。
修行放ったらかしで野球のコーチをしてたら、長可さんに見つかりました。
子供達の前で説教されてる、どうも魔王です。
ちょっとだけ待ってもらえます?
長時間の正座で、足が痺れてるので。
・・・フゥ、怖かった。
いやぁ、ゴロを捌くのが上手くなったなぁと感心して見ていたら、後ろから肩を叩かれましてね。
何をやってるんですかと、笑顔で言われました。
彼女の背後に、鬼が見えましたよ。
まあね、コーチは許されたんです。
ただ、修行をサボるなという事ですね。
なので、今度から球場の中で修行しようかなと思ってます。
怒られるかな?
修行はしてるんだから、大丈夫だよな?
明日、試しにやってみよ。
それはさておき、今日も誰からも連絡は来なかった。
俺になってから来ないのは、どういう事?
忙しいからだよな?
嫌われてるからじゃないよな?
明日も連絡が無かったら、ちょっとこっちから聞いてみようかなと思ってます。
秀吉は固まった。
全員が固まった。
いや、固まっていないのが二人。
カッちゃん半ちゃんの二人だ。
「オイオイオイ〜!同じ事言っちゃってるじゃないの〜」
「マジで?半ちゃんやっぱり気が合うねぇ」
二人の盛り上がりに反して、周りは黙ったままである。
二人の声に気付き、スイッチが入ったように動き出した又左。
そして、ほれに続く面々。
「カッちゃん!失礼でしょうが!」
「そうでござる!そんな無職で旅が出来るなんて。羨ましい」
「お前は黙ってろ!」
又左に本気のゲンコツを食らう慶次。
それを見たカッちゃんは、本気で怒っている事に気付き、静かになった。
「しゅいましぇんでした〜」
「申し訳ない〜」
「それ、謝ってるの?煽ってるの?」
「謝ってます」
秀吉の怒りがピークに達しそうな謝罪に、二人は頭を下げた事でその場は収まった。
だが、そこから秀吉の反撃が始まる。
「そもそも勘違いしてもらっては困るのですが、私は元領主ではないです。今はテンジに代理を任せているだけで、領主を辞したわけではありません」
「そうですね。敢えて言えば、休職という立場になるのでしょう」
官兵衛のアシストで、更に秀吉は言葉が続く。
「マッツン殿でしたか?どなたか存じませんが、私はあくまでもお休みをしているだけで、元々仕事をしていないわけじゃないのですよ。それに旅を通じて、長浜に更なる発展をさせるという目的もありますから」
「長いな〜」
「長い。もう分かったので、俺はこの辺で。またne!」
「半ちゃんずるいぞ!」
カッちゃんの影に消える半蔵。
自分の影に向かって叫ぶカッちゃん。
「私、この人達嫌いです」
秀吉は珍しく、ハッキリとした口調で言った。
落ち着きを取り戻したところで、官兵衛から話を切り出される。
「本多殿、服部殿をもう一度呼べませんか?」
「何故?」
「捕まったゴルゴンについて、聞きたいのですが」
「分かった。半ちゃん!」
影から顔を出す半蔵。
しかし秀吉と目が合うと、怖いから出たくないと言い残し、テントを見つけた仲間を呼び出した。
「見つけたのは俺の仲間だyo。俺は直接見てないし、彼に聞いてne」
そのまま影に消えると、少ししてから皆が集まっている部屋に一人のゴブリンがやって来る。
「ちょりーす!呼ばれたから来ちゃいました」
「あ、ハイ。お願いします」
「固い固い。こうやって、ちょりーす」
「ちょ、ちょりーす?」
「良いよぉ」
無理矢理挨拶させられる官兵衛。
長谷部はそれを見て笑いを堪えていた。
「話が進まないから、早く頼むでござる」
「オッケー」
彼の説明で、村の北に大勢のヒト族が集まる場所があると分かった。
家ではなくテント等があったという事で、官兵衛はそれが奴等の本陣だと言う。
「ちなみに捕まったゴルゴンは、どういった扱いを受けていたか、分かるか?」
「あ、あぁ。それね・・・」
言い淀むゴブリン。
少し顔が暗くなった気がする。
「見たのでござろう?」
「ありゃ酷いわ・・・」
彼が見たのは、無理矢理に犯されるゴルゴン達だった。
抵抗出来ないようにさせられて、中には足を斬り落とされた人も見かけたという。
「ホントは俺も助けたかったけど、俺強くないし、一人じゃ何も出来ないから。マジで気分悪くなる光景だった」
「そんな事が・・・」
「許せん!ワタクシが殲滅してくれるわ!」
「俺も悪い事はしてきたと自覚しているけど、そんな外道な事までしたつもりはねぇな!ぶっ飛ばしてやろうぜ!」
「拙者もそういうのは、好きじゃないでござるな。ぶっ飛ばすというよりも、殺しても文句は無いでござろう」
激昂する太田と長谷部。
そしてそれに同意する慶次。
いつもなら官兵衛や又左がそこでストップをかけるのだが、二人もその所業には怒りを隠さなかった。
しかし、怒りはしても頭は冷静を保つ官兵衛。
彼は疑問点をいくつか指摘した。
「目的が陵辱なのであれば、何故洞窟と分けたのでしょう?洞窟内では、陵辱されていたという報告は無かったのに」
「言われてみると、たしかに。ワタクシも半蔵殿から、そのような言葉は聞いておりません」
「あ、そういえば。生まれたと思われる子供も居たな」
「は?」
「ゴルゴンの子供も生まれてたんだよね。それも隔離されて、あんまり良い環境じゃなかったけど」
官兵衛は完全に沈黙した。
全く理解出来なかったからだ。
陵辱目的なら子供なんか邪魔なだけのはず。
しかし子供は生ませて、隔離しているとはいえ食事も与えられているような話だった。
そこで口を開いたのが、秀吉だった。
「何か目的があるんじゃないですか?例えば、ゴルゴン達を使って石化をさせるとか」
「子供を作っているのは、ゴルゴンを戦力にしたいから。という事ですか?」
「あくまでも予想です。本陣で繁殖、洞窟は違う目的なのではないですか?」
自分もそこまでは分からないというが、官兵衛や又左も秀吉の考えには否定しなかった。
「俺が分かってるのは、これくらいっす」
「あ、敵の人数は分かりますか?」
「多いっす!」
「我々よりも?」
「あー・・・。多いっすかねぇ」
曖昧な答えだが、官兵衛にはそれで十分だった。
役目を終えたゴブリンは帰っていき、残された者達で再び会議が始まる。
「当初の目的通り、洞窟組は洞窟に行きましょう。ただし、本多殿。ゴブリンを複数人お借りしたい」
「ワタクシ達だけでは、落とせないと?」
「太田殿と長谷部くんの力が足りないのではなく、捕まっているゴルゴンの護衛です」
少し不機嫌になりかけた太田だが、理由を聞いて納得する。
それを聞いたカッちゃんも、ゴブリンの件を快諾した。
「承った。だが、何人くらいだ?こっちも本陣を攻めるのでな。最低限でお願いしたい」
「分かりました。五十人ほどお願いします」
洞窟の方は方針が決まった。
問題は本陣攻めである。
「こっちより多いかもって話だからなぁ。多少は有利に進める為に、何か考えないと」
「穴を掘っていくのは、どうでござるか?」
「そんな時間何処にあるのだ」
又左に怒られる慶次だが、カッちゃんは気にもしていない。
その態度に少しイラっとする又左。
彼はカッちゃんに、何か案を出せと口にした。
「案など必要無いよ。強いて言えば、俺が先陣を切るのが案かな?」
「それの何処が案なのだ!もっと真面目に考えてくれ」
「うん。ちょっと真面目に答えよう。太田殿、ちょっと付き合ってくれるか?」
カッちゃんは立ち上がると、太田に外へ出ようと促した。
皆を連れて外に出ると、カッちゃんは大きな棍を持ってくる。
「太田殿と力比べをしようか?」
「ワタクシとですか?」
「この棍の引っ張り合いをしてみようか」
「分かりました」
太田はそう言うと、棍の端を持った。
カッちゃんも端を持つと、太田は顔色を変える。
「行くよ」
「んがっ!」
太田の腕に血管が浮かび上がる。
必死な顔をして引っ張る太田に、カッちゃんも汗を浮かべながら引っ張っている。
「さ、流石に強いな」
「本多殿こそ。うわっ!」
ベキッ!
派手な音を立てて折れる棍。
二人は尻もちを突いて、倒れ込んだ。
「イタタタ。力比べじゃダメか。じゃあ武器で戦ってみよう」
「ワタクシ、棍は使えませんよ?」
「そのデカイ武器を使って良いよ。俺は俺が勝ったら、先陣を切るという事で通す。マッちゃん、良いな?」
「太田殿と勝負か。分かった」
又左は太田の普段の姿を見ている。
バルディッシュまで使うなら、ただの木製の棍に負けるわけがないと確信していた。
だが慶次は少し違った。
「兄上。カッちゃんは強いですよ」
「力だけならな。でも、武器が違う。これでカッちゃんが勝つなら、俺は全てをカッちゃんに任せても良い」
「言ったね。その言葉、忘れるなよ」
棍で又左を指すカッちゃん。
秀吉が二人の前に出てくると、彼は言った。
「怪我をしないように気を付けて下さい。では、始めましょう。始め!」
秀吉が下がると、太田が早速動く。
バルディッシュで足を払ってきたのだ。
「その武器、間合いも長いね」
大きく下がるカッちゃん。
木製の棍で受ければ、すぐにへし折られるのが分かっていたからだ。
それを見た太田は、前へ前へと出て横薙ぎに武器を振り回した。
「懐に入られないようにするなら、それでも良いけど。でも!」
「ガハッ!」
片手で大きな棍を突くカッちゃん。
太田がバルディッシュを振り回して、身体が流れたところに、脇腹が空いているのが見えていた。
「ま、まだまだ!本気で行きますよ!」
太田の動きが変わった。
バルディッシュを振り回すだけでなく、自らも距離を詰め始めたのだ。
バルディッシュの石突きの部分も使い、カッちゃんを追い詰める太田。
だがカッちゃんは、刃を棍で受け流すようにして、的確に棍を太田に突いていた。
致命傷になるような場所には突かれていないが、掠る事が増えた太田は、自ら手を止める。
「又左殿。申し訳ないが、ワタクシに勝機が見えません」
「どういう意味ですか?」
「本多殿は、おそらく本気じゃないですよ」
「あら?バレた?」
とぼけた声で答えるカッちゃん。
又左も実は、途中からそれを感じていた。
「構えた瞬間に雰囲気が変わったからな。まさかこんな強い人が、近くに居るとは思わなかった」
「ワタクシの負けでよろしいですか?」
「手伝ってくれて助かったよ」
太田が負けを自己申告すると、カッちゃんはお礼を言って棍を下ろす。
だが又左は、強いとは認めても、まだ納得がいかなかった。
「強いのは分かったが、その程度では先陣を切っても倒しきれないんじゃないか?」
「大丈夫。俺の専門は棍じゃないから」
「何?」
「俺、本当は槍を使うんだよね」
「えっ!?」
槍使い。
これを言われて驚いたのは、又左と慶次だった。
二人とも槍を主として使っている。
カッちゃんの動きを槍に変えて思い返すと、確かに槍だったら太田は倒れていたかもと、想像してしまったのだ。
「ただね、俺の力に耐えられる槍が無いんだわ。だからその辺の木の棒とか鉄の棒使った方が、早いんだよね」
「す、凄いですね。長谷部くん、勝てる自信あります?」
「い、いやぁ、振らないで下さいよ」
官兵衛も驚くその強さ。
長谷部はあんな力で木刀を打たれたら、へし折られるなと想像して、苦笑いで答えた。
「でも先陣をやるなら俺も本気だ。槍で全員ぶっ飛ばす。とは言っても、槍は使い捨てになるけど」
「そ、そうか。じゃあ、先陣で頼もうかな」
ニコッと大きく笑うカッちゃん。
「俺が先陣で暴れるから。二人はゴルゴンの捕まっている場所へ、一直線に向かってよ」
「分かったでござる。カッちゃん、帰ったら拙者と手合わせを頼むでござる」
「だが断る」
即答するカッちゃん。
慶次は一瞬止まったが、何故か尋ねた。
「だって面倒だしぃ。帰ったらマッツンと遊びたいしぃ。わざわざ戦うの、面倒じゃね?あ、俺が勝ったら酒奢ってくれるって話なら、考えるよ」