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作戦変更

 おっす、俺魔王!

 弟がとうとう修行というか、苦行から逃げ出したんで、最近は俺が魔王やってんだ。

 まあ俺も修行しなきゃいけないから、どっちにしろ交代しなきゃいけなかったんだと思うけど。


 俺の修行は相変わらず集中する事なんだが、少しだけアレンジを加えてみた。

 センカクの爺さんに言われた一点集中を、二点集中にしてみた。

 それだけなら普通なんだが、敢えて左右非対称にしてみたんだよね。

 右手に魔力を集中するなら、左手ではなく左足とか。

 コレに慣れれば、集中した魔力を自在にコントロール出来るんじゃないかなって思うんだ。

 何て事を、考えてやってみている。

 俺も半日座禅とかは嫌だけど、そこはほら、自分で考えてやれば飽きないかなって思ってる。


 しかし、俺になってから誰からも連絡が来ない。

 俺、避けられてるのかな?

 もしそうなら、悲しいんだけど。

 細かに連絡されても面倒だけど、少しくらいは連絡してくれても良くないか?

 修行してたら腹減ったし、ラーメン食いに行こ。






 魔王がラーメン屋に向かった頃、北の洞窟付近では半蔵の爆弾発言で、周囲の空気が変わっていた。



「む、無職ですか。そ、そうとも言えますね」


 頬をヒクヒクとさせながら答える秀吉。

 半蔵は空気を読まず、更なる言葉を続ける。



「無職ってさ、マジ普段何してんの?旅費はどうしてんの?もしかして、長浜から仕送り?」


「は、半蔵殿!」


「何?あら?俺やらかしちゃった?」


 官兵衛の声に半蔵は、太田と長谷部が何も聞いてない風な態度を取っている事に気付いた。

 秀吉の方を見ると、彼は下を向いて黙っている。



「あ、アハ、アハハハ!いやね、うちのマッツンも同じだから。マッツンも無職だから。あ〜いや、最近は何かしてるか。踊ったり腹叩いてるわ」


「そもそもマッツンとは誰ですか?」


 秀吉がマッツンの事を聞いてくると、官兵衛と太田はすかさずに答えた。

 二人ともアイコンタクトだけで理解した。

 ここが話をすり替えるチャンスだと。



「秀吉様はお会いになっていませんでしたか。ゴブリン達をまとめるタヌキの獣人です」


「彼のおかげで安土やフランジヴァルドの守備は、数十万を超えるゴブリン達に任せられました」


「数十万!?」


「そうです!今ではマッツン殿は、安土でも人気者ですよ」


 一部の者達には、という言葉を付け加えない官兵衛。

 子供達には人気だが、女性には不人気である。



「そうだze!俺達のキング、マッツンはサイコーのマブダチなんだ。領地は持ってないけど、俺達にはマッツンが領主だな」


「でも、ゴブリンなんですよね?何故獣人がゴブリンの王に?そのマッツンという人は、どういった人なのです?」


 秀吉はマッツンの事が気になるらしい。

 官兵衛と太田は、無職の件で気分を害したと思われる秀吉の機嫌が、マッツンのおかげで戻った事に、心の中で感謝した。



「俺もゴブリンだyo」


「は?」


「言うても、ゴブリンニンジャっつー、ちょい変わった上位種だけどna」


「ゴブリンニンジャ!?」


 秀吉の声が大きくなり、慌てて口を塞ぐ官兵衛。

 洞窟に近いこの場所で騒ぐのは愚策だと、秀吉も反省した。



「み、皆上位種なんですか?」


「いや、そんな事はない。めっちゃ希少なのはゴブリンジェネラルの、カッちゃんとナオちゃんじゃない?」


「ジェネラル・・・」


「二人とも今は村の救援に来てるけど。カッちゃんなら近いから会う?」


「そ、そうですか。機会があったら」


 秀吉はゴブリン達の事が想像を超えていて、頭が追いつかない様子。

 これなら無職の話など、頭の片隅にも残っていないだろう。



「しかし無職領主か。凄いna」


「ワー!ワー!と、とにかく。今は村人達を探しましょう」





 半蔵が洞窟の中へと影魔法で移動すると、中では予想だにしないモノを目の当たりにした。



「人数が合わないな。しかし酷い・・・」


 彼は自分だけでは助けられないと判断して、外で待つ官兵衛達の下へと戻っていく。




「どうでしたか?」


「見つけたが、人数が合わない。多分、洞窟以外にも居ると思うyo」


 考える官兵衛に、秀吉は尋ねる。



「貴方が皆をまとめているのかな?」


「いえ、太田殿が率いていますよ」


「キミは何をしているのかな?」


 官兵衛は迷った。

 素性を探られている気がしたからだ。

 ここで下手に話をすると、何か嫌な予感がする。

 何かごまかす手立てはないか。

 その時、彼は自分の足下を見て気付いた。



「オイラはヒト族ですから。この足の機械を使って、敵と戦います」


「ほう。なるほど」


 太ももを軽く叩くと、ブレードが飛び出す。

 そのままキュイインという音を立てて走ると、近くの草を刈った。



「他にも戦い方はありますが、これで敵の機動力を削ぐ事が出来ます」


「なかなか面白い。足を狙うのも理にかなってるし、素晴らしい機械だ」


 褒める秀吉を見て、自分から機械に興味が移行したのを確認する。



「それよりも、洞窟の人達はどうしますか?この人数で、助けに行く事も出来ると思いますが」


「俺は村に戻るyo。マッちゃんから、無理そうなら戻ってこいって言われてるからね」


「ワタクシ達も突入出来そうもないので、村に行きましょう」


「では、私もそれにお付き合いします」


 半蔵は太田達に加え、秀吉を連れて村に戻ったのだった。





 北側で動きがあった頃。

 南では一週間近く遅れて、ようやく蘭丸達が洞窟付近へと到着した。



「もう少し行くと洞窟だね」


「少し警戒するぞ。敵が洞窟の中に全員居るとは、限らないからな」


 ハクトと蘭丸がトライクから降りると、背後から急に声を掛けられる。



「その通りだ」


「誰だ!」


「騒ぐな!俺もまだ敵に見つかってないんだから」


「佐藤殿!?」



 佐藤は蘭丸達が来ない間、村の周辺の捜索に出ていた。

 ラミアの村は、ほとんどの村人が死体になったか連れ去られてしまっている。

 彼は村人達の行方を追って、何も連絡が無かった洞窟までやって来ていたのだ。



「全く気付かなかった」


「ハクトはともかく、蘭丸は魔力だけで辺りを探るのはやめた方が良いと思うぞ。相手がヒト族だと、ほとんど無意味だ」


「そうですね。確かにその通りでした」


 注意する佐藤は、蘭丸達に近況を尋ねた。



「今着いたのか?」


「すいません・・・」


「こんなに遅いとは。呆れたぞ」


「すまんのぅ。ワシが修行をさせていたせいなのじゃ。あまり責めないでやってほしい」


 謝る蘭丸に、センカクからの謝罪が入る。

 しかし佐藤は、構わずに言葉を続ける。



「悪いが仙人様でも許せる話じゃない。人の生死が関わっているんだからな。お前達、阿久野くんの友人というだけで選ばれたわけじゃないんだろう?もう少し、任されたという自覚を持てよ」


「そうですね。浮かれていたのかもしれないです」


 気落ちするハクトに、佐藤は少し言い過ぎたと反省すると、この空気を変えようと話題を変えた。



「ラミアの村は壊滅したと言っていい。悪いが洞窟探索に行くなら、ゴブリン達も連れていってくれないか?」


「連れ去られたんですよね」


「村の周辺を探ると、いくつかに分かれて連中が集まっているのが分かった。だがケールさんの話だと、どうしても人数が合わない。探していないのは、洞窟内だけなんだ」


 佐藤の話によると、連れ去られた半分は他の場所で捕まっており、残りの半分が見つからないという。

 連れ去られた人達の護衛に、ゴブリン達を連れて行ってほしいというのが、彼の頼みだった。



「それは構わないですけど。佐藤さんは一緒に洞窟へ入るんですか?」


「いや、俺は奴等のアジトの一つを潰す。だから洞窟へは、お前達とゴブリンだけで行ってほしい。ただ、問題が無いとも言い切れないんだよな」



 彼の言う問題。

 それは敵のアジトが複数存在しているという事だった。

 佐藤とイッシーだけで攻めても、他のアジトは残っている。

 救出を最優先に考えると、どうしても逃亡される可能性があり、逃げられた場合、他のアジトのラミア達が人質もしくは殺されるのではという懸念があった。



「それって、隊長格が足りないって事?」


「そうだ。お前達が洞窟に入ってくれるから、一枠は減った。だけどそれでも一枠足りないんだ」


「ふむ。ならばワシが行こう」


「えっ!?」


「ワシのせいで此奴等が責められていると言っても、過言ではない。ならばワシが名誉を挽回するのが筋であろう」


 それを聞いた佐藤は、少し考えた。

 仙人と言われる人が手伝ってくれるなら、こんなに助かる事はない。

 しかし、実力が未知数なのと、ゴブリンを率いるような統率力があるのかは分からないのだ。



「疑っているのは分かるぞい。確かにワシには統率力など無いに等しいな」


「うぇ!?」


「だからワシ一人で行こう」


「爺さんそりゃ無茶だ!アンタ一人でラミアを大勢守りながら、奴等を倒せるのかよ!?」


 佐藤の言葉に、蘭丸とハクトも同意する。

 弟子である手前、口には出さないが、二人とも無理だと思っていた。



「一人でなければ良いのじゃろう?だったらゴブリン達は近くで待機させ、全てが終わったら彼等に任せる」


「そういう意味じゃない!」


「せっかちな男よのう。ワシを誰だと思っておる。ワシは鶴の仙人じゃぞ。空からラミアの囚われている場所へ奇襲を掛け、全員を救出すれば問題無かろう?」


「だが、どうやって連れ出すんだ?それ次第では、アンタもわざわざ敵に囲まれに行くようなもんだぞ」


「それはだな。こうして」


 彼は地面に何かを描き始めた。

 何をしているのか、三人とも分からない。

 見守っていると、一分足らずで描き終わったようだ。

 その直後、センカクが一言発すると、地面から大きな鳥が現れる。



「なっ!何じゃこりゃ!」


「召喚術というヤツじゃ。描いた大きさに比例して、その分大きくなる。ラミアが何人捕まっているか分かっておるのなら、それに合わせた大きさで呼べば、問題あるまい?」


 羽は赤く、身体は金色に近い。

 口から火を吐くそれは、敵を寄せ付けない事を考えると、ラミアを助けるのにピッタリの鳥だった。



「何て鳥なんですか?」


「ガルーダ、もしくは金翅鳥と呼ばれておる。この世界ではほとんど見ないと思うがの」


「は、ハハハ。仙人すげー・・・」


 これには佐藤も文句を言えない。

 センカクの力を認めた佐藤は、頭を下げてお願いする事にした。



「頭を上げてほしい。ワシのせいかもしれんのだ。これくらいするのは、当たり前じゃ」


「そうですか。それじゃ俺は村に戻るから、センカクさんも一緒に来てくれませんか?」


「分かった。蘭丸、ハクトよ。ワシは一時離れる。頑張るのじゃぞ」


「突入するタイミングは、こっちからゴブリンに伝えておく。それまでは待っててくれ」


 佐藤とセンカクはそう言い残し、その場から離れていった。



 二人だけになる蘭丸とハクト。

 洞窟から少し離れ、奴等に見つからない場所へと移動した。

 夜になり、静かな時間が過ぎていく。



「ここに来て、二人だけになるとは思わなかったね」


「そうだな」


「上手くやれるかな?」


「やれるかじゃない。やるんだ」


「そうなんだけど。少しね・・・」


 言い淀むハクト。

 蘭丸はハクトが何を言いたいのか、理解していた。

 それを口にすると、自分もそういう気持ちになりそうだから敢えて口にしないだけで、心の中ではそう感じていたからだ。





「やっぱり二人だけは心細いなぁ。マオくんが居てくれれば、もう少し気が楽なんだけど。魔王だからなのか、マオくんだからなのか。どっちかは分からないけどね」

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