光る仙人
ヘイヘーイ!
こっち打たせても良いよー!
やあどうも。
安土が誇る名キャッチャーこと、キャプテン魔王だよ。
俺は今、野球の練習をしている最中だ。
城で修行をしていても飽きるから外に出てみたら、たまたまバットを持った野球少年とすれ違ったんだよね。
ホントはそのまま修行をしに、誰も来ないような空き地に行こうかなと思ったんだけど。
何故か吸い寄せられるように、彼等の後を追っちゃったんだ。
金網で仕切られた少年野球専用の球場に着き、俺は金網の外からそれを見ていた。
やっぱりキャッチャーをしていた子がどうにも気になっちゃったんだよね。
俺は外から、彼の問題点を指摘。
キャッチングで手がボールの勢いで持っていかれているから、ストライクからボール判定になりやすい事を指摘したんだ。
そしたら急に子供が集まっちゃって、色々な事を聞かれちゃったわけよ。
急遽、臨時コーチやる羽目になって大変なんだよね〜。
言っておくけど、修行をサボってるわけじゃないぞ?
あくまでも子供達の為だ。
うーん、楽しい!
蘭丸達、そろそろ洞窟着いたかな〜?
魔王がキャッチボールで楽しんでいる頃、蘭丸とハクトは弱音を吐いていた。
「やめろよ!ただでさえ、俺達の事を腰巾着みたいに見てる奴等も居るんだ。これを機に、俺達が戦力になっている事を証明してやろうぜ」
「でも、僕は実際に戦力にはなってないと思うんだけど。魔法で回復とかしてあげられる程度で、戦いには向いてないし」
「だからこそ、見返すんだろ。この前もらった弓もある。それにさ、このまま何も出来ないと、本当にマオが遠い存在になっちまうかもしれないぞ」
「それは嫌だな。やっぱり友達だし、疎遠になって会わなくなるのはちょっとね」
「やれる事をやってみよう。無理をして失敗したら、元も子もない。俺達の頑張りは、魔王だって分かってくれるさ」
「そうだね。だって魔王だもんね」
気持ちを改めた二人。
蘭丸は佐藤に指摘された魔力感知だけに頼らず、目や耳でも探っている。
ハクトは洞窟前に居る連中の声を聞き逃さないように、注意を払っていた。
そんな二人は、ゴブリン達はがやってくるまで、約三日ほどここで野宿するハメになる事をまだ知らない。
一方、センカクを引き連れて戻った佐藤。
帰り道は馬ごとガルーダの背に乗っていた為、かなり早く戻る事が出来た。
馬が怯えて暴れるかと思われたのだが、やはり仙人様の力は凄い。
馬を一瞬で眠らせて、暴れる間も無く背に乗せていた。
「見えた!この鳥、凄いな」
「ホッホッホ。それでもグリフォンと比べると、雲泥の差はあるがの」
「ツムジのお嬢ちゃんって、そんなに速いのか。恐れ入ったわ」
佐藤の中でツムジは、妙にギャルの雰囲気を醸し出す俗っぽい女のイメージだった。
最近は長可さんの影響で変わった気もするが、根底はギャルっぽいままだと考えている。
そんなツムジが、今乗っている鳥よりも速いとは。
佐藤は彼女への印象を改めたのだった。
「あの広場に降りてくれ下さい」
「無理せんで良いぞ。別に敬語なんかに、こだわりは無いからの」
「そ、そうか?助かります」
佐藤は妙な口調で、センカクにお礼を言う。
広場に降りたガルーダに驚くゴブリン達。
一斉に剣を向けてきたが、背中に佐藤が乗っている事に気付き、剣を下ろした。
「ゴブリンの割には機敏じゃのう。それに統率が取れておる」
「あぁ、それはこの人のおかげだ」
「こんな方法で帰ってくるなんてね。おかえりなさい佐藤殿」
直政が出迎えにやって来ると、遅れてイッシーも到着した。
「何だ、この鳥。仲間なのか?」
「イッシーさん。仙人の爺さんが、召喚したんですよ」
「魔王の師匠さんか。何故、こんな所に?」
佐藤は立ち話はなんだからと、センカクを引き連れて村にある目の前の家に入っていった。
勿論、ケールからの許可はもらっている。
「というわけで、この爺さんがリーダーとして奴等のアジトの一つを襲撃してくれる事になった」
「あの鳥を使った奇襲攻撃ですか。しかし、大きさに問題が」
直政の声を遮り、センカクは直政の言おうとしていた事を先に言う。
「あのガルーダではなく、更に大きなガルーダを呼ぶ。でないと、全員は乗せられんからの」
「なるほど。そんな事も可能なのですね。分かりました。しかしゴブリン達の指揮は?」
「それはワシじゃない者に任せる」
「では、こちらで一人用意しましょう」
あくまでもセンカクは、連れ去られたラミア達だけをガルーダに乗せて村へ戻るという算段だ。
敵のヒト族と、正面切って戦う必要は無いと考えていた。
そこで必要なのが、センカクが救出した後に戦うゴブリン達だ。
彼等の指揮をセンカクは断り、ならば他の者に任せるというのが、直政の判断だった。
「イッシー殿はご自分の部隊だけで?」
「真イッシーな。それで失敗する事も許されないし、逃げられないように奴等のアジトを囲むのに、ゴブリンを貸してほしい」
「逃亡阻止は必須ですからね。それも用意させましょう」
なんだかんだで直政は、ゴブリン達の細かい配備を組み立てている。
即答出来るのは、頭の回転が速いからだった。
官兵衛並みとは言わないが、それでも佐藤やイッシーと比べものにならないくらいの頭脳の持ち主だろう。
センカクも彼の的確な判断に、舌を巻いたのだった。
「佐藤殿も、ゴブリンの指揮を出来る者を一人。用意しておきますね」
「助かります!」
「お安い御用です」
「しかし、こういう直政殿を見ると、余計に疑問が湧いてくるな」
「何がです?」
「どうしてマッツンの下に就いているかって事」
イッシーは有能な直政を見て、あのタヌキの下に収まる器ではないと考えていた。
無論、それは佐藤も同意見である。
「マッツンは偉大ですよ!マッツンが居なかったら、今頃はゴブリン戦国時代の幕が開いていたでしょうね」
「ゴブリン戦国時代・・・」
聞いた事も無い言葉だ。
何が言いたいかはなんとなく分かるので、二人ともその言葉にツッコミを入れなかった。
捲し立てるように言葉を続ける直政。
これがナオちゃんか。
二人はマッツンの事を聞くのはやめようと、決意したのだった。
「ところで、いつ決行なんじゃ?」
「おっと!私としたことが。マッツンの事で熱くなってしまいました。そうですねぇ、洞窟組とゴブリンが合流出来るのが約三日後なので、それくらいが目安かと」
「三日後か。同時進行するんだよな?合図はどうする?」
イッシーの言葉に、直政も考え込んでしまった。
遠く離れた洞窟だけは、敵も味方もすぐに連絡が取れない。
ならば洞窟組だけ切り離して考えるとして、三つのアジト攻略だけは、同時に行わなければならない。
しかし、携帯電話を全員が持っているわけではない。
どうするか?
「すいません。何か案はありますか?」
「うーん、俺には思いつかない」
「俺も同じく。役に立たなくてすまない」
二人とも脳筋ではないが、流石に二人からそのような案が出るわけがなかった。
こうなると頼れるのは、センカクのみ。
「仙人様に何か良い策は?」
「センカクで良い。合図とは、見三人が判断出来れば何でも良いのかの?」
「そうですね。センカク殿とイッシー殿と佐藤殿が分かれば、問題は無いです」
「ならば、こういうのはどうじゃ?」
センカクは鶴の姿になり、空へと舞い上がった。
「なんと!」
「鳥にもなれるのか。凄いな」
「結構高くまで上がったなぁ。姿がほとんど見えなくなってしまったぞ」
三人は空を見上げている。
豆粒より少し大きいくらいのサイズになるまで離れると、三人はある物を発見した。
「光ったな」
「光った」
「今のはセンカク殿の仕業ですかね?」
三人は何かが光ったのを確認すると、光が消えてしばらくして、センカクを発見する。
段々と大きくなってくるセンカクの姿。
彼が降りてくると、一言目に二人に確認をした。
「光ったのは見えたかの?」
「見えました」
「俺も」
「合図とは、アレで構わんか?」
「二人がよろしければ、今ので良いと思います」
イッシー達から異論は無い。
合図は今ので決まりだ。
「三日後の昼に空を見上げ、センカク殿に今のをやってもらったら、突入開始しましょう」
「了解だ!」
「俺も分かった」
「三日後の昼じゃな?承知した」
四人は頷くと、詳細を詰め始める。
「ところでセンカクさん」
「何じゃ?」
「アレは何を光らせてるんですか?」
「気になるのか?ここでやってみせよう」
すると、センカクの身体が大きく発光し始めた。
イッシーと佐藤はそれを見て、二人ともある事を想像した。
「鶴の仙人が身体を発光させる」
「太陽の如き眩しさだな!昔の俺達なら、今の技に敏感だっただろう。三つ目も鼻の無い男も、頭はツルツルだからな」
「すまないイッシーさん。俺もそれが浮かんだよ」
二人とも同じ事を考えていたと告白する。
顔を見合わせると、二人で吹き出してしまった。
「何かおかしかったかの?」
「いや、流石は仙人だなと思って」
「これで指から光線が出たら、俺達は感動する」
「そんな物出んわい」
それでも二人は笑い合った。
「洞窟にも派遣するように伝達しました。これで私の仕事は村の守備が主かな」
「お疲れナオちゃん。戦勝に先駆けて、軽く飲もうか」
「まさかイッシー殿から誘ってくれるとは!」
固い口調の直政だが、顔はナオちゃんモードへと移行している。
自分専用の枡を持ち出し、一升瓶から酒を注いでもらっていた。
「ぷひゃあ!美味いな〜」
「一仕事終えた後の酒は、特にな。ナオちゃんはそれだけの仕事をこなしたって事さ」
「マジっすかぁ?アリガトゥー!」
ガバガバと飲むナオちゃん。
あのセンカクが目を丸くして、驚いている。
「ワシが今まで会った人物の中でも、上位に入る酒豪じゃな」
「ゲフゥ〜。三日後に備えて、もう少し飲も」
村人がほとんど居ないラミアの村では、こうして夜更けまでどんちゃん騒ぎが続いたのだった。
南でゴブリンが泥酔で裸踊りを始める前、北のゴルゴンの村でも動きがあった。
半蔵が太田達を引き連れて村へ戻ると、半蔵の仲間達もほぼ同時に帰ってきた。
「お疲れちゃ〜ん。で、どうなのyo?」
「何も無いyo!」
「え?俺、テント見つけたyo?」
どうやら仲間の一人が、捕まったゴルゴン達を見つけたようだ。
洞窟以外の場所に連れ去られたゴルゴンは、一つの場所にまとめていられるらしい。
「半ちゃん、戻ったんだ!?お疲れさまです」
「もっと気軽に。半ちゃんお疲れちゃ〜ん!くらいでシクヨロ」
「は、半ちゃん、お疲れちゃ〜ん?」
「グッド!」
アホな事を言う半ちゃんだが、正確な情報を手に入れてきた手前、又左は文句を言う事が出来なかった。
慶次は又左と違い、半ちゃんフレンドと既に仲良くなっている。
しかし一番意味が分かっていないのは、太田だった。
「なるほど。オイラが聞いていたよりも、事態は深刻なのですね」
「カンちゃんの言う通りなんだわ。俺達も村人がこんなに減ってるとは、思いもしなかったし。ところで、その人は?」
カッちゃんは秀吉を見て、他の人達に尋ねた。
「この方は長浜の元領主、秀っちだyo!」
「正確には、木下藤吉郎秀吉という」
「元領主?元って事は、今はフリーダム!?もしかして、マッツンと同じ無職ってヤツじゃんか!フリーダムマッツン万歳だぜぃ!」